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第二幕
13.秘密の求愛者-7(※三人称視点)
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たった一つの恋文が、様々勘違いを産んで行く。
ボタンのかけ違いどころではなかった。
この滑稽な事件が、もし、一枚のシャツなのだとしたら、もう既に人間には着れない状態になっている事だろう。
一つ一つのボタンは、当たり前のような顔をして布を噛んでいるのに、それぞれあるべき場所になく、ひっくり返ったり、逆転した場所についているのだから手に負えない。
この混乱を解くに、ややこしい鍵は何一つとして必要ないはずだったのだが、たった二つのミスが産んだ波紋は、今や大きな波となってアイリスへ帰って来ようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「アリステラ、ここにいたのか」
興奮冷めやらぬナローシュは、アトランタを部屋へ帰し、作戦の結果を待っていたアイリスを発見した。
「ナローシュ様?なんの御用ですか?私はこれから立哨の交代に行かねばならないのですが」
別にそんな予定は無かったのだが、ただ何となくナローシュとは会話したくなかったアイリスは適当な事を言った。
「そんな些事はいい、次からお前はベルミダ付きの騎士として働け」
「ベルミダ様の……?承知致しました、しかしよろしいのですか?」
「俺の判断に何か問題があるとでも言いたいのか?」
「いえ、滅相もありません。では引き継ぎをしてから参りますので……」
「いい、不要だ。あんな暑いだけの場所に立っているだけでは何の意味もない。だいたいお前の方が新参だろうが」
「……そうでしたね」
王宮やその付近の事を知り尽くしているアイリスからすれば、ナローシュの侮った立哨警備程度だとしても、疎かにすれば危険が迫るだろうと感じていた。
特にアルサメナの従者のような、暗殺者じみた存在は、全て排除したはずだったつもりだったが、現にこの国に残っている事から余計に危機感を募らせていた。
しかし、今ここでそれを断る理由はない。
今後の為にベルミダへ近づく理由が出来るならば、渡りに船と言ったところだった。
「では、ベルミダ様の警護に移らせて頂きます。失礼致し──」
「ああ、いや、待て、まだ用はある」
去ろうとするアイリスの肩を掴み、引き止める。
「なんでしょうか?」
「これを見ろ!」
ナローシュがアイリスに見せたのは手紙のようなもので、一目でわかるような恋文だった。
「……これが?」
「聞きたいか?聞きたいだろう?」
どうしても話したいらしいナローシュの様子に、そんな物に興味ないと、はっきり言ってやりたくなったアイリスだった。
「…………はい」
興味はなかったが、今は一応臣下であった事を思い出して、王が望む返事を返す。
「そうか!ならば仕方ないな!これは俺に宛てられた恋文なのだ!」
「ナローシュ様宛に……?」
アイリスは困惑した。
自分以外の何者が、今の彼に恋文なんて送るなんて考えられなかった。
「ああ、これは俺の事を愛する、あの気まぐれな暗い金髪の娘から送られたものなのだ!」
「なん……と……!」
衝撃が走った。
アイリスは、この王宮で暗い金髪の娘と言ったら、ベルミダの事だと思い込んでいたからだ。
「それは……大変な事で……」
ナローシュの片思いだったならまだしも、相思相愛であった事に絶望し、気が遠くなりそうになるアイリス。
「ああ!実に大変な事だ。王妃に迎えるとならば考えなければならないからな!」
「そうですね……私は少々体調が優れないので……少し休んでからベルミダ様の方へ向かいましょう」
「大丈夫か?顔が真っ青だぞ……?」
「お気になさらず……なんの問題もありません……はい……なんともありませんので」
アイリスはこの"一大事"をアルサメナへ伝える為に、その場を足早に去った。
「……なんだ?そんなに立哨が辛かったのか……?軟弱な奴だな……ふ、くく、しかし二人とも俺を……笑いが止まらん……」
ナローシュは暗号から"書き写した"恋文を広げては、眺め返し、ご満悦だった。
その文章を元々書いたのが、弟のアルサメナであるとも知らずに。
ボタンのかけ違いどころではなかった。
この滑稽な事件が、もし、一枚のシャツなのだとしたら、もう既に人間には着れない状態になっている事だろう。
一つ一つのボタンは、当たり前のような顔をして布を噛んでいるのに、それぞれあるべき場所になく、ひっくり返ったり、逆転した場所についているのだから手に負えない。
この混乱を解くに、ややこしい鍵は何一つとして必要ないはずだったのだが、たった二つのミスが産んだ波紋は、今や大きな波となってアイリスへ帰って来ようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「アリステラ、ここにいたのか」
興奮冷めやらぬナローシュは、アトランタを部屋へ帰し、作戦の結果を待っていたアイリスを発見した。
「ナローシュ様?なんの御用ですか?私はこれから立哨の交代に行かねばならないのですが」
別にそんな予定は無かったのだが、ただ何となくナローシュとは会話したくなかったアイリスは適当な事を言った。
「そんな些事はいい、次からお前はベルミダ付きの騎士として働け」
「ベルミダ様の……?承知致しました、しかしよろしいのですか?」
「俺の判断に何か問題があるとでも言いたいのか?」
「いえ、滅相もありません。では引き継ぎをしてから参りますので……」
「いい、不要だ。あんな暑いだけの場所に立っているだけでは何の意味もない。だいたいお前の方が新参だろうが」
「……そうでしたね」
王宮やその付近の事を知り尽くしているアイリスからすれば、ナローシュの侮った立哨警備程度だとしても、疎かにすれば危険が迫るだろうと感じていた。
特にアルサメナの従者のような、暗殺者じみた存在は、全て排除したはずだったつもりだったが、現にこの国に残っている事から余計に危機感を募らせていた。
しかし、今ここでそれを断る理由はない。
今後の為にベルミダへ近づく理由が出来るならば、渡りに船と言ったところだった。
「では、ベルミダ様の警護に移らせて頂きます。失礼致し──」
「ああ、いや、待て、まだ用はある」
去ろうとするアイリスの肩を掴み、引き止める。
「なんでしょうか?」
「これを見ろ!」
ナローシュがアイリスに見せたのは手紙のようなもので、一目でわかるような恋文だった。
「……これが?」
「聞きたいか?聞きたいだろう?」
どうしても話したいらしいナローシュの様子に、そんな物に興味ないと、はっきり言ってやりたくなったアイリスだった。
「…………はい」
興味はなかったが、今は一応臣下であった事を思い出して、王が望む返事を返す。
「そうか!ならば仕方ないな!これは俺に宛てられた恋文なのだ!」
「ナローシュ様宛に……?」
アイリスは困惑した。
自分以外の何者が、今の彼に恋文なんて送るなんて考えられなかった。
「ああ、これは俺の事を愛する、あの気まぐれな暗い金髪の娘から送られたものなのだ!」
「なん……と……!」
衝撃が走った。
アイリスは、この王宮で暗い金髪の娘と言ったら、ベルミダの事だと思い込んでいたからだ。
「それは……大変な事で……」
ナローシュの片思いだったならまだしも、相思相愛であった事に絶望し、気が遠くなりそうになるアイリス。
「ああ!実に大変な事だ。王妃に迎えるとならば考えなければならないからな!」
「そうですね……私は少々体調が優れないので……少し休んでからベルミダ様の方へ向かいましょう」
「大丈夫か?顔が真っ青だぞ……?」
「お気になさらず……なんの問題もありません……はい……なんともありませんので」
アイリスはこの"一大事"をアルサメナへ伝える為に、その場を足早に去った。
「……なんだ?そんなに立哨が辛かったのか……?軟弱な奴だな……ふ、くく、しかし二人とも俺を……笑いが止まらん……」
ナローシュは暗号から"書き写した"恋文を広げては、眺め返し、ご満悦だった。
その文章を元々書いたのが、弟のアルサメナであるとも知らずに。
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