転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ

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54 カリナ視点

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 はっと気がついたら、私は薄暗い部屋にいた。
 知らない部屋ではない。

 私が婚約者と住んでいた部屋のリビングだ。

「夢……だったの……?」

 私がヒロインの漫画の中の世界に異世界転移したのに、シナリオが大きく変わっていて、全く思い通りにならなくて、最後は魔王に……

 いや、違う。
 夢ではない。
 だって、私が今着ているのは、最後に着ていた白い花嫁衣裳なのだから。
 
 あの女は、私を元の世界に戻すって言ってた。
 だから、きっとそういうことなのだろう。

「あの女……あの女のせいで……」

 私が異世界転移した世界に、まさか異世界転生した松島さんがいるなんて。

 おかげで、私がヒロインのはずなのに、イケメンたちに溺愛され逆ハーレムを築くことができなかった。
 
 地味で冴えない女のくせに、生意気にも営業部のエースと付き合ってたから、寝取ってやった。
 とてもいい気分だったが、それも長くは続かなかった。
 
 職場では輝いて見えた彼は、私生活は地味で面白味のない男だとわかったからだ。
 私がどれだけ可愛くおねだりしても、バッグもピアスも買ってくれなかった。
 結婚式も私の希望はとおらず、家族だけの地味なものにされてしまった。
 ド派手な結婚式を挙げて、大勢から祝福される幸せな花嫁になるのが夢だったのに!

 しかも、私が不満を言うと、「ゆかりはそんなこと言わなかった」って彼は溜息をつくのだ。

 あんな女より私のほうが百万倍可愛いじゃないの!
 そんな私と結婚できるのだから感謝すべきなのに、どうしてそんな顔するのよ⁉

 こんなことなら、寝取るだけにすればよかった。
 仕事が怠かったから専業主婦になろうと思って、エコー写真をフリマアプリで買って結婚にまで持ち込んだのは失敗だった。
 
 あんな嘘にあっさりひっかかった時点で、つまらない男だと気づくべきだった。
 地味で冴えない女にお似合いの、地味で面白みのない男だったのだ。

 異世界転移してそんな結婚生活とおさらばできたと思っていたのに、またここに戻されてしまった。

 漫画での逆ハーレム構成員とはまったく仲良くなれなかったが、それなりにイケメンな男を数人侍らせることができていたのに。
 私と寝ると魔力とかが増えるということで、とても喜ばれていた。
 当然だ。私こそが真の聖女なんだから!

 それなのに、また地味な生活に逆戻りだ。

 あの女のせいで!

「カリナ?」

 背後で声がして、パッと部屋が明るくなった。

「こんな朝早くから、どうしたの?」

 パジャマ姿の彼が、寝起きのしょぼしょぼした顔をしてリビングの明かりをつけたところだった。
 
 なにも不審がっている様子はない。
 私は異世界で数か月過ごしたが、おそらくここでは数時間くらいしか経っていないのだろう。

「なんだか、眠れなくって……」

 そう言うと、彼は怪訝な顔をした。

「その服、どうしたの?」

「えっと……お友達から、結婚祝いにもらったの」

 壁の時計を見ると、五時をさしている。
 朝の五時に見覚えのない花嫁衣裳を着てリビングに立っていたら、彼が妙に思うのも当然だ。

「こ、これね、マタニティドレスなの。
 お腹が大きくなっても着れるから、マタニティフォトを撮ったらって薦められて」

 偶然だが、このドレスは背中のリボンで腰回りを調節できるデザインなので、そういうことにして誤魔化した。

 実際には私は妊娠していないし、お腹が大きくなることはないのだが、彼はそれを知らないのだから騙されてくれるだろう。

 そう思ったのに、彼は私の顔を覗き込むと、見たことがないほど険しい顔をした。

「どうしたの?」

「それはこっちのセリフだ。
 その顔、どうしたんだよ」

「顔?」

 私は手で顔を触ってみたが、特に変わったところはない。

「悪ふざけにしても、悪質すぎるぞ」

「え、なにが?」

「鏡を見てみろよ」

 私は慌ててバスルームに向かった。

 そして、洗面台の前に立って、彼が言っていた意味がわかった。

「な……なによこれぇ!」

 私の顔に、くっきりと黒い文字が書かれていたのだ。

 右頬には、『私は松島紫を殺しました』。
 左頬には、『私は松島紫の男を寝取りました』。
 そして額には、『私は人殺しです。妊娠はしていません』と、それぞれはっきりと書いてあったのだ。

 私は慌てて顔をゴシゴシと洗ったが、文字は入れ墨のようになっているようで、いくら洗っても少しも落ちない。

 そういえば、あの女はおまけをつけて私を日本に戻すと言っていなかったか。
 なんのことかわからなかったが、きっとこれがそのおまけなのだ。

 あの女、よりにもよって私の可愛い顔を!

 こんな顔では、外を歩くこともできないじゃない!

「カリナ、それは」

「嘘よ! こんなの嘘よぉぉ!」

 私は絶叫し、バスルームに崩れ落ちたのだった……
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