日常探偵団

髙橋朔也

文字の大きさ
28 / 59

辞書の紛失 その肆

しおりを挟む
 三人は部室のある七階に上がると、職員室前に職員がいることに気づいた。右手に本を持っていて、三人とすれ違って階段を降りていった。
「何だ? あの職員......」
 新島が気になって階段を見ていると、土方が話し始めた。
「あの職員な、七不思議の七番目でカイロに着火した片岡が今指導してる鏡(かがみ)って職員だよ。片岡は八坂中学校に来てもう一年だからな」
「なるほど。だから、あの職員には片岡と似たように偉そうだったのか」
「ああ。私の偏見だが鏡もまた何かやらかすかもしれない」
「だな」
 部室に入ると、土方はテーブルに置かれているみかんを一つ口に運んだ。
「そもそも、辞書を盗む理由は何だろうな」と高田が言うと、椅子に座りながら新島は反応した。
「それがわかったら苦労はないよな」
「そうだな」
 新島もみかんを手に取ると、皮をむいた。
「みかんがみずみずしいな」
「どれ。俺も一口...」
 高田もみかんを口に放り込んだ。
「まあ、みかんは水だけどな」
「そうだな」
 新島はみかんを食べ終えると、皮を持って椅子から立ち上がった。部室の隅にあるゴミ箱に歩いて行くと、皮をゴミ箱に入れた。それから、また椅子に向かって歩いて腰を下ろした。
「辞書を探すにしても手掛かりがなさすぎるんだよ」
「だよな」
 三人は沈黙して、考え始めた。

 それから一時間ほどして、高田が話し始めた。
「この沈黙が超つまんないんだけど? ってか、新島はまだ閃きがないのかよ?」
「ちょっと待ってろ。情報が少なさ過ぎるんだよ」
「情報ね。...そういえば、隣りの職員室に新しい本棚が入ったらしいよ。これ、新情報な。多分生徒なら誰も知らない」
「そういう情報じゃないんだよ」
「そうなのか?」
「ああ、そうなんだよ」
「でな、その本棚には教科書とか並べるらしいけど、並べる担当が鏡なんだとよ」
「あの片岡の弟子か」
「ああ」
「無駄な情報だな」
「そうか?」
「もういい」
 新島は立ち上がると、隣りの空き部屋に入った。机を調べて、壁や床を丁寧に確かめた。だが、何も出てこないから廊下に出ると扉を調べ始めた。すると、扉の上のプレートに紙が差し込まれていることに気づいた。その紙を手に取ってから裏返すと

 『旧図書蔵書室』

 と書かれていた。新島はその紙を持って部室に入り、二人に見せた。
「あの空き部屋が前の図書蔵書室だったのか。図書室と繫がっている今の図書蔵書室の部屋が数年前に図書蔵書室になったというのは有名だが、前の図書蔵書室の部屋は知られていなかった...。だが、まさか文芸部の隣りの空き部屋が旧図書蔵書室だっとというわけか。ってか、新島!」
「どうしたんだよ、高田」
「その情報、辞書の紛失と関係あるか?」
「高田の言っていた職員室に新しい本棚が来たっていうよりはましだろ? あの空き部屋を調べてたらその紙が出てきたんだからしょうがない」
「まあ、そうだな」
 新島は椅子に座ると、目を閉じた。それから自分の頭を叩くと、本棚を見た。
「高田の無駄な話しも、俺の無駄な発見も意味があったようだよ」
「つまり、わかったのか!?」
「よくわかった」
「犯人は誰なんだ?」
「行こうか」
 新島は部室を出た。二人も後を追った。新島は隣りの職員室の扉をノックした。すると、扉が開いた。
「どうした?」
「職員室の本棚の中に月始会の最新版の辞書はありませんか?」
「あるよ」
 その職員は本棚から辞書を持って、戻ってきた。
「最後のページに土方波と書いてあるはずです」
「ああ、書いてあるよ」
「それは先輩のです。返してください」
「ほらよ」
 新島は辞書を受け取って戻ってきた。高田は驚いていた。
「なんで職員に?」
「簡単だ。まず、鏡とかいう職員は右手に本を持っていて。その本は新潮文庫のもので、天アンカットになっているはずの本だ」
「なんだ? 天アンカット?」
「私は知っている。わざと天を裁断しないでいる奴だろ? 本の上の側面がデコボコしてるんだ」
「そう。天アンカットは本を美しくみせるものだ。だが、鏡が持っていたのは天アンカットがあるはずの本だけど天アンカットのデコボコはなかった。ヤスリで削って平らにしたんだろう。つまり、性格は几帳面。
 几帳面な鏡が本棚に本を並べるのを担当していた。そして、少し本が足りなくて本棚の一部にすき間ができたんだろう。それを埋めるために厚い本が必要だった。そこで鏡は職員室の地図を見た。おそらく、職員用の地図だから空き部屋に旧図書蔵書室と記入されていたのだろう。で、鏡はそこに本があると思って空き部屋に入った。そこでまた扉を見つけた。その扉を開けると本棚があり、辞書を取っていったんだろう。まあ、勘違いか魔が差したかのどちらかだ」
「なるほど」
「よくわかったな」
「それほどじゃない。実に簡単なパズルのピースがちゃんと集まっただけだ。俺はそれを組み立てたにすぎない」
 新島は土方に辞書を渡した。土方はそれを受け取ると、三人で部室に戻った。高田は何か用事があるようで、カバンをつかむと部室を出た。
「にしても」高田は独り言を走りながらつぶやいた。「これで、部長とやる最後の謎解きなのか。味気ないな」
 高田は家の鍵をカバンから出そうとすると、鍵を部室に忘れてきたことに気づいた。急いで階段を駆け上がって部室の前まで戻った。すると、話し声が聞こえてきた。盗み聞きは悪いことだとわかっていても、気になるようだ。
「先輩...」
「ん? どうしたんだ」
「これからも一緒にいてくれ」
「何当たり前なこと言ってるんだ?」
「やっぱり言わないと駄目か」
「何をだ?」
「卒業しても、俺と一緒にいてくれないか?」
 高田の体は固まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。

処理中です...