塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

文字の大きさ
42 / 80
第三部

10

しおりを挟む
 カミーユはまさか会えるとは予想もしなかったロラン王子を紹介されて戸惑っていた。
 しかも彼はこの国に留まる予定らしい。
 父親と不仲で、反発だけで亡命など考えるものだろうか。この国は亜人が多くて人族には住みにくいのに。
 部屋に戻るとカミーユはヴェールを脱いだ。アレクは侍従が呼びに来て執務室に連れ戻されてしまったので、バルバラに問いかけてみた。
「バルバラ、ロラン王子を知っている?」
「……第一王子の? あまり詳しくはありませんが」
 お茶会の席で引きあわされたと説明すると、バルバラは少し考え込む仕草をした。
「確かに、ドミニク三世陛下には二人の王子がいらっしゃるのに、第一王子を見かけないという噂は耳にしたことがあります。領地にいらしたのですね」
「……領地というと王領?」
「いえ、もしかしたら大公時代の領地かもしれません。国境に近く、カミーユ様がいらした砦からも……」
 砦の近くでは何故か、誰が広めたのかカミーユの容姿が噂になっていた。それを聞いてカミーユが「王家の瞳」を持つのではないかと思ったのだろうか。
 容姿で才能が決まるわけではない。けれど、マルク王は王家の瞳を持たなかったために出自を疑われ、その才覚まで否定されていた。そのあげくに偽物の王だと言われ処刑された。
 ロランだってそのことは知っているはずだ。だからこそ第一王子でありながら亡命を望んでいるのだろう。自分が王位に就けば、マルク王と同じことを言われ続けるのだろうと。
 そう考えると彼に取って第一王子という肩書きは重いものだったんだろうか。
「それにしても、あの男はカミーユ様の【祝福】だけでなく瞳の色も奪おうとなさっていたのですね」
「まあ、どちらも無理なんだけどね」
 側妃にされても男の自分にはドミニク三世の子を産むことはできない。【祝福】はカミーユ自身が本気で望んだ相手にしかつけられない。
 まあ、それ以前に性別がバレた段階で殺されていただろう。
「ただ、ロラン王子が父への反発だけで国と飛び出そうとしているのは、あまり良いこととは思えない。この先何か問題にならなければいいのだけれど」
「確かに潔癖な若者が大人の世界に反発するというのは珍しくはありません。けれど、エドガー王もそのくらいのことはお気づきでしょう。だからひとまず留学という形を薦めたのではないですか」
「……問題は、やたらにわたしに興味を持っていることだ」
 血縁上は従兄弟ということになるのだろう。けれど、父親がカミーユの父を処刑に追い込んだ人物なのだ。カミーユとしてはどういう態度を取ればいいのか迷う。
 ……わたしは父のことはもう過ぎたことだと思うけれど、何もかも流して普通に接するのは父に対して申し訳ないだろうか。
「エルネスト様とお話してみてはいかがですか? ダルトワ侯爵家の方はあまり社交に熱心ではないとはいえ、いくらかロラン殿下のことをご存じかも知れませんし。おそらくカミーユ様が会いたいとおっしゃったら何を放り出してでもいらっしゃいます。それにあの家の人たちは使用人に至るまでカミーユ様を裏切ることはないでしょう」
 バルバラはしっかりとした口調で答えた。ダルトワ侯爵エルネストは立王太子式がおわるまでは王都に滞在していると聞いている。王宮内ではなく普通の宿をとっているらしい。
 たしかにすぐに来てくれそうだけど……あの勢いがちょっと怖い。
 とにかくカミーユの母シモーヌに対する熱量が凄すぎて、心配になる。
「バルバラの夫はダルトワ侯爵の騎士団長だったんだっけ。もしかして皆ああいう人たちなの?」
「多かれ少なかれそんな感じです。私の夫は『狂犬』と呼ばれる猛者だったのですが、シモーヌ様の前ではデレデレの馬鹿犬でしたね」
「うわあ……」
 表向き家のため領民のためドミニク三世には逆えないとは言っていたけれど、実は相当な怨恨をためこんでいるのではないだろうか。
「侯爵家の人たちのことも聞きたいから、侯爵が帰国するまでに私的な面談を持ちたいとは思っていたから……いつごろなら時間がとれるかな」
「確認しておきましょう。言伝だけでなく手紙を添えられますか?」
「そのほうがいいのなら、手紙を書いておくよ」
「まあ、カミーユ様の直筆の手紙など受け取ったらはしゃいで通りの真ん中でくるくると踊り出しかねませんけど」
「いやそれ危ないから……馬車にはねられたらどうするの」
 カミーユは母の関係者の危険度にますます心配になってきた。とりあえず手紙はやめておこうと心に決めた。

 夕食前にやっと執務から解放されてアレクが私室に戻ってきた。
「夕食よりもカミーユを堪能したいー」
 と言いながらカミーユをヴェールの上から抱きしめてくる。カミーユは疲れている夫の様子に、両手を伸ばして背中を軽く叩いた。
「お仕事お疲れさま。わたしにもできることがあればいいのだけれど」
「できてるよ。カミーユは元気でいてくれるのが仕事だから」
 そう言ってから耳元に顔を寄せてくる。
「……ロラン殿下のこと、少しわかったよ」
「アレク……?」
「彼は傍系王族の令嬢との縁談を嫌って飛び出してきたみたいだ。お気に入りの侍従がいるらしくて、その子との結婚を望んでいる。でも、シーニュでは同性婚は認められてない」
 縁談? お気に入りの侍従? 予想もしなかった言葉にカミーユは驚いた。
「しかもその侍従は亜人らしい。今回の留学にも従者として連れてきている。ちなみにバルバラ、王子の護衛の一人が君の孫、ジョエル・ペイネだそうだよ」
 カミーユの側でお茶の支度をしていたバルバラがそれを聞いて頷いた。
「左様ですか。ということは王子殿下のことを侯爵家も把握しているということですね」
 バルバラの孫は軍人で、かつてはカミーユが幽閉されていた塔のあった砦で働いていたはずだ。いつもまに王子の護衛になったのか。
 もしかしてダルトワ侯爵家は領地に引きこもっていても情報収集は欠かさなかったのではないだろうか。
「そう。それからロラン殿下はどうやら、母と弟もこちらに呼び寄せたいと考えているふしがある。壮大な反抗期だよね……」
「反抗……」
 けれど、王妃と王子全員が他国に逃げ出すなんてそう簡単にはいかないだろう。
 父親への反抗というのはあまりに大事になりそうに見えて、カミーユはロランのことが心配になってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人 「後1年、か……」 レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる

奏音 美都
BL
<あらすじ>  エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。  そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……  俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

処理中です...