塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

文字の大きさ
28 / 80
第二部

16

しおりを挟む
王宮の東側に国軍関連の施設がある。練兵場などに広大な敷地が当てられている。闘技場もその一つだ。
 鍛錬のための武術大会などが行われる時は市民にも公開されているとのことで、円形のすり鉢状に設けられた席には多くの人々が集まっていた。
 カミーユはバルバラを伴って闘技場にある王族専用の観覧席に座ってその広さに圧倒されていた。
 人々が待ちきれない様子で騒いでいる熱気を見ていると、急に過去に引き戻されそうになった。
 五歳のとき、あの処刑場に連れ出されたときの記憶が甦ってくる。
 ……偽物の王を吊せ。
 人々がそう叫び、一人、また一人と処刑が行われるたびに歓声が上がった。
『父や兄たちと最後の別れができたか?』
 震えるだけのカミーユにかけられた冷淡な声。
 思わず顔を覆って冷静になれ、と念じた。アレクは処刑されるわけじゃない。けれど膂力で圧倒的な差がある相手との決闘をさせられるのだから、公開処刑に等しい。
 アレクが魔法で勝ち残ると信じてはいても、あの時の記憶がカミーユに恐怖を呼び起こす。
 わたしにできることはここでアレクの帰りを待つことだ。それくらいできないでどうする。わたしはもう五歳の子供ではないのだ。
「カミーユさん。一人でいたら不安でしょう? こちらにいらっしゃいな」
 グレンダ妃が歩み寄ってきた。ヴェール越しで表情はわからないけれど、その言葉には温かみがあった。隣でグラントリーも心配そうにこちらを見ている。
 グレンダの席は国王の隣でその向こうには第二妃たちの席がある。派手なドレスを着て勝ち誇ったように取り巻きをつれているのに比べて、グレンダ妃の周りには侍女と護衛以外誰もいない。
 誰もアレクが勝つとは思っていないかのようで、カミーユは差し出されたグレンダの手を取った。緊張しているのかひんやりとした手にカミーユは自分の事ばかり考えていた自分を恥じた。
 母として我が子が決闘させられるのはどれほど辛いか、カミーユには察することさえできない。
「どうかご一緒させてください」
「一緒に応援しましょうね。あの子は決して弱くはないんだから」
「お姉様。僕も応援します」
 グラントリーがそう言ってカミーユの隣に来た。
 そうして地面が揺れるような歓声が起きた。決闘が始まるのだ。

 最初の対戦はアレクとイアン公子。現国王の亡き王弟の子で十九歳。アレクより頭一つ背が高く、隆々とした筋肉を見せびらかすように上半身は剥き出しだ。武器は双剣。
 対するアレクは武器を持たず、上着なしの軽装で長い杖を手にしていた。魔法にはかならずしも杖は必要ないけれど、魔法のみを使って戦うという意思表示のためだと聞いていた。
 軽装ゆえにアレクの細身が目立つ。入場してきたとき一瞬こちらを見たように思えた。
 軽く杖を掲げて笑みを浮かべたのがわかった。
「サミュエル・アレクサンダー王子殿下とイアン公子殿下との対戦を行います」
 審判役らしい髭を蓄えた男が闘技場の中央に立って宣言した。闘技場はほぼ真四角の舞台のような造りになっていた。
 決闘はその舞台から落ちて一定時間が過ぎるか、倒れて動けなくなるか、どちらかが降参するまで行われる。
 人々が口々にイアンやアレクの名前を叫ぶ。
「こちらも応援してくれる人がいるのですね」
 カミーユがそう呟くと、グレンダ妃が教えてくれた。
「あれは賭けをしているからですわ。どちらに賭けているかだけのことです」
 そうか。純粋にアレクが王になって欲しいと思っている訳ではないのか。
 少しがっかりしたけれど、それでも応援は応援だ。アレクの力になってくれればいい。
「カミーユさんもあの子に賭ければよろしいのに。お小遣いになりますわよ?」
 しれっとグレンダ妃が言う。どうやら我が子に賭けているらしい。
 ……やっぱりこの人アレクのお母さんだ。何でも楽しんでしまうところがどこか似ている。
 カミーユは両手を祈るように組んで、対戦開始の合図が鳴る瞬間を迎えようとした。

 勝負は一瞬だった。
 アレクが手にした杖をまっすぐに向けると、轟音とともに壁面に大穴が開いていた。幸い観客席のない場所だったけれど、対戦相手の真横を巨大な火の塊が横切っていったのは誰もが見ていたはずだ。
 相手も観客もついでに何故かアレク本人も固まっていた。しげしげと杖を眺めている。
 そこへイアンが立ちあがって剣を振りかざしてきた。一瞬で間合いを詰めてきた。
 カミーユは思わず腰を浮かしかけた。
 あれでは防御が間に合わない。
 その時だった。アレクの周りがぱっと明るく光ってイアンが場外まで吹き飛ばされた。
 壁に叩きつけられたイアンは気絶したのかその場から動かなくなった。
 ……いつの間に防御魔法を展開していたんだろう。
 アレクは短縮詠唱や無詠唱も使えるとは聞いていた。けれどあの一瞬でそこまでできてしまうとは思わなかった。
「やった。兄上の勝ちだ」
 グラントリーがぴょんぴょん跳び上がりながらグレンダとカミーユに笑いかけた。
「よかった……」
 カミーユがほっと胸を押さえると、隣にいたグレンダが首を傾げた。
「あの光……あれは鳥の民の魔法ではありませんわ。あの子、いつの間にあんなに腕を上げたのかしら」
 観客たちは驚きと混乱と賭けに外れた悔しさとで一頻りざわついたあと、アレクの勝利を讃えた。
 アレクは杖を掲げてその歓声に応えた後で、カミーユの方に顔を向けてひらひらと手を振ってきた。
 ……よかった。とりあえず一人……。
 カミーユはこっそりとヴェールの下で手を振り返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」 受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」  アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。  田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。  セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。 王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL ☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆ 性描写の入る話には※をつけます。 11月23日に完結いたしました!! 完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!

【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります

ナナメ
BL
 8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。  家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。  思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!  魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。 ※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。 ※表紙はAI作成です

触れるな危険

紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。 毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。 「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」 俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。 バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。 15話にて本編(なれそめ)が完結。 その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ
BL
【ひょうきん軍将×ド真面目コミュ障ぎみの踊り子】 踊りをもちいて軍を守る聖舞師という職業のサニ(受)。赴任された戦場に行くとそこの軍将は、前日宿屋でサニをナンパしたリエイム(攻)という男だった。 一見ひょうきんで何も考えていなさそうな割に的確な戦法で軍を勝利に導くリエイム。最初こそいい印象を抱かなかったものの、行動をともにするうちサニは徐々にリエイムに惹かれていく。真摯な姿勢に感銘を受けたサニはリエイム軍との専属契約を交わすが、実は彼にはひとつの秘密があった。 第11回BL小説大賞エントリー中です。 この生き物は感想をもらえるととっても嬉がります! 「きょええええ!ありがたや〜っ!」という鳴き声を出します! ************** 公募を中心に活動しているのですが、今回アルファさんにて挑戦参加しております。 弱小・公募の民がどんなランキングで終わるのか……見守っていてくださいー! 過去実績:第一回ビーボーイ創作BL大賞優秀賞、小説ディアプラスハルVol.85、小説ディアプラスハルVol.89掲載 → https://twitter.com/karoito2 → @karoito2

処理中です...