迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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62 ストーリー・ライター◆-3

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「◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」

 雄叫びと光の柱、それらと共に海から飛び出したその機体。

 光の尾を引いて空に真っ青な穴を開け、湧き出るようなイムラーナの流れを生み出し、空を快晴に変える。

 一瞬、幻を見ているのかと思った。

「──オード!!手を!!」

 彼女は曇り空を吹き飛ばして、飛び込んで来た。

 俺の手を掴むその幻には暖かみがあって、実体があった。

 そして俺を引き寄せ、オルキヌスの背に立たせる。

「お待たせ!」

「……マナ様……なのか?」

「そう!"それ以下でも以上でもない"!正真正銘、私!」

 俺を見上げるのは、風に舞う銀髪、深い海のような蒼い瞳。

 今や完全に目を覚まし、俺に微笑みかける彼女。

「よかった……だがどうやって」

「私、お母様に会った」

「会えた、のか、そうか……そうか」

「日記、読んだよ、オード」

「すまない……いくら謝っても俺は……俺のせいだ」

「違うよ」

 だが、マナ様は恨言の一つも言わずに俺を抱きしめた。

「オードは頑張った。私を守ってくれた。だから、謝らないで、胸を張って。オードのおかげで私は話せる、自分で歩ける。だから何も悪いことなんて、してないんだよ」

「……そう言わせてしまうことが情けないんだ」

「もう日記読んじゃったし、今更だよ。さ、中に」

 マナ様に手を引かれオルキヌスの座席へ向かう。

 中へ入ると、これまで離れていた二つの座席は、ピッタリとくっついた物に変わっていた。

「オード、私運転上手くなったからさ、見てて。ちゃんと、掴まっててね」

「ああ!」

 
◆◆◆◆◆◆◆◆


「これはマナ様!ようこそ戦いの場に!大人しくオード君を引き渡せば半殺しです!」

 マナ様が運転するオルキヌスはあっという間にウォルプタースの目の前に到達した。

「ごめん、それはできないの!」

「オード君を返せぇ!お前といたら死んでしまうのです!」

 振り下ろされる巨大な尻尾の一撃。

「っ……私は!だとしてもぉぉ!!」

 オルキヌスはそれを容易く回避し、翼部の刃を展開して反撃する。

「早いだけのガラクタが──」

 ウォルプタースが宙に放つ大量の捕鯨砲。

 虹のように様々な色の尾を引いて、それは迫る。

「私とオルキヌスは同じ……一緒に生まれてきた!それをガラクタなんて──」

「◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」

「──絶対!言わせない!」

 マナ様の声に呼応する様に雄叫びを上げ、銀色の光を纏う魚群を空に放つ。

 回遊魚のように密集したそれが、ウォルプタースの捕鯨砲を追い、全て撃墜していく。

「なっ!オルキヌスの武装は全て──」

 直撃したウォルプタースは爆風に包まれる。

 激しい爆煙が空を覆う。

「マナ様?……もしかして魔導具か?」

「そう!全部使えるようになったの!それに!いくよ!オルキヌス!」

「◾︎◾︎◾︎◾︎──!!」

 座席に埋め込まれた虹色の宝石が輝き、オルキヌスが咆哮と共に巨大なイムラーナの波を起こして、煙を遠くへ送り、その波に乗って加速する。

「私達は、どこでだって、飛べる!何でかわかる?」

「これは、イムラーナを自分で!?」

「それはね、多分!好きだってことなんだ!」

「──」

 俺を見つめて言うその顔も、瞳も、髪も、全てが輝いていて。

 頬は少しだけ赤くなっていて。

 まるで、彼女が初めて"目覚めた"ようだった。

 何故か、目が離せなかった。

「──目の前でイチャイチャしてんじゃあ!ないのです!」

 爆風の中から飛び出すウォルプタース。

「まだ来るんだ、いいよ!オード、ちゃんと掴まってて!」

「どうするんだ?」

「見せてあげるよ……!曲芸をね!」


◆◆◆◆◆◆◆◆


「白痴の姫なんかに!七元徳たるこの私が負けるわけには!いかないのです!」

 再び放たれる、捕鯨砲の魚群。

「悪いけど!もう私!負けないの!」

 今度は迎撃せず、空を縦横無尽に飛び回って回避し続ける。

「つまり、アレは連発できないのです!ならば──!」

 捕鯨砲の後を追って、さらに直接襲いかかるウォルプタースの牙。

 蛇のように畝り、迫り来るそれ。

「行くよ!」

 それを避けつつ、速度を上げ弧を描くように、上空へ向かうオルキヌス。

 その動きに追従するウォルプタース。

「曲芸……そう言うことか」

 視界は緩やかに逆さまへ変わっていく。

 天と地が入れ替わって。

「舌、噛まないでね」

 冗談めいたように、笑うマナ様。

「誰に言ってるんだか」

 弧を描くように上昇し続け、とうとう円の頂点に差し掛かり、速度が僅かに下がる。

 ほぼ真後ろにいるウォルプタースにとっては絶好の機会だろう。

「上昇し続ければ速度が落ちる!当たり前のことなのです!捉えた──」

 その瞬間、宙返りしたオルキヌスがその場で素早く横転し、急激に速度を落として下降、ウォルプタースを回避する。

「残念。それはこっちのセリフ」

 目の前に通り過ぎる海蛇の機械達を視界に捉え。

「な、こんな技術、まるでオード──」

 そのまま、再加速したオルキヌスは、翼部のヒレから刃を展開して通り過ぎる。

「先生が良かったんだよ!」

 たったそれだけで、俺達を追う光の尾は切り裂かれ、機体は両断された。

「クソがぁぁぁぁぁ!!」

 ウォルプタースは派手に爆散した。

 その爆風を背に更に加速した機体は円を描くように空を降っていく。

「まさか、本当にやるなんてな…」

「曲芸は如何でしたか?お客様?」

「誰の真似だ?」

「オード。……恥ずかしい?」

「かもな……そうだ、ちょっとここから離れて空を見てみてくれ」

「ん?わかった……?」

 十分に離れた頃、空を滑るオルキヌスのハッチを開ける。

「ほら、マナ様、手を」

「うん!」

 外の風を浴びながら、オルキヌスの背に出て、つい先ほどまで飛んでいたオルキヌスの銀に輝く軌跡を眺める。

 青い空に描かれたのは巨大なハートのマーク。

 イムラーナの光で描かれたそれが、青い空で煌めいていた。

「アバランシュ・フォーリング・ループ」

「アバランシュ?技の名前?」

「そうだ、雪崩れのように落ちて、ハートを描く。それがアバランシュ・フォーリング・ループ」

「そうなんだ」

「マナ様、多分、アレが俺の気持ちなんだと思う」

 我ながら、ダサいことを言っている気がする。

 ダサいと言うか、恥ずかしいというか。

「アレが?」

「ああ、そうだ」

「どういう、意味?あれが気持ち……?」

 マナ様は釈然としない顔だった。

「分からないのか?……ああ、そうか」

 一瞬、胃が痛んだ。だがすぐに気が付いた。

「ねぇ、オード。アレは……どういう意味なの?」

 マナ様は、そもそも知らないんだ。

「……言いたくない」

「ねぇー、なんで!なんなの!アレ!なに!」

「恥ずかしい、忘れてくれ」

「もぉ!何で!」

「何でもいい、何でもない」

「でも、とにかく!良かった!」

 不意に抱きついてくるマナ様。

「ああ、本当に……良かった」

 俺は約束を守ることができた。

 今は、再会を祝おう。
 
 見上げれば晴れ渡る空、そして俺たちの前には目指していた海があった。
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