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第三部
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カミーユはまさか会えるとは予想もしなかったロラン王子を紹介されて戸惑っていた。
しかも彼はこの国に留まる予定らしい。
父親と不仲で、反発だけで亡命など考えるものだろうか。この国は亜人が多くて人族には住みにくいのに。
部屋に戻るとカミーユはヴェールを脱いだ。アレクは侍従が呼びに来て執務室に連れ戻されてしまったので、バルバラに問いかけてみた。
「バルバラ、ロラン王子を知っている?」
「……第一王子の? あまり詳しくはありませんが」
お茶会の席で引きあわされたと説明すると、バルバラは少し考え込む仕草をした。
「確かに、ドミニク三世陛下には二人の王子がいらっしゃるのに、第一王子を見かけないという噂は耳にしたことがあります。領地にいらしたのですね」
「……領地というと王領?」
「いえ、もしかしたら大公時代の領地かもしれません。国境に近く、カミーユ様がいらした砦からも……」
砦の近くでは何故か、誰が広めたのかカミーユの容姿が噂になっていた。それを聞いてカミーユが「王家の瞳」を持つのではないかと思ったのだろうか。
容姿で才能が決まるわけではない。けれど、マルク王は王家の瞳を持たなかったために出自を疑われ、その才覚まで否定されていた。そのあげくに偽物の王だと言われ処刑された。
ロランだってそのことは知っているはずだ。だからこそ第一王子でありながら亡命を望んでいるのだろう。自分が王位に就けば、マルク王と同じことを言われ続けるのだろうと。
そう考えると彼に取って第一王子という肩書きは重いものだったんだろうか。
「それにしても、あの男はカミーユ様の【祝福】だけでなく瞳の色も奪おうとなさっていたのですね」
「まあ、どちらも無理なんだけどね」
側妃にされても男の自分にはドミニク三世の子を産むことはできない。【祝福】はカミーユ自身が本気で望んだ相手にしかつけられない。
まあ、それ以前に性別がバレた段階で殺されていただろう。
「ただ、ロラン王子が父への反発だけで国と飛び出そうとしているのは、あまり良いこととは思えない。この先何か問題にならなければいいのだけれど」
「確かに潔癖な若者が大人の世界に反発するというのは珍しくはありません。けれど、エドガー王もそのくらいのことはお気づきでしょう。だからひとまず留学という形を薦めたのではないですか」
「……問題は、やたらにわたしに興味を持っていることだ」
血縁上は従兄弟ということになるのだろう。けれど、父親がカミーユの父を処刑に追い込んだ人物なのだ。カミーユとしてはどういう態度を取ればいいのか迷う。
……わたしは父のことはもう過ぎたことだと思うけれど、何もかも流して普通に接するのは父に対して申し訳ないだろうか。
「エルネスト様とお話してみてはいかがですか? ダルトワ侯爵家の方はあまり社交に熱心ではないとはいえ、いくらかロラン殿下のことをご存じかも知れませんし。おそらくカミーユ様が会いたいとおっしゃったら何を放り出してでもいらっしゃいます。それにあの家の人たちは使用人に至るまでカミーユ様を裏切ることはないでしょう」
バルバラはしっかりとした口調で答えた。ダルトワ侯爵エルネストは立王太子式がおわるまでは王都に滞在していると聞いている。王宮内ではなく普通の宿をとっているらしい。
たしかにすぐに来てくれそうだけど……あの勢いがちょっと怖い。
とにかくカミーユの母シモーヌに対する熱量が凄すぎて、心配になる。
「バルバラの夫はダルトワ侯爵の騎士団長だったんだっけ。もしかして皆ああいう人たちなの?」
「多かれ少なかれそんな感じです。私の夫は『狂犬』と呼ばれる猛者だったのですが、シモーヌ様の前ではデレデレの馬鹿犬でしたね」
「うわあ……」
表向き家のため領民のためドミニク三世には逆えないとは言っていたけれど、実は相当な怨恨をためこんでいるのではないだろうか。
「侯爵家の人たちのことも聞きたいから、侯爵が帰国するまでに私的な面談を持ちたいとは思っていたから……いつごろなら時間がとれるかな」
「確認しておきましょう。言伝だけでなく手紙を添えられますか?」
「そのほうがいいのなら、手紙を書いておくよ」
「まあ、カミーユ様の直筆の手紙など受け取ったらはしゃいで通りの真ん中でくるくると踊り出しかねませんけど」
「いやそれ危ないから……馬車にはねられたらどうするの」
カミーユは母の関係者の危険度にますます心配になってきた。とりあえず手紙はやめておこうと心に決めた。
夕食前にやっと執務から解放されてアレクが私室に戻ってきた。
「夕食よりもカミーユを堪能したいー」
と言いながらカミーユをヴェールの上から抱きしめてくる。カミーユは疲れている夫の様子に、両手を伸ばして背中を軽く叩いた。
「お仕事お疲れさま。わたしにもできることがあればいいのだけれど」
「できてるよ。カミーユは元気でいてくれるのが仕事だから」
そう言ってから耳元に顔を寄せてくる。
「……ロラン殿下のこと、少しわかったよ」
「アレク……?」
「彼は傍系王族の令嬢との縁談を嫌って飛び出してきたみたいだ。お気に入りの侍従がいるらしくて、その子との結婚を望んでいる。でも、シーニュでは同性婚は認められてない」
縁談? お気に入りの侍従? 予想もしなかった言葉にカミーユは驚いた。
「しかもその侍従は亜人らしい。今回の留学にも従者として連れてきている。ちなみにバルバラ、王子の護衛の一人が君の孫、ジョエル・ペイネだそうだよ」
カミーユの側でお茶の支度をしていたバルバラがそれを聞いて頷いた。
「左様ですか。ということは王子殿下のことを侯爵家も把握しているということですね」
バルバラの孫は軍人で、かつてはカミーユが幽閉されていた塔のあった砦で働いていたはずだ。いつもまに王子の護衛になったのか。
もしかしてダルトワ侯爵家は領地に引きこもっていても情報収集は欠かさなかったのではないだろうか。
「そう。それからロラン殿下はどうやら、母と弟もこちらに呼び寄せたいと考えているふしがある。壮大な反抗期だよね……」
「反抗……」
けれど、王妃と王子全員が他国に逃げ出すなんてそう簡単にはいかないだろう。
父親への反抗というのはあまりに大事になりそうに見えて、カミーユはロランのことが心配になってきた。
しかも彼はこの国に留まる予定らしい。
父親と不仲で、反発だけで亡命など考えるものだろうか。この国は亜人が多くて人族には住みにくいのに。
部屋に戻るとカミーユはヴェールを脱いだ。アレクは侍従が呼びに来て執務室に連れ戻されてしまったので、バルバラに問いかけてみた。
「バルバラ、ロラン王子を知っている?」
「……第一王子の? あまり詳しくはありませんが」
お茶会の席で引きあわされたと説明すると、バルバラは少し考え込む仕草をした。
「確かに、ドミニク三世陛下には二人の王子がいらっしゃるのに、第一王子を見かけないという噂は耳にしたことがあります。領地にいらしたのですね」
「……領地というと王領?」
「いえ、もしかしたら大公時代の領地かもしれません。国境に近く、カミーユ様がいらした砦からも……」
砦の近くでは何故か、誰が広めたのかカミーユの容姿が噂になっていた。それを聞いてカミーユが「王家の瞳」を持つのではないかと思ったのだろうか。
容姿で才能が決まるわけではない。けれど、マルク王は王家の瞳を持たなかったために出自を疑われ、その才覚まで否定されていた。そのあげくに偽物の王だと言われ処刑された。
ロランだってそのことは知っているはずだ。だからこそ第一王子でありながら亡命を望んでいるのだろう。自分が王位に就けば、マルク王と同じことを言われ続けるのだろうと。
そう考えると彼に取って第一王子という肩書きは重いものだったんだろうか。
「それにしても、あの男はカミーユ様の【祝福】だけでなく瞳の色も奪おうとなさっていたのですね」
「まあ、どちらも無理なんだけどね」
側妃にされても男の自分にはドミニク三世の子を産むことはできない。【祝福】はカミーユ自身が本気で望んだ相手にしかつけられない。
まあ、それ以前に性別がバレた段階で殺されていただろう。
「ただ、ロラン王子が父への反発だけで国と飛び出そうとしているのは、あまり良いこととは思えない。この先何か問題にならなければいいのだけれど」
「確かに潔癖な若者が大人の世界に反発するというのは珍しくはありません。けれど、エドガー王もそのくらいのことはお気づきでしょう。だからひとまず留学という形を薦めたのではないですか」
「……問題は、やたらにわたしに興味を持っていることだ」
血縁上は従兄弟ということになるのだろう。けれど、父親がカミーユの父を処刑に追い込んだ人物なのだ。カミーユとしてはどういう態度を取ればいいのか迷う。
……わたしは父のことはもう過ぎたことだと思うけれど、何もかも流して普通に接するのは父に対して申し訳ないだろうか。
「エルネスト様とお話してみてはいかがですか? ダルトワ侯爵家の方はあまり社交に熱心ではないとはいえ、いくらかロラン殿下のことをご存じかも知れませんし。おそらくカミーユ様が会いたいとおっしゃったら何を放り出してでもいらっしゃいます。それにあの家の人たちは使用人に至るまでカミーユ様を裏切ることはないでしょう」
バルバラはしっかりとした口調で答えた。ダルトワ侯爵エルネストは立王太子式がおわるまでは王都に滞在していると聞いている。王宮内ではなく普通の宿をとっているらしい。
たしかにすぐに来てくれそうだけど……あの勢いがちょっと怖い。
とにかくカミーユの母シモーヌに対する熱量が凄すぎて、心配になる。
「バルバラの夫はダルトワ侯爵の騎士団長だったんだっけ。もしかして皆ああいう人たちなの?」
「多かれ少なかれそんな感じです。私の夫は『狂犬』と呼ばれる猛者だったのですが、シモーヌ様の前ではデレデレの馬鹿犬でしたね」
「うわあ……」
表向き家のため領民のためドミニク三世には逆えないとは言っていたけれど、実は相当な怨恨をためこんでいるのではないだろうか。
「侯爵家の人たちのことも聞きたいから、侯爵が帰国するまでに私的な面談を持ちたいとは思っていたから……いつごろなら時間がとれるかな」
「確認しておきましょう。言伝だけでなく手紙を添えられますか?」
「そのほうがいいのなら、手紙を書いておくよ」
「まあ、カミーユ様の直筆の手紙など受け取ったらはしゃいで通りの真ん中でくるくると踊り出しかねませんけど」
「いやそれ危ないから……馬車にはねられたらどうするの」
カミーユは母の関係者の危険度にますます心配になってきた。とりあえず手紙はやめておこうと心に決めた。
夕食前にやっと執務から解放されてアレクが私室に戻ってきた。
「夕食よりもカミーユを堪能したいー」
と言いながらカミーユをヴェールの上から抱きしめてくる。カミーユは疲れている夫の様子に、両手を伸ばして背中を軽く叩いた。
「お仕事お疲れさま。わたしにもできることがあればいいのだけれど」
「できてるよ。カミーユは元気でいてくれるのが仕事だから」
そう言ってから耳元に顔を寄せてくる。
「……ロラン殿下のこと、少しわかったよ」
「アレク……?」
「彼は傍系王族の令嬢との縁談を嫌って飛び出してきたみたいだ。お気に入りの侍従がいるらしくて、その子との結婚を望んでいる。でも、シーニュでは同性婚は認められてない」
縁談? お気に入りの侍従? 予想もしなかった言葉にカミーユは驚いた。
「しかもその侍従は亜人らしい。今回の留学にも従者として連れてきている。ちなみにバルバラ、王子の護衛の一人が君の孫、ジョエル・ペイネだそうだよ」
カミーユの側でお茶の支度をしていたバルバラがそれを聞いて頷いた。
「左様ですか。ということは王子殿下のことを侯爵家も把握しているということですね」
バルバラの孫は軍人で、かつてはカミーユが幽閉されていた塔のあった砦で働いていたはずだ。いつもまに王子の護衛になったのか。
もしかしてダルトワ侯爵家は領地に引きこもっていても情報収集は欠かさなかったのではないだろうか。
「そう。それからロラン殿下はどうやら、母と弟もこちらに呼び寄せたいと考えているふしがある。壮大な反抗期だよね……」
「反抗……」
けれど、王妃と王子全員が他国に逃げ出すなんてそう簡単にはいかないだろう。
父親への反抗というのはあまりに大事になりそうに見えて、カミーユはロランのことが心配になってきた。
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