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ループの始まりは、レリアと出会う日だ。
これは間違いない。
だが、彼女がこの『ループ』の』原因か、と言われると……それは違う、と、思う。
確かに俺は、彼女の告白を断ると必ず『やり直し』になる。
だが、それ以外にも『やり直す』ことになる要因はあるからだ。
例として上げれば、まずは俺が死ぬこと。
これは確実にレリアは無関係だ。
そして他にも、レリアが死んでも駄目だ。
……これは彼女も関係しているが、レリアが何かをしている、という訳ではないだろう。死んでいるのだし。
他にも何故か唐突に『巻き戻った』こともあったが……唐突過ぎて原因が分かっていないからどうしようもない。
けれど、それもレリアが特別なことをしていた訳ではなかったよう思う。
「……本当に、分からないな」
ため息と共に体を後ろに倒せば、安いベッドは簡単に悲鳴を上げる。
見上げた天井は見飽きたもので、懐かしさと同時に、ほんの少しの呆れもにじみだしてくる。
この不可解な現象を引き起こしているのが、神様なのか、なんなのかはわからない。
だが、正直に言うといい加減にしてくれないか、と思う。
レリアの告白を受ければいいのかもしれない。
俺から告白をすればいいのかもしれない。
けれど、どこまでも真っすぐで誠実な彼女の気持ちに、そんないい加減な、投げやりな気持ちで応えることはしたくなかった。
「……原因、か」
ゆっくりと頭を振り、思考をいったんクリアにする。
今どうしようもないことを考えても仕方がない。
気分転換にと立ち上がり、窓から少し身を乗り出して外を眺める。
外では子供たちが元気に走り回っていて、俺に気づいた何人かが手を振ってきた。
それに小さく微笑んで、手を振り返して。
ふと、それは視界に映った。
教会の入り口付近にある、季節の花が咲いている、慎ましやかな花壇。
その中でも目を引いた、鮮やかな黄色いチューリップ。
──それを見た瞬間、頭にノイズが走る。
柔らかい春の空。
ふわりと揺れる淡い金髪。
鮮やかな金の瞳は、あまりにも穏やかで──……
「……ラーレ」
ガタン。カタリ。
ぐらりと揺れる視界に、体がぶれる。
慌てて手をついたチェストが、大きな音を立てた。
……今のは、なんだ?
なぜ、ラーレが……?
頭を押さえ、呆然としている間にもノイズは消え、何事もなかったかのような静けさが戻ってくる。
聞こえるのは、遠くではしゃぐ子供たちの笑い声だけだ。
だが、確かにさっき見えたのは……。
「……別に、親しくなんて、なかっただろう」
思わず口からこぼれ出た一言に、何故かズキリと胸が痛んだ。
ラーレ。
教会にいた、少女。
淡い金の髪に、鮮やかな黄色の瞳を持つ、働き者の少女だった。
顔に生まれつきの痣があるせいで、シスターからは嫌われていたが、子供たちも神父様も、皆彼女を好いていた。
……そんな彼女が姿を消したのは、彼女の十八の誕生日、当日のことだった。
神父様も、シスターも、みんな、彼女に変わったことはなかったと言う。
いつも通り真面目で、明るくて、いい子だった、と。
それなのに、彼女は姿を消した。
夕方になっても彼女の姿が見えなくて。
ラーレが森の奥へと進んでいくのを、朝にシスターが見ていたことから、大人たちで捜索が行われて。
結果、森の奥……崖の上へと続く道に、真新しい足跡があったこと。
その足跡が、崖の際で終わっていたことから──ラーレは、崖から落ちてしまったのだろう、と。
そう、悲痛な声で神父様が言っていた。
そして、その事件があったから、崖には柵が設置され、危険だが放置されていたボロボロの小屋も解体されることになったんだ。
「……なんで、消えたんだ」
ポツリと漏れ出た言葉に、返ってくる返事は、当然ない。
だが、ひとつわかったことがある。
『ループ』の始まった日。
その日に起こった『変化』は、レリアが来たことだけじゃなかった、ということだ。
「…………調べて、みるか」
どうせ、違ったらまた『やり直し』になるだけだ。
これがほんの少しでも、解決の切っ掛けになればいい。
そんな軽い気持ちで、俺は腰を上げた。
これは間違いない。
だが、彼女がこの『ループ』の』原因か、と言われると……それは違う、と、思う。
確かに俺は、彼女の告白を断ると必ず『やり直し』になる。
だが、それ以外にも『やり直す』ことになる要因はあるからだ。
例として上げれば、まずは俺が死ぬこと。
これは確実にレリアは無関係だ。
そして他にも、レリアが死んでも駄目だ。
……これは彼女も関係しているが、レリアが何かをしている、という訳ではないだろう。死んでいるのだし。
他にも何故か唐突に『巻き戻った』こともあったが……唐突過ぎて原因が分かっていないからどうしようもない。
けれど、それもレリアが特別なことをしていた訳ではなかったよう思う。
「……本当に、分からないな」
ため息と共に体を後ろに倒せば、安いベッドは簡単に悲鳴を上げる。
見上げた天井は見飽きたもので、懐かしさと同時に、ほんの少しの呆れもにじみだしてくる。
この不可解な現象を引き起こしているのが、神様なのか、なんなのかはわからない。
だが、正直に言うといい加減にしてくれないか、と思う。
レリアの告白を受ければいいのかもしれない。
俺から告白をすればいいのかもしれない。
けれど、どこまでも真っすぐで誠実な彼女の気持ちに、そんないい加減な、投げやりな気持ちで応えることはしたくなかった。
「……原因、か」
ゆっくりと頭を振り、思考をいったんクリアにする。
今どうしようもないことを考えても仕方がない。
気分転換にと立ち上がり、窓から少し身を乗り出して外を眺める。
外では子供たちが元気に走り回っていて、俺に気づいた何人かが手を振ってきた。
それに小さく微笑んで、手を振り返して。
ふと、それは視界に映った。
教会の入り口付近にある、季節の花が咲いている、慎ましやかな花壇。
その中でも目を引いた、鮮やかな黄色いチューリップ。
──それを見た瞬間、頭にノイズが走る。
柔らかい春の空。
ふわりと揺れる淡い金髪。
鮮やかな金の瞳は、あまりにも穏やかで──……
「……ラーレ」
ガタン。カタリ。
ぐらりと揺れる視界に、体がぶれる。
慌てて手をついたチェストが、大きな音を立てた。
……今のは、なんだ?
なぜ、ラーレが……?
頭を押さえ、呆然としている間にもノイズは消え、何事もなかったかのような静けさが戻ってくる。
聞こえるのは、遠くではしゃぐ子供たちの笑い声だけだ。
だが、確かにさっき見えたのは……。
「……別に、親しくなんて、なかっただろう」
思わず口からこぼれ出た一言に、何故かズキリと胸が痛んだ。
ラーレ。
教会にいた、少女。
淡い金の髪に、鮮やかな黄色の瞳を持つ、働き者の少女だった。
顔に生まれつきの痣があるせいで、シスターからは嫌われていたが、子供たちも神父様も、皆彼女を好いていた。
……そんな彼女が姿を消したのは、彼女の十八の誕生日、当日のことだった。
神父様も、シスターも、みんな、彼女に変わったことはなかったと言う。
いつも通り真面目で、明るくて、いい子だった、と。
それなのに、彼女は姿を消した。
夕方になっても彼女の姿が見えなくて。
ラーレが森の奥へと進んでいくのを、朝にシスターが見ていたことから、大人たちで捜索が行われて。
結果、森の奥……崖の上へと続く道に、真新しい足跡があったこと。
その足跡が、崖の際で終わっていたことから──ラーレは、崖から落ちてしまったのだろう、と。
そう、悲痛な声で神父様が言っていた。
そして、その事件があったから、崖には柵が設置され、危険だが放置されていたボロボロの小屋も解体されることになったんだ。
「……なんで、消えたんだ」
ポツリと漏れ出た言葉に、返ってくる返事は、当然ない。
だが、ひとつわかったことがある。
『ループ』の始まった日。
その日に起こった『変化』は、レリアが来たことだけじゃなかった、ということだ。
「…………調べて、みるか」
どうせ、違ったらまた『やり直し』になるだけだ。
これがほんの少しでも、解決の切っ掛けになればいい。
そんな軽い気持ちで、俺は腰を上げた。
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