日常探偵団

髙橋朔也

文字の大きさ
38 / 59

卒業 その拾

しおりを挟む
 二人は高田を部室に残して、急いで軽音楽部部室に向かった。鈴木は部室で、作曲を行っていた。他の部員は音楽室で演奏をしている最中だろう。
「来たわね。私が犯人だって、気づいた?」
 鈴木の他人事のような口調に、新島は少なからずムッとした。
「鈴木」土方は部室の扉を閉めた。「何で窓ガラスを割った?」
「私が八坂中学校に仕返しをして、何か悪い?」
「なぜ、仕返しを?」
「七不思議を解明していたことで、八坂中学校から圧力がかけられていたから」
「圧力?」
「私だけ、軽音楽部で演奏すらさせてもらえない」
「それは被害妄想だろ?」
「そうかもしれないけど、七不思議は学校の私利私欲で生まれた。生徒を代表して、報復する必要はあるわ!」
「確かに、私達はまだあと三つの七不思議を解いていない。だが、文芸部の新島なら必ず卒業までに七不思議を解いて、学校に言及できるはずだ」
「私が言及しなくては駄目なんだ」
「その役目は文芸部が引き継ぐ」
「......」鈴木が言葉に詰まった。
 今まで黙っていた新島は、腕を組みながら口を開いた。「人を頼ることも大切です。自分で考え過ぎていると、発想力もなくなります。マイクロ波を使ったトリックは東野圭吾の『虚像の道化師』の『幻惑(まどわ)す』に登場したものをそのまま手を加えずに使用したものですよね?」
「何で、それを......!」
「探偵ガリレオシリーズは自分も大好きですから。虚像の道化師では、俺は『透視(みとお)す』が好きです。相本美香さんは、封筒の中身のことについて触れなければ死ぬこともなかったのですがね......」
「そうか。では、八坂中学校に言及する役目は文芸部に委ねるとしようか」
 鈴木は椅子から立ち上がり、新島と握手をした。
 土方と新島が軽音楽部部室を出た。
「新島」
「何だ?」
「いくら探偵ガリレオシリーズをお前が好きでも、鈴木がそうとは限らないだろ? だが、それを言い当てたときは鈴木は驚いていた。つまり、鈴木は自分が探偵ガリレオシリーズを好きだと新島に伝えていないはずだ。どういう仕掛けで、そのことを勘づいた?」
「手、それと本」
「くわしく頼む」
「『透視(みとお)す』と同様、鎌をかけた。『禁断の魔術』は短編集と長編が存在する。『禁断の魔術』の短編集は『透視す』『曲球(まが)る』『念波(おく)る』『猛射(う)つ』の四つだ。だが、『透視す』『曲球(まが)る』『念波(おく)る』は『虚像の道化師』に再編集して収録された。残る『猛射(う)つ』が大幅改稿されて長編となり、『禁断の魔術』となった。
 手に本を読んだ跡があった。鈴木真美は左手親指の付け根に直線の跡を残していたが、左手で本を持った跡だ。鈴木真美はそういう癖がある。といっても、彼女はその癖に気づいてないがな。
 そして、カバンの膨らみから本が四冊あることがわかる。普通、一日じゃ読めない数だ。だが、四冊持ってきているということはマイクロ波がトリックに登場する『虚像の道化師』『禁断の魔術』を持ってきていたということだろう。その本を、手の跡を踏まえて考えると、少し前まで読んでいた。それで、鈴木真美が探偵ガリレオシリーズを好きだという確実性を帯びる。で、『幻惑わす』を参考にしてマイクロ波を使った窓ガラスを割るトリックを思いついたのだろう、という推理が出来るというわけだ」
「そうか。......ややこしいな」土方は不満そうな顔で言った。
 二人はそれから、文芸部部室に戻った。高田はまだ眠っていたから、新島は蹴りをいれた。「起きろ!」
「いっ! ......痛っ!」
「帰るぞ」
「何だ? まだ犯人すらわかってない」
「鈴木真美だよ」
「......!?」
 新島は仕方なく、高田に説明した。高田は納得して、うなずいた。

 次の週、卒業式は無事に行われ、終了した。土方はその日をもって、八坂中学校生徒ではなくなった。それと同時に、文芸部部員でなくなった。そして、新島は晴れて文芸部部長になり、春休みも始まった。春休みでも、三人は集まって、新入部員確保の会議をしていた。もちろん、場所は新島の家だ。
「さて。まず、先輩が文芸部を抜けたことによりこの三人が籍を置く集団がなくなった。だが、俺の家で今日から、この三人でチームが発足する。『旧文芸部 烏合(うごう)の衆(しゅう)』!」
 新島のネーミングセンスを疑うところだが、本日から烏合の衆が発足したわけだ。長(おさ)は当然土方だ。だが、今回の司会進行は新島に任されていた。
「では」新島はテーブルに置かれたコップを右手でつかみ、上に上げた。「皆々様、乾っ! ぱーい!」
 新島のかけ声とともに、土方と高田もコップをつかんで上に上げ、三人でコップをぶつけた。すると、コン、という音がして、高田のコップに入っていた抹茶がこぼれた。当然熱く、抹茶のこぼれた先は高田の頭だった。
「あッチっ!」
「あちゃー」新島は笑いをこらえていた。それから雑巾を持ってきて抹茶を吹き「高田、抹茶入れ直す?」と尋ねた。
「ああ、入れ直してくれ」
「わかった」
 新島はコップに抹茶の粉末とお湯を入れて高田に渡した。
「サンキュー」
「んじゃ、仕切り直して烏合の衆発足だな」
 三人は、コップの中身を飲み干した後で、文芸部の新入部員確保と七不思議の会議を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...