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外伝~蛍火~
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コツン、コツンと暗く長い廊下に静かな足音が大袈裟に鳴り響く。
外から差し込む月の光もおぼろげで、それがまた不気味さを増していた。
先は果てしなく続きそうな闇へ、手元に明るさを保ちながら一人の神官が歩いていた。
ウェルザだ。
手元にランプをかざし、聖堂内祈祷場所脇にある神官達の宿舎の長い廊下を昼間システィスに言われた夜回りの仕事の一環として一人、歩いていた。
規則正しく一定間隔で並べられたドアを一つ一つノックし、「失礼します」と声をかけドアノブをひねる。
大抵は鍵がかかっている。
そのたびに彼は安堵の息をつき、次の部屋のドアを叩く。
彼の友人のラクナスは2階で同じことをやっているはずだ。
何も起きそうにないな。
そう思いながら彼はドアをノックする。
「失礼します」
そう言った途端、ウェルザがドアノブに手をかける前にドアが開いた。
ウェルザは最初驚いたが、やがて呆れたようにドアを開けた主の方を見た。
「ええと、ヴァリオン、でしたか?もう消灯時間は過ぎていますよ。早く鍵をかけて休みなさい。私だったから良かったものの万が一他の大神官様だったらどうするのです?」
たしなめるように言ったその言葉にヴァリオンは表面上では反省の色を見せつつも、
「すみません。このごろ変なものを見る神官達が多いというから・・・・」
恐る恐る口にしたその言葉は。
「あの・・・、僕ウェルザ様の夜回りを手伝いたいのですが、良いですか?」
この青年はなんと自分の欲求を素直にぶつけてくるのだろう。
その点にだけ、ウェルザは内心感心しつつも、
「気持ちは大変ありがたいのですが、もう連れもいますし。それにヴァリオン、あまり余計なことに首を突っ込みすぎると大神官になんてなれませんよ」
そう言って笑いながらヴァリオンをたしなめた。ヴァリオンはとても残念そうな顔をして、
「どうしても・・・駄目ですか?」
しゅんとしてうつむきつつ、上目使いでウェルザを見つめてくる。まるで捨てられた小動物のような・・・。
しかし、そんな顔に同情せずウェルザはすまなそうな顔で、
「ええ。万が一その変なものが魔物だったりした場合、貴方を守り切る自信がありません」
しかしきっぱりと言い切った。それには動じずヴァリオンは言い返す。
「それなら大丈夫です。ちゃんとほら、短剣も持ってますし」
そう言ってヴァリオンはどこに持っていたのか、短剣をウェルザに見せた。
濃い青と金で縁取られた鞘が気品あふれていて、神官が持つには不釣り合いなものだった。
ウェルザはしばし考え込んだのち、ゆっくりとその口を開いた。
「・・・そこまで言うなら・・・いいでしょう」
「やった!」
嬉しさに思わず大声をあげてしまったヴァリオンだったが、
「しずかにしなさい。皆寝ているのですよ?」
ウェルザに言われて慌てて口元を両手で抑えた。そのあとこそりと小声でウェルザだけに聞こえるように。
「分かりました。部屋の鍵を持ってくるのでちょっと待っててください」
そう言って喜々として部屋の奥へ駈け込んでいった。
一方のラクナスは大変な思いをしていた。
ラクナスの担当をした2階は主に神官の次の位、大神官達の部屋ばかりだった。
この聖堂では大神官になると2階に部屋を持つようになる。それは威厳と高慢の表れでもある。ここの大神官達は大抵は皆金持ちの息子か、高貴な家柄の出だった。それゆえ当然プライドも高かった。
自分たちは神官達とは違う。難題を説き、多くを神官達よりも学び、試験をクリアして今この地位に立っているのだ。その違いを見せつける為の2階居住である。
ただ大神官の中でも高慢さを持たない者達もわずかだがいる。
ウェルザはその一人だ。
彼は例外中の例外で、大神官なのにも関わらず1階に部屋を持つ。
そんな大神官達が住まう2階だからこそ、自分たちより格下の神官が訪ねてきたときには決してドアを自ら開けることはしないだろう。
そう考えてウェルザはラクナスを敢えて2階に行かせたのだ。
そうウェルザから説明されて一応は納得したものの、ラクナスはここではやはり異端の存在だ。
まず彼は神官ではない。それに黒魔法使いだ。
黒魔法は人を傷つける者として、場所によっては聖堂より異端扱いされることも少なくない。ただでさえ一般の者が聖堂裏のプライベートな場所に立ち入ることを快く思っていないのは昼間のシスティスの態度で思い知った身だ。その上更にこんな見回りを、しかも大神官達の部屋を回っていると知られたら一体どうなるのか。
ドアをノックするたびに命を縮める思いをしながらも見回りを続けていた彼の耳にコツコツという足音が聞こえた。それは自分の進行方向から聞こえる、こちらに向かってくる足音。
ラクナスは最初ウェルザかと思ったが、用心の為ランプの光を消し、壁にその身を寄せすっと闇に己を溶け込ませた。
やがて歩いてきたのはウェルザではなかった。
ランプも持たずに歩いてきたその姿は窓から差し込む月明りによって淡く映し出された。
ラクナスはその姿を捉え、思考を巡らせる。
―確かシスティスと言ったか―
昼間の出来事を思い出し、ラクナスはより慎重にその身を闇に寄せる。
システィスはそんなラクナスがいる2、3歩手前で立ち止まり辺りをきょろきょろ見回した。
「確かこの辺りで明かりを見た気がしたのだが・・・・気のせいか・・・」
そう言ってくるりと方向を変え、元来た道を歩き出したシスティスにほっと安堵のため息をもらした。
次の瞬間。
「確かあなたは・・・「ウェルザ大神官殿の友人」でしたか」
ラクナスの全身の血の気が一気に引いた。
システィスは今も後ろを向いている。
それ以前に自分を探れなかったはず。それなのに?
ラクナスは少し逡巡したのち、ゆっくりと闇からその姿を見せた。
「ラクナス、と呼んでください」
「ラクナス殿、ですな。一応、覚えておきましょう」
「光栄ですね」
「突然だがラクナス殿。貴方の眼には何が映っているかな?」
システィスはラクナスに背を向けたまま尋ねる。
「目の前に黒いわだかまりが見えます。とても大きくね」
ラクナスがそう答えると、システィスは少し嗤った。
「そうか。私には暗闇の中にただ一点、明るい光が見える。しかも私のすぐ後ろにだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そして私は今、この場を闇ですべて統一したい。この意味が分かるかね?」
その台詞にラクナスはため息を一つつくとゆっくりと身構えた。
「戦いたくは・・・なかったんですけどね」
「私に会ったのが運の尽きだと思いたまえ」
そういうとシスティスはゆっくりと振り返った。
その顔には。
昼間に見たあの口髭や、少々老け込んだ顔はどこにもなく。
ただただ闇が広がっていた。大きく耳元まで裂けた口以外は何もなかったのだ。
「なかなか出ませんね」
とウェルザの代わりにランプをかざしながら先頭を歩くヴァリオンが言った。
「別に、その変なものはついで、ですから。私たちはあくまで夜回りを遂行出来ればいいのです」
「そんなものですか?」
「そんなものです」
そう言いながらウェルザは1階の最後のドアの戸締りを確認した。
「これで終わりですか?」
「ええ、終わりです。ヴァリオン、ご苦労様でした。帰り道ですし、貴方の部屋まで送っていきますよ」
「え?いいんですか?」
そう言いながらヴァリオンは申し訳なさそうな顔をしつつも内心ウェルザともう少しいられるという嬉しさに満ち溢れていた。
その嬉しさが表にあらわれてしまったのだろう、ウェルザがすかさず釘を刺す。
「帰り道ですからね」
念を押すがヴァリオンはにこにこしながら
「分かってます」
と応対した。
「それにしても結局出ませんでしたね、噂の変なもの」
少々残念な声でヴァリオンは先頭を歩く。
「私は見ましたよ」
そのウェルザの意外な一言にヴァリオンは思わず足を止めてウェルザを振り返る。
「え?どこで見たんです?教えてくだされば良かったのに!」
ヴァリオンが身を乗り出してウェルザに詰め寄る。
そんなヴァリオンを落ち着かせるように微笑みながら、
「ヒントは私の夜回り中です」
その答えにヴァリオンは少々拍子抜けた。
「それは当たり前じゃないですか。で、どこで見たんです?」
ウェルザは何も言わずに微笑んでいる。
「あ、もしかして僕と会う前ですか?」
そのヴァリオンの質問には答えず、ウェルザはまたゆっくりと口を開く。
「ちょっと見た感じ程度ですが、どうやら相手は霊の類のようです」
ヴァリオンはへー、と感心しながら。
「どうして分かったんですか?」
と尋ねる。
「だって透明感があって、白くて、空中に浮いているものって言ったらそういうのが定石でしょう?」
その答えにヴァリオンは呆れた。
尊敬するウェルザの答えとしてはあまりにも根拠のない幼稚なものだったからだ。
そんなヴァリオンの反応にくすくす笑いながらウェルザが言った。
「冗談ですよ。なんとなくそう思ったから言ってみただけです」
「あ、ひどいなあもう」
「すみません。ですが変なものを見たのは確かです。その霊の類は、どうやら人に憑りつく能力があるようです」
「憑りつく?」
「ええ。人の体と精神を乗っ取り、その人を自分の意志通りに操ってしまう」
「それは・・・・怖いですね・・・。で、その霊は今どこに?」
「ある人に憑りついていますよ」
「え?」
ヴァリオンは驚いてウェルザを見つめた。
「まさか・・・」
ウェルザは何も言わなかった。
ヴァリオンから全身の血の気が引いた。
まさか。
ランプを持つ手が震える。その震えに応じてか、ランプの光が弱くなる。
しかし、付近はまだ窓から差し込む月明りのおかげで明るい。
その元で見るウェルザの笑みは、淡い月明りに照らされていつも白い肌がより白く、それに反して唇は赤く映え、その笑みはより妖艶さを増しているように見えた。
その時、月の明かりに照らされて透明感を帯びていたウェルザの髪がいきなり暗くなった。
と同時に辺りが一気に暗闇に包まれた。
月が雲に隠れたのだ。
外から差し込む月の光もおぼろげで、それがまた不気味さを増していた。
先は果てしなく続きそうな闇へ、手元に明るさを保ちながら一人の神官が歩いていた。
ウェルザだ。
手元にランプをかざし、聖堂内祈祷場所脇にある神官達の宿舎の長い廊下を昼間システィスに言われた夜回りの仕事の一環として一人、歩いていた。
規則正しく一定間隔で並べられたドアを一つ一つノックし、「失礼します」と声をかけドアノブをひねる。
大抵は鍵がかかっている。
そのたびに彼は安堵の息をつき、次の部屋のドアを叩く。
彼の友人のラクナスは2階で同じことをやっているはずだ。
何も起きそうにないな。
そう思いながら彼はドアをノックする。
「失礼します」
そう言った途端、ウェルザがドアノブに手をかける前にドアが開いた。
ウェルザは最初驚いたが、やがて呆れたようにドアを開けた主の方を見た。
「ええと、ヴァリオン、でしたか?もう消灯時間は過ぎていますよ。早く鍵をかけて休みなさい。私だったから良かったものの万が一他の大神官様だったらどうするのです?」
たしなめるように言ったその言葉にヴァリオンは表面上では反省の色を見せつつも、
「すみません。このごろ変なものを見る神官達が多いというから・・・・」
恐る恐る口にしたその言葉は。
「あの・・・、僕ウェルザ様の夜回りを手伝いたいのですが、良いですか?」
この青年はなんと自分の欲求を素直にぶつけてくるのだろう。
その点にだけ、ウェルザは内心感心しつつも、
「気持ちは大変ありがたいのですが、もう連れもいますし。それにヴァリオン、あまり余計なことに首を突っ込みすぎると大神官になんてなれませんよ」
そう言って笑いながらヴァリオンをたしなめた。ヴァリオンはとても残念そうな顔をして、
「どうしても・・・駄目ですか?」
しゅんとしてうつむきつつ、上目使いでウェルザを見つめてくる。まるで捨てられた小動物のような・・・。
しかし、そんな顔に同情せずウェルザはすまなそうな顔で、
「ええ。万が一その変なものが魔物だったりした場合、貴方を守り切る自信がありません」
しかしきっぱりと言い切った。それには動じずヴァリオンは言い返す。
「それなら大丈夫です。ちゃんとほら、短剣も持ってますし」
そう言ってヴァリオンはどこに持っていたのか、短剣をウェルザに見せた。
濃い青と金で縁取られた鞘が気品あふれていて、神官が持つには不釣り合いなものだった。
ウェルザはしばし考え込んだのち、ゆっくりとその口を開いた。
「・・・そこまで言うなら・・・いいでしょう」
「やった!」
嬉しさに思わず大声をあげてしまったヴァリオンだったが、
「しずかにしなさい。皆寝ているのですよ?」
ウェルザに言われて慌てて口元を両手で抑えた。そのあとこそりと小声でウェルザだけに聞こえるように。
「分かりました。部屋の鍵を持ってくるのでちょっと待っててください」
そう言って喜々として部屋の奥へ駈け込んでいった。
一方のラクナスは大変な思いをしていた。
ラクナスの担当をした2階は主に神官の次の位、大神官達の部屋ばかりだった。
この聖堂では大神官になると2階に部屋を持つようになる。それは威厳と高慢の表れでもある。ここの大神官達は大抵は皆金持ちの息子か、高貴な家柄の出だった。それゆえ当然プライドも高かった。
自分たちは神官達とは違う。難題を説き、多くを神官達よりも学び、試験をクリアして今この地位に立っているのだ。その違いを見せつける為の2階居住である。
ただ大神官の中でも高慢さを持たない者達もわずかだがいる。
ウェルザはその一人だ。
彼は例外中の例外で、大神官なのにも関わらず1階に部屋を持つ。
そんな大神官達が住まう2階だからこそ、自分たちより格下の神官が訪ねてきたときには決してドアを自ら開けることはしないだろう。
そう考えてウェルザはラクナスを敢えて2階に行かせたのだ。
そうウェルザから説明されて一応は納得したものの、ラクナスはここではやはり異端の存在だ。
まず彼は神官ではない。それに黒魔法使いだ。
黒魔法は人を傷つける者として、場所によっては聖堂より異端扱いされることも少なくない。ただでさえ一般の者が聖堂裏のプライベートな場所に立ち入ることを快く思っていないのは昼間のシスティスの態度で思い知った身だ。その上更にこんな見回りを、しかも大神官達の部屋を回っていると知られたら一体どうなるのか。
ドアをノックするたびに命を縮める思いをしながらも見回りを続けていた彼の耳にコツコツという足音が聞こえた。それは自分の進行方向から聞こえる、こちらに向かってくる足音。
ラクナスは最初ウェルザかと思ったが、用心の為ランプの光を消し、壁にその身を寄せすっと闇に己を溶け込ませた。
やがて歩いてきたのはウェルザではなかった。
ランプも持たずに歩いてきたその姿は窓から差し込む月明りによって淡く映し出された。
ラクナスはその姿を捉え、思考を巡らせる。
―確かシスティスと言ったか―
昼間の出来事を思い出し、ラクナスはより慎重にその身を闇に寄せる。
システィスはそんなラクナスがいる2、3歩手前で立ち止まり辺りをきょろきょろ見回した。
「確かこの辺りで明かりを見た気がしたのだが・・・・気のせいか・・・」
そう言ってくるりと方向を変え、元来た道を歩き出したシスティスにほっと安堵のため息をもらした。
次の瞬間。
「確かあなたは・・・「ウェルザ大神官殿の友人」でしたか」
ラクナスの全身の血の気が一気に引いた。
システィスは今も後ろを向いている。
それ以前に自分を探れなかったはず。それなのに?
ラクナスは少し逡巡したのち、ゆっくりと闇からその姿を見せた。
「ラクナス、と呼んでください」
「ラクナス殿、ですな。一応、覚えておきましょう」
「光栄ですね」
「突然だがラクナス殿。貴方の眼には何が映っているかな?」
システィスはラクナスに背を向けたまま尋ねる。
「目の前に黒いわだかまりが見えます。とても大きくね」
ラクナスがそう答えると、システィスは少し嗤った。
「そうか。私には暗闇の中にただ一点、明るい光が見える。しかも私のすぐ後ろにだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そして私は今、この場を闇ですべて統一したい。この意味が分かるかね?」
その台詞にラクナスはため息を一つつくとゆっくりと身構えた。
「戦いたくは・・・なかったんですけどね」
「私に会ったのが運の尽きだと思いたまえ」
そういうとシスティスはゆっくりと振り返った。
その顔には。
昼間に見たあの口髭や、少々老け込んだ顔はどこにもなく。
ただただ闇が広がっていた。大きく耳元まで裂けた口以外は何もなかったのだ。
「なかなか出ませんね」
とウェルザの代わりにランプをかざしながら先頭を歩くヴァリオンが言った。
「別に、その変なものはついで、ですから。私たちはあくまで夜回りを遂行出来ればいいのです」
「そんなものですか?」
「そんなものです」
そう言いながらウェルザは1階の最後のドアの戸締りを確認した。
「これで終わりですか?」
「ええ、終わりです。ヴァリオン、ご苦労様でした。帰り道ですし、貴方の部屋まで送っていきますよ」
「え?いいんですか?」
そう言いながらヴァリオンは申し訳なさそうな顔をしつつも内心ウェルザともう少しいられるという嬉しさに満ち溢れていた。
その嬉しさが表にあらわれてしまったのだろう、ウェルザがすかさず釘を刺す。
「帰り道ですからね」
念を押すがヴァリオンはにこにこしながら
「分かってます」
と応対した。
「それにしても結局出ませんでしたね、噂の変なもの」
少々残念な声でヴァリオンは先頭を歩く。
「私は見ましたよ」
そのウェルザの意外な一言にヴァリオンは思わず足を止めてウェルザを振り返る。
「え?どこで見たんです?教えてくだされば良かったのに!」
ヴァリオンが身を乗り出してウェルザに詰め寄る。
そんなヴァリオンを落ち着かせるように微笑みながら、
「ヒントは私の夜回り中です」
その答えにヴァリオンは少々拍子抜けた。
「それは当たり前じゃないですか。で、どこで見たんです?」
ウェルザは何も言わずに微笑んでいる。
「あ、もしかして僕と会う前ですか?」
そのヴァリオンの質問には答えず、ウェルザはまたゆっくりと口を開く。
「ちょっと見た感じ程度ですが、どうやら相手は霊の類のようです」
ヴァリオンはへー、と感心しながら。
「どうして分かったんですか?」
と尋ねる。
「だって透明感があって、白くて、空中に浮いているものって言ったらそういうのが定石でしょう?」
その答えにヴァリオンは呆れた。
尊敬するウェルザの答えとしてはあまりにも根拠のない幼稚なものだったからだ。
そんなヴァリオンの反応にくすくす笑いながらウェルザが言った。
「冗談ですよ。なんとなくそう思ったから言ってみただけです」
「あ、ひどいなあもう」
「すみません。ですが変なものを見たのは確かです。その霊の類は、どうやら人に憑りつく能力があるようです」
「憑りつく?」
「ええ。人の体と精神を乗っ取り、その人を自分の意志通りに操ってしまう」
「それは・・・・怖いですね・・・。で、その霊は今どこに?」
「ある人に憑りついていますよ」
「え?」
ヴァリオンは驚いてウェルザを見つめた。
「まさか・・・」
ウェルザは何も言わなかった。
ヴァリオンから全身の血の気が引いた。
まさか。
ランプを持つ手が震える。その震えに応じてか、ランプの光が弱くなる。
しかし、付近はまだ窓から差し込む月明りのおかげで明るい。
その元で見るウェルザの笑みは、淡い月明りに照らされていつも白い肌がより白く、それに反して唇は赤く映え、その笑みはより妖艶さを増しているように見えた。
その時、月の明かりに照らされて透明感を帯びていたウェルザの髪がいきなり暗くなった。
と同時に辺りが一気に暗闇に包まれた。
月が雲に隠れたのだ。
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