転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ

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 まだ小さな兄妹は真面目に仕事に取り組み、使用人たちから可愛がられるようになるのに時間はかからなかった。

 それに加え、エルヴィンは本人の希望もあり、騎士たちから剣術や体術を習い始めた。
 素質もあり熱心な彼はすぐに騎士たちにも気に入られ、「お嬢様専属護衛になれるように」と鍛えられるようになった。

 もちろん、仕事や鍛錬だけをさせていたわけではない。
 子供にとって勉強がとても大切であることをよくわかっていた私は、私が勉強する時は三人一緒にお勉強の時間にすることにした。

 親切な家庭教師はエルヴィンたちにも読み書きや計算を教えてくれた。
 前世の記憶のおかげで既に基礎的な学力が身についている私より、二人の方がよほど教えがいがある生徒だったので、家庭教師も気合が入っていた。

「お姉さま! どうして私までお勉強しなくちゃいけないの?
 もうイヤ! 計算なんて大嫌い!」

 計算が苦手なマリアンネは、静かに歴史書を読んでいた私に泣きついてきた。
 どうやら、宿題の計算問題を解くのが嫌になったようだ。

 こうやって我儘を言って甘えてくる妹が、私は可愛くて仕方がない。

「お勉強はとても大事なのよ、マリー」

「でも、私はメイドになるんでしょう?
 メイドのお仕事に、こんな計算はいらないと思うわ」

「あなたは今は私の専属メイドだけど、将来はどうなるかわからないわ。
 お勉強ができたら、メイドのお仕事以外にもいろんなことができるようになるのよ」

「いろんなことって?」

「そうねぇ、例えばお医者さんやお城で働く文官とかは、とても頑張ってお勉強しないとなれないの。
 他にも、お勉強ができないと就けない職業はたくさんあるわ。
 そのうちマリーにも、将来の夢がきっとできると思うの。
 そうなった時、お勉強ができないせいで夢を諦めないといけなくなったら、とても悲しいでしょ?」

「う~……」

 まだ五歳のマリアンネは、しかめっ面で必死に想像力を働かせているようだ。
 
「お勉強は大変だけど、あなたの将来のためにもしっかりやっておかないといけないの。
 だから、頑張りましょうね」

「……」

 まだ納得できないようで、マリアンネはさくらんぼのような唇を尖らせている。
 これはこれで可愛いが、お勉強は手を抜くわけにはいかない。

「じゃあ、そうね。
 マリーが間違えずに計算できるようになったら、なにかご褒美をあげましょう」

「ごほうび⁉」

 パッチリとしたアメジストの瞳が輝いた。

「それなら、頑張る!」

 マリアンネは俄然やる気になり、計算問題が書かれた紙とにらめっこを始めた。
 
 そんな妹が可愛くて、艶やかなストロベリーブロンドを撫でていると、今度はエルヴィンがしかめっ面になった。

「お嬢、マリーをあまり甘やかさないでくれ」

「少しくらいいいじゃない」

 母を亡くし、突然全く知らない場所に連れてこられただけでも大変なのに、普段はメイド見習いとして泣き言を言わず頑張っているのだから。
 なにか理由をつけて、ご褒美をあげたいと思っていたところだ。

「エルヴィン、あなたにもご褒美をあげるわね。
 あなたもとても頑張ってるもの」

 エルヴィンも、侍従見習いとしての仕事もお勉強も鍛錬もすごく頑張っている。
 ぜひともご褒美をあげたいのに、生真面目な顔で断られてしまった。

「……俺は……今は、なにもいらない」

「あらそう? 遠慮することないのよ?」

「遠慮してるわけじゃない。
 そのうち全部まとめてもらうから、それまで俺の分のご褒美はとっておいてくれ」

「? ええ、あなたがそうしたいなら、それでいいけど」

 つまり、ご褒美貯金みたいなものだろうか。
 将来彼が自立する際、お祝い金みたいにして渡すのも悪くない。

 私は伯爵令嬢だからどうなるかわからないが、この二人には自由に将来を選んでほしい。
 そのために、私はできる限りの手助けをしていくつもりだ。

 それからしばらくして、無事課題をクリアしたマリアンネが望んだご褒美は、「お姉さまとお菓子をつくりたいです!」という可愛らしいものだった。
 なんでも、亡くなった母は料理上手で、マリアンネはお手伝いをするのが大好きだったのだそうだ。

 私もいつか料理に手を出そうと思っていたので、ちょうどいい機会だと料理長に頼み、マリアンネとエルヴィンと一緒にクッキーをつくらせてもらった。
 クラリッサになってから初めての料理だったが、前世の記憶のおかげで特に苦労することもなく、シンプルながらバターのいい香りのするクッキーが焼きあがった。

「お姉さま! すっごく美味しい!」

「そうね、上手にできてよかったわ」
  
 クッキーを頬張ってはしゃぐマリアンネの可愛い笑顔に、私だけでなく皆が笑顔になった。

「厨房を使わせてくれてありがとう。またお願いしてもいいかしら?」

「もちろんでございます、お嬢様。
 いつでもお手伝いいたしますよ」
 
 子供好きな料理長は、ニコニコと頷いてくれた。
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