15 / 57
⑮
しおりを挟む
まだ小さな兄妹は真面目に仕事に取り組み、使用人たちから可愛がられるようになるのに時間はかからなかった。
それに加え、エルヴィンは本人の希望もあり、騎士たちから剣術や体術を習い始めた。
素質もあり熱心な彼はすぐに騎士たちにも気に入られ、「お嬢様専属護衛になれるように」と鍛えられるようになった。
もちろん、仕事や鍛錬だけをさせていたわけではない。
子供にとって勉強がとても大切であることをよくわかっていた私は、私が勉強する時は三人一緒にお勉強の時間にすることにした。
親切な家庭教師はエルヴィンたちにも読み書きや計算を教えてくれた。
前世の記憶のおかげで既に基礎的な学力が身についている私より、二人の方がよほど教えがいがある生徒だったので、家庭教師も気合が入っていた。
「お姉さま! どうして私までお勉強しなくちゃいけないの?
もうイヤ! 計算なんて大嫌い!」
計算が苦手なマリアンネは、静かに歴史書を読んでいた私に泣きついてきた。
どうやら、宿題の計算問題を解くのが嫌になったようだ。
こうやって我儘を言って甘えてくる妹が、私は可愛くて仕方がない。
「お勉強はとても大事なのよ、マリー」
「でも、私はメイドになるんでしょう?
メイドのお仕事に、こんな計算はいらないと思うわ」
「あなたは今は私の専属メイドだけど、将来はどうなるかわからないわ。
お勉強ができたら、メイドのお仕事以外にもいろんなことができるようになるのよ」
「いろんなことって?」
「そうねぇ、例えばお医者さんやお城で働く文官とかは、とても頑張ってお勉強しないとなれないの。
他にも、お勉強ができないと就けない職業はたくさんあるわ。
そのうちマリーにも、将来の夢がきっとできると思うの。
そうなった時、お勉強ができないせいで夢を諦めないといけなくなったら、とても悲しいでしょ?」
「う~……」
まだ五歳のマリアンネは、しかめっ面で必死に想像力を働かせているようだ。
「お勉強は大変だけど、あなたの将来のためにもしっかりやっておかないといけないの。
だから、頑張りましょうね」
「……」
まだ納得できないようで、マリアンネはさくらんぼのような唇を尖らせている。
これはこれで可愛いが、お勉強は手を抜くわけにはいかない。
「じゃあ、そうね。
マリーが間違えずに計算できるようになったら、なにかご褒美をあげましょう」
「ごほうび⁉」
パッチリとしたアメジストの瞳が輝いた。
「それなら、頑張る!」
マリアンネは俄然やる気になり、計算問題が書かれた紙とにらめっこを始めた。
そんな妹が可愛くて、艶やかなストロベリーブロンドを撫でていると、今度はエルヴィンがしかめっ面になった。
「お嬢、マリーをあまり甘やかさないでくれ」
「少しくらいいいじゃない」
母を亡くし、突然全く知らない場所に連れてこられただけでも大変なのに、普段はメイド見習いとして泣き言を言わず頑張っているのだから。
なにか理由をつけて、ご褒美をあげたいと思っていたところだ。
「エルヴィン、あなたにもご褒美をあげるわね。
あなたもとても頑張ってるもの」
エルヴィンも、侍従見習いとしての仕事もお勉強も鍛錬もすごく頑張っている。
ぜひともご褒美をあげたいのに、生真面目な顔で断られてしまった。
「……俺は……今は、なにもいらない」
「あらそう? 遠慮することないのよ?」
「遠慮してるわけじゃない。
そのうち全部まとめてもらうから、それまで俺の分のご褒美はとっておいてくれ」
「? ええ、あなたがそうしたいなら、それでいいけど」
つまり、ご褒美貯金みたいなものだろうか。
将来彼が自立する際、お祝い金みたいにして渡すのも悪くない。
私は伯爵令嬢だからどうなるかわからないが、この二人には自由に将来を選んでほしい。
そのために、私はできる限りの手助けをしていくつもりだ。
それからしばらくして、無事課題をクリアしたマリアンネが望んだご褒美は、「お姉さまとお菓子をつくりたいです!」という可愛らしいものだった。
なんでも、亡くなった母は料理上手で、マリアンネはお手伝いをするのが大好きだったのだそうだ。
私もいつか料理に手を出そうと思っていたので、ちょうどいい機会だと料理長に頼み、マリアンネとエルヴィンと一緒にクッキーをつくらせてもらった。
クラリッサになってから初めての料理だったが、前世の記憶のおかげで特に苦労することもなく、シンプルながらバターのいい香りのするクッキーが焼きあがった。
「お姉さま! すっごく美味しい!」
「そうね、上手にできてよかったわ」
クッキーを頬張ってはしゃぐマリアンネの可愛い笑顔に、私だけでなく皆が笑顔になった。
「厨房を使わせてくれてありがとう。またお願いしてもいいかしら?」
「もちろんでございます、お嬢様。
いつでもお手伝いいたしますよ」
子供好きな料理長は、ニコニコと頷いてくれた。
それに加え、エルヴィンは本人の希望もあり、騎士たちから剣術や体術を習い始めた。
素質もあり熱心な彼はすぐに騎士たちにも気に入られ、「お嬢様専属護衛になれるように」と鍛えられるようになった。
もちろん、仕事や鍛錬だけをさせていたわけではない。
子供にとって勉強がとても大切であることをよくわかっていた私は、私が勉強する時は三人一緒にお勉強の時間にすることにした。
親切な家庭教師はエルヴィンたちにも読み書きや計算を教えてくれた。
前世の記憶のおかげで既に基礎的な学力が身についている私より、二人の方がよほど教えがいがある生徒だったので、家庭教師も気合が入っていた。
「お姉さま! どうして私までお勉強しなくちゃいけないの?
もうイヤ! 計算なんて大嫌い!」
計算が苦手なマリアンネは、静かに歴史書を読んでいた私に泣きついてきた。
どうやら、宿題の計算問題を解くのが嫌になったようだ。
こうやって我儘を言って甘えてくる妹が、私は可愛くて仕方がない。
「お勉強はとても大事なのよ、マリー」
「でも、私はメイドになるんでしょう?
メイドのお仕事に、こんな計算はいらないと思うわ」
「あなたは今は私の専属メイドだけど、将来はどうなるかわからないわ。
お勉強ができたら、メイドのお仕事以外にもいろんなことができるようになるのよ」
「いろんなことって?」
「そうねぇ、例えばお医者さんやお城で働く文官とかは、とても頑張ってお勉強しないとなれないの。
他にも、お勉強ができないと就けない職業はたくさんあるわ。
そのうちマリーにも、将来の夢がきっとできると思うの。
そうなった時、お勉強ができないせいで夢を諦めないといけなくなったら、とても悲しいでしょ?」
「う~……」
まだ五歳のマリアンネは、しかめっ面で必死に想像力を働かせているようだ。
「お勉強は大変だけど、あなたの将来のためにもしっかりやっておかないといけないの。
だから、頑張りましょうね」
「……」
まだ納得できないようで、マリアンネはさくらんぼのような唇を尖らせている。
これはこれで可愛いが、お勉強は手を抜くわけにはいかない。
「じゃあ、そうね。
マリーが間違えずに計算できるようになったら、なにかご褒美をあげましょう」
「ごほうび⁉」
パッチリとしたアメジストの瞳が輝いた。
「それなら、頑張る!」
マリアンネは俄然やる気になり、計算問題が書かれた紙とにらめっこを始めた。
そんな妹が可愛くて、艶やかなストロベリーブロンドを撫でていると、今度はエルヴィンがしかめっ面になった。
「お嬢、マリーをあまり甘やかさないでくれ」
「少しくらいいいじゃない」
母を亡くし、突然全く知らない場所に連れてこられただけでも大変なのに、普段はメイド見習いとして泣き言を言わず頑張っているのだから。
なにか理由をつけて、ご褒美をあげたいと思っていたところだ。
「エルヴィン、あなたにもご褒美をあげるわね。
あなたもとても頑張ってるもの」
エルヴィンも、侍従見習いとしての仕事もお勉強も鍛錬もすごく頑張っている。
ぜひともご褒美をあげたいのに、生真面目な顔で断られてしまった。
「……俺は……今は、なにもいらない」
「あらそう? 遠慮することないのよ?」
「遠慮してるわけじゃない。
そのうち全部まとめてもらうから、それまで俺の分のご褒美はとっておいてくれ」
「? ええ、あなたがそうしたいなら、それでいいけど」
つまり、ご褒美貯金みたいなものだろうか。
将来彼が自立する際、お祝い金みたいにして渡すのも悪くない。
私は伯爵令嬢だからどうなるかわからないが、この二人には自由に将来を選んでほしい。
そのために、私はできる限りの手助けをしていくつもりだ。
それからしばらくして、無事課題をクリアしたマリアンネが望んだご褒美は、「お姉さまとお菓子をつくりたいです!」という可愛らしいものだった。
なんでも、亡くなった母は料理上手で、マリアンネはお手伝いをするのが大好きだったのだそうだ。
私もいつか料理に手を出そうと思っていたので、ちょうどいい機会だと料理長に頼み、マリアンネとエルヴィンと一緒にクッキーをつくらせてもらった。
クラリッサになってから初めての料理だったが、前世の記憶のおかげで特に苦労することもなく、シンプルながらバターのいい香りのするクッキーが焼きあがった。
「お姉さま! すっごく美味しい!」
「そうね、上手にできてよかったわ」
クッキーを頬張ってはしゃぐマリアンネの可愛い笑顔に、私だけでなく皆が笑顔になった。
「厨房を使わせてくれてありがとう。またお願いしてもいいかしら?」
「もちろんでございます、お嬢様。
いつでもお手伝いいたしますよ」
子供好きな料理長は、ニコニコと頷いてくれた。
90
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法
ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。
婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。
ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。
(私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね)
魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。
それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。
〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした
ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。
自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。
そんなある日、彼女は見てしまう。
婚約者に詰め寄る聖女の姿を。
「いつになったら婚約破棄するの!?」
「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」
なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。
それを目撃したリンシアは、決意する。
「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」
もう泣いていた過去の自分はいない。
前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。
☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m
☆10万文字前後完結予定です
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる