君に捧げる花言葉——命を燃やして人を愛する

雨巣

文字の大きさ
3 / 4

3 決意

しおりを挟む
 疲れ果てて無気力に歩く俺は、気がつくと学校の前にいた。
 どれくらい走っていたか分からない。どこに向かって走っていたかも。
 ただ一つ確かなのは、どんなに自分を痛めつけてもこの悪い夢は覚めないということ。

 俺は崩れるように校門の前に座り込んだ。高校での思い出が溢れてくるこの場所にいるのは辛い。だけどもう移動する体力が残っていなかった。
 
 俺は奈美のことが好きだ。いつから好きだったか分からないくらいに。それなのに俺は一度もその気持ちを伝えようとしなかった。そして失うと分かって初めてそのことを後悔している。もう遅すぎるのに……。

「おい、達也。そんなとこ座り込んでなにしてんだ?」

 背後から声がした。
 振り向くと、エナメルのバッグを背負った部活終わりの男子が立っている。

「圭人……」

 頭がぼんやりした状態のまま、なんとか彼を認識した。クラスメイトであり親友の赤井圭人あかいけいとだ。

「なんだ、この世の終わりみたいな顔して」

 圭人は俺と目線を合わせるようにしゃがんだ。
 
「あ、お前もしや泣いてたな?」

「うるっせ……泣いてねーよ」

「いや、どう見ても泣いてたな。何があったか言ってみろよ」

 圭人は心配そうに俺の顔を眺めた。俺は相当ひどい顔をしてるんだろう。

「…………大切な人が……遠くに行っちゃうんだ」

「はぁ、それでお前そんなメソメソしてんのか?」

「うん……」

 俺はそう答えて下を向いた。
 自分がみっとないことぐらい分かっている。ただ他にどうしようも——。

「馬鹿かお前」

 え?

「大切な人が遠くに行っちゃうって時に1人で女々しく泣いてる暇なんかあるのか?」

 圭人はそう言いながら俺の瞳を真っ直ぐ見つめてきた。

「でも……」

「でも、じゃねぇだろ」

 圭人に思いっきり胸ぐらを掴まれる。体に力が入らず、俺は体重を委ねるようにだらんとした。

「本気で大切だと思ってんならな、残された時間全てその人のために使えよ。それができねぇなら軽々しく大切とか言うな」

 圭人は乱暴に俺を揺すったが、目は真剣だ。
 たしかに……圭人の言う通りだ。俺は馬鹿だ。ただ悲しさに押し流されて現実から目を背けた。一番苦しんでいるのが奈美だと分かっていながら、涙を見せられないと言い訳して奈美の前から逃げ出した。

「どうなんだよ、お前の気持ちは。本気で大切なのか? 本気で大切だと思ってんのか?」

「……ああ」

「ならこんなとこ座り込んでんじゃねぇ。敵は時間だけだ。その大切な人の傍に1秒でも長くいろ。根性見せてみろよ!」
 
 圭人の拳から、俺の胸に熱気が伝わってくる。暑苦しい夏日だというのに、熱気が伝わってくる。
 そうだ、気持ちはこうやって伝えるんだ。ただ隣にいるだけでは何も伝わらない。ただ1人で泣くだけでは何も変わらない。
 奈美から告げられた事実は、目を背けたくなるほど苦しいものだ。でもその事実と混同して、俺は自分の気持ちにも目を背けている。少しでも長く一緒にいたい。少しでも長く笑っていたい。そんな気持ち達を、「彼女を傷つけてならない」と抑え込んだ。
 でも俺は間違っていた。彼女のことが本当に大切なら、臆病になっている暇などない。伝えなくてはならない。

「圭人……俺、行ってくる」

 俺は圭人の手をそっと外し、疲れ果てた体を持ち上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

婚約した幼馴染の彼と妹がベッドで寝てた。婚約破棄は嫌だと泣き叫んで復縁をしつこく迫る。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のオリビアは幼馴染と婚約して限りない喜びに満ちていました。相手はアルフィ皇太子殿下です。二人は心から幸福を感じている。 しかし、オリビアが聖女に選ばれてから会える時間が減っていく。それに対してアルフィは不満でした。オリビアも彼といる時間を大切にしたいと言う思いでしたが、心にすれ違いを生じてしまう。 そんな時、オリビアは過密スケジュールで約束していたデートを直前で取り消してしまい、アルフィと喧嘩になる。気を取り直して再びアルフィに謝りに行きますが……

思わせぶりには騙されない。

ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」 恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。 そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。 加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。 自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ… 毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。

処理中です...