【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿

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第三幕

01.

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 あれから、ベルミダは部屋で塞ぎ込んでしまった。

「あの……ベルミダ様、アトランタ様とお話ししないのですか?」

「私に妹を疑えと言うの……?」

 腫らした目で見てくる。

 少し罪悪感がするけど、ここは譲れない。

「今回の件で得をしているのは、ナローシュ様とアトランタ様しかいないでしょう?」

「っ……!アトランタは私のことが好きなのよ!そんなことあるわけないじゃない……!きっとこの件だって嫌に違いないわ!」

「えぇ……?それはどう言う意味で……」

 何を言ってるのか、あまりよく分からなかった。

「あっ……今のは聞かなかった事にして下さるかしら。妹の風評に関わります」

 ああ、アトランタはそう言う性癖なのね。

 言われた通りに聞かなかったことにしよう。

 それにしても、なんでこんな時に妹のことを庇うんだろ……姉妹のいない私には、わからない感情なのかな。

 もし、ナローシュを疑えと言われたら……いや、普通に疑うけど……私がおかしいのかな?

「いえ、その」

 ……今、ここで本と暗号を間違えて渡したんだと言っても、妹が隠したとは信じてくれないだろうし……

 もし、本当に私が原因だったらどうなるんだろう……

 アルサメナ様に殺されるか、あの疑り深い従者に殺されるか……碌な末路は待ってない……でも隠しておくのも良くないし……

 でも正直に話したところで、多分最初から裏切り者だったと思われて殺されるだろうな、そんな気がする….…

 あぁ、間違えただけなのに。

「私にはわけがわかりません……」

「そんなの……私もよ……」

 二人して頭を抱える。

 最初に間違えた自分にも責任はあるのだろうけど、それだけじゃ、こんな事態にはならない。

 一体、何が起きたのかはわからないけれど、もし、状況を多少なりとも理解している人がいるとするなら、それは暗号の差出人を知っているはずのアトランタ以外にはいない。

 もし、あの子が黒幕だったなら、他人が持ち込んだ暗号一つで、王をここまで操ったと思うと、恐ろしくなってくる。

 私としたことが、ここまでの手腕を持った人を野放しにしていたなんて。

 もしかすると、駆逐したはずの密偵やら暗殺者の生き残りかもしれない。

 どうにかしないとならないのに、ベルミダ本人はアトランタの事を信じきってて、話にならないし……

 ……彼女が一番驚いていたのは、アルサメナ様が望んでいると聞いた時だったかな。

「ベルミダ様、アルサメナ様が本当に了承したのか聞きに行きませんか?」

「彼の居場所を知ってるの?」

 ほんの少しだけ顔が明るくなる。

 本人から直接撤回してもらえれば話は簡単に片付くんだろうけど……

「はい、少々縁がありまして」

「……もしかして貴方は、最初からアルサメナの命令で私を守っていたのかしら?」

 嘘は良くないよね、また話が拗れたら困るし……

「そう言うわけではありません」

「……そう、そうなのね。貴方は貴方自身の為に……いえ、いいのよ気にしないで」

 ベルミダは悲しいのか、喜んでいるのかよく分からない顔をして笑う。

 あまりの悲痛さに、私まで少し苦しくなってしまう。

「では参りましょうか?まさか着の身着のまま王宮に戻ると言うことも、ありますまい」

 嘘でもアルサメナ様の命令って言えばよかったのかな……いや、今喜ばせるより、きちんとアルサメナ様とお話しして復縁した方が絶対にいい。

「一ついいかしら、私、もしあの方が本当に了承していたら、とても耐えられそうにないわ。私はいないフリをして、扉の外から話を聞きます。貴方、協力していただけますか……?」

「ええ勿論、私は貴女様の騎士ですから。何なりとお命じ下さい」

 それに、まさか本当にアルサメナがこの件を了承しているわけ……


◆◇◆◇◆◇◆◇
 

「ああ、そうだ。ナローシュの言うことを承諾した。間違いない」

 そんな訳があった。

 顔色の悪いアルサメナは表情を変えることもなく、私に淡々とそう言った。

 部屋の中で嫌な沈黙が流れた。

 従者のルヴィは押し黙っていた。

 私の背にある扉の向こうで、ベルミダが浮かべているだろう表情なんて、想像したくなかった。

「何故、どうして!」

 思わず、声を荒げてしまう。

「……く、くく、いいじゃないか、僕は王族に戻り、彼女の妹と結婚するんだ、僕の愚かな恋にもこれで終焉が訪れる、その気になっていた僕の顔はさぞや滑稽だったことだろう……」

 自嘲し、自らを冷笑する彼の目は光を失っているように見えた。

「愚かなことがありますか!貴方は自分に嘘をつくおつもりですか!」

 自分の気持ちを愚かだったと言うなんて、そんな悲しいことを言わないで欲しかった。

 あなたは私にとって、弟のようなものなのだから。

「嘘だって?違う、僕の感情が嘘だったんだ。あぁ、馬鹿馬鹿しい、熱を上げていた僕の行動や、捧げた感情全ては、何もかも意味のない塵芥だ。掃いて捨てるのがもはや最も正しい選択なんだ。いや、或いは兄の言う通り、僕はアトランタの事を愛しているのかもしれない……く、くく、なんて愚かだったんだ……自分の本当の気持ちが分からないなんて……」

 背後の扉の前から誰かが駆け出す音がした。

 呆然と独白していたアルサメナは気がついていないらしい。

「やめてください!アルサメナ様!どうしてしまったのですか!ベルミダ様は貴方のことを──」

「アリステラ殿、これ以上、ご主人様を……傷つけないで下さい….…これ以上は……」

 これまで黙っていたルヴィが、アルサメナと私の間に立ち、泣きそうな目で私を見た。

 睨んでいるみたいな目だった。

「どんなに屈強でも、心に負った傷はとても痛いんです。……貴女なら……わかるでしょう……?」

「──っ」

 言葉が無かった。ナローシュへの怒りで立っている私も、ベルミダと相思相愛だったと思った時は本当に生きた心地がしなかった。

 私の時は誤解だったから良かったけど、アルサメナ様は、もう殆ど取り返しがつかないんだ。

 どうしてそうなったか分からないけど、お互いに本人が了承してしまっている以上、ナローシュを止める理由はもうなにもない、遠からず結婚式を挙げようとする。

 ……私はどうしたらいい?

 皆を不幸にさせない為には、どうしたらいいの?

 もし、わたしがナローシュに復讐しようとしたから、こうなったなら、私がどうにかしないと。

「出直します……次は"外で聞いていた人"も、ちゃんと目の前に連れて来ますので」

「外で……?一体なにを言ってるんだ?」

「貴方の気持ちを聞く為に、ベルミダ様はずっと扉の向こうで聞き耳を立てていました」

「……今、そこにいるのか?」

「……今は、いません。先程走って逃げてしまいました」

「ふっ、そうだろうね。僕の哀れな姿に満足したんだろう。さぞや楽しかったんだろうな……」

「……この」

「アリステラ殿……今は、お引き取り下さい」

 ルヴィは手を強く握りしめ、静かに憤っているようだった。

「……では、また来ます」

「次は王宮の自室に戻っているよ、王宮でまた会おう……まだ僕に生きる気力があったら」

 去り際のアルサメナの目から、何かが一筋伝っていた。
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