赤色の伝説

DREAM MAKER

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砂漠の遺跡(上)

13。

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単語ルビ僕達が宿屋に帰ったのはもう月がちょうど街の真上にきてしまっている時だった。
10時頃だろうか。
僕とウォークは一緒だがシェルとは部屋が違うので廊下で別れた。
「あー・・・。疲れたー」
部屋に戻った僕はラクナスと共にふかふかの大きいベッドに倒れ込む。
少しひんやりとしていたが布団はすごく心地良く、このまま眠ってしまいそうになった。
そんな時ウォークが僕を布団からつまみあげる。
「眠るならちゃんと着替えて布団をかけてからにしろ。風邪引くぞ」
「うん」
着替えるといっても大したことではなく、宿から配給されたチュニックによく似た服、喉元まであるもので、腕の方は結構ゆったりとしていて縁の方に少々金糸で模様が織り込まれていた。貴族がよく着るブラウスにも近いものがある。ただ布地は少々厚めだ。下はズボンだが上着の裾が結構長く、大抵の人は腿のあたりまできてしまう。
夏あたりはそのままで寝ても良いが冬場は少々冷え込むので、大抵は腰のところを紐で軽く絞める。
僕が着替えている間、ウォークは部屋の片隅で何やらごそごそと荷物を整理していた。
「何しているの?ウォーク」
ウォークはまだ着替えていない。
「よし」
どうやら終わったらしい。ウォークはプレートアーマーを外した。
「何がましなの?」
着替えながらウォークは応えた。僕はすでに着替え終わっている。
「対盗難用に荷物分けといたんだ。盗まれてもいい物といけない物とをね」
「ふーん」
「本当は全部隠した方がいいかもしれないが、それだと荷物がないってかえって怪しまれるだろ」
「へー」
僕は感心した。ここまで頭が良く回るな。
ウォークは着替え終わった後荷物を確かめ、大事だと思われる方をベッドの下に隠した。
ベッドの下はそんなに幅はなかったが、荷物は充分に収まるし、その上からシーツがかけられているので気づかれにくい場所でもあった。
「ロムルもやっておけよ。ああでもロムルはそのままかくしておいても平気か。とりあえずあの袋が犠牲になるから」
ウォークがそういうので僕はそのままベッドの下に荷物を隠した。
「さて、寝るか」
ベッドは部屋に一つしかないが、かなり大きいので二人は入れる。
「あ、ロムル。お前寝相悪い?悪いんなら奥行け」
「どーして?」
「手前だと転げ落ちるだろ。奥なら壁があるから平気だし」
ベッドは部屋の一隅に寄り添って置かれている。
「ウォークは?平気なの?」
結局僕は奥の方に眠ることになり、早速ベッドの方に乗っかった。
「ああ。何度か戦場のくそ狭いところで寝てるし、それに以前ラクナスに鍛え上げられたしな」
「兄さんに?」
僕は、僕がベッドに収まった事を確認し、次に入ろうとして布団をめくり上げたウォークに尋ねる。
「ああ。あいつはひどいよ」
兄さんが?
「僕も昔は少々悪かったんだが、ラクナスがそれを直そうと二段ベッドの柵、外すんだぜ?しかも俺上だったし」
・・・・・。そりゃお気の毒に。
「ラクナス、寝るよ」
そう言うと窓の外を眺めていたラクナスはこっちの方に飛んでくる。
「あ」
「どうしたの?ウォーク」
「そーいやこいつウェルザに見られちまったなあ」
僕達は寝っ転がりながら話していた。寝っ転がると言ってもうつ伏せになって肘をついている程度だったが。
ラクナスは僕とウォークの間に丸くなってじっと僕らの話を聞いていた。
「ああ。そうか」
ラクナスはエリエラの居場所を教えるために、あの大神官ウェルザに姿をさらしてしまった。
ここは白竜(ホワイトドラゴン)を祀っているので、色の違う竜は邪神と扱われないか。
僕らが抱いた不安はこの一つだけだった。ラクナスの色は燃えるような赤い色、つまり赤竜だからだ。
「まあ、あいつの事だから他人には言わないだろう」
「そうだね」
ラクナスはいつの間にか吐息をたてて寝ていた。
ラクナスの毛の色がベッドの隣にあるサイドテーブルの上に置いてあるランプに照らされ、より一層赤々しく見えた。
「そろそろ明かり消すぞ。ラクナスが可哀想だしな」
「あ、うん」
そう言うとウォークは明かりを吹き消した。でも完全に暗くなったわけではなく、いくらかの月の明かりが窓から差し込んでいた。
僕は柔らかい枕に頭をうずめながらウォークの方に向いて尋ねた。
「ねえウォーク。ウォークの秘密って何?」
「何がだ?秘密なら色々あるぞ?」
「え?」
意外だ。てっきり魔法の事だけだと思ってたのに。
「魔法の事だよ?ほら、使えない理由」
「ああ。なんだそっちか」
「何?他にもあるの?教えて」
僕は少しわくわくした。
「いや、お前に言うのが初めてだし、ここだから言えるんだけどな・・・」
ウォークがいやに真面目な顔をして言う。さてはウェルリア(くに)に彼女がいたとか!?実は結婚しているとか!?
「戦士隊の裏庭にあった大木。あれ叩き切ったの俺なんだ」
え?
僕は一瞬呆然としてしまった。
「いやー。やばかったよ。あれ実は隊長が大事にしててさ、そのあとストルーアのところへ逃げたんだけどな」
「も、もしかして僕達と会ったのって・・・。
「その時だよ。いやー言い争いから思わず手が出ちゃって・・・」
呆れた。そんな理由で旅をするとは・・・・。
まあ、無理やりストルーアが押し付けた旅だったんだけどね。彼にとっては。
ストルーアとはウォークがいた国、ウェルリア王国の魔法隊隊長をしている人だ。かなり歳をとっていたが、優しく、色々と助言をくれた。
ちなみにウォークは戦士隊に所属していたが、事あるごとにストルーアの元へ逃げていたらしい。
「なんだ~。結婚しているとかそういうことじゃないの?」
「なんだなんだ、最近の子供(ガキ)はませてるな」
ウォークは少し困った顔をした。暗くても月明りと、目が慣れてきたせいもあって顔の表情とかは大体分かる。
「んで?結局のところどーなの?」
「何が?」
「結婚してるの?してないの?」
「してないよ。独身だ。まだまだ独り身の方が楽だって思ってる時期なんだよ」
「つまんない。ウォークっていくつ?」
「?20歳だが?」
「あ、じゃあ兄さんと同じだ」
「へー・・・」
ウォークは意外だという顔をした。
「自分より年上だと思ってた」
「そう?まあいいや。じゃあ魔法の事教えて」
そう言った途端、ウォークは白けた顔をして、
「やだ」
と言い切った。
「まだ早い。もう少し大人になったら話してやるよ」
「えーーーー?」
僕はしかめ面をした。ウォークは困った顔をした。
「今言わなくてもそんなに差支えないだろ?」
「ある。気になることがあると僕は寝れないんだ」
真面目に言ったつもりだったが・・・。
「寝る」
ウォークはそっぽを向いて寝てしまった。
僕の視界にはラクナスとウォークの広い背中しか見えなくなった。
仕方なく僕は目を閉じた。


次の日、僕らはまた聖堂へ行った。ウォークは嫌がっていたが、宿屋にいるよりはましだからと顔半分をベールで覆ってなんとか宿屋を抜けた。
どうしてここまでやるのか。その理由は・・・・。
実はウォークは朝、宿屋の一階が騒がしく、それで目が覚めたらしい。
ウォークは寝ぼけ頭で服も着替えないまま何気なく階段を下りてみた。
「親父さん、どーした?何かあったのか?」
ウォークは血の気が多い割には低血圧で多少ぼけていたが、それでも戦士歴が長い為なのか下に降りていく時には予備用に枕元に隠しておいた短剣を枕を無造作にひっくり返して持って行ったらしい。
ちなみに僕はウォークが無造作にひっくり返した枕で死にそうになったので、そのせいで目が覚めた。が、また寝た。
下に降りてきたウォークを迎えたのは女性の黄色い声だった。
どうやら昨日、闘技場にいた女の子達らしい。昨夜はなんとか追い返したらしいが、今日は早朝からこうらしい。
この女の子達のお蔭で、下の食堂は満席。そのせいで宿を取っていた人は部屋で食事をとるハメになった。

僕はこの日の朝、とんでもないもので目が覚めた。
下にいる女性なら必ず喜ぶだろうウォークの顔が間近にあった。
眠りが浅くなるとだんだん感覚が戻ってくる。なんか頬が段々痛くなってくる。
眼をしっかり開けたとき、
「やっと起きたか。ほら、朝メシ持ってきてやったぞ」
ウォークの形のいい顔が僕の顔を支配した。
「へえ、ふほーく。はんかほほいはいんはけろ」
僕は「ねえウォーク、なんか頬痛いんだけど」と言っているつもりだったがどうもうまく言えない。
「何言ってんだ、お前わ~~~」
ウォークの怒りを含んだあきれ顔が僕の顔にますます近づく。頬が更に痛くなる。
「いははははははっ!!」
僕は「いたたたたたたっ!!」と言っているのだがやっぱりうまく言えない。
その時いきなり頬から何か離れた。
ウォークの、
「おお、ごめん。痛かったか」
という一言と共に。
同時にウォークの顔も離れたが。
どうやらウォークが両頬をつねっていたらしい。どうりで痛いと思った。

ちぇっ。まだひりひりする。
これは食事の時に思った事。
その後、女の子達がいつまでたっても動かないので、仕方なくターバンとベールで顔を半分隠し、宿屋を抜けた。
シェルは昨日調べてきた資料をまとめるため、今日一日は宿屋にいると言っていたのでラクナスも頼んできた。
「あー、ウェルザに会うのか・・」
ウォークはため息交じりにそんな事を呟く。
ウォークは顔はいいのだが少々目立つところがあるのでまだターバンをしている。
顔だちはそんなに目立たないのだが髪の色が目立つのだ。
あまり見られない赤い髪。その髪の色は火より赤い紅蓮の色をしていた。
これから会いに行く大神官ウェルザもそうだった。
ウェルザはとても綺麗で、見た限りでは女性と間違えてしまう程。
綺麗な髪を腰のあたりまで伸ばしている。
その額には淡い水色の宝石が飾られていて、赤い髪と対照的なその宝石はとても良く映えていた。

「おい。着いたぞ」
ウォークの一言で我に返った。どうやら僕は考え事をしていたらしい。かなり深く考え事をしていたみたいで、自分が考え事をしている事さえも分からなくなってた。
そっと聖堂のドアの近くにあった引き具を持って二、三回引く。奥で小さな鐘の音が鳴り響く。
出てきたのは女の神官だった。近くにエリエラもいる。
その女性は
「あ・・・」
と面食らった顔をしたが、やがて笑顔に戻り、
「何か御用ですか?」
と尋ねてきた。
エリエラは僕達の方を見ると顔を赤らめて、女神官の影に隠れてしまった。
「ああ、えと、ウェルザに会いたいんだが・・・」
ウォークがそう女神官に告げる。その時背後から声がした。
「ウォーク・・・ロムル。どうしたのですか?二人とも・・・」
少々疲れを含んだ声だった。だが聞き覚えのある声でもあった。
「ウェルザ」
僕は振り返ってその人の名を呼ぶ。
意外だがウェルザはその時神官服ではなかった。
頭にはターバンを巻き、綺麗な髪は後ろで一つに束ねていた。
洋服はウォークと似たようなもので、これまた意外にもズボンを履いていた。世の中いろんな人がいるけれど、これ程ズボンの似合わない男もいないだろう。
その顔はいつもと変わらず綺麗で、穏やかな笑顔を浮かべていた。が、汗だくだった。暑いのかな?
「おお、いいところに。いや、ロムルが・・・」
そう言いかけてウォークはびっくりした。
無理もない。
ウェルザの顔が青ざめ、そしてウェルザがウォークの胸元へ吸い込まれるように倒れたのだから。
「ウェルザ!?」
ウォークは叫んで、慌ててウェルザの身体を支える。
ウェルザは息を荒くして苦しそうだった。
「ウェルザ様!!」
女神官は悲鳴を上げた。近くにいたエリエラの顔も青ざめている。
ウォークはウェルザのターバンを外す。
「う・・・・」
ウォークは少しうめき声をあげたウェルザの額に手袋を外した自分の手を置く。
「大変だ。熱がある」
とっさにその状況を判断したのか、女神官はドアを思い切り開け、
「奥へ」
と短く叫ぶ。ウォークはウェルザを抱えて中に入っていく。僕も後に続いた。
中ではエリエラが案内してくれ、そのお蔭で手早くウェルザをベッドに寝かせることが出来た。
その後すぐに女神官が氷水とタオルを持ってきてくれた。ウォークは女神官に、
「その前に汗だくだから着替えさせる。着替えを」
「はい」
そう言って頷くと、女神官は着替えを取りに行った。
エリエラはじっと心配そうにウェルザを眺めていたが、ウォークがウェルザの髪をほどいている時に、その視線に気づいたらしく。
「え・・と、エリエラちゃん、だっけ?ウェルザが着替える間、ちょっと後ろを向いていてくれないかな」
エリエラは頷いて後ろを向く。その時、
「着替えをお持ちしました」
と女神官が入ってきた。
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
「ねえウォーク」
「あ?」
僕は一応エリエラに聞こえないように小声でウォークにささやく。
「何でエリエラは後ろ向いてて女神官さんは見てていいの?」
「子供だと刺激が強すぎるからだ」
男の身体の?まさか・・・。そう思って僕は一応ウォークに聞く。
「何の?」
「見てろ」
ウォークは慣れた手つきでウェルザの服の留め金を次々と外していく。
中から現れたのは白く、しなやかな、男性の身体だった。
ウェルザは男だという事を再確認させられた感じだった。それにしても細かった。
その体は今荒々しく波打っていた。ウェルザの息遣いがまだ荒いせいだ。気が付くと女神官さんも後ろを向いている。
「これだよ」
ウォークがウェルザの胸のあたりを指さす。その身体は汗で照り輝いていた。
指さされた付近を見るとそこには細く、鋭く、そして長い一筋の傷があった。
ウェルザには似合わない傷。
「どういうこと?」
ウォークはウェルザの汗を拭きとりながら僕の質問に答えた。
「つまりこいつも世俗から逃れられなかったって事」
「?」
「だからな、つまりこいつも結局は何気ない顔で、のほほんとした生活を送ってたわけじゃないってことさ」
「・・・・・・」
「こいつも色々あったんだよ」
「・・・・・・」
人間て外見じゃ判断できない。
聖堂で神を信仰し、人々にあんなにも優しく接し、慕われるウェルザ。
そんなウェルザが暗い過去を背負っているなんて・・・。
そういえばエリエラもそうだ。あんなに幼いのに辛い過去を背負っている。
こう考えると段々、なんか周りの人は皆暗い過去を持っているように見える。
僕は幸せ者だ。
両親も故郷もあるし、ウェルザのような傷もない。ただひとつ、兄さんがいなくなった事以外は・・・。
そういえば。
ウォークの過去はどうなんだろうか?
僕は思わずまじまじとウォークの顔を覗き込む。
するとウォークは、その視線に気づいたのか、しかし勘違いしているのか、僕の頭を掴んで、
「お前も後ろ向いてろ」
と言いながら後ろにひねる。つられて僕の身体全体も後ろを向く。
僕はちらりと後ろを向いて、また前を向く。

ああそっか。今ウォーク、ウェルザ着替えさせているんだっけ。
しかし。
僕は前を向きながらウォークに言う。
「ねえウォーク」
「あー?」
ウォークは色々やっているので生返事だ。
「そーいうの慣れてるね」
「ああ。昔戦場で仲間が毒蛇に噛まれてさ。そん時俺救護班でさ、そいつの面倒ずっと見てたんだ。
「救護班!?」
「何だよその驚きは」
「え?いや」
あのウォークが救護班・・・。ちょと想像を絶してしまう。
「どうせ俺に救護班なんて似合わないとか思ってるんだろう?」
「そんなこと・・・」
思ってるケド・・・。
「いいよ別に。皆そう言ってるし」
「全員に!?」
「ああ」
「じゃ、どうしてなったの?」
「ジャンケンで負けたんだ」
それだけで・・・。無謀すぎるぞウェルリアの戦士隊。
「いやー、男しかいなかったし隊は隊で面倒見ろってことでさ」
「へ、へぇ~・・・・」
そうこう言っているうちに。
「よし終わり」
着替え終わったらしい。
その時複数の足音が近づいてきた。
「ウェルザ様!!ご無事ですかーーー!?」
ドアを叩きながらも開けようとする者達を一生懸命女神官が押さえる。
「ダ、ダメです。ウェルザ様は今安静にされないと・・・」
そう言うのも聞かず、ドアの向こうの人達はなおもドアを開けてこようとする。
開けられそうだったので、僕も加勢することにした。
だがこっちは2人。向こうは複数。しかも声を聴く限りでは男ばかりだ。
もう少しで開けられてしまう。どうしたら・・・。
と、その時。
「ロムル、どいてろ」
と低い声。
「あ、そこの女性もね」
僕らは合図をし合い、一斉にどいた。
と、その途端ドアが勢いよく開きそうになった。瞬間、
ばんっ!
ウォークが怒った顔をして蹴りで扉を押し戻す。
男達はドアの外で、
「ウェルザ様!」
と叫んでいる。
「うるさい」
ウォークは更に片足に力を込める。
「ロムル、今のうちに鍵しちゃえ」
「うん」
僕はウォークに言われた通り鍵をしめた。
「あ、こら開けなさい」
外の男の一人がドアを叩く。

「すみません・・。お騒がせして・・・しまっ・・て・・・」
「ウェルザ様、安静にしていなければ」
気付いたら後ろにウェルザが立っていた。まだ息遣いも荒いし、顔も赤い。足取りもかなりふらついている。
「私は・・・大丈・・・夫です・・・から」
と言いながらウェルザは倒れる。が、
「きゃああああっ!」
倒れた方向が悪かった。ウェルザに寄りかかられた女神官は顔を真っ赤にして叫んだ。
「うぇ、ウェルザさま」
なおも女神官は顔を真っ赤にして涙ぐんでいる。
「はいはいはい。病人はベッドに戻る」
ウォークがウェルザを軽々と抱え上げ、ベッドに戻す。

「あの・・・」
「ん?」
小さな腕が僕の袖を引っ張る。
「父さまは・・・どうなるの?」
エリエラだ。
「分かんない。でも今のままだと良くないみたい」
今、僕とエリエラと女神官さんは後ろの方でじっとウェルザを看病するウォークの方を見ていた。
「見たところ、過労から日射病にかかったみたいです。とにかく熱が下がらないと・・・」
女神官さんがそう教えてくれた。
「父さまは・・・!?父さま・・・」
そう呟くとエリエラの顔がみるみる青ざめていく。
このままだと死ぬ。
そんな事を思ったのかもしれない。
ふいにエリエラがウェルザの方へ駆け出した。
「うわっ」
ウォークがびっくりする。そして後ろを向いて口パクでなんか言いながら怒っている。
“ちゃんと見とけって言っただろ!?”
こんな感じかな?言っている事は。
「父様、父さま!」
「!」

え?

エリエラがウェルザの胸に手をのせる。
するとそこからまぶしい光が放たれ、辺りを襲った。

何分たっただろうか。気が付いたらウェルザの近くにエリエラが倒れていた。
ウェルザの方はさっきまでの息遣いが嘘のように安らかな寝息を立てている。
「何だ・・・?今の・・・」
ウォークが信じられないというような顔をしている。
彼は剣士だ。だから魔法関係に少々鈍い。
今のはウェルザの様子から察するに回復魔法だ。
エリエラが回復魔法を使ったのだろう。
回復魔法というのは白魔法の一つで、主にケガ、そして今のように体力の回復、軽い病気を治す等が出来る。
僕も一時、僕の村の聖堂で白魔法を習ったが、どうも呪文が言いにくいので今となってはあまり良く覚えていない。
回復魔法には力の使い方が二通りある。黒魔法の方は大気等から力を借りて、魔法を組み立てる。
白魔法の回復魔法系の力は、一つは自然の力、つまり木々などの精気を自分の中に吸収し、それを回復魔法に変え、相手に与える方法。
もう一つは、自分の体力の一部を回復魔法に変え、与えるやり方。これは回復魔法の分、自分の体力を相手に分け与えるので、あまりやり過ぎると気絶、または死に至ってしまうこともある。
以上の二つだが、エリエラはどっちだったんだろう。
回復魔法も大抵は近くに自然がある場合、自然の力を良く使う。この都市は砂漠の中心なのだが、案外木々が潤っている。聖堂の周りにも少ないのだが木が植えられているので、自然の力を借りようと思えばできるのだが・・・。
でも、彼女は倒れた。それはどういう意味が込められているんだろう。
ウォークはエリエラを抱きあげ、他の部屋に連れて行こうとする。
するとエリエラは呻くように、
「父様・・・父様・・・」
と繰り返していた。
「寝言か・・・」
ウォークはそう言ってエリエラを連れて行こうとする。するとエリエラが起き出して泣きながら暴れもがいた。
「いやあ!父様の傍に・・・エリエラは父様の傍にいるのっ!!」
胸が一瞬ずきんとした。
エリエラはその小さな手を一生懸命ウェルザの方へ伸ばす。ウォークはなだめるように彼女に言った。
「大丈夫。もうあいつは平気だよ」
それを聞いた途端、エリエラから安堵のため息が漏れ、涙があふれた。
「良かった・・・。父様」
安心したのか、エリエラはウォークの腕の中で崩れるように眠ってしまった。
仕方がない、とウォークはため息まじりの言葉を出しながら、エリエラをウェルザの隣に寝かせた。
エリエラは嬉しそうだった。
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