赤色の伝説

DREAM MAKER

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旅立ち

8。

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森を抜けるとそこは砂漠だった。
僕としては早く抜けたかったが、どう考えても無理らしかった。
今現在、半日は歩いていると思っていたが、見渡す限り地平線以外何も見えなかった。
僕はこの間シェルがくれたターバンをつけて歩いていたが、汗が拭いても拭いても流れてきて、もう結構痩せたんじゃないか、などど思っていた。

もうほとんど日が傾いていた。
その前に自分の方が限界だと思った。足が思ったように上がらず、足を踏み入れるところがてんでばらばらで、しかもいつもより結構深く入っているんじゃないかと思う程、足が砂にのめり込み、それを出すのに一苦労。他の皆も似たようなもんだったが、シェルはあまり疲れたように見えなかった。
「ちょっとストップ。もう日が沈むし、今日はここら辺で・・・」
僕がそこまで言うと、それが合図のようにシェルとウォークがその場にへたり込む。
「あー疲れたー」
「そうですねー。もう足がガクガクしてしまって上手く歩けなくて」
なんだ。皆似たようなもんか。
「それはいいんだけどウォーク、寒くない?ほら、砂漠は昼と夜の温度差が激しいって言うから・・・」
僕やシェルがマントで身を守れるのに対して、ウォークはマントなしの簡単な肩当てと胸当て、その下に淡い青のチュニックをまとっているだけだった。
「別に。いや、俺もそれは聞いた事あるが、今はまだ昼に砂が太陽の熱を吸収したから地面が結構あったかいだろうし」
「そんなに長く持たないと思うよ」
僕が念を押して言うと、ウォークは、ふむ、と肩をすくめて見せ、
「じゃ砂にでも埋まるか」
と冗談交えて砂を掘る。とそのウォークの手に何かカツンと当たった。
その物に気付いたウォークは更に掘り続けた。
しばらくするとそこから少々ひび割れている石板みたいな石の塊が掘り出された。それには字が書かれていた。
「これ、なんて書いてあるか分かるか?」
「さあ」
見たことない文字だ。
「どうしたの?」
さっきまで地平線に沈む夕日を見ていたシェルがこちらを覗く。
「シェル、これ読める?」
僕はシェルに石板を渡した。シェルはその上についていた少しの砂を払いながらその文字を解読していた。
石板を読み終えた後、方向を確かめるように辺りを一望した。そしてその後僕達に、
「ちょっと道を逸れていってほしいところがあるんだけど・・・・いい?」
「いいけど・・・どうして?」
どうせ早めに行ってもどうにかなるものでもないし。この旅は。
「この先に幸せを呼ぶと言われている白(ホワイト)竜(ドラゴン)を祀っている、砂漠の都市カンガラがあるみたいなの。そしてそこに私が探していた最後の遺跡があるの」
そうだ。
シェルは古代遺跡を荒らす有名な大盗賊シェラ・フィータ。しかし彼女は何の目的でそんなことするのか未だ分からない。
「シェルはそんな事をして何が目的なんだ?」
ウォークが、僕が彼女に聞きそびれていた疑問をあっさりと言い放った。
「私が本懐を遂げたら、その時は全てを話すわ」
シェルが寂しそうに言った。その表情が何を意味しているのか、僕には分からなかった。
「それより気を付けた方が良いわ。砂漠には男を惑わす、ラミアをいう女魔物が出るの」
シェルがそう言い終ったとき、シェルと僕はウォークの方をじっと見ていた。
「な、なんだよ。俺?俺は平気だよ。大丈夫だって」
「そういう魔物は大抵人の欲情精神に反応してくるのよ。気を付けて」
シェルが念を押す。
「平気だよ。・・・・・多分」
シェルに押されで少し不安になるウォーク。その多分が不安なんだよ。
「ロムルも気を付けて」
「はい」
僕も信用されてないや。


夕陽は早々とこの地を去ってしまってこの地にはたき火の温かさだけが命の火をつなげた。
ウォークの言っていた温かい地面は夜が深くなるにつれて冷たい砂と化した。
このたき火は魔法のものなので、地面から数センチ離れている。滅多なことでは消えない。
僕は凍らせたスープの実をコップに入れ、火にくべて温め、ウォークに渡した。
「ありがとうな」
夜もまだ少ししか経っていないというのにウォークは震えていた。このままでは魔物に会う前に寒さでやられてしまうんじゃないかと思う程だった。
何とかしようと僕は自分の荷物を改め直す。
特にウォークを温めてあげれるものはなかった気が・・・。
「ん?」
袋の底を占めているあるものに気が付いた。
こんなもの入れたっけな・・・。なんだろう?
僕が袋からずるずると引きずりだす。かなりの大きさだ。それは四つに折り込まれていた。
全部取り出したとき、僕は何も言えなかった。
「ウォーク・・・」
「ん?」
「これ・・・使って・・・」
馬鹿でっかい毛布。母親のせいだ。袋の底にあったから袋の一部だとばかり思っていた。さすが母親。やることが大胆というか何というか・・・。
僕の最初の目的はラウルから森一つ越えた街までの往復。ふつうの人なら半日で行ける距離だ。それなのに母親は、それを知った上で一か月分の食料やら毛布やら・・・そんなに自分の息子の方向感覚が頼りないのか!?
僕は恥ずかしいやら情けないやらで、ウォークの顔をまともに見れなかった。
「用意がいいな。いいのか?俺がこれ使っちゃって」
少し申し訳なさそうなウォークの声が下を向いている僕の頭に降ってくる。
「いいよ。僕別に寒くないし。シェルは?」
シェルはにっこり笑って。
「平気よ。ウォーク、お言葉に甘えて使ったら?」
「ああ。じゃあ、ありがとな、ロムル」
僕の頭をウォークがぽんぽんと軽く叩く。
僕はこれが好きだった。
兄さんにも同じことを良くされていたっけ。
ウォークはマントをかけるように、ばさりと自分の背中に毛布をかけた。


夜はどんどん深くなる中、月だけはその闇を受け付けず、怪しく光っていた。
既にシェルは火の近くに横たわって寝ていた。
僕はやはり寒いからと言ってウォークの毛布に入れてもらい、一緒に寝ていた。
ラクナスは僕とウォークの間で丸くうずくまって寝ていた。

「ロムル」
不意にウォークが僕の名を呼ぶ。その声で僕は目が覚めた。
「なに?」
ラクナスを挟んで、ウォークの顔を覗き込む。
「なんか、足音が聞こえないか?ほら・・・」
僕は横になったまま、じっと周りに耳を傾ける。

さく・・・さく・・・さく。

確かに。
誰かが近づいてくる。
僕がウォークに向かってそっと頷くと、ウォークは身を起こし、ロングソードを鞘から抜いて身構える。僕も身を起こし、音がする方へ眼を向ける。月明りがうっすらとこちらにやってくる黒きものを映し出す。
余りにも遠すぎて良くは見えなかったが、人の様に見えた。それはゆっくり、ゆっくり僕達の方へ近づいてくる。

さく・・さく・・さく・・さく・・さく・・・。

僕は怖くなって身震いした。
それを感じたのか、ウォークは僕に毛布を投げかけた。
「もし怖いんだったら、それ、頭から被っとけ」
ウォークはそう言いながらも、来る人影に神経を集中させていた。
毛布が当たった途端、ラクナスの背中にも当たってしまい、ぴっ、と鳴きながら弾けるように起き上がった。
「ごめん。ラクナス」
僕は毛布を頭から被った後、ラクナスを抱え、ゆっくりと撫でてやった。そのうちにラクナスはまたうとろんで、僕の腕の中で眠ってしまった。

―そんなに怯えないで。剣を収めて―

そんな優しい女性の声が僕の耳に聞こえた。
僕ははっとして視線をラクナスからウォークに向けた。
「ウォーク!!」
ウォークの眼はうつろだった。そしてウォークの前には黒髪の綺麗な女がいつの間にか立っていて、ウォークを見つめていた。
ウォークの肩から力が抜け、ロングソードがその手から滑り落ちる。

―そう、それでいいの。さあ、私の眼を見つめて―

ウォークは彼女の瞳から眼が離せなくなっていた。

―そして私を抱いて―

言われるままに、ウォークは彼女を抱きしめていた。
「ウォーク!!」
僕は叫べたが、足が、金縛りにあったように動かすことが出来なくなっていた。
あれがラミア・・・。砂上で人の精気を喰らいつくす魔物。
ウォークとラミア。2人は絵になるような光景を描いていた。
ウォークはゆっくりとラミアに口付ける。
ラミアは勝ち誇ったように笑い、ウォークの首に腕を回していた。
「ウォーク!!」
叫んでもまるで壁があるかのように二人には届いていないようだった。
シェルも全く目を覚まさない。きっとラミアに魔法をかけられたのだろう。
そうこう考えているうちに、ウォークはラミアを押し倒していた。
ウォークはラミアを見つめ、そして彼女の首のあたりに顔をうずめた。
ラミアはうとろんで、嬉しそうにウォークの頭を抱きしめる。
「ウォーク!!!」

どうしても気づいて欲しかった。彼女がラミアだということを。
僕は無我夢中で手にあるものをウォークめがけて投げつけていた。

―ああ。きれいなあなた―

ラミアの声がまた聞こえた時、ウォークの眼が正気に返った。
「違う。きれいなのは・・・」
そこまで言いかけた時、僕の投げたものが急に頭を上げたウォークにぶつかった。
ごんっ
「うわーっ!!ラクナスー!!」
僕は慌てた。今まで気づかなかったが、投げたのはラクナスだった。
ラクナスはウォークに当たって目をちかちかさせてふらついていたが、やがて眼を回して気絶した。
「いってーーーー」
ウォークが頭をさすって起き上がる。そして辺りを見回し、状況を把握した。
ウォークが再びロングソードを構え、剣先をラミアに突き付けた。
「形勢逆転だ」

―おのれえええええええええええええええええええええええええええええ―

怒り狂った女の声が頭の中で響いた。気が狂いそうな声だ。
そんな中で僕は必死にラミアの弱点を探っていた。
ラミアは昼間は出現しない。それは夜は闇の力が強いから。でも普通の人の感覚でいくと―?

「ウォーク!」
僕は頭を押さえながら、ウォークを呼んだ。
「なんだ?」
ウォークもやはり片手で頭を押さえている。
「ラミアは何で夜しか出てこないと思う!?」
もはや叫ばなければ会話できない程、女の声は頭中に響いていた。
「暑いのが嫌なんじゃないか!?」

そこだ!

僕は足が自由に動けるのを確認すると、ウォークの方までラクナスを拾いに行き、そしてウォークの背後で呪文を唱えた。ウォークは目を閉じ、精神を集中させている。
ラミアは立ち上がり、叫び続けていた。
「火よ!!」
僕の手から火が蛇のようにうごめき、ウォークのすぐ傍を通ってラミアに喰いかかる。
「うおっ!!」
びっくりしたウォークは思わずよける。
火から。火に包まれたラミアから。

―ギャアアアアア!!!!―

ラミアは悲鳴を上げながら顔を押さえ、うずくまる。さっきの声はもう聞こえなくなり、やっと落ち着いた。

―よくも・・・よくも私の美しい顔を!―

ラミアが睨み付けた途端、火は弾け飛び僕らは思わず硬直した。眼はえぐられたように闇が広がり、口は耳のあたりまで裂けていた。

―殺してやるっ!!―

ラミアが口をあけ、ウォークに喰らいついてくる。
しかしウォークはそれを軽くかわすと、横から思いっきり斬りつけた。
僕は再び火の魔法をラミアにぶつけた。
ラミアは断末魔の叫びを残し、砂のように風の中に溶け込んで消えた。

僕は緊張が一気にほぐれ、そこにへたり込んでしまった。
ウォークは笑い、
「心配かけてごめんな」
と、僕の頭を軽く叩いた。


翌朝、暑くならないうちに僕らは再び歩き出した。
が、元気なのはシェルだけで、僕とウォークは寝不足でふらふらだったし、ラクナスもまだ体が痛いらしく、ふらふらだった。
それに気づいたように先頭に立っていたシェルが、
「どうしたんですか?なんかラミアに襲われたみたい」
ぎくっ
僕達は一瞬で硬直した。
「なーんてね♪冗談ですよ、冗談。さあ、頑張っていきましょう!カンガラはもうすぐですから」
笑いながらシェルは再び前を向いて歩いて行った。
が。
僕達は―しばらく動けなかった。
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