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第二幕
26 ロード・ランダル.2
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「──そして今こそ、我が新たなる法を敷くのだ!」
集められた聴衆を前に、高い壇上から演説を終えたハインリヒ。
戴冠式はハインリヒの強行によって皇帝の死去、そして聖女の失踪から時間を置かず、執り行われていた。
「──アルバを統べる王の証たる王冠を、今ここに与える」
豪奢な白い法衣に身を包んだアンナが、行方の知れない聖女の代理として宣言し、王冠を被せる。
「元老院を代表し、これを授ける」
元老院の代表でもあるヴァルツァーが、宝剣を差し出す。
「うむ」
それらを受け取ったハインリヒが、鷹揚に手を挙げると、聴衆は沸き立った。
「これより、パレードを行う!」
ハインリヒは自らの勝利を確信し、絶頂の中にあった。
彼は父親の言葉を思い出して、それに打ち勝ったつもりでいたからだ。
どうだ、それ見た事か……と。
しかし、そのすぐ後、その言葉の意味を身を持って知る事になるとは、彼は夢にも思っていなかった。
皇帝が命を落とした事は、ハインリヒにとって必ずしも、思惑通りという訳でなかった。
想定よりも早過ぎたからだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「もう、僕が手を降すまでも無さそうですね、父上」
ハインリヒは病床に臥す父親を見て、そう吐き捨てた。
「ハインリヒ……か。まだ、玉座を狙っているのか」
深い皺が刻まれた、老人のような男。
皇帝バルバロッサは、かつての強健な姿など見る影もなく痩せ衰え、もはやその面影は赤い髪だけしか残っていなかった。
その髪にすら白髪が混じっている為に、誰が見ても、その死期は間近であると察するほどに。
「僕以上に新しい世界に相応しい者などいません。今世紀で最も優れた人間が皇帝になるべきだ」
「……私は……優れてなどいなかったよ」
静かに言う皇帝の言葉は自嘲によるものと、ハインリヒには聞こえていた。
「だから僕がその席を担おうと言うのです」
「違う、皇帝位に着いた人間が優れているなど幻想だと言う事だ、お前の言う事もな」
「その言葉こそ幻想では?」
「好きに思えば良い、だが、私の席はお前が座るには、大き過ぎる」
「子供扱いしないで頂きたい」
「お前達は……幾つになっても子供だ」
「僕以上に帝国の未来を憂慮している者など他にはいない!」
「……ままならんものだ。私が守らねばならないと言うのに……」
「僕らはいつまでも庇護下にいる訳にはいかない!」
「……そうか……そうだな……だが……ぐっ」
「まだ勝手に死なれては困ります。僕の準備が整うまでは……!」
「時というのは、常に今だ。如何なる場合においても……待たない。終わりを迎える迄、《時》という猟犬は我々を追い続ける」
「迷信は結構だ!あんたらの神は、とっくのとうに死んだんだよ!」
「死を迎えるのは、神々を作りし神が眠りから目覚める時のみ。その時、神の結んだ儚い夢である我々は、永劫に消え去るのだ」
「現に千年の節目は訪れ、魔術は消えた!我々は神に見捨てられた!」
「いいや……神は在る。私は知っている」
「なら神にお願いでもすれば良い!私を生き永らえさせろ、とでもな!」
「神は、人の願いなど聞かない。人が獣と言葉を交わさないようにな」
「おい、やめろ、死ぬな、まだ準備が……!」
「やめておけ……お前は……マナを守れ……それだけがお前の……」
「聞いてたまるか!一生介護しろというのか!いつもそうだ!貴方は僕たちよりも、あの白痴の方が大事なんだ!あの娘は第一王妃の娘だからな!」
「そうか……そうだったか……」
「残念だったな!お前の一番大事な娘は、貴方の死と共にこの国を去る!僕達を蔑ろにした罰を受けると良い!」
「………っ、やめろ……それだけは……それだけはしてはならぬ……!マナを庭園から出しては……!」
「はっ、最後まであの娘の事か……気が変わったよ……相応しい最後を与えてやる……!母上を冷遇したお前、そしてその娘に……!」
「……アルティア……ロドグネ……私は……」
今は亡き妻達の名を最後に口にして、皇帝はそれっきり喋る事は無かった。二度と。
「クソッ!勝手に死にやがって……ッ!」
憤る彼の後ろで、ノックもなく部屋の扉が開く。
「お兄様……どうかされましたの……?え……?お父様……?」
息を引き取った父親を見て、ギョッとするアンナ。
「……アンナ、分かってるよな?」
「……勿論ですの、皇帝に相応しいのはお兄様だけですの」
「……あぁ……僕が……僕こそが……」
焦燥を抱え、ハインリヒは暗い笑みを浮かべる。
集められた聴衆を前に、高い壇上から演説を終えたハインリヒ。
戴冠式はハインリヒの強行によって皇帝の死去、そして聖女の失踪から時間を置かず、執り行われていた。
「──アルバを統べる王の証たる王冠を、今ここに与える」
豪奢な白い法衣に身を包んだアンナが、行方の知れない聖女の代理として宣言し、王冠を被せる。
「元老院を代表し、これを授ける」
元老院の代表でもあるヴァルツァーが、宝剣を差し出す。
「うむ」
それらを受け取ったハインリヒが、鷹揚に手を挙げると、聴衆は沸き立った。
「これより、パレードを行う!」
ハインリヒは自らの勝利を確信し、絶頂の中にあった。
彼は父親の言葉を思い出して、それに打ち勝ったつもりでいたからだ。
どうだ、それ見た事か……と。
しかし、そのすぐ後、その言葉の意味を身を持って知る事になるとは、彼は夢にも思っていなかった。
皇帝が命を落とした事は、ハインリヒにとって必ずしも、思惑通りという訳でなかった。
想定よりも早過ぎたからだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「もう、僕が手を降すまでも無さそうですね、父上」
ハインリヒは病床に臥す父親を見て、そう吐き捨てた。
「ハインリヒ……か。まだ、玉座を狙っているのか」
深い皺が刻まれた、老人のような男。
皇帝バルバロッサは、かつての強健な姿など見る影もなく痩せ衰え、もはやその面影は赤い髪だけしか残っていなかった。
その髪にすら白髪が混じっている為に、誰が見ても、その死期は間近であると察するほどに。
「僕以上に新しい世界に相応しい者などいません。今世紀で最も優れた人間が皇帝になるべきだ」
「……私は……優れてなどいなかったよ」
静かに言う皇帝の言葉は自嘲によるものと、ハインリヒには聞こえていた。
「だから僕がその席を担おうと言うのです」
「違う、皇帝位に着いた人間が優れているなど幻想だと言う事だ、お前の言う事もな」
「その言葉こそ幻想では?」
「好きに思えば良い、だが、私の席はお前が座るには、大き過ぎる」
「子供扱いしないで頂きたい」
「お前達は……幾つになっても子供だ」
「僕以上に帝国の未来を憂慮している者など他にはいない!」
「……ままならんものだ。私が守らねばならないと言うのに……」
「僕らはいつまでも庇護下にいる訳にはいかない!」
「……そうか……そうだな……だが……ぐっ」
「まだ勝手に死なれては困ります。僕の準備が整うまでは……!」
「時というのは、常に今だ。如何なる場合においても……待たない。終わりを迎える迄、《時》という猟犬は我々を追い続ける」
「迷信は結構だ!あんたらの神は、とっくのとうに死んだんだよ!」
「死を迎えるのは、神々を作りし神が眠りから目覚める時のみ。その時、神の結んだ儚い夢である我々は、永劫に消え去るのだ」
「現に千年の節目は訪れ、魔術は消えた!我々は神に見捨てられた!」
「いいや……神は在る。私は知っている」
「なら神にお願いでもすれば良い!私を生き永らえさせろ、とでもな!」
「神は、人の願いなど聞かない。人が獣と言葉を交わさないようにな」
「おい、やめろ、死ぬな、まだ準備が……!」
「やめておけ……お前は……マナを守れ……それだけがお前の……」
「聞いてたまるか!一生介護しろというのか!いつもそうだ!貴方は僕たちよりも、あの白痴の方が大事なんだ!あの娘は第一王妃の娘だからな!」
「そうか……そうだったか……」
「残念だったな!お前の一番大事な娘は、貴方の死と共にこの国を去る!僕達を蔑ろにした罰を受けると良い!」
「………っ、やめろ……それだけは……それだけはしてはならぬ……!マナを庭園から出しては……!」
「はっ、最後まであの娘の事か……気が変わったよ……相応しい最後を与えてやる……!母上を冷遇したお前、そしてその娘に……!」
「……アルティア……ロドグネ……私は……」
今は亡き妻達の名を最後に口にして、皇帝はそれっきり喋る事は無かった。二度と。
「クソッ!勝手に死にやがって……ッ!」
憤る彼の後ろで、ノックもなく部屋の扉が開く。
「お兄様……どうかされましたの……?え……?お父様……?」
息を引き取った父親を見て、ギョッとするアンナ。
「……アンナ、分かってるよな?」
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「……あぁ……僕が……僕こそが……」
焦燥を抱え、ハインリヒは暗い笑みを浮かべる。
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