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03 観覧車からの
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翔太と純香を乗せたゴンドラがゆっくりと上昇していく。
眩しいほどに煌く夜景の全貌が、徐々に姿を現してきた。
「きれいな街ね」
純香は翔太の隣に腰掛けて外の景色を眺めていた。
ゴンドラの中はほとんど無音で、純香のとても小さな声でもはっきりと聞き取れた。
外界から遮断された2人だけの空間。翔太はずっと気になっていたことを質問することにした。
「なぁ、立花」
「なに?」
「なんで立花は外出を制限されているんだ? 立場とか、家の都合とかあるのは分かるんだけど……さすがに過保護すぎる気がして……」
純香は翔太のほうに向き直り、真剣な眼差しで見つめてきた。視線を交えたまま静寂が流れる。地上の音は、この空間には全く届いていない。
「わたしの大切な人は天国にいるの」
翔太はハッとした。今朝の記憶が蘇る。
——翔太に大切な人はいる?
それはつい数時間前、彼女から投げかけられた問い。
「それって……」
「母はわたしが小学生の時に事故で亡くなった」
衝撃的な事実を告げられ、返す言葉が見つからない。
「ごめん……」
軽率に質問したことを後悔する。
「昔のことだし気にしないで」
純香は整然とした態度で続けた。
「父はとても悲しんでいたわ」
「……それで立花をなるべく家から出さないように……」
「そうよ、わたしはそれでいいと思ってた」
「家から出れなくても?」
「学校には行けたから」
「そうか……学校って大事だよな」
思考がうまく働かず、おそろしく気の利かない返事をしてしまう。
「でも最近は外に出たいって思うの、不思議だわ」
淡々と答える純香の表情はどこか硬い。それは、まるで自分の内に秘める思いを読み取られないようにしているようで、彼女の純粋ではない部分が垣間見えた気がした。
「翔太に大切な人はいる?」
純香は、はっきりとした口調で今朝とまったく同じ質問を投げかけてくる。
「おれには……」
答えようとして言葉につまった。
結論から言うと、翔太には純香にとっての純香の母のような特別な存在はいない。しかし、「いない」の一言で終わらせてはいけない気がした。
純香は翔太の質問に対して丁寧に答えてくれた。彼女には翔太のことを知る権利があるのではないだろうか。
「おれには妹がいる、今は妹と2人で暮らしてる……」
純香のことを真っ直ぐ見つめながら話し始める。
「両親は音楽家で、2人とも海外を拠点に活動してる。だからおれは妹の面倒みなくちゃだめで、窮屈に感じることもたくさんあったけど、両親にはそれなりに感謝してて、最近は妹も自分のことは自分でできるようになってきて……それで……」
「家族を大切にしてるのね」
「あぁ、そうだな……たぶん立花の想いとは、また違うものだと思うけど……」
「違わないわよ」
「いや、現に今日も妹を留守番させちゃってるし」
「それでも違わない、わかるの」
純香は翔太との間に何か通ずるものを感じたようで、そう言い切った。
「わたしまだちょっと怖い」
「怖い?」
「父や母のことを裏切っていないか心配なの」
「……自分が外に出ることで、か」
「翔太はどう思う?」
「……」
難しい質問だ。他人が口を出していい問題なのだろうか。
「それ、おれなんかが意見できる問題なのかな……」
「わたしは翔太の意見が聞きたい」
「そうか……なら」
純香は珍しく語気を強めて、翔太の意見を求めてきた。
彼女が必要とするのなら、自分のありのままの考えを伝えるべきかもしれない。それがたとえ他人の家族の問題でも。
「……外の世界を知りたいと思うのは自然なことだよ」
「……そう?」
「うん、だって高校生なんだから」
「でも大人は、わたしのことまだ子どもって言う」
「そうかもしれない、でも決めるのは立花自信だよ」
「わたしが決める……」
「あぁ、そうだ、だって立花の人生なんだから」
「うん、わたしの人生」
「だから、権利があるんだ。家族のこととか立場とか色んなこと背負いつつも、みんな平等に自分の人生が与えられてて、自分で選択してくんだよ。自分の意志を持って、自分の意志に従って、そうやって生きていくべきだとおれは思う……」
「うん、そうね」
純香はすごく納得した様子だ。気持ちに整理がついたのか、表情も柔らかくなっていた。
自分のことも妹の世話も、1人でこなさなければならなかったからか、翔太は自分の意志を強く持って生きてきた。過保護に育てられた箱入り娘とは真逆だ。翔太の回答は、そんな自分自身の経験から得たものだった。
純香の過去や家の事情を考えると、少し無責任な助言かもしれない。でも、けっして間違ったことではないはずだ。
「みて、翔太」
外を眺めると、観覧車はちょうど最高部に到達しようとしていた。
みなとみらいの街が、横浜が、海が一望できる。その夜景はまるで宝石のようだ。
「わたし今日は楽しかったわ」
純香は目を輝かせながら言った。
「わたし今日のこと、ちゃんと父に話すわ」
「ああ、それがいいと思う」
「そしてちゃんと自分の意思を伝えるわ」
「よし、その意気だ」
「そして自分で歯を磨いてみる」
「お、おう……いつもは自分で磨いてないんだな……」
相変わらずちょっとずれているが、その顔つきは真剣だった。
急に純香が勢いよく立ち上がった。衝撃でゴンドラが揺れる。
「どうした、急に立ち上がって」
純香は口をキュッと結んで、こちらを向いた。
「翔太」
「ん?」
「また遊んでね」
観覧車の頂上で微笑んだ彼女は、光のパノラマに囲まれて、途方もなく美しかった。
***
「ただいまー」
ドアのバタンと閉まる音が玄関に響く。
純香を屋敷の近くまで送り、買い物もしてきたので、だいぶ夜遅くなってしまった。
立花家の屋敷は中華街や港が一望できる丘の上に建っているらしい。
その辺一帯は地域でも有名な高級住宅街で、学校からは徒歩20分くらい、翔太の家からも徒歩圏内だ。
残念ながら、素晴らしい門構えを見ることなく、屋敷の手前で純香と別れた。
立花家からしたら、翔太はお嬢様をさんざん連れ回した馬の骨だ。もし翔太がひょっこり顔を出したりしたら、どんな仕打ちににあうか目に見えている。
「ちょっとお兄ちゃん! おそいよ!」
「ごめんな、友達を家まで送って、買い物もしてきたら遅くなっちまった」
妹の神川鈴菜が二階から階段を駆け下りてきた。中学2年生のくせに子供っぽい部屋着を身につけ、シロクマのぬいぐるみを抱いている。
「もうお腹ペコペコだよぉ」
お腹をぽんっと叩いて訴えてくる。
外側にはねた癖っ毛ショートカットの黒髪が、かすかに揺れる。
「すぐ夕飯作るからな。 風呂入ったか?」
「バッチリだよ! いつも通り、脇から洗ったよ」
「そうか、順番はどうでもいいぞ」
制服を着替えて台所へ向かう。兄妹で2人暮らしのため、家事は兄の翔太が殆どを担当している。
「きょうのメニューはなにー? 先に言っておくけど、私の舌は肥えてるぜぇ」
「ならおれの料理が上手いってことだな。今日の夕飯はカレ……」
一一ピンポーン
急に玄関でチャイムが鳴り、会話が遮られた。
「こんな時間に誰だろうな、ちょっと出ててくる」
一一ピンポーン
催促するようにもう一度チャイムが鳴る。
「はーい、どなたさま……」
「翔太、こんばんは」
記憶に新しい声で挨拶をされる。
そこに立っていたのはまだ制服姿の純香だった。大容量のキャリーケースを傍らに置き、なぜか麦わら帽子を被ってサングラスをしている。
「修学旅行なら今日じゃないぞ、それにサングラス似合ってない」
「日焼けしたくないの」
この女……。至って真面目な顔で大ボケをかましてくる。
「いま夜ですよ! 日差しゼロですよ!」
「夜でも紫外線はあるのよ」
「はぁ……夜にその格好は不審者だ……てかなんでおれの家が分かったんだ、たしか最寄駅しか教えてないよな? それになんの用だ? やけに大荷物だな」
「駅まで来て商店街でおじさんに聞いた」
「おれんちの住所を?」
「そう、肉屋のおじさん、店閉めるとこだった」
「おじさん……個人情報……」
商店街は家から徒歩10分ほどのところにある。よく買い物をしにいくし、たしかに肉屋のおじさんとも顔見知りだ。
「んで、用件は?」
「翔太、ぜひ笑顔で聞いてちょうだい」
なんだか意味深な前置きだ。
「お、おう」
純香はかっこよくサングラスを外した。
「わたし家出したの」
「うん、そっか、あはは……ってはぁ!?」
「今日からお世話になります」
純香は礼儀正しくぺこりとお辞儀した。
「ちょっとまて、なんでそうなるんだ」
「自分の意志に従えと言ったのは翔太よ?」
純香は自分はまったく悪いことはしてない、といった表情で平然と答える。
「たしかに言ったが、なぜそれが家出になる! 極端すぎるだろ!」
「父に今日のこと話したら喧嘩になった」
純香は斜め上を見上げながら、思い出すようにして答えた。
「それで?」
「わたし家出するわ、って言って」
「……」
「あぁもうお前なんか娘じゃない、って言われた」
「なんという子どもっぽい喧嘩……」
高校生にもなってそんな幼稚な言い合いをする親子がいるとは……。
「翔太、今日の夕飯はなにかしら?」
純香は、ぐぅーっと鳴ったお腹をさする。
「まだ泊めてあげるなんて一言も言ってないぞ」
「ほかに行くあてがないわ」
「じゃあなぜ家出する……」
「翔太のせい」
純香が少し上目遣いで見つめてくる。
「わたしをこうさせたのは翔太」
そう言われると返す言葉がない。
純香は翔太の手首を掴んできた。
「翔太、責任とって」
翔太の手首がさらに強く握られる。
「ほかに選択肢はないんですか……」
「ない」
これ以上ない速さで即答された。
必死に頭を回転させ、解決策を探してみる。が何か思い浮かぶはずもなく……。
「…………今日のメニューはカレーだ、文句言うなよ」
眩しいほどに煌く夜景の全貌が、徐々に姿を現してきた。
「きれいな街ね」
純香は翔太の隣に腰掛けて外の景色を眺めていた。
ゴンドラの中はほとんど無音で、純香のとても小さな声でもはっきりと聞き取れた。
外界から遮断された2人だけの空間。翔太はずっと気になっていたことを質問することにした。
「なぁ、立花」
「なに?」
「なんで立花は外出を制限されているんだ? 立場とか、家の都合とかあるのは分かるんだけど……さすがに過保護すぎる気がして……」
純香は翔太のほうに向き直り、真剣な眼差しで見つめてきた。視線を交えたまま静寂が流れる。地上の音は、この空間には全く届いていない。
「わたしの大切な人は天国にいるの」
翔太はハッとした。今朝の記憶が蘇る。
——翔太に大切な人はいる?
それはつい数時間前、彼女から投げかけられた問い。
「それって……」
「母はわたしが小学生の時に事故で亡くなった」
衝撃的な事実を告げられ、返す言葉が見つからない。
「ごめん……」
軽率に質問したことを後悔する。
「昔のことだし気にしないで」
純香は整然とした態度で続けた。
「父はとても悲しんでいたわ」
「……それで立花をなるべく家から出さないように……」
「そうよ、わたしはそれでいいと思ってた」
「家から出れなくても?」
「学校には行けたから」
「そうか……学校って大事だよな」
思考がうまく働かず、おそろしく気の利かない返事をしてしまう。
「でも最近は外に出たいって思うの、不思議だわ」
淡々と答える純香の表情はどこか硬い。それは、まるで自分の内に秘める思いを読み取られないようにしているようで、彼女の純粋ではない部分が垣間見えた気がした。
「翔太に大切な人はいる?」
純香は、はっきりとした口調で今朝とまったく同じ質問を投げかけてくる。
「おれには……」
答えようとして言葉につまった。
結論から言うと、翔太には純香にとっての純香の母のような特別な存在はいない。しかし、「いない」の一言で終わらせてはいけない気がした。
純香は翔太の質問に対して丁寧に答えてくれた。彼女には翔太のことを知る権利があるのではないだろうか。
「おれには妹がいる、今は妹と2人で暮らしてる……」
純香のことを真っ直ぐ見つめながら話し始める。
「両親は音楽家で、2人とも海外を拠点に活動してる。だからおれは妹の面倒みなくちゃだめで、窮屈に感じることもたくさんあったけど、両親にはそれなりに感謝してて、最近は妹も自分のことは自分でできるようになってきて……それで……」
「家族を大切にしてるのね」
「あぁ、そうだな……たぶん立花の想いとは、また違うものだと思うけど……」
「違わないわよ」
「いや、現に今日も妹を留守番させちゃってるし」
「それでも違わない、わかるの」
純香は翔太との間に何か通ずるものを感じたようで、そう言い切った。
「わたしまだちょっと怖い」
「怖い?」
「父や母のことを裏切っていないか心配なの」
「……自分が外に出ることで、か」
「翔太はどう思う?」
「……」
難しい質問だ。他人が口を出していい問題なのだろうか。
「それ、おれなんかが意見できる問題なのかな……」
「わたしは翔太の意見が聞きたい」
「そうか……なら」
純香は珍しく語気を強めて、翔太の意見を求めてきた。
彼女が必要とするのなら、自分のありのままの考えを伝えるべきかもしれない。それがたとえ他人の家族の問題でも。
「……外の世界を知りたいと思うのは自然なことだよ」
「……そう?」
「うん、だって高校生なんだから」
「でも大人は、わたしのことまだ子どもって言う」
「そうかもしれない、でも決めるのは立花自信だよ」
「わたしが決める……」
「あぁ、そうだ、だって立花の人生なんだから」
「うん、わたしの人生」
「だから、権利があるんだ。家族のこととか立場とか色んなこと背負いつつも、みんな平等に自分の人生が与えられてて、自分で選択してくんだよ。自分の意志を持って、自分の意志に従って、そうやって生きていくべきだとおれは思う……」
「うん、そうね」
純香はすごく納得した様子だ。気持ちに整理がついたのか、表情も柔らかくなっていた。
自分のことも妹の世話も、1人でこなさなければならなかったからか、翔太は自分の意志を強く持って生きてきた。過保護に育てられた箱入り娘とは真逆だ。翔太の回答は、そんな自分自身の経験から得たものだった。
純香の過去や家の事情を考えると、少し無責任な助言かもしれない。でも、けっして間違ったことではないはずだ。
「みて、翔太」
外を眺めると、観覧車はちょうど最高部に到達しようとしていた。
みなとみらいの街が、横浜が、海が一望できる。その夜景はまるで宝石のようだ。
「わたし今日は楽しかったわ」
純香は目を輝かせながら言った。
「わたし今日のこと、ちゃんと父に話すわ」
「ああ、それがいいと思う」
「そしてちゃんと自分の意思を伝えるわ」
「よし、その意気だ」
「そして自分で歯を磨いてみる」
「お、おう……いつもは自分で磨いてないんだな……」
相変わらずちょっとずれているが、その顔つきは真剣だった。
急に純香が勢いよく立ち上がった。衝撃でゴンドラが揺れる。
「どうした、急に立ち上がって」
純香は口をキュッと結んで、こちらを向いた。
「翔太」
「ん?」
「また遊んでね」
観覧車の頂上で微笑んだ彼女は、光のパノラマに囲まれて、途方もなく美しかった。
***
「ただいまー」
ドアのバタンと閉まる音が玄関に響く。
純香を屋敷の近くまで送り、買い物もしてきたので、だいぶ夜遅くなってしまった。
立花家の屋敷は中華街や港が一望できる丘の上に建っているらしい。
その辺一帯は地域でも有名な高級住宅街で、学校からは徒歩20分くらい、翔太の家からも徒歩圏内だ。
残念ながら、素晴らしい門構えを見ることなく、屋敷の手前で純香と別れた。
立花家からしたら、翔太はお嬢様をさんざん連れ回した馬の骨だ。もし翔太がひょっこり顔を出したりしたら、どんな仕打ちににあうか目に見えている。
「ちょっとお兄ちゃん! おそいよ!」
「ごめんな、友達を家まで送って、買い物もしてきたら遅くなっちまった」
妹の神川鈴菜が二階から階段を駆け下りてきた。中学2年生のくせに子供っぽい部屋着を身につけ、シロクマのぬいぐるみを抱いている。
「もうお腹ペコペコだよぉ」
お腹をぽんっと叩いて訴えてくる。
外側にはねた癖っ毛ショートカットの黒髪が、かすかに揺れる。
「すぐ夕飯作るからな。 風呂入ったか?」
「バッチリだよ! いつも通り、脇から洗ったよ」
「そうか、順番はどうでもいいぞ」
制服を着替えて台所へ向かう。兄妹で2人暮らしのため、家事は兄の翔太が殆どを担当している。
「きょうのメニューはなにー? 先に言っておくけど、私の舌は肥えてるぜぇ」
「ならおれの料理が上手いってことだな。今日の夕飯はカレ……」
一一ピンポーン
急に玄関でチャイムが鳴り、会話が遮られた。
「こんな時間に誰だろうな、ちょっと出ててくる」
一一ピンポーン
催促するようにもう一度チャイムが鳴る。
「はーい、どなたさま……」
「翔太、こんばんは」
記憶に新しい声で挨拶をされる。
そこに立っていたのはまだ制服姿の純香だった。大容量のキャリーケースを傍らに置き、なぜか麦わら帽子を被ってサングラスをしている。
「修学旅行なら今日じゃないぞ、それにサングラス似合ってない」
「日焼けしたくないの」
この女……。至って真面目な顔で大ボケをかましてくる。
「いま夜ですよ! 日差しゼロですよ!」
「夜でも紫外線はあるのよ」
「はぁ……夜にその格好は不審者だ……てかなんでおれの家が分かったんだ、たしか最寄駅しか教えてないよな? それになんの用だ? やけに大荷物だな」
「駅まで来て商店街でおじさんに聞いた」
「おれんちの住所を?」
「そう、肉屋のおじさん、店閉めるとこだった」
「おじさん……個人情報……」
商店街は家から徒歩10分ほどのところにある。よく買い物をしにいくし、たしかに肉屋のおじさんとも顔見知りだ。
「んで、用件は?」
「翔太、ぜひ笑顔で聞いてちょうだい」
なんだか意味深な前置きだ。
「お、おう」
純香はかっこよくサングラスを外した。
「わたし家出したの」
「うん、そっか、あはは……ってはぁ!?」
「今日からお世話になります」
純香は礼儀正しくぺこりとお辞儀した。
「ちょっとまて、なんでそうなるんだ」
「自分の意志に従えと言ったのは翔太よ?」
純香は自分はまったく悪いことはしてない、といった表情で平然と答える。
「たしかに言ったが、なぜそれが家出になる! 極端すぎるだろ!」
「父に今日のこと話したら喧嘩になった」
純香は斜め上を見上げながら、思い出すようにして答えた。
「それで?」
「わたし家出するわ、って言って」
「……」
「あぁもうお前なんか娘じゃない、って言われた」
「なんという子どもっぽい喧嘩……」
高校生にもなってそんな幼稚な言い合いをする親子がいるとは……。
「翔太、今日の夕飯はなにかしら?」
純香は、ぐぅーっと鳴ったお腹をさする。
「まだ泊めてあげるなんて一言も言ってないぞ」
「ほかに行くあてがないわ」
「じゃあなぜ家出する……」
「翔太のせい」
純香が少し上目遣いで見つめてくる。
「わたしをこうさせたのは翔太」
そう言われると返す言葉がない。
純香は翔太の手首を掴んできた。
「翔太、責任とって」
翔太の手首がさらに強く握られる。
「ほかに選択肢はないんですか……」
「ない」
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