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旅立ち
6。
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静かな森に大声を出しまくっている人達がいる。
その声にびっくりしたのか、罪もない鳥たちが驚いて次々と飛び立つ。
「ばかやろーっ!魔法が使えないなら使えないって言え!!」
「使えるもん」
「そのっ、その一言で俺らがさっきのひ弱なモンスターから逃げる羽目になったんだ!!その紛らわしい一言で!!」
「使えるって!」
「まあまあ」
シェルが和解しようと努力するが、
「実際使えなきゃ何も意味がないんだ。分かるか?」
全然聞かれてない。
「だから、僕がせっかく魔法を唱えてダメージを与えようとすると、ウォークが片っ端から斬りつけていくんじゃないか」
「俺が斬りつけたのは目の前の敵だけだ」
「そう。だからその敵。僕が近距離魔法しか使えないの知らないの!?」
「い・ば・る・な!!」
「だってそれしか使えないもん」
「魔法はなー、遠距離で使えないとイミがないの!!俺がいる限りは!」
「え~・・・」
「え~・・・じゃない!」
ぐがごぉう!!
モンスターの何とも言えぬ鳴き声が聞こえたと思いきや、前方から4、5匹襲い掛かってくる。
「ちっ」
ウォークはモンスターの攻撃を避けながら剣を振るい、首ごと斬り落とす。
相手は一見ただの狂った狼にしか見えないが、彼らは火の魔法が効かない。更に付け加えると眼球もない。
本来あるはずのその場所には闇の世界が広がっていた。そして・・・彼らは火の魔法が使えた。
その獣が吠える度に、モンスターの足元辺りから炎の線が何本も四方八方に広がり襲い掛かってくる。足元に注意していなければ丸焼きになるだろう。
火の魔法は使えない。
まあ、そんなことでラクナスはシェルが持って逃げているのだが(どうせラクナス使えないし)
こうなると走っていってその勢いで相手を斬りつける、つまり戦士の人達にとっては、そのまま突き進めばもれなく丸焼けだ。
そう、ウォークのこと。
こうなったら仕方ない。
まだやったことがないが、考えていた事がある。
多分ああやれば遠距離でも魔法が出来ると思う。
「え・・・と・・・」
僕は走っていた足をぴたりと止めた。そして反対方向を向き、敵に向かって魔法を唱える。
「ロムル!」
シェルが後ろで叫んでいる。
「ロムル!」
ウォークも。
僕は振り向かず、呪文を唱える。
獣の唸り声が周りから聞こえる。どうやら囲まれたらしい。
かまわず呪文を唱える。
獣たちが一斉に飛びかかってくる。
今だ!
「氷壁!」
僕の身体から1メートルほど離れて一瞬にして氷の壁が立ち、僕を囲む。その高さは2~3メートル。
飛びかかってきた獣はその氷壁に触れるや否や一瞬で凍り付き、地面にごとごと音を立てて落ちてくる。
氷の壁はすぐに消え、周りには凍り付いた獣達だらけ。氷を割らないとまた襲い掛かってきてしまうが。
「ロムル!良かった。無事だったのね」
シェルが安心した顔で駆け寄ってくる。ラクナスもシェルの腕から飛び立って、僕の方向に飛んでくる。
「うん。なんとかね」
僕は心配をかけた反省の意も込めて、困った顔で笑う。
ウォークは凍り付いた魔物達をまじまじと見て回りながら僕の方へ問いかける。
「なあ、これ割っといた方がいいか?」
「あ、うん」
僕は顔にじゃれついてくるラクナスを手でもてあそびながら答える。
「そっか」
そういうとウォークは持っていたロングソードで氷を叩き割っていく。
あの魔法使い達の宿舎を離れてから、僕らは色々騒ぎを起こしてしまった者同士
-つまり、僕とシェルは牢を抜け出してしまったし、ウォークはクビになった腹いせに戦士隊長を殴り飛ばして気絶させてしまったらしい-
事が大きくならないうちに街を離れる事にした。
ストルーアさんの話によれば、北に向かっていけば兄さんを消した魔法使いがいる国にいけるのだという。だから僕らは街を出て北の森に入った。どうやらあの街は森に囲まれているらしい。
そして入ってすぐにさっきの魔物と鉢合わせてしまったのだ。と、まあこれが今までの経緯。
「しかしこれだけ森が深いと昼だか夜だか分からなくなるな・・・」
ウォークがぼそりと呟く。
確かに森は深く、木漏れ日でさえも余り通さない。
「ここがどこかもあまり分かりませんね」
シェルが辺りを警戒しながら呟く。それも確かだ。僕らは北の森へ入ったが、北に向かっている保証はない。
何故ならさっき魔物に追い掛け回されて一応まっすぐに逃げたつもりだが、途中魔物を撒くためにいろいろな木々の間を曲がりすり抜けてきたから、果たしてここがまともな道かも分からない。もしかしたら他の方向へ行ってしまっている可能性も高いのだ。
「う~ん・・・。まあ、いいや。歩いていけばそれなりのところへ出るわけだし。迷っていても仕方がないから、行こ」
僕が適当な方向へ歩き出すと皆が後からついてくる。僕は後ろを振り返り、慌ててこう言った。
「ま、待って。ここはやっぱり方向感覚の良い人を先頭にしよ。ね?」
しかしウォークが呆れた顔をして、
「誰だって同じだと思うぞ?」
と言い返してきたので、
「でも、僕・・・・」
「ははあ、ロムルさては先頭が嫌なんだろ?」
「普通、誰でも一日あれば抜けられる森で5日間迷う奴なんだ!」
その後、話し合いで先頭にシェルが立つことになった。
「女を先頭に立たせちゃって良いのかなあ」
ウォークが申し訳なさそうな顔をしてシェルの後ろから僕と並んで歩く。
「でも彼女は、ほら、盗賊(シーフ)だし。方向感覚ありそうじゃん?」
「盗賊(シーフ)っ!?」
ウォークが叫ぶ。と、シェルが慌てて振り返り、
「どうしました!?何かいましたか?」
ウォークが慌てて、
「い、いいや。何でもない。どうぞ気にせずに・・・」
シェルはきょとんとした顔で、そうですか?と首を傾げ、また前に向かって歩き出した。
僕とウォークはほっと息をついてまた話し出す。
「なんて声出すんだよ!」
今度は小声で。
「いや、すまん。でも言われてみれば俺、彼女の名前すらも知らないんだぜ?」
「え?」
「え?じゃねえよ」
いや、僕が驚いたのはウォークがシェルの事を知らないことではなく、名も知らない者がパーティにいるのに不信に思わず溶け込んでいることだ。
本来戦士系の者は、特に戦場に出て戦う者達は裏切りが多発するため、単独で行動することが多い。万が一パーティを組んでしまった時でも決して警戒心は怠らないはずだ。
僕が何で今頃聞くんだ?というような顔をしていたらしく、ウォークは、
「だって仕方ないだろ?今まで忘れていたんだ」
「え?」
僕は呆れた。
「いや、忘れていたってのは、俺に警戒心をなくさせる程、お前等は俺を信用した、あー、だから簡単に言うとお前らの心が素直すぎたから俺は警戒心をすっかり怠って、そのせいで彼女の名前を聞くのも忘れたって事!分かったか?」
彼の声は怒っていたが、顔は照れていた。どうやら僕らは余程信用されているらしい。
僕は彼にも可愛いところがあるのだな、と密かに笑いながらも彼にシェルの事を話した。
「ええと、彼女の名前はシェル。あの大盗賊のシェラ・フィータ」
「ええ!?」
さすがに驚きは抑えきれず、ウォークはまた大声を出してしまった。
「どうしました!?」
シェルが慌てて振り返る。
「い、いや。ごめん」
前を行くシェルの後ろ姿をまじまじと見つめながら、
「これがあのシェラ・フィータ?」
信じられない、というような顔でウォークが目を見張る。
各地の古代遺跡を次々と荒らしまくる大盗賊シェラ・フィータ。その盗み方は鮮やかで、盗まれたものは何もないと思わせる程、しかし彼女の通った後はその遺跡の中で「最も価値のあるもの」が盗まれているらしい。それをどこに持って行っているのかは謎であり、その目的も謎である。
そもそも彼女自身見た者が少なく、どんな顔をしているか分からない。ので捕まえようがないのである。が、数多くの遺跡が荒らされてきた今、彼女の入っていない遺跡が残り2、3か所だという噂が広がり、それにつれて残りの遺跡に厳重な警備が張り巡らされたらしい。多分、彼女はそのせいで捕まってしまったんだろう。
しかし、誰も彼女を見て、あの大盗賊シェラ・フィータだなんて思わないだろう。
盗賊という荒々しい雰囲気はなく、ドレスを着ればどこかのお姫様にでもなりそうな彼女を。
「吟遊詩人が詩にまで流した大盗賊シェラ・フィータ。いやあ俺も一時憧れたが、なんせやることが大雑把でな、盗賊には向かず、結局コレ、さ」
ウォークは剣を指さす。
「ふーん。でもシェルって呼んでくれていいってさ」
「ふーん」
その時、僕の肩からいきなりラクナスが飛び立ち、シェルの横を素早く突っ切り前方に消えた。
「ラクナス!?」
シェルもびっくりしたらしく、後ろを振り返り、僕に
「どうしたの?ラクナス」
と問いかけた。僕は何が何だか分からず呆然と立ち尽くしていた。
どうしたんだろう。
その時僕の心の中に不安がよぎった。
もしかしたら少し先に親がいるのを感じ、そのせいで飛んで行ってしまってもう戻らないとか。
ずっと一緒だった。
僕は自分の心臓がいつもよりかなり早い事に気が付いた。
シェルが僕の不安を感じ取ったのか、落ち着いて言った。
「とにかく追いかけてみましょう」
僕とウォークは頷き、シェルに続いて走り出そうとした。
と、その時。
さっきよりゆっくりだがラクナスが戻ってきた。
「ラクナス!?」
ラクナスはふらふらしながらも僕のところにたどり着き、ぐったりしてしまった。
「ラクナス!?ラクナス!」
僕は手の中にいるラクナスを揺さぶった。
シェルは僕の肩をそっと押さえ、
「大丈夫、疲れているだけみたい」
と言ってくれた。僕はほっとした。
「しかし、こいつは何をやっていたんだろうなあ?」
ラクナスと、ラクナスが去っていった前方をまじまじと見つめながらウォークがそう呟いた。
「行ってみましょう!」
少し行くと何とも言えない臭いが漂ってくる。
何か黒焦げになった、キツい臭いだ。
更に前に進むとウォークが鼻を押さえながら、
「死臭だな、これは」
と更に突き進んでいく。流石にこういう状況は苦手らしく、シェルは後方にいた。
代わりにウォークが先頭だ。
「う!」
ウォークが急に立ち止まった。どうやら先は少し開けた場所らしい。
「どうしたの?ウォー・・・・うわっ!!」
僕は思わず片手で鼻と口を押えた。
広場のようになっていて半径3メートルくらいは木々のない処。空を見上げればまだ昼間のようだった。
そして、その広場には黒い塊が2、30個ぐらいごろついている。
臭いはそこから発せられており、その物からはまだ少し煙が上っていた。
ウォークが恐る恐るそれに近づき、まじまじと見つめ返ってきた。
「獣の・・・死体だ。更に言うなら焼かれている・・・」
しかしウォークはもっと不思議なものを見ていた。
どうやら焼かれていたのはその獣だけだったらしい。つまり、獣が倒れているその下の、丈の短い草は何ともなくただ獣を優しく包み込んでいたとの事だった。
僕は手の中でいつの間にか眠ってしまっているラクナスを見て、
「この子が全部・・・」
「すごいな」
その時シェルがさって身構え、辺りを見回した。
辺りと言っても、獣達の死体がこの広場に沿って丸く放置されているだけだが?
「気を付けて。囲まれているわ」
はっとして周囲に注意を向けると、獣の唸り声がする。どうやらこの黒焦げの奴らの仲間らしい。
ウォークはロングソードをすらりと抜き、外に向かって構える。シェルも短剣を持って身構えた。
僕は火の魔法を唱えていた。黒焦げにされるくらいだから火の魔法に弱いだろうと思ったからだ。
しかし向こうが木々の陰に隠れているので何匹いるのか分からない。
「20はいるか」
ウォークが言う。
しかし、囲まれていて更に下が草ならよほど注意して火の魔法を使わないとここら辺一帯が火事になる。
「来る!!」
ウォークが叫び、走り出す。と、周りにいた獣達が一斉に死体を飛び越えてくる。
「火よ!!」
僕が叫んだとき、信じられないことが起こった。
その声にびっくりしたのか、罪もない鳥たちが驚いて次々と飛び立つ。
「ばかやろーっ!魔法が使えないなら使えないって言え!!」
「使えるもん」
「そのっ、その一言で俺らがさっきのひ弱なモンスターから逃げる羽目になったんだ!!その紛らわしい一言で!!」
「使えるって!」
「まあまあ」
シェルが和解しようと努力するが、
「実際使えなきゃ何も意味がないんだ。分かるか?」
全然聞かれてない。
「だから、僕がせっかく魔法を唱えてダメージを与えようとすると、ウォークが片っ端から斬りつけていくんじゃないか」
「俺が斬りつけたのは目の前の敵だけだ」
「そう。だからその敵。僕が近距離魔法しか使えないの知らないの!?」
「い・ば・る・な!!」
「だってそれしか使えないもん」
「魔法はなー、遠距離で使えないとイミがないの!!俺がいる限りは!」
「え~・・・」
「え~・・・じゃない!」
ぐがごぉう!!
モンスターの何とも言えぬ鳴き声が聞こえたと思いきや、前方から4、5匹襲い掛かってくる。
「ちっ」
ウォークはモンスターの攻撃を避けながら剣を振るい、首ごと斬り落とす。
相手は一見ただの狂った狼にしか見えないが、彼らは火の魔法が効かない。更に付け加えると眼球もない。
本来あるはずのその場所には闇の世界が広がっていた。そして・・・彼らは火の魔法が使えた。
その獣が吠える度に、モンスターの足元辺りから炎の線が何本も四方八方に広がり襲い掛かってくる。足元に注意していなければ丸焼きになるだろう。
火の魔法は使えない。
まあ、そんなことでラクナスはシェルが持って逃げているのだが(どうせラクナス使えないし)
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そう、ウォークのこと。
こうなったら仕方ない。
まだやったことがないが、考えていた事がある。
多分ああやれば遠距離でも魔法が出来ると思う。
「え・・・と・・・」
僕は走っていた足をぴたりと止めた。そして反対方向を向き、敵に向かって魔法を唱える。
「ロムル!」
シェルが後ろで叫んでいる。
「ロムル!」
ウォークも。
僕は振り向かず、呪文を唱える。
獣の唸り声が周りから聞こえる。どうやら囲まれたらしい。
かまわず呪文を唱える。
獣たちが一斉に飛びかかってくる。
今だ!
「氷壁!」
僕の身体から1メートルほど離れて一瞬にして氷の壁が立ち、僕を囲む。その高さは2~3メートル。
飛びかかってきた獣はその氷壁に触れるや否や一瞬で凍り付き、地面にごとごと音を立てて落ちてくる。
氷の壁はすぐに消え、周りには凍り付いた獣達だらけ。氷を割らないとまた襲い掛かってきてしまうが。
「ロムル!良かった。無事だったのね」
シェルが安心した顔で駆け寄ってくる。ラクナスもシェルの腕から飛び立って、僕の方向に飛んでくる。
「うん。なんとかね」
僕は心配をかけた反省の意も込めて、困った顔で笑う。
ウォークは凍り付いた魔物達をまじまじと見て回りながら僕の方へ問いかける。
「なあ、これ割っといた方がいいか?」
「あ、うん」
僕は顔にじゃれついてくるラクナスを手でもてあそびながら答える。
「そっか」
そういうとウォークは持っていたロングソードで氷を叩き割っていく。
あの魔法使い達の宿舎を離れてから、僕らは色々騒ぎを起こしてしまった者同士
-つまり、僕とシェルは牢を抜け出してしまったし、ウォークはクビになった腹いせに戦士隊長を殴り飛ばして気絶させてしまったらしい-
事が大きくならないうちに街を離れる事にした。
ストルーアさんの話によれば、北に向かっていけば兄さんを消した魔法使いがいる国にいけるのだという。だから僕らは街を出て北の森に入った。どうやらあの街は森に囲まれているらしい。
そして入ってすぐにさっきの魔物と鉢合わせてしまったのだ。と、まあこれが今までの経緯。
「しかしこれだけ森が深いと昼だか夜だか分からなくなるな・・・」
ウォークがぼそりと呟く。
確かに森は深く、木漏れ日でさえも余り通さない。
「ここがどこかもあまり分かりませんね」
シェルが辺りを警戒しながら呟く。それも確かだ。僕らは北の森へ入ったが、北に向かっている保証はない。
何故ならさっき魔物に追い掛け回されて一応まっすぐに逃げたつもりだが、途中魔物を撒くためにいろいろな木々の間を曲がりすり抜けてきたから、果たしてここがまともな道かも分からない。もしかしたら他の方向へ行ってしまっている可能性も高いのだ。
「う~ん・・・。まあ、いいや。歩いていけばそれなりのところへ出るわけだし。迷っていても仕方がないから、行こ」
僕が適当な方向へ歩き出すと皆が後からついてくる。僕は後ろを振り返り、慌ててこう言った。
「ま、待って。ここはやっぱり方向感覚の良い人を先頭にしよ。ね?」
しかしウォークが呆れた顔をして、
「誰だって同じだと思うぞ?」
と言い返してきたので、
「でも、僕・・・・」
「ははあ、ロムルさては先頭が嫌なんだろ?」
「普通、誰でも一日あれば抜けられる森で5日間迷う奴なんだ!」
その後、話し合いで先頭にシェルが立つことになった。
「女を先頭に立たせちゃって良いのかなあ」
ウォークが申し訳なさそうな顔をしてシェルの後ろから僕と並んで歩く。
「でも彼女は、ほら、盗賊(シーフ)だし。方向感覚ありそうじゃん?」
「盗賊(シーフ)っ!?」
ウォークが叫ぶ。と、シェルが慌てて振り返り、
「どうしました!?何かいましたか?」
ウォークが慌てて、
「い、いいや。何でもない。どうぞ気にせずに・・・」
シェルはきょとんとした顔で、そうですか?と首を傾げ、また前に向かって歩き出した。
僕とウォークはほっと息をついてまた話し出す。
「なんて声出すんだよ!」
今度は小声で。
「いや、すまん。でも言われてみれば俺、彼女の名前すらも知らないんだぜ?」
「え?」
「え?じゃねえよ」
いや、僕が驚いたのはウォークがシェルの事を知らないことではなく、名も知らない者がパーティにいるのに不信に思わず溶け込んでいることだ。
本来戦士系の者は、特に戦場に出て戦う者達は裏切りが多発するため、単独で行動することが多い。万が一パーティを組んでしまった時でも決して警戒心は怠らないはずだ。
僕が何で今頃聞くんだ?というような顔をしていたらしく、ウォークは、
「だって仕方ないだろ?今まで忘れていたんだ」
「え?」
僕は呆れた。
「いや、忘れていたってのは、俺に警戒心をなくさせる程、お前等は俺を信用した、あー、だから簡単に言うとお前らの心が素直すぎたから俺は警戒心をすっかり怠って、そのせいで彼女の名前を聞くのも忘れたって事!分かったか?」
彼の声は怒っていたが、顔は照れていた。どうやら僕らは余程信用されているらしい。
僕は彼にも可愛いところがあるのだな、と密かに笑いながらも彼にシェルの事を話した。
「ええと、彼女の名前はシェル。あの大盗賊のシェラ・フィータ」
「ええ!?」
さすがに驚きは抑えきれず、ウォークはまた大声を出してしまった。
「どうしました!?」
シェルが慌てて振り返る。
「い、いや。ごめん」
前を行くシェルの後ろ姿をまじまじと見つめながら、
「これがあのシェラ・フィータ?」
信じられない、というような顔でウォークが目を見張る。
各地の古代遺跡を次々と荒らしまくる大盗賊シェラ・フィータ。その盗み方は鮮やかで、盗まれたものは何もないと思わせる程、しかし彼女の通った後はその遺跡の中で「最も価値のあるもの」が盗まれているらしい。それをどこに持って行っているのかは謎であり、その目的も謎である。
そもそも彼女自身見た者が少なく、どんな顔をしているか分からない。ので捕まえようがないのである。が、数多くの遺跡が荒らされてきた今、彼女の入っていない遺跡が残り2、3か所だという噂が広がり、それにつれて残りの遺跡に厳重な警備が張り巡らされたらしい。多分、彼女はそのせいで捕まってしまったんだろう。
しかし、誰も彼女を見て、あの大盗賊シェラ・フィータだなんて思わないだろう。
盗賊という荒々しい雰囲気はなく、ドレスを着ればどこかのお姫様にでもなりそうな彼女を。
「吟遊詩人が詩にまで流した大盗賊シェラ・フィータ。いやあ俺も一時憧れたが、なんせやることが大雑把でな、盗賊には向かず、結局コレ、さ」
ウォークは剣を指さす。
「ふーん。でもシェルって呼んでくれていいってさ」
「ふーん」
その時、僕の肩からいきなりラクナスが飛び立ち、シェルの横を素早く突っ切り前方に消えた。
「ラクナス!?」
シェルもびっくりしたらしく、後ろを振り返り、僕に
「どうしたの?ラクナス」
と問いかけた。僕は何が何だか分からず呆然と立ち尽くしていた。
どうしたんだろう。
その時僕の心の中に不安がよぎった。
もしかしたら少し先に親がいるのを感じ、そのせいで飛んで行ってしまってもう戻らないとか。
ずっと一緒だった。
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僕とウォークは頷き、シェルに続いて走り出そうとした。
と、その時。
さっきよりゆっくりだがラクナスが戻ってきた。
「ラクナス!?」
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「ラクナス!?ラクナス!」
僕は手の中にいるラクナスを揺さぶった。
シェルは僕の肩をそっと押さえ、
「大丈夫、疲れているだけみたい」
と言ってくれた。僕はほっとした。
「しかし、こいつは何をやっていたんだろうなあ?」
ラクナスと、ラクナスが去っていった前方をまじまじと見つめながらウォークがそう呟いた。
「行ってみましょう!」
少し行くと何とも言えない臭いが漂ってくる。
何か黒焦げになった、キツい臭いだ。
更に前に進むとウォークが鼻を押さえながら、
「死臭だな、これは」
と更に突き進んでいく。流石にこういう状況は苦手らしく、シェルは後方にいた。
代わりにウォークが先頭だ。
「う!」
ウォークが急に立ち止まった。どうやら先は少し開けた場所らしい。
「どうしたの?ウォー・・・・うわっ!!」
僕は思わず片手で鼻と口を押えた。
広場のようになっていて半径3メートルくらいは木々のない処。空を見上げればまだ昼間のようだった。
そして、その広場には黒い塊が2、30個ぐらいごろついている。
臭いはそこから発せられており、その物からはまだ少し煙が上っていた。
ウォークが恐る恐るそれに近づき、まじまじと見つめ返ってきた。
「獣の・・・死体だ。更に言うなら焼かれている・・・」
しかしウォークはもっと不思議なものを見ていた。
どうやら焼かれていたのはその獣だけだったらしい。つまり、獣が倒れているその下の、丈の短い草は何ともなくただ獣を優しく包み込んでいたとの事だった。
僕は手の中でいつの間にか眠ってしまっているラクナスを見て、
「この子が全部・・・」
「すごいな」
その時シェルがさって身構え、辺りを見回した。
辺りと言っても、獣達の死体がこの広場に沿って丸く放置されているだけだが?
「気を付けて。囲まれているわ」
はっとして周囲に注意を向けると、獣の唸り声がする。どうやらこの黒焦げの奴らの仲間らしい。
ウォークはロングソードをすらりと抜き、外に向かって構える。シェルも短剣を持って身構えた。
僕は火の魔法を唱えていた。黒焦げにされるくらいだから火の魔法に弱いだろうと思ったからだ。
しかし向こうが木々の陰に隠れているので何匹いるのか分からない。
「20はいるか」
ウォークが言う。
しかし、囲まれていて更に下が草ならよほど注意して火の魔法を使わないとここら辺一帯が火事になる。
「来る!!」
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