赤色の伝説

DREAM MAKER

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外伝~蛍火~

3。

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ただ闇が広がっていた。
すべてを吸い込んでしまいそうな闇が。

ラクナスが振り返った時、そこに立っていた大神官システィスの顔がなかった。ただ闇が顔の部分を支配している中、下部に白い切り口のようなものがあった。
それが動いたとき、言葉が発せられた。
「武器も何も持たずに私を倒せるのかが見ものですな」
その白いものは口だった。赤みのない、内部はただただ白、だった。
「闇の者・・・か」
「その通り。幸いここにウェルザ殿はいられないようですね」
そういうとシスティスはにたりと嗤った。そしておもむろに両手を広げたかと思ったら、急に何かを叫んだ。
次の瞬間、ラクナスとシスティスの周りを突然の闇が襲った。
ラクナスは周りを見渡す。どこを見ても闇が広がっていて、先ほどまで見えていた窓や廊下、月明りなどは一切見当たらない。
「結界か・・・・」
「さて、どうされます?ラクナス殿」
システィスは相変わらず口だけの顔で嗤っていた。
「こないのなら、こちらからいかせていただきますよ!」
そう叫ぶとシスティスは姿勢を低くして一気にラクナスの元へと駆けだした。
それを避けながらラクナスは呪文を唱えた。彼の手の中に光の球が宿る。
「火炎!」
ラクナスが呪文を終えて叫んだとき、光の球が急にフッっと消えた。
「!?」
本来ならシスティスが炎に包まれているはずだ。なのになんで消えた??
予想を反した出来事にラクナスが驚いていると、その隙をついてシスティスが闇の剣を手の中で形成したもので背後から斬りつけてきた。
身体をくねらせ何とか避けたつもりだったが、その一閃はわずかに頬を掠めた。
頬に赤い筋ができたかと思ったらそこから血が流れてくる。
「くっ・・・」
ラクナスの余裕ない表情を満足そうに眺めたシスティスはふと思い出したように喋りだす。
「ああ、そうだ。一つ言っておきますが、周りは闇の結界。黒魔法は使えませんよ。あなたが黒魔法使いだったのは予想外でしたがそれも無駄な事。すべて周りに吸収されます。しかし闇も扱えるようになると楽しいものですよ。例えば私が今持っているこの剣。これは闇から作り出した、本来なら実態がないもの。ですが、ちゃんと切れますよね?」
確かに。
ラクナスはシスティスを警戒しながらも、先ほど傷つけられた頬の部分をそっとなぞる。
さっきから多少痛かった痛みが更に増したような気がした。
システィスはそれを見てクスクス笑いながら、
「早く手当てをした方が良いですよ。そうですね、ウェルザ殿辺りに。闇の剣でつけられた傷は「膿むのが早い」ですから」
それを聞いて、ラクナスは先ほどの感覚が気のせいではないことを確信した。
「この程度の傷も治させてくれないのか」
「ええ。闇も性質が悪いものでね」
そうか、と左頬に左手を当てながらも右手は腰に帯びていた護身用の短剣を掴んでいた。
抜くと同時に呪文を解き放つ。
「明かりは闇を見い出せ。炎よ、闇を焼き尽くせ!!」
抜いた短剣は青白く光り、ラクナスはそれに文字を書くように手早く左手を滑らせる。
「魔法剣、“火炎”!!」
言葉と同時に溢れんばかりの炎が短剣を覆い尽くす。
その剣でシスティスを思い切り斬りつける。
確かに手ごたえはあった。
そして彼はラクナスの予想通り燃えた。
だが。
全身炎に包まれている彼の口は笑みをたたえ、不気味に嗤っていた。
「私は忠告したはずですよ。黒魔法は効かないと。更に闇は「無」です。当然物理的攻撃など効きませんよ」
その言葉が終わるや否や炎は瞬く間に消滅し、残ったのは肩から胸の辺りまでが大きく切り裂かれているシスティスの姿。肩は今にも落ちそうなくらい裂けてはいた。だが血は出ていない。
「確かに私は傷つきました。でもね・・・」
そう言うとシスティスは無傷な方の右腕の手でそっと傷口を撫でた。
すると驚いたことにぱっくりと裂けていた傷が跡形もなく消えていた。
システィスは左腕が動くのを満足そうに眺めながら、
「まあ、こんなものです。さて、次は私の番ですかね」
そう言ってにたりと嗤うとシスティスは闇の剣を構えラクナスに躍りかかった。

ラクナスにはもうなす術がなかった。



「そろそろ・・・正体を現したらどうです?」
月明りのせいで恐ろしい程に赤く妖艶な唇から、穏やかな声で、しかし恐ろしい言葉を発した。
ヴァリオンはその気迫に押されてか、唾を飲み込む。そして恐る恐る応えた。
「それは・・・こっちの台詞ですよ。今までウェルザ様だと思っていたのに・・・」
ウェルザは少し笑って、
「私もそう思っていましたよ。けれど・・・」
そこまで言いかけた途端ウェルザの表情が一変した。
「正体がばれたらもうヴァリオンを装う必要はないんですよ!」
ウェルザがそう叫ぶと、ヴァリオンは一瞬びっくりした表情をみせていたが、やがてクスクスと笑い出した。
その行動を警戒しながらもウェルザは問いかけた。
「なぜ、ヴァリオンに憑いたのです?」
「お前には分からないさ、ウェルザ様。それよりあんたはどこで俺の存在に気づいたんだい?」
笑いながらヴァリオンの顔と声をした者が問う。だが、先ほどのヴァリオンとは表情、そしてまとう雰囲気、何もかもががらりと変わっていた。
「短剣のところです。聖堂の管理所は手厳しいんです。特に持ち物にはね。聖堂とは神を祀る場所。そこに教えを請おうとする者が短剣などという人を傷つけるような物の携帯を管理所が見逃すはずがないでしょう。ましてやあんな立派で“怪しいもの”」
へえ、とヴァリオンに乗り移った者は驚いた。
「よく分かったな、この短剣に呪いがかかっていることが。触れてもいないのに・・・」
「なんとなくでしたがね。早速ですがこれ以上ヴァリオンに負担がかからないうちに退治させてもらいます」
「負担?」
分かっていながらも敢えて笑いながら問いかけるヴァリオンの姿をした、何か。
身構えながらウェルザは答える。
「確か乗り移られた者は、その間大変な体力の消耗、そしてそれが長時間に及ぶと精神が乗っ取られて自我を消失してしまうと聞いてます」
相手はクスクス笑って。
「へえ、良く知っている。その豊富な知識とあんたの美しさに応じてこの短剣の呪いの事を話してやろうか」
「光栄ですね」
身構えながらもウェルザが微笑めば。
「惜しいな。敵同士じゃなければ嫁さんにしたかった」
「私は男です」
「なんだ。つまんねーの。ま、いいや。この呪いは剣の柄にある、ほら、今は閉じているがな、この眼にある。この眼が開いた時、この剣はどんなものでも切り刻まなければ気が済まなくなるのさ」
そしてヴァリオンに乗り移ったものはその短剣をすらりと抜いた。
と、同時に柄に描かれていた眼が、かっと見開いた。
「つまるところこの状態だ。さあて、何か言い残すことはあるか?」
「・・・名を。貴方の名を教えてください」
へ?と拍子抜けた表情でヴァリオンの顔がウェルザを見た。
「おれの名?・・・俺はヴィレイスだ」
「ヴィレイス。分かりました。ではヴィレイス、貴方がその短剣を暴走させる前に私が」
そこまで言いかけた時、強い言葉がそれを制した。
「おっと、それは無理だな。あんたは武器を何も持っていない。おまけに」
言いながらヴィレイスは素早く剣をウェルザめがけて振り下ろした。
すんでのところで避けたつもりだったが、上着のボタンが切り離される。
「もうこの剣は暴走を始めている」
無言のウェルザにヴィレイスは更に畳みかける。
「それに倒すと言ってもどうやって倒すんだ?俺はただこいつに憑りついているだけ。仮に剣で刺したとしたらこいつが死ぬだけだぞ?」
そう言って笑うヴィレイスに、ウェルザは。
「倒します」

力強く言い放ち、笑い返した。
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