赤色の伝説

DREAM MAKER

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旅立ち

7。

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「火よ!」

僕が叫んだとき、僕達の足元から一筋の光が屈折しながら一瞬にして魔法陣を描き、その光が魔法陣の外側の円を描き終えた途端、円の隅から黄金と呼ばれる程のまぶしい炎で覆われた火炎竜、サラマンダーが出現し、飛び越えようと飛び上がった獣達をすごい速さで一匹残らず飲み込んだ。
サラマンダーは円状に飛び回り、円上にいたすべての獣を燃やし尽くすとまた円の隅に消えた。
ウォークは円の一歩手前で硬直していた。
「・・・・・・・・・・・・。」
僕は目を見開き、呆然と立ち尽くしていた。
「あー、あぶなかったー」
片手で胸のあたりを押さえながらウォークが僕達の方に戻ってきた。彼にとっては心臓に悪い事だったろう。
「いやー、すごかったなー。俺の目の前であの竜が飛び回っていくんだから」
彼はそれこそ目前であのサラマンダーを見てしまったのだ。さぞかし迫力があっただろう。
「ロムルすごいわね」
シェルもいまだ夢を見ていたような顔をしている。
そりゃそうだ。
「いいや、あれ僕のやった魔法じゃない」
きっとラクナスのだ。
この魔法陣はきっとラクナスが作った。何故かは知らないけど多分ラクナスは魔法陣を知っていてここに描いた。だからラクナスは力を使い果たし、今も体力を回復させる為に寝ているんだろう。
この魔法陣はラクナスの何らかの一声ですべてが作動するようになっていたんだろう。そのラクナスの一声の波長と僕のあの一声の波長が偶然にもぴったり合ってしまい、更にまだ魔法陣が残っていたからサラマンダーを仕えたんだろう。
ラクナスは赤竜、つまり火の属性だと思う。だから簡単にサラマンダーを呼び寄せられる。
しかしまだ子供なので体力が追い付かなかった。多分そうだ。

火炎竜、サラマンダー。
発する火があまりにもまぶしく、全てをその火で浄化する金色の火炎竜。
魔法の中でも難しい「召喚」。
その召喚の中でも呼び出すのが困難な召喚獣だ。なんせ呼びかけになかなか応じてくれず、無理やり呼び出すとなるとそれなりの難しい魔法陣を描かなくてはならないのだ。
まあ、サラマンダーに気に入られた者は簡単な魔法陣で呼び出せるが。
とにかく気まぐれなのだ。
しかしながら契約を結んだ者のところには必ず出てくる律儀な奴でもある。
だが召喚獣を呼び出すのは楽じゃない。
召喚獣を魔法陣で呼び出すと、サラマンダーの場合、一国が焼け野原になるといわれている。
だから魔法使いは魔法陣で召喚した召喚獣の力を調節するため体力を使う。
この「召喚獣を呼び出す魔法陣」」は、召喚獣を呼び出し、力を調節して初めて魔法陣が出来上がる。
その後は簡単で、下手をすれば戦士などでも使える。
要は魔法使いがその魔法陣を発動させる条件を作ることが出来るため、例えばとある一言で魔法陣が発動するように調節しておけばさっきの僕のようになる。
一度使われた召喚獣は魔法陣の契約によりその場に留まっているし、魔法陣を作った魔法使いが力の調整もしているので体力も使わない。
その魔法陣を解除しない限り、何度でも呼び出せるのである。
しかしこれは下手に使わない方が良い。
今回は獣の死体や臭いで分からなかったが、魔法使い達は大体召喚獣の気配でどこに魔法陣があるのかは把握できる。が、契約内容が全く分からない。
つまりどこが安全か分からないのだ。
更に召喚獣がどこで暴れるか分からない。力の調整具合では円外に召喚獣が出ることも可能だ。だからうかつに使うと自分や味方まで死ぬ。
だから他人のは内容を教えられない限り、解除しておいた方が良い。

「じゃあロムル、誰がやったんだ?」
ラクナス、って言ってもウォークは信じないだろうなあー・・・。きっとシェルも。
魔法陣はいちいち書かなきゃいけないわけではない。力のある魔法使いなどは円さえ描いて呪文を唱えれば魔法陣から発せられる光が円内に魔法陣を描いていき、召喚できるらしい。これはあまり知られていない。
ラクナスは火の属性だからこれと似たようなことをやってサラマンダーを召喚したのだろう。
ちなみに召喚したあとの魔法陣は跡形もなく消えてしまう。これは召喚特有のもの。他は違う。例えば強力魔法を使うとき、闇から呼び出すとき、砂漠などで風が吹いたら全部の効果が消える。
そういう時に召喚魔法は役に立つ。光で魔法陣を描くから。
「きっとラクナス。ほら、ここの場所、この獣達の縄張りなんだよきっと。でも僕達はここを通らなきゃいけない。だから先に行って倒した。だけどまた来るといけないから僕達の為にこうやって仕掛けしといてくれたんだよ」
「やっぱ魔法か?でもこんな凄いの見たことないぞ?何の魔法だ?」
「そうね。私も見たことないわ」
「説明するの?ややこしくなるけど」
「じゃあいい。俺は魔法についてはあまり良く分からないからな」
「私も。それよりも先に進みましょう」
「うん。でもちょっと待って」
僕は一応この魔法陣を消していくことにした。
円の中央であろう処に手を当てて、呟く。
「解除(キャンセレーション)」
円状に光る柱が立ち、消えた。
「なんだか楽しいな、魔法って」
楽しくないって。精神的に疲れるんだから。

解除魔法は何よりも最初に覚えさせられた。
魔法陣は魔法を覚えていなくても波長が合えば発動してしまうことから危険だということからだったけど。
この魔法陣はこれで解除されたと思う。
「あ、皆見て、先もやっぱり開けているわ」
シェルの呼ぶ声に振り向く。どうやらここら辺一帯は同じような広場が続くらしい。


今はまだ森の中にいる。
出口が見つからないからだ。
僕は草を円形に小さくむしり取ってその中で火を焚いた。
「いやー。ここ、いい獲物全然いねーなー」
ウォークが木々の間から獣を2、3匹捕らえて帰ってきた。
「それだけいれば充分だよ。ごくろうさま」
ウォークがたき火の傍に座り込み、獣を慣れた手つきで次々とさばいていく。シェルがそれを木の枝に刺して火にくべる。
その匂いにつられたのか、今まで寝ていたラクナスがぱっちりと眼を覚まし、僕の腕から身体を乗り出して鼻をひくひくさせている。
「なあ、ロムル。この不要物、どうにかなんないか?このせいで仲間が来ても困るし」
そんなウォークの声に応えるようにラクナスが不要物の方へとくるりと振り向き、そっと淡い色のブレスをはく。
するとその不要物は砂に変わり、さらさらと崩れ落ちていった。
「うわー、すごいなこの竜!子供のクセにやるな!」
ウォークが感嘆の声を上げた。ここでの不要物とは調理方法が少しややこしい臓物等のことだ。こういうものは町に行けば結構良い値で売れるが、このままにしておくとその臭いのせいで仲間が寄ってきてしまうので消したのだ。
焼けた肉に嬉しそうにかぶりつくラクナスを見ながら僕は特製のスープを飲んでいた。
その時自分の荷物整理をしていたウォークが思い出したように、
「あ、ロムル。あとでちょっと用があるんだが・・・いいか?」
「?」


食事の後、僕とウォークはたき火の火が見える木の陰に入った。
シェルはラクナスの食事風景を楽しそうに見ている。
ウォークが自分の革袋から一冊の本を取り出す。古ぼけていて、かなり使い込まれていた。
「俺とあいつがいなくなった今、戦士隊の奴らは俺らの部屋を整理すると思って・・・。俺とラクナスは2人で一部屋だった。俺は特にこれといった持ち物はなかったが、ラクナスはこれがあって・・・。ラクナスはどんな時でもこれを描く事を止めなかった。疲れていても。だからきっと大事なものなんだろうと思って、お前に渡そうと・・・・。でも俺には読めなかった。一体何が書いてあるのか・・・」
僕はそれを受け取ってぱらぱらめくった。
後ろの方はまだ白紙だった。
僕は最初の方を少しだけ読んだ。そして目を見張った。
「どうした?何か分かったのか?」
ウォークが身を乗り出して聞いてくる。
僕は構わず次のページ、その次のページへ目をやる。
火、水、風、地、雷、光、闇・・・
「すごい」
「え?」
全て召喚魔法だった。ウォークが読んでも分からなかったのは仕方がない。魔法知識のないものは読めない、呪文用に使われる文字だ。
召喚獣・・・僕達の世界の他にもう一つ僕達と似たような世界があり、そこに住んでいる獣。ただし威力に差がありすぎるので、こちらで力の制御をしないと、そのままの力では平気で国一つ滅ぼしてしまうらしい。
魔法使いはその召喚獣の世界とこの僕達のいる世界とを魔法陣で繋ぎ、呪文によって契約し、魔法陣によってその偉大なる召喚獣を呼び出す。
何回も呼び出すうちに、それがいつしか主従関係になることもまれにある。水の召喚獣、ウェンディーネなどがなりやすい。彼女は呼び出すものの一人ひとりに対して、とても律儀で忠実だ。
その反対でなりにくいのが、火や雷だ。前も話したようにサラマンダーはよっぽどのことがない限り主従関係をもたない。が、サラマンダーに気に入られたらウェンディーネとは違い、呪文が必要なくなる。魔法陣もいらない。
呼びかけ一つで出てきてくれる。力の制御も思いのまま。
雷の方はそういう主従関係は皆無である。雷の召喚獣、ライディーンは人があまり好きではないからだ。

兄さんの字だ。

久しぶりに見るこの丁寧な字。ページをめくっていくにつれて視界がぼやけてくる。
やがてその用紙の上に透明な液体が落ちる。
それにつられるように、液体が次々と僕のほほを伝わり流れていく。
胸がつまって呼吸が出来なくなりそうになる。

「ロムル・・・」

泣いていた。
涙が流れてるように、兄さんとの懐かしい思い出が次々と頭をよぎっていく。
僕は本を閉じた。でもウォークを見れず、ただ本の背表紙を眺めていた。
ウォークがそんな僕の頭を撫でてくれた。
「ロムル、ラクナスはきっと無事だ。だから元気だせ。な?」
僕は本を抱きしめた。


耳には薪の燃える音、そして空には満点の星がきれいに輝いて、白い煙を吸い込んでいった。
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