【完結済】ラーレの初恋

こゆき

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「あ、ザンカ」
「……んだよ、お前かよ」

 また春がきて、季節が巡る。
 私は十七、イキシアは十九。ついでにザンカは十八になった。

 今日も今日とてシスターの使いっ走りをやっていると、使わなくなった農具とかをいれてる小屋で動く人影を見つけた。
 ここは普段あまり人が来ないところだし、痛みも激しい。言葉を選ばず言うならボロ小屋だ。

 子供たちが遊んでいるなら注意しないとな~、なんてのぞき込んだら、そこにいたのは思いもよらない人物だった。

「なにしてんの? 珍しいね」
「てめえには関係ねえだろ。失せろよブス」
「まぁたそんなこと言って。…………ん?」
「にゃあ」
「あっ、バカ!」

 お馴染みの憎まれ口を叩くザンカにちょっと呆れていると、聞こえた可愛い高音の鳴き声。
 私に……というか、入り口に背中を向ける形で、奥の方でしゃがみこんでいたザンカの足元から聞こえるそれ。

 ……テンプレにもほどがあるんじゃない??

「みい、にゃぁお」
「…………子猫?」
「ッチ」

 ザンカの足元からすり抜けて、私の方へよちよち歩いてきたちんまい生物。
 それは真っ白な毛並みの、なんともかわゆい子猫だった。

「か……、かっっっっわい~~~……!!」
「どこがだよ。邪魔くせぇ」

 そう吐き捨てたザンカは、私の横を通り抜けてどこかへ行ってしまう。
 が、私にはそんなの気にする余裕はなかった。

 何を隠そう猫派な私はもうメロメロ。
 前世はペット不可なマンション暮らしだったから飼えなかったんだよね。
 あああああ可愛い。毛づくろいへたっぴぃ~。

 ころころとした体を一生懸命折り曲げて、お腹の毛づくろいをしようとしている子猫様。
 はぁん可愛い。語彙力? 子猫の魅力を語るのに人間ごときの語彙で事足りるとでも? シンプルに可愛いとしか言いようがないのよ……。

 あっ、失敗してコロンって!
 もうほんと、この可愛さは。

「「天使か」」
「「…………」」

 ハモった声は、私とザンカ。
 立ち去ったと思っていたザンカは、私の後ろに立って子猫を見守っていたらしい。

 この日、私とザンカに友情が生まれた。



「ていうか、どうしたの? この天使」
「こないだの嵐の時に、ここに迷い込んでたの見つけた」
「ザンカのこと、ここ一年で一番見直した」
「おう、褒めろや」

 狭い小屋に、二人並んでしゃがみこんで子猫を見守る。
 今は残しておいた朝の牛乳を子猫様に献上しているところだ。
 あ~~、心が浄化される……。口元べちょべちょ……。かわ……。

 雨の日に捨て犬に傘を上げちゃう不良タイプなザンカはどうやら捨て猫も拾っちゃうタイプだったらしい。
 お前のそういうとこ、愛おしいと思うよ。

「名前は?」
「この可愛さを表現できる名前が浮かばない」
「それはそう」

 ザンカは思ったよりもノリが良かった。
 ゲームだとツッコミ役だったもんね、君。

 それにしても名前かぁ……。ないのは可哀そうだよね。

「お前、良いのあるか?」
「ねこ」
「お前に聞いた俺がバカだった」
「ひっどいな!」

 じゃあザンカはなにかあるの!?

「天使」
「ザンカも大概じゃん!」

 ダメだ、会話がコントになってる気がする。
 このままではこの可愛い子猫の名前が「ねこ」or「天使」になってしまう。可愛さはよく伝わるけどDQNネームも真っ青だ。よろしくない。

 そのとき、ふと浮かんだ。

「あ、『ましろ』は?」
「マシロ? 聞きなれねぇ響きだな」
「うん、遠い極東の地方で、『白』って意味なんだって」
「へえ、ラーレにしちゃぁいいセンスじゃねぇか」

 その名も『日本の言葉をつかっちゃおう大作戦』。
 うまくいったようで何よりだ。

『すくうた』の世界は中世ヨーロッパ的な世界観だ。
 もちろん使われる言語も英語モドキ。
 私には日本語にしか聞こえないし、何故か普通に読めるけど、英語モドキ。

 外国の言葉ってかっこよくオシャレに聞こえるよね!
 という法則のもと提案した名前だったけど、うまくいったようだ。

「よし、今日からお前はマシロだ。ちび助」
「みぃ!」
「「かっわい」」

 マシロの可愛さを残そうとしてザンカの特技がクロッキーになるのはこの翌年のこと。
 
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