迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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59(54)ストーリー・ライター

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「アハハ!オード君!踊りがお上手になったのです!でもそれじゃあ、話にならないのです!帝国最強も形無しなのです!」

 巨大な海蛇の機海獣、ウォルプタースの牙やなぎ払う尻尾を掻い潜り、空を泳ぐフォルトゥーナ。

「名乗った覚えはない」

 その背に乗ったオードは額に汗を浮かべる。

「ならば無名の騎士として消えていれば良かったものを!」

 一瞬の隙に、イッカクの機海獣イグノラムスが突進し、オードに迫る。

「くっ、一度名を捨てた以上、俺はオードだ、それ以外の……何者でもない!」

 その場で宙返りし、イグノラムスの角を避ける。

「避けたか──だが!カノン!今だ!」

「言われなくても任せるの……です!」

 速度が落ちたフォルトゥーナを狙って、ウォルプタースの尻尾が襲いかかる。

「──なぁに、私を無視してくれてんですかぁ?」

 直撃寸前で鮫の機海獣モルスケルタがウォルプタースの尻尾に食らいついて回転し、オードとフォルトゥーナから引き離す。

「助かった!そのまま引き離してくれ!」

「このフーガを忘れてもらって困るぞ!」

「ああ!頼んだ!」

「逃すものかッ」

 フォルトゥーナは上空へ離脱し、イグノラムスが追撃する。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「アリア!私のオード君との時間を邪魔するのは許さないのです!」

 激しく動いてモルスケルタを弾き飛ばすウォルプタース。

「何が"許さないのです"ですかぁ?ずっと言いたかったのですが、なのですなのですって。それ正直キツいですよ?キャラ付けに必死なのですぅ?ご苦労様なのです!なのです!のです!」

 それに対して、煽るようにシャカシャカと上下に動くモルスケルタ。

「アリアぁぁぁ!!言ってはならないことを!!」

 カノンの怒りに呼応し、瞬時に牙を向けるウォルプタース。

「くひひ!効いてるのです!語尾はどうしたのです?でーすですです!」

 それをモルスケルタは軽々と躱す。

「……ま、アリアみたいにすぐ裏切るガバガバなクソ◾︎◾︎◾︎よりマシなのです!」

「……………はぁ!?」

 青筋を浮かべてブチ切れるアリア。

「お、落ち着けアリア!策士策に溺れるという言葉を知らないのかっ!」

 補助をしていたフーガが落ち着けようとする……が。

「黙りなさい、フーガ君」

「はい!黙ります!」

「おいカノン……お前今なんて言った!」

「あれあれ、お耳もガバガバなのです?何がくひひ、なのです!"ひ◾︎◾︎く"の方がお似合いなのです!」

「私はこれでも貞淑な方なんですよぉ!黙ってろ行き遅れ◾︎◾︎◾︎がぁ!!」

「死ねよやぁぁぁ!」

「助けてくれオード……私はこんなところにいたく無い……早く来てくれ………!」

 品性のカケラもない彼女達に、フーガ青年はただ震えていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「オード、今、引導を渡してやろう」

 上空で相対するフォルトゥーナとイグノラムス、2体の機海獣。

「いいや、渡されるのはお前だ」

「……すまないな、元同僚とはいえ──」

「何を今更」

「──穿て、イグノラムビス」

「くっ──!?」

 突然現れる、もう一体のイッカクの機海獣、その回転する角を紙一重で躱す。

 しかし、避けきれず、浅く無い傷を負うフォルトゥーナ。

「……隠し球か」

「《イグノラムス・イグノラムビス》この二体揃って本来の機体だ。少しばかり頭が疲れる故に、使いたくはなかったが……さて、帝国最強の称号はどちらに相応しいか試そうでは無いか?」

「……さあな、《知らないし、知ることもない》だろう」

 機体の名の意味をそのまま返すオード。

「口の減らない者よ──!」

 スケルツォの操る二体の機海獣が捕鯨砲を大量に放ち、イムラーナの光を帯びた魚影がオードの視界の空を埋め尽くす。

「完全包囲、そして二体の同時攻撃、これを防ぐ術はあるまい──!」

「どうかな、フォルトゥーナァァ!」

「◾︎◾︎◾︎◾︎!」

 獅子の雄叫びを上げたフォルトゥーナはイムラーナの光の上を高速で泳ぎ、迫りくる魚影、そして二体の突撃を躱す。

「当たるかよ!」

「──そのお前の避けた先こそ、私の間合い!」

 弾幕を掻い潜ったオードの目の前に、急旋回したイグノラムビスが突撃する。

「見せてやるよ、曲芸って奴を!」

 オードはフォルトゥーナを足場にして跳躍し、紙一重でイグノラムビスを躱すと、さらにその機体の上に降り立ち、ハッチを掴む。

「悪いが使わせてもらうぞ!」

 暴れるイグノラムビスをものともせず、ハッチをこじ開けて搭乗するオード。

「私の制御下にあるものを──」

「イグノラムビス!俺に応えろぉ!」

「◾︎◾︎◾︎──!」

 オードの声に従い、その回転する角を本来の主へ向けるイグノラムビス。

「な、何故、接続は完璧な筈──」

「知ったことかぁぁぁ!!」

 曲芸のような奇襲は成功し、イグノラムビスの角はイグノラムスを貫く。

「終わりだ。降参しろ、スケルツォ」

「あぁ、やはりお前が最強だ」

「まだ言うのか──」

「いいや、お前こそが帝国で最も強い騎士だったよ──」

「──!」

 瞬間、イグノラムスは爆発し、空に凄まじい轟音が鳴り響いた。
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