赤色の伝説

DREAM MAKER

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妖氛の館

26。

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ゴスタリア帝国の森に入ってから1日ほど経ったとき、久しぶりの雨が降った。
今も降っているが、かなり長く激しいので僕達は雨宿りをしている木の下からなかなか出られない。
だが幸い森の中だったので僕達は、雨宿りできそうな木を見つけながら、木の下から木の下へと移り、前へ進んでいった。
前に進む・・・と言ってもゴスタリア帝国の地理は僕はあまり詳しくない。ので今どこか、そして近くに何があるなんて分からない。
ウォークも似たようなものだ。
ウォークは僕の兄さんの友人で、兄さんと同じ紅蓮の髪を短くしていて、瞳の色も兄さんと同じ深い、海の色だ。
彼は顔がいいので女性によくモテる。剣の腕も僕の故郷フェザリア帝国の戦士隊に入っていたのでかなり良い。
が、いいのは本当に顔と腕だけだと僕は良く思う。
魔法抵抗力は無いに等しいし、罠には良くはまるし・・・まあ、そういうわけだ。
本人曰く、戦闘など、切羽詰まった状況に追い込まれた時は、頭も非常に良く回るらしい。
ウォークはゴスタリア帝国とフェザリア帝国との戦争の際に良く出陣していたらしいが、その時戦っていたのはこちらとは正反対の方角にある、森林都市の方なのでこっちは良く分からないらしい。

こんな時にシェルがいてくれれば助かるのだが。

シェルは、総称シェラ・フィータ。この世間にその名を轟かせている有名な大盗賊だった。
だが、彼女はゴスタリア帝国とフェザリア帝国の境にある砂漠の中立地帯、カンガラの近くにある遺跡で目的を達成した。
実は彼女、シェアランというカンガラから崇拝されている白竜(ホワイト・ドラゴン)だったのだ。
彼女なら大盗賊で世界中を回っていたのだから、きっとゴスタリア帝国の地理にも詳しいに違いない。
だが目的を達してしまった彼女は今、僕達と別れカンガラにいる。

「・・・どっちにいけば良いと思う?」
「さあ」
頼りない応えが返ってきた。

僕はロムル。ウォークと同じ髪、そして瞳を持つ兄、ラクナスを探して旅をしている。
一応黒魔法を使える。ただし「氷」と「炎」だけだが。
「ラクナスはどっちにいいか分かる?」
僕が肩に止まっている竜―ラクナスに話しかけると、ラクナスは「何?」というような感じで首を傾げる。

ラクナスは旅の途中で会った竜だ。体毛の色があまりに兄さんの紅蓮の髪の色に似ていたから僕がそう名付けたのだが、多分赤竜の子だろう。
「ラクナスに聞いてもなあ・・・」
「う・・・ん。あ!」
「どうした?ロムル」
今、木の間から人影が見えた。向こうもまた止まっている。雨宿りをしているのだろうか。
「ウォーク、人がいるよ。ほら」
僕はその人の方を指さした。ウォークはその方向を眺めながらやがて、
「本当だ・・・」
と呟いた。
「行ってみよう。何か分かるかもしれない」
ウォークは頷き、二人してその人の方向へ歩き出した。


「あ」
「やあ、また会ったね」
この人は以前宿屋で一言奇妙な事を言った人だった。その一言は当たってたけど。
相変わらず頭からすっぽりとフードを被っていて顔が良く見えない。
「あの時の・・・」
「どうだい?僕の言った事は当たったかい?」
「ええ。まあ」
「そうか。で、君たちはこれからどこに行くんだい?」
「え・・・と。とりあえずクロスダ王国へ」
「そうか。じゃ、僕も同行していいかな?似たような方向なんだ」
「え・・・うん。別にいいけど・・・。ウォークは?」
そう言うと僕はウォークの方を振り向いた。ウォークはいつになく厳しい表情を見せていた。
「何者か分からない奴を仲間に入れるのは危険だな」
その台詞を聞いた途端、フードの男は大袈裟にため息をついた。
「ひどいなー、ウォーク。ま、10年ぶりだから仕方ないけど。僕も名前聞くまではウォークまでは分からなかったけれどね」
「!?」
この人はウォークを知っているのか?
ウォークも驚いてその男を見る。
「久しぶりだね、ウォーク。覚えていない?クルスだよ」
そう言うと男はフードを取った。
その男もやはり兄さんやウォークと同じ紅蓮の髪をして、前髪は中央よりも左寄りの方向で左右に分けられていた。
後ろ髪は長いというわけではないが、僕と同じくらいの、肩くらいまで伸ばしていて、それを後ろで一つにくくっていた。
「あ。あー!あー!!」
ウォークはやっと思い出した様に言い出した。
「クルスか。あ、そーかそーか!いや本当に懐かしいなー!で、お前今何してんだ?」
「まっ、とりあえずは仲間の現在位置を確認しに。そろそろどちらかの帝国が本気で動き出しそうだからね」
「いよいよか・・・」
僕は内容がいまいち掴めず、とりあえずただ聞いていた。
「んで?次はどこに行くんだ?」
「愛しのハニー、シャイアのところへ♪」
「そ、そっか」
「あ、ウォーク。そーいやあラクナスが見つからなかったけど知らなかったか?」
びくっ。
ラクナス―その名を聞いた時、僕は一瞬身体がびくついた。
「・・・ああ」
ウォークは横目でこちらをちらりと見てから、
「実はな・・・」
とこれまでの経緯を語りだした。


「・・・そっか。そんなことがあったのか。そりゃ大変だったろう」
「いや、大変だったのは俺よりこいつさ」
そう言ってウォークは親指で僕の方を指さした。
「こいつは?」
「ラクナスの弟」
「え?」
「え?じゃなくて弟だって」
「へぇ~」
そういうとクルスは僕の方をまじまじと凝視した。
しばらくしてから僕の方に向かってにっこり笑い、
「ま、よろしく。僕はクルス。君のお兄さんには色々世話になった」
僕はクルスを見上げ、
「クルスも兄さんの事を知っているの?」
「ん?ああ、まあ色々と・・・ね」
「クルスにとってさ、兄さんはどんな人だった?」
「・・・」
クルスはしばらくウォークと顔を合わせていたが、やがてこっちをみてにっこり笑い、
「そうだな。とにかくあいつはしっかりした奴だったよ」
そうしてクルスの話が始まった。


今思えば彼らは僕が兄がいなくなって寂しいと思ったらしく、慰めようと思ったみたいだ。
僕がそう気付いたのはクルスの「旅の間は兄さんみたいに思ってくれていいよ」という言葉からだ。
「雨、なかなか止まねえなー・・・」
ウォークがうんざりしたように木の下に座り込む。
あれから更に雨が酷くなり、クルスのいた木から一歩も出れなくなってしまった。
「せめて近くに何か泊まるところでもいいのにねー」
そう僕がぼそりとつぶやくと、肩にいたラクナスがふとこちらを向き、嬉しそうににっこり笑い森の奥へ飛んで行ってしまった。
「ラクナス、どこに行ったんだろう?」
「さあな。あいつは時折不可解な行動をとるからな。まあとくに気にしなくていいんじゃないのか?」
ウォークはまるでいつもの事だというようにまるで気にしていない。
が。
「ラクナス・・・?」
一人だけにわかに驚いた者がいた。
「・・・クルス?」
「赤竜・・・。それにラクナスだって?ロムル、あいつは一体・・・?」
「・・・あのね?クルス、落ち着いて聞いて。あの竜は兄さんとは何も関係ないんだ。あの子は僕が旅に出て一番最初に会った仲間なんだ。その時僕は、赤い髪は兄さんしか知らなくて、あの子の身体の色があまりにも似ていたから僕がラクナスって命名したんだ」
「なるほど」
「あ、でも今考えたらあの子、別にウォークでもウェルザでもクルスでもいいんだ」
「うっ!!」
「うっ!!」
二人して一瞬にして嫌な顔をした。
「な、何?」
「いや、今何か物凄く抵抗を感じた」
「何で?」
「考えてみろ、ロムル。あいつの名前が「ロムル」だったらどうする?」
「うっ!!」
僕はさっきの二人と同じように嫌な顔をした。
「ま、そーゆーことだ」
なるほど。
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