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2 想い

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「もし私が達也の前で泣いてたら、達也は抱きしめてくれたかな……」
 
 達也が飛び出していった後、私は静かにその場に崩れ落ちた。
 無理してでも淡々と話さなければならなかった。弱い姿を見せない、と自分に誓ったから。
 達也は優しすぎる。私がもし泣いたら、彼は私のために必死になっただろう。あと何年生きられるか分からない私の人生に、彼を巻き込みたくない。
 
 達也と私はずっと一緒に育ってきた。高校に入学してからもずっと達也は私の隣にいてくれた。達也と登校して、お昼食べて、喋って、笑いあって。そんな毎日がずっと続くと思っていたのに……。
 でも悲しむのは私だけでいい。達也の人生はあと何十年も続いていく。彼のこれからの毎日を崩さないためにも、私はそっと消えゆくだけだ。

「奈美……」

 気がつくと、涙を枯らした母が私の背後に立っていた。
 今日病院で私が余命宣告を受けたとき、もちろん母もその場にいた。それ以降、母はずっと泣きっぱなしだったのだ。

「お母さん……」

「奈美っ……」

 母が私を思いっきり抱きしめる。

「よく頑張ったねっ……一番辛いのはあなたなのにっ……達也くんにちゃんと自分の口で伝えて……」

「……っ……うっ……お母さんっ」

 達也の前では我慢していたものが、母の温かい胸の中で滝のように流れ出した。
 
 本当はもっと話したい。本当はもっと一緒に笑っていたい。でも、もうそれは過去のこと。どうあがいても、数年後には私と達也は別々の道を行く。
 
 今までありがとう。達也、大好きだよ。
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