孤独なお針子が拾ったのは最強のペットでした

鈴木かなえ

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 私の唇は、深いキスで塞がれた。
 考えてみれば、こんな舌を絡めるようなキスをするのは、あの湖畔で恋人になった時が最後だった。
 慣れない私は、咥内を貪るアーレンに応えるだけで必死だ。
 
「ナディア……このまま……いいだろうか」

 キスから解放されるころには、私はもうグズグズに蕩けきっていた。
 こんなにしてしまった後で、そんな質問をするなんてズルい。
 
 だが、返事をする前に、一つ大事なことがある。

「あ、あのね……私ね、その……言っておかないといけないことが」
「避妊薬ならちゃんと準備してあるから大丈夫だ」

 予想外な言葉に目を見開いてしまった。

「い、いつの間に!?」
「魔物の素材を売った時、いくつか薬を受け取っただろう?」

 あの中にそんな薬も混ざってたんだ……
 ということは、アーレンはあの時から、今夜のことを考えていたのだ。
 私、鈍すぎる……

「子供はほしいが、今は旅に出たばかりだ。どこか落ち着く場所を決めてからの方がいいだろう。その後に、五人でも十人でも、たくさん産んでほしい」
「多すぎるわ!せめて三人くらいで」
「何人でもいいよ。ナディアの子は可愛いだろうな」

 私としては、できれば顔面はアーレンに似てほしい。
 特に、女の子だったら間違いなく父親に似た方がいいだろう。

 私を寝台に押し倒し、再びキスをしようとしたアーレンをなんとか押しとどめた。
 家族計画も大事だが、まだ私の話は終わっていない。

「待って、あの、私、実はね」
「きみが初めてでもそうじゃなくても、俺は気にしないよ。どちらにしろ、大切に抱くのは同じだから」

 私はまた目を見開いた。

「きみに恋人がいたことは知っている。俺だって、経験がないわけではない。きみにだけ純潔を求めるのは不条理だ」

 私はやや上目遣いでアーレンを見上げた。

「……がっかり、しない?」
「しないよ。するわけがない。そんな過去も含めて、今のナディアなんだから。俺が最後の男になれるなら、それでいい」

 おばあちゃんが亡くなって、サミーが徴兵されメルカトを去る前に、数度だけ肌を重ねた。
 鍛冶師の見習いとして働いていたサミーは逞しい体つきをしていたが、戦闘訓練なんてしたことがなかった。
 そんなサミーが戦場で生き残れる可能性は低いはずで、それなら最後の思い出に、と受け入れたのだ。
 もし赤ちゃんを授かったら、一人で育てようと思っていた。

 結局私は妊娠することはなく、サミーは生き残るどころか将軍になってお姫様と婚約までしているわけで、当時の私の覚悟はなんだったのかと改めて空しくなってしまう。

 こんなことなら、アーレンのためにとっておけばよかった。

「ナディア、俺が信じられないか?」

 信じられない?アーレンを?
 それはない、と首を横に振った。

「俺を怖いと思うか?」

 それもない。また首を振った。

「なら……いいだろうか」

 私を見下ろす金色の瞳には、隠しきれない欲情の光があった。
 私は頷くかわりに、アーレンを引き寄せて自分からキスをした。

 私からした触れるだけのキスは、すぐにアーレンの食べられるようなキスに塗り替えられた。
 キスをしながらアーレンの大きな手は私の髪を撫で、耳をなぞって首筋から鎖骨までを行き来している。
 たったそれだけのことなのに、ぞくぞくと体が反応してしまう。
 ふいにキスが止んで、首だけ横を向かされた。

「ナディアは、この辺りが弱いんだな」

 バリトンが耳元で囁くと、耳朶に舌を這わされた。

「あぁっ!」

 ぴちゃぴちゃと耳元で水音が響き、熱い息を吹き込まれて、思わずあられもない声をあげてしまった。
 それから、今度は首筋をぺろりと舐められ、そこにもキスをされた。
 与えられる愛撫に、私の体は自分でも驚くほど素直に反応してしまう。

「可愛いすぎる。ナディアが攫われてしまわないように、俺のものだってしっかり印をつけておかないといけないな」

 キスをされた首筋に僅かな痛みがはしって、アーレンの言う印というのがなんのことか理解した。

「やだ、そんなところに、見えちゃう」
「見えないと意味がない。もしきみになにかしようとする男がいたら、俺はそいつを殺してしまう。そうならないためにも、これが必要だ」
「そんな、殺すなんて、過激すぎるわ」
「きみが可愛すぎるのが悪い」

 それ以前に、私になにかしようだなんて気を起こす男性がいるとは思えない。
 アーレンの目は大丈夫なのだろうかと不安になってしまう。

 私の首にキスをしながら、アーレンの手がガウンの胸元から内側に差し込まれ、私は緊張で体が強張った。
 キスの位置が下っていき、それに伴いガウンの前が開かれて私の肌が金色の瞳の前に晒された。

 腰ひもを解くと簡単に脱げてしまうガウンの下は、いつも通りの下着しかつけていない。
 無防備もいいところだ。
 寝間着と同じ感覚でガウンを着ていたので、こうなってしまったのだ。
 シュミーズくらい着ておくべきだったと後悔しても、もう遅い。
 自分自身の鈍さを呪うしかない。

 露わにされてしまった私の胸は、小さくもないけど大きくもない、極めて平均的なサイズだ。
 アーレンはこれで満足できるのだろうか。
 私のそんな心配をよそに、アーレンは熱心にそこを愛撫した。
 柔らかさを楽しむようにやわやわと揉まれ、たくさんの印をつけられ、胸の頂きを舌先で転がされた。
 そこで快楽を感じるようになるのに時間はかからなかった。
 なにをされても気持ちが良くて、無意識に身を捩ってしまう。

「アーレン、やだ、胸ばっかり……あぁぁっ!」

 執拗に続く愛撫に息を乱しながら抗議すると、両方の頂きを同時に抓られて思わず声をあげてのけ反ってしまった。 

「感度がいいな。毎日揉んで大きくしてやるからな」

 まだ上半身だけしか触られていないのに、私はもう息も絶え絶えだ。
 こんなことを毎日されたら、私の身が持たないのではないだろうかと思いつつ、漆黒の髪をかき回して縋りつきながら、必死で耐えた。
 
 やっと胸が解放されたころには、私はもうぐったりしていた。
 そんな私からアーレンはガウンも下着も取り払い、全身に赤い印をつけていった。
 腕も足も背中もお腹も、どこもかしこも赤い花びらを散らしたようになってしまった。
 ちょっとやりすぎじゃないかと思いながらも、抵抗もできず受け入れるしかなかった。
 
 だが、両足を大きく開かれ、秘部にキスをされた時は、あまりのことに悲鳴を上げてしまった。
 そんなところにまでキスされるなんてことがあるとは思ってもみなかったのだ。
 やめて、と言いたかったのに、花芯にじゅっ音を立てて吸いつかれると、言葉なんてもう口にできなくなる。
 漆黒の髪を掴んでその部分から離そうとしたが、手に力が入らない上に強すぎる刺激で腰がびくびくと跳ねてしまうので、逆にそこに押しつけるような形になってしまった。

 そうしているうちに、秘部に別の刺激が加わって私は息を飲んだ。
 アーレンの指が、ゆっくりと私の内部に入ってきたのだ。

「痛いか?」
「ううん……大丈夫」

 まだ浅いところにまでしか挿れられていないからか、今のところ痛くはない。ただ、異物感があるだけだ。
 初めてではないにしても、経験したのはもう七年も前のことだ。
 また痛むのかもしれないと思うと、体が竦んだ。

 サミーとの時は、お互いに初体験だった。
 ほとんどその方面の知識がない私に対し、サミーは鍛冶職人の先輩たちから知識だけは数多く仕入れていたようで、そのおかげでなんとか体を繋げることができたけど、最初の時はとても痛かった。
 その後数回重ねた行為も、最後まで痛みがなくなることはなかった。
 もしかして、こういった行為は気持ちいいのは男性だけで、女性の方は痛みを堪えるだけなのだろうかと思っていた。
 そして、それを確かめる機会もないまま、ここまで来てしまった。

「やはり狭いな……ゆっくり慣らすから大丈夫だ。無理なことはしないよ」

 慣らすってなにをするんだろう?という疑問はすぐに解消された。
 アーレンの長い指がゆっくりと私の中を探って押し広げるように動き出した。

 そうか、こうやってアレがすんなり入るようにするのを慣らすというのか……

 なんてことを呑気に考えていられたのも、ほんの数秒だった。
 指と連動するように舌による花芯への愛撫も再開されたからだ。

 クチュクチュと湿った音をたてながら長い指が蠢くのを感じるが、花芯からの快楽が強すぎてそちらにはあまり注意が向かない。
 時間をかけて少しずつ奥へ奥へと侵入した指が根本まで入ると、次は二本に増やされてさらに中を広げられていく。
 その間も休みなく花芯への愛撫は続き、恥ずかしさと慣れない刺激で頭がおかしくなりそうだった。

 やがてアーレンが触れている部分に向かってなにかがぎゅっと集まるような感覚がした。

「ああっ、やだ、なんか変なの、アーレン、やめて、お願いだからぁ!」

 必死でお願いしたのに、愛撫の手を止めてくれない。

「なにこれ、いや、ああっ、もう……ああああああっ!」

 首を振ってそのなにかから逃れようとしたが、それは叶わなかった。
 下腹部に溜め込まれた快楽が弾け飛んで全身の神経に散らばったような感覚に、私は嬌声を上げてのけ反った。
 なにが起こったのかわからず混乱しながらも、膣が痙攣してアーレンの指を締めつけてしまう。

「いい子だ。上手にイけたな」

 快楽の波が引いていき、弛緩した体をぐったりと寝台に沈めた私に、アーレンは嬉しそうにキスをした。

「イけたって……今のが?」
「そうだよ。気持ちよかっただろう?」
 
 私は頷いた。すごく、気持ちよかった、と思う。
 イくってこういうことなんだ……
 女性にもイくってあるんだ、ということを初めて知った。

「次は、俺も気持ちよくなりたい。いいだろうか」

 欲情がたっぷり含まれ滴り落ちているようなバリトンで囁かれて、拒絶なんてできるはずがない。
 
 私も、アーレンがもっとほしい。
 アーレンをもっと感じたい。
 奥までアーレンでいっぱいに満たしてほしい。

「うん……アーレンも、気持ちよくなって……」

 金色の瞳が薄暗闇でギラリと光った。
 
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