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第四部
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ダイモス連合王国の北州カーネル領は代々王太子領とされてきた。
隣国シーニュの国境にも近く、住人の多くは熊の亜人である。逞しい肉体と身体能力を持つ人々が暮らしているその領都をアレクとカミーユが並んで歩いていると、どことなく周囲から浮いてしまうらしい。
こちらに向く目線の数に気づいてカミーユはそう思った。
ただ、この地の人々の多くはアレクの素性を知っているらしく、ことさらに絡んできたりはしない。領主が市井の若者のような出で立ちでいるときは、「アレク様」と呼びかけてくる。
中にはこっそり「立王太子おめでとうございます」と声をかけてくる人もいる。アレクはそれに気さくに応じている。きっとこんな関係が築けるまでには苦労もしたはずなのに、アレクはそれを感じさせない。
今日のカミーユの出で立ちは長い髪を一本の三つ編みにして、男性ものの衣服の上にフード付きの上着を纏っている。
外出の目的は冒険者登録をするためだ。この日のためにアレクがカミーユの瞳の色と髪色を変える魔法を組み込んだ耳飾りを作ってくれた。カミーユの素顔を知らない人には明るめの褐色の髪と褐色の瞳に見えるらしい。
「それでも人族は珍しいから人目は引くだろうけど、外見の印象はかなり違うから。設定としてはシーニュ人のカミーユ王女の護衛ということにしておこうか。侍女はさすがに僕と一緒に出歩くのは無理があるし」
「やはりわたしはこの格好でも女性に見られるのか……」
「その可能性は否定できないな。人族は大概歳よりも下に見られるし、性別も間違えられやすいんだよね……。僕は結構人族の国に出入りしてたからわかるようにはなったけど」
祖国にいるときはカミーユは決して小柄な方ではなかった。それに筋肉もついているので、あちらでなら男物の服を着ていなくても女性とは思われなかっただろう。けれど、こちらに来てからは大柄な人ばかりに出会って自分が子供になった気分だった。
「バルバラはそんなに大柄ではないし、亜人というのは人族と見た目では変わらないと聞いていたから、この国に来て驚いた」
「ああ、バルバラは竜族の血が強いんだろうし、元々シーニュに移住した亜人は狐とか鼠みたいな強くない種族が多いんだよ。この国は力が全てみたいな感じだから、力に恵まれない種族は住みにくいからね。だから大柄な亜人は少ないと思うよ」
「そうなんだ」
まだ会ったことはないけれど、ロラン王子の従者も狐の亜人だと聞いていた。シーニュで暮らしている亜人は元々小柄な種族だったということか。
バルバラはまあ、バルバラだから、という一言で納得してしまうけれど。
カーネル領のギルドは町の中心部にあって、活気にあふれていた。屈強そうな者たちがひしめいているとカミーユは自分がますます小さくなったのではないかと錯覚を受ける。
どうやらアレクのことは皆知っている様子で、カミーユの方に詮索するような目線が集まっていた。
人族の冒険者はここにはいないのだろうか。何か、「大丈夫なのか?」という声も聞こえる。
受付で形式通りの説明を受けた後、書類に記入しながらカミーユはアレクに問いかけた。
「アレクはセカンドネームで登録しているの?」
「いや、愛称のアレクで」
「じゃあわたしもセカンドネームでいいかな」
カミーユの名は母がつけたらしい。セカンドネームのセルジュは曾祖父にあやかったのだと聞いていた。男性名なので表向きにはほとんど使ったことがない。
「セルジュ? 綺麗な名前だね」
一方でアレクはさっきからカミーユの隣でパーティ登録の届けとにらみ合っている。
「パーティ名どうしよう?」
「……それは考えてなかった。当面は二人だけだし……そんなに凝った名前でなくても」
それにいずれ王太子としての仕事が増えればいつまで続けられるかわからない。だから大げさな名前でなければなんでもいいのでは、と思っていると。
「じゃあ、『二人は仲良し』とか?」
「……それはなんか別の意味で気恥ずかしいんだけど」
「それじゃカミーユが決めて? 好きな言葉とか花とかでいいよ」
「え? 花? じゃあ……『蒲公英(ダン・ド・リオン)』とか……」
「ダン・ド・リオン? タンポポ好きなの?」
「子供の頃、綿毛がふわっと遠くに飛んでいくのを見るのが好きだったから……」
カミーユがまだ王宮の片隅で暮らしていたころに、綿毛が風に飛ばされていくのを飽かず眺めていた記憶がある。
空を飛べるなら、ここから出て行けるのに、と子供心に思っていたんだろうか。
「そうかあ……何か自由っぽくていいね。それ採用」
そう言いながらアレクはペンを走らせた。どうやらそのまま使ってしまうつもりらしい。
カミーユがふと壁に掲示されている他のパーティの名前を見た。最強のなんとかとか、嵐とか牙とか強そうな言葉がずらりと並んでいるのに気づく。
……花の名前では何かすごく浮きそうだけど、まあ、そんな目立つことはないだろうから、いいのかな。
カミーユはそう納得して自分の書類を仕上げようと目を向けた。
新人登録者は最初にギルドからの簡単な依頼を受けて、それが達成できたら正式登録されるらしい。依頼は三種類の薬草と一匹の魔獣。一人ずつ引率の冒険者が立ち会う。
アレクは当然手伝うことができないのでギルド事務所で待機。パーティの申請はカミーユの登録が完了しないと出せないから時間を潰してるよ、と言っていた。
行き先はすぐ近くの森の奥。危険も少ないし小型魔獣しかいない場所。
新人はカミーユを含めて五名。いずれも亜人に多い筋骨隆々とした大男揃い。カミーユをじろじろ見て、弱そうな人族だと小馬鹿にするような表情だった。
カミーユ担当の引率冒険者も同様だ。黙って距離を開けてついてくるが一言も話そうとはしない。
カミーユはそのほうが気楽だったので依頼を淡々と進めることにした。
薬草採取については問題なく終わった。
刺繍の図案に良く使っていたから植物の観察は得意だし、図鑑は長い幽囚生活の間に擦りきれるほど読んだ。引率者に提出すると、合格だと即答された。
ただ、全く魔獣に行き逢わない。気配も感じられない。このままでは魔獣一匹を仕留めるのは難しいのでは……。
疑問に思って引率者に振り向くと、向こうも焦った様子で頭を掻いていた。悪意から魔獣のいないところに連れてきたという訳ではないらしい。
「……普通なら小型の魔獣がたくさんいるんだが……おかしいな」
それと同時にカミーユは前方に大きな気配を感じた。引率者もそれに気づいたらしい。
「まずい。大型種だ。引き返すんだ。新人には無理だ」
けれど、すでに目に見える距離まで近づいていた。木々をなぎ倒し現れたのは真っ黒い毛並みの巨大な猪型の魔獣だった。
『魔獣は瘴気を浴びて変容した種です。中には凶暴化して理性を失っている個体もいるので、注意が必要です。そうなると、出会った者を誰かまわず敵と見なして攻撃してきます。動きを止めるには首を切り落とすのが一番早いです。そのためには首の最も弱い部分を見極めなくてはなりません』
バルバラの言葉が頭をよぎった。
魔獣と対峙した経験はカミーユにはない。けれど、教わった知識が彼を冷静にした。勝ち負けではなく強い相手と戦えるという高揚感はあるけれど、頭の中は冴えていた。
理性をなくしていても、単純にまっすぐに突っ込んでくるだけなら対処できる。速度も覚えた。
相手を見据えて剣を抜き放った。
挑発するように向き合うと、魔獣はこちらに一直線に走ってきた。逃げろ、という引率者の声が聞こえた気がした。
けれど、引くわけにはいかない。
魔獣を一匹捕まえないと、冒険者登録が完了しないのだから。
カミーユは剣を構えて巨大な魔獣と対峙した。
隣国シーニュの国境にも近く、住人の多くは熊の亜人である。逞しい肉体と身体能力を持つ人々が暮らしているその領都をアレクとカミーユが並んで歩いていると、どことなく周囲から浮いてしまうらしい。
こちらに向く目線の数に気づいてカミーユはそう思った。
ただ、この地の人々の多くはアレクの素性を知っているらしく、ことさらに絡んできたりはしない。領主が市井の若者のような出で立ちでいるときは、「アレク様」と呼びかけてくる。
中にはこっそり「立王太子おめでとうございます」と声をかけてくる人もいる。アレクはそれに気さくに応じている。きっとこんな関係が築けるまでには苦労もしたはずなのに、アレクはそれを感じさせない。
今日のカミーユの出で立ちは長い髪を一本の三つ編みにして、男性ものの衣服の上にフード付きの上着を纏っている。
外出の目的は冒険者登録をするためだ。この日のためにアレクがカミーユの瞳の色と髪色を変える魔法を組み込んだ耳飾りを作ってくれた。カミーユの素顔を知らない人には明るめの褐色の髪と褐色の瞳に見えるらしい。
「それでも人族は珍しいから人目は引くだろうけど、外見の印象はかなり違うから。設定としてはシーニュ人のカミーユ王女の護衛ということにしておこうか。侍女はさすがに僕と一緒に出歩くのは無理があるし」
「やはりわたしはこの格好でも女性に見られるのか……」
「その可能性は否定できないな。人族は大概歳よりも下に見られるし、性別も間違えられやすいんだよね……。僕は結構人族の国に出入りしてたからわかるようにはなったけど」
祖国にいるときはカミーユは決して小柄な方ではなかった。それに筋肉もついているので、あちらでなら男物の服を着ていなくても女性とは思われなかっただろう。けれど、こちらに来てからは大柄な人ばかりに出会って自分が子供になった気分だった。
「バルバラはそんなに大柄ではないし、亜人というのは人族と見た目では変わらないと聞いていたから、この国に来て驚いた」
「ああ、バルバラは竜族の血が強いんだろうし、元々シーニュに移住した亜人は狐とか鼠みたいな強くない種族が多いんだよ。この国は力が全てみたいな感じだから、力に恵まれない種族は住みにくいからね。だから大柄な亜人は少ないと思うよ」
「そうなんだ」
まだ会ったことはないけれど、ロラン王子の従者も狐の亜人だと聞いていた。シーニュで暮らしている亜人は元々小柄な種族だったということか。
バルバラはまあ、バルバラだから、という一言で納得してしまうけれど。
カーネル領のギルドは町の中心部にあって、活気にあふれていた。屈強そうな者たちがひしめいているとカミーユは自分がますます小さくなったのではないかと錯覚を受ける。
どうやらアレクのことは皆知っている様子で、カミーユの方に詮索するような目線が集まっていた。
人族の冒険者はここにはいないのだろうか。何か、「大丈夫なのか?」という声も聞こえる。
受付で形式通りの説明を受けた後、書類に記入しながらカミーユはアレクに問いかけた。
「アレクはセカンドネームで登録しているの?」
「いや、愛称のアレクで」
「じゃあわたしもセカンドネームでいいかな」
カミーユの名は母がつけたらしい。セカンドネームのセルジュは曾祖父にあやかったのだと聞いていた。男性名なので表向きにはほとんど使ったことがない。
「セルジュ? 綺麗な名前だね」
一方でアレクはさっきからカミーユの隣でパーティ登録の届けとにらみ合っている。
「パーティ名どうしよう?」
「……それは考えてなかった。当面は二人だけだし……そんなに凝った名前でなくても」
それにいずれ王太子としての仕事が増えればいつまで続けられるかわからない。だから大げさな名前でなければなんでもいいのでは、と思っていると。
「じゃあ、『二人は仲良し』とか?」
「……それはなんか別の意味で気恥ずかしいんだけど」
「それじゃカミーユが決めて? 好きな言葉とか花とかでいいよ」
「え? 花? じゃあ……『蒲公英(ダン・ド・リオン)』とか……」
「ダン・ド・リオン? タンポポ好きなの?」
「子供の頃、綿毛がふわっと遠くに飛んでいくのを見るのが好きだったから……」
カミーユがまだ王宮の片隅で暮らしていたころに、綿毛が風に飛ばされていくのを飽かず眺めていた記憶がある。
空を飛べるなら、ここから出て行けるのに、と子供心に思っていたんだろうか。
「そうかあ……何か自由っぽくていいね。それ採用」
そう言いながらアレクはペンを走らせた。どうやらそのまま使ってしまうつもりらしい。
カミーユがふと壁に掲示されている他のパーティの名前を見た。最強のなんとかとか、嵐とか牙とか強そうな言葉がずらりと並んでいるのに気づく。
……花の名前では何かすごく浮きそうだけど、まあ、そんな目立つことはないだろうから、いいのかな。
カミーユはそう納得して自分の書類を仕上げようと目を向けた。
新人登録者は最初にギルドからの簡単な依頼を受けて、それが達成できたら正式登録されるらしい。依頼は三種類の薬草と一匹の魔獣。一人ずつ引率の冒険者が立ち会う。
アレクは当然手伝うことができないのでギルド事務所で待機。パーティの申請はカミーユの登録が完了しないと出せないから時間を潰してるよ、と言っていた。
行き先はすぐ近くの森の奥。危険も少ないし小型魔獣しかいない場所。
新人はカミーユを含めて五名。いずれも亜人に多い筋骨隆々とした大男揃い。カミーユをじろじろ見て、弱そうな人族だと小馬鹿にするような表情だった。
カミーユ担当の引率冒険者も同様だ。黙って距離を開けてついてくるが一言も話そうとはしない。
カミーユはそのほうが気楽だったので依頼を淡々と進めることにした。
薬草採取については問題なく終わった。
刺繍の図案に良く使っていたから植物の観察は得意だし、図鑑は長い幽囚生活の間に擦りきれるほど読んだ。引率者に提出すると、合格だと即答された。
ただ、全く魔獣に行き逢わない。気配も感じられない。このままでは魔獣一匹を仕留めるのは難しいのでは……。
疑問に思って引率者に振り向くと、向こうも焦った様子で頭を掻いていた。悪意から魔獣のいないところに連れてきたという訳ではないらしい。
「……普通なら小型の魔獣がたくさんいるんだが……おかしいな」
それと同時にカミーユは前方に大きな気配を感じた。引率者もそれに気づいたらしい。
「まずい。大型種だ。引き返すんだ。新人には無理だ」
けれど、すでに目に見える距離まで近づいていた。木々をなぎ倒し現れたのは真っ黒い毛並みの巨大な猪型の魔獣だった。
『魔獣は瘴気を浴びて変容した種です。中には凶暴化して理性を失っている個体もいるので、注意が必要です。そうなると、出会った者を誰かまわず敵と見なして攻撃してきます。動きを止めるには首を切り落とすのが一番早いです。そのためには首の最も弱い部分を見極めなくてはなりません』
バルバラの言葉が頭をよぎった。
魔獣と対峙した経験はカミーユにはない。けれど、教わった知識が彼を冷静にした。勝ち負けではなく強い相手と戦えるという高揚感はあるけれど、頭の中は冴えていた。
理性をなくしていても、単純にまっすぐに突っ込んでくるだけなら対処できる。速度も覚えた。
相手を見据えて剣を抜き放った。
挑発するように向き合うと、魔獣はこちらに一直線に走ってきた。逃げろ、という引率者の声が聞こえた気がした。
けれど、引くわけにはいかない。
魔獣を一匹捕まえないと、冒険者登録が完了しないのだから。
カミーユは剣を構えて巨大な魔獣と対峙した。
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第11回BL小説大賞エントリー中です。
この生き物は感想をもらえるととっても嬉がります!
「きょええええ!ありがたや〜っ!」という鳴き声を出します!
**************
公募を中心に活動しているのですが、今回アルファさんにて挑戦参加しております。
弱小・公募の民がどんなランキングで終わるのか……見守っていてくださいー!
過去実績:第一回ビーボーイ創作BL大賞優秀賞、小説ディアプラスハルVol.85、小説ディアプラスハルVol.89掲載
→ https://twitter.com/karoito2
→ @karoito2
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