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第二幕
48 ベイビー・ドライバー.3◇
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◇◇◇◇◇◇◇
『ごめんなさい……あんなこと……言うつもりじゃ……』
私が泣き止むまで、鯨はじっと待っていた。
『……良いのです、私達は貴方に恨まれても仕方ありません……それだけのことをしたのですから』
『……嬉しくないわけじゃない……だけど……私はどうしたらいいのか……私は』
『……本当に……親失格です。私も分からないのです。貴女を抱きしめる為の人の体がないのですから。この姿はそう見えているだけで、本来の私は思念のみの存在です、貴女に触れることだって出来ない……』
『いいの……もう、分かったから。私は、一人じゃ無かった……そうなんだよね?』
『……っ、そうです、私はその石と共にずっと貴女の側に……!』
『うん……ありがとう……私、この海の夢は嫌いじゃなかった。……私が海を好きになったのは、この夢があったからなんだよ』
『良かった……本当に……私に出来る事はそれくらいしかなかったので……』
『魔術を使う時も、助けてくれたでしょ?』
『殆どは貴女の力です、私は少し手助けしただけです、本当に何もしてあげられなくて、ごめんなさい』
『いいの、一人じゃないってだけで……それだけでいいの……できるならオードも一緒にここは来られたら、その方が良かったのだけれど』
『連れて来ないのですか?』
『彼は……帝国に捕まってる……それにオードは私に嘘をついてた……私には嘘付かないって……信じてたのに』
『彼は一体どんな嘘を?』
『お父様が殺されることを知ってた……知っていて……私に教えてくれなかった……あんなに強いなら……止められた筈なのに……それだけじゃない……私を必ず海へ連れて行くって言ったのに……』
『……どうして、彼は皇帝が殺される事を貴女に伝えなかったのだと、思いますか?』
『……分からない』
『私には予想がつきます。……多分、貴女を守る為です』
『私を……?』
『……脅されていたのでしょう、彼は。皇帝の命か貴女の命のどちらかを選ぶように』
『……ハインリヒの簒奪を見逃せば、私を生かすって?』
『恐らくは。いくら強くても、一人では別の場所にいる二人を同時に守ることは出来ません……それに……肉親が殺される事をどうして説明できるでしょうか。……父親の命と引き換えに生きるという、罪の意識を貴女に背負わせることになるのですよ?』
『……っ』
『全ては……貴女の為です。知らなければ傷付くことも、苦しむこともない。だから言わなかった……ということでしょう』
『そっか、そうだったんだ……どうしよう……私、嘘って言っちゃった……』
『……まあ、嘘をついていたことには変わりませんけどね。嘘は良くないです』
お母様の雰囲気が何か微妙に変わったような気がした。
『陛下もロドグネさん……第二王妃の件をギリギリまで私に教えませんでしたし……分かりますか?私が一番大事と言っておきながら、もう一人いたんですよ!何なんですか、私を傷つけない為って……!』
ヒレをバタバタする鯨。
『え、お父様ってそんなだったの?』
『ま、まあ、あの人はカッコ良かったですし……なんなら姉さんも隙あらば仕掛けてたくらいですし……だから仕方ないかも知れませんけど!でも嘘は良くないですよね!』
『わかる……分からないけどわかる……!言葉じゃなくて、心で理解できる……!嘘は良くない!』
『ですよね!』
『お母様、もしかして大変だった?』
『当たり前です。恋は戦争ですよ、戦争。欲しいものは自分から行かないと。"ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん"です!』
『……お母様みたいには出来ないよ……だってオードは帝国に……』
『会おうと思えば会えるでしょう?』
『……え?どういう事?』
『彼は此方へ向かっています、あの後すぐに彼らの手を逃れ、貴女を追いかけて来ています』
『本当!?無事……なんだよね?』
『そう思います、ですが彼を帝国の者達が追っています。彼を助けたいなら……すぐにでも向かった方がいいでしょう』
『そんな簡単に……相手は帝国なんだよ?それに七元徳とかいう人達もいるし、あの機海獣達を一人でどうにかなんて……』
『出来ますし、勝てますよ』
『どうしてそんなこと言えるの』
『貴女が特別な存在だからです、私達の子供だから特別、という意味だけでは無くです。そしてオルキヌスはあの機海獣全員よりも、ずっと強い』
『……私に出来る?』
『貴女がそれを望みさえすれば。出来ない事はないでしょう。貴女自身を信じさえすれば』
『私が私を信じれば……』
『もう一度言います。願うなら、求めなさい。そうすれば与えられるでしょう』
『…………やってみる』
『なら……話の続きは……彼を連れて来てからですね。それに……私に聞きたいことがあるんじゃないですか?」
『……あ……そうだ。うん……約束もあるし……行ってくる!』
『ええ、いってらっしゃい』
空間は白く光り、気がつくと私はオルキヌスの座席に戻っていた。
「オルキヌス!戻るよ!」
「◾︎◾︎◾︎◾︎──!」
母の形見が輝き、明るく鮮やかな虹色の宝石へと変わる。
『お母様……?』
『その石を、オルキヌスに与えて下さい、抑えていた力を解放してくれるでしょう』
頭に直接声が聞こえて、私は自然と宝石をオルキヌスの座席に空いた窪みに嵌めた。
「◾︎◾︎◾︎◾︎!」
オルキヌスが高い鳴き声を上げ、光に包まれる。
「行こう!オルキヌス!」
深海から凄まじい速度で泳ぎ、一気に海面から飛び出したオルキヌスは、イムラーナの流れに乗って空へ舞い上がり、北へ向かった。
「待ってて……オード!今すぐに行くから!」
『ごめんなさい……あんなこと……言うつもりじゃ……』
私が泣き止むまで、鯨はじっと待っていた。
『……良いのです、私達は貴方に恨まれても仕方ありません……それだけのことをしたのですから』
『……嬉しくないわけじゃない……だけど……私はどうしたらいいのか……私は』
『……本当に……親失格です。私も分からないのです。貴女を抱きしめる為の人の体がないのですから。この姿はそう見えているだけで、本来の私は思念のみの存在です、貴女に触れることだって出来ない……』
『いいの……もう、分かったから。私は、一人じゃ無かった……そうなんだよね?』
『……っ、そうです、私はその石と共にずっと貴女の側に……!』
『うん……ありがとう……私、この海の夢は嫌いじゃなかった。……私が海を好きになったのは、この夢があったからなんだよ』
『良かった……本当に……私に出来る事はそれくらいしかなかったので……』
『魔術を使う時も、助けてくれたでしょ?』
『殆どは貴女の力です、私は少し手助けしただけです、本当に何もしてあげられなくて、ごめんなさい』
『いいの、一人じゃないってだけで……それだけでいいの……できるならオードも一緒にここは来られたら、その方が良かったのだけれど』
『連れて来ないのですか?』
『彼は……帝国に捕まってる……それにオードは私に嘘をついてた……私には嘘付かないって……信じてたのに』
『彼は一体どんな嘘を?』
『お父様が殺されることを知ってた……知っていて……私に教えてくれなかった……あんなに強いなら……止められた筈なのに……それだけじゃない……私を必ず海へ連れて行くって言ったのに……』
『……どうして、彼は皇帝が殺される事を貴女に伝えなかったのだと、思いますか?』
『……分からない』
『私には予想がつきます。……多分、貴女を守る為です』
『私を……?』
『……脅されていたのでしょう、彼は。皇帝の命か貴女の命のどちらかを選ぶように』
『……ハインリヒの簒奪を見逃せば、私を生かすって?』
『恐らくは。いくら強くても、一人では別の場所にいる二人を同時に守ることは出来ません……それに……肉親が殺される事をどうして説明できるでしょうか。……父親の命と引き換えに生きるという、罪の意識を貴女に背負わせることになるのですよ?』
『……っ』
『全ては……貴女の為です。知らなければ傷付くことも、苦しむこともない。だから言わなかった……ということでしょう』
『そっか、そうだったんだ……どうしよう……私、嘘って言っちゃった……』
『……まあ、嘘をついていたことには変わりませんけどね。嘘は良くないです』
お母様の雰囲気が何か微妙に変わったような気がした。
『陛下もロドグネさん……第二王妃の件をギリギリまで私に教えませんでしたし……分かりますか?私が一番大事と言っておきながら、もう一人いたんですよ!何なんですか、私を傷つけない為って……!』
ヒレをバタバタする鯨。
『え、お父様ってそんなだったの?』
『ま、まあ、あの人はカッコ良かったですし……なんなら姉さんも隙あらば仕掛けてたくらいですし……だから仕方ないかも知れませんけど!でも嘘は良くないですよね!』
『わかる……分からないけどわかる……!言葉じゃなくて、心で理解できる……!嘘は良くない!』
『ですよね!』
『お母様、もしかして大変だった?』
『当たり前です。恋は戦争ですよ、戦争。欲しいものは自分から行かないと。"ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん"です!』
『……お母様みたいには出来ないよ……だってオードは帝国に……』
『会おうと思えば会えるでしょう?』
『……え?どういう事?』
『彼は此方へ向かっています、あの後すぐに彼らの手を逃れ、貴女を追いかけて来ています』
『本当!?無事……なんだよね?』
『そう思います、ですが彼を帝国の者達が追っています。彼を助けたいなら……すぐにでも向かった方がいいでしょう』
『そんな簡単に……相手は帝国なんだよ?それに七元徳とかいう人達もいるし、あの機海獣達を一人でどうにかなんて……』
『出来ますし、勝てますよ』
『どうしてそんなこと言えるの』
『貴女が特別な存在だからです、私達の子供だから特別、という意味だけでは無くです。そしてオルキヌスはあの機海獣全員よりも、ずっと強い』
『……私に出来る?』
『貴女がそれを望みさえすれば。出来ない事はないでしょう。貴女自身を信じさえすれば』
『私が私を信じれば……』
『もう一度言います。願うなら、求めなさい。そうすれば与えられるでしょう』
『…………やってみる』
『なら……話の続きは……彼を連れて来てからですね。それに……私に聞きたいことがあるんじゃないですか?」
『……あ……そうだ。うん……約束もあるし……行ってくる!』
『ええ、いってらっしゃい』
空間は白く光り、気がつくと私はオルキヌスの座席に戻っていた。
「オルキヌス!戻るよ!」
「◾︎◾︎◾︎◾︎──!」
母の形見が輝き、明るく鮮やかな虹色の宝石へと変わる。
『お母様……?』
『その石を、オルキヌスに与えて下さい、抑えていた力を解放してくれるでしょう』
頭に直接声が聞こえて、私は自然と宝石をオルキヌスの座席に空いた窪みに嵌めた。
「◾︎◾︎◾︎◾︎!」
オルキヌスが高い鳴き声を上げ、光に包まれる。
「行こう!オルキヌス!」
深海から凄まじい速度で泳ぎ、一気に海面から飛び出したオルキヌスは、イムラーナの流れに乗って空へ舞い上がり、北へ向かった。
「待ってて……オード!今すぐに行くから!」
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