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わたくしは、以前は極々普通の『私』だった。
平成から令和の、娯楽の溢れる現代社会。労働という対価は着いて回るが、その分自分の稼いだお金で好きなことをできる、そんな自由溢れる生活を謳歌する、うら若き成人女子だった。
まあ、ここまで言えば察しがつくだろう。
そう、私は『わたくし』へと、流行りの異世界転生をしたのだ。
──それも、流行りも流行りの『乙女ゲームの悪役令嬢』へと。
「それに気づいたのはつい最近、っていうんだから、わたくしも間抜けなものよねぇ」
しゅるりと軽い衣擦れを聞きながら堅苦しいドレスを脱ぎ、はぁぁぁ、と特大のため息をひとつ。
わたくしの自室はなるべく人払いをし、廊下側の扉の前に普段はアレクが控えるのみとなっている。一応公爵家の令嬢として気を張っているわたくしが息をつける、数少ない場所のひとつだ。
そして、そう。わたくしが『自分が乙女ゲームの悪役令嬢だ』と気づいたのは、恥ずかしながらつい最近のことだったりするのだ。
笑ってもいいわ。だって記憶自体は3歳からあったんだもの。
「着替えたわ、アレク。いいわよ」
そういえばアレクと出会ったのもそれくらいだったわね、なんて考えながら声をかければ、暫くの沈黙の後に重々しくドアが開く。
別にドアはそんなに重厚ではないのだけれど、きっとアレクの心情が反映されているのね。
「……何度も言いますが、私ではなくても……」
「あら、この格好をみて悲鳴を挙げない侍女がいたら連れてきて頂戴」
そう、わたくしが今身につけているもの──それは、今は懐かしきトレーニングウェア(もちろん特注製品よ)である。
「さあ!今日も元気にエクササイズを始めるわよ!!」
きっとわたくしの目はそれはもうキラキラと輝いていることだろう。
反対にアレクの目は死んでいるけれども、それはわたくしの存ぜぬところね。
──わたくしが自分の立場に気づかなかった理由はただひとつ。
好みドンピシャだった「ユリア」の自分磨きに忙しかったためである。
平成から令和の、娯楽の溢れる現代社会。労働という対価は着いて回るが、その分自分の稼いだお金で好きなことをできる、そんな自由溢れる生活を謳歌する、うら若き成人女子だった。
まあ、ここまで言えば察しがつくだろう。
そう、私は『わたくし』へと、流行りの異世界転生をしたのだ。
──それも、流行りも流行りの『乙女ゲームの悪役令嬢』へと。
「それに気づいたのはつい最近、っていうんだから、わたくしも間抜けなものよねぇ」
しゅるりと軽い衣擦れを聞きながら堅苦しいドレスを脱ぎ、はぁぁぁ、と特大のため息をひとつ。
わたくしの自室はなるべく人払いをし、廊下側の扉の前に普段はアレクが控えるのみとなっている。一応公爵家の令嬢として気を張っているわたくしが息をつける、数少ない場所のひとつだ。
そして、そう。わたくしが『自分が乙女ゲームの悪役令嬢だ』と気づいたのは、恥ずかしながらつい最近のことだったりするのだ。
笑ってもいいわ。だって記憶自体は3歳からあったんだもの。
「着替えたわ、アレク。いいわよ」
そういえばアレクと出会ったのもそれくらいだったわね、なんて考えながら声をかければ、暫くの沈黙の後に重々しくドアが開く。
別にドアはそんなに重厚ではないのだけれど、きっとアレクの心情が反映されているのね。
「……何度も言いますが、私ではなくても……」
「あら、この格好をみて悲鳴を挙げない侍女がいたら連れてきて頂戴」
そう、わたくしが今身につけているもの──それは、今は懐かしきトレーニングウェア(もちろん特注製品よ)である。
「さあ!今日も元気にエクササイズを始めるわよ!!」
きっとわたくしの目はそれはもうキラキラと輝いていることだろう。
反対にアレクの目は死んでいるけれども、それはわたくしの存ぜぬところね。
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好みドンピシャだった「ユリア」の自分磨きに忙しかったためである。
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