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第四部
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十三年前と同じ。
それはつまり、叛乱が起きるということだろうか。
「カミーユ。気分が悪いなら夜会は休んでもいいよ。僕一人でも大丈夫だから」
アレクがそう告げてくるくらいには、カミーユが落ち込んでいるのが傍目にわかったのだろう。
それでもカミーユは首を横に振った。
「そういうわけにはいかない」
ロラン王子が警戒するほどに、ドミニク三世は何らかの形で密偵を送り込んでいる可能性は高い。いくら我が子でも知られたくないことに首を突っ込んできていたのだから、監視はするだろう。今回の面談にしても危険を含んだものだった。
それを気取らせないためにもわたしは普段通りに人前に出なくては。
「あの……クリフ兄ちゃんと会うために、無理をしたんですか? だったらごめんなさい」
ノアが心配そうに問いかけてきた。彼はロランが何者なのかクリフから聞いたのかもしれない。カミーユの父を処刑した現国王の子だと。
「わたしは無理はしていないよ。ただ、ロラン殿下が少し心配なだけだ」
エルネストの話ではロランはクリフと駆け落ちをすると主張していたという。けれどカミーユたちの前だからかどうか、彼らの関係はそんな甘やかなものではないように見えた。
「そうだねえ……。彼は正義心からか亜人を救うって気負っているけれど、それが彼の幸福に結びつくとは思えないんだよ」
アレクはそう言ってカミーユの肩に手を置いた。
「あのクリフは狐の亜人だ。穏やかそうな見かけ以上に頭が回る。それにダルトワ侯爵も。父親への反発心を利用されてあの二人に巻き込まれている感がするんだよね。そして、本人もそれでも構わないと思ってるみたいで」
国王に刃向かうなら相応の旗印になる人間が必要だ。ドミニク三世が兄に対して挙兵したように。
……けれど、たとえ亜人を味方につけたとして、どれほどの人々がロラン王子に賛同するのか。彼は王弟時代にあちこちで人脈を積み上げてきた父と違い、社交の経験はなさそうに思える。
それが空振りに終われば多くの人々が巻き込まれるし、亜人への扱いはさらに悪化するのではないだろうか。
「だからって十三年前の再現はダメだと思う。国民同士が衝突する事態は……」
カミーユはそう口に出してから気づいた。
「……そうか、挙兵する前に終わらせれば良いのか」
「え?」
カミーユはドミニク三世が清廉潔白で亜人に対しても慈愛を向ける正義の人ではないと知っている。
……もしそうならば、あの時、あの処刑場であんなことを問いかけはしないだろう。
目の前で多くの人が吊られている場所で、あの中にお前の父や兄がいるのだと教えたりはしない。そうやってわたしを絶望させようと思ったのだろう。
カミーユは幼くて言葉の意味がわからなかった。だから父や兄がどこかにいるのかと問い返した。あとでそれに気づいてしまったのだけれど。
マルク王がこっそりと詩作の時に使っていた筆名を利用してわたしの母に近づいて【祝福】を得ようとしたり、母が手に入らなかったからとマルク王に奪われたという噂を流したりしていた。彼は優秀な噂雀を配下に持っている。
そうやって自分の手駒を増やしてきた。
即位してからは貴族たちの諍いが続いて思うように王宮の改革が進まなかったり、マルク王が手がけていた災害対策工事を中断させたせいで王都周辺が大水害に見舞われて、今でも復旧が捗っていない。
マルク王の部下を全て罷免した結果、そうした交渉に手慣れていた優秀な文官が王宮からいなくなったのも原因の一つだ。
その費用がかさんで増税を繰り返した結果、民衆からは不満も上がっているという。
わたしの父は彼の野心を知っていた。王位を狙っていることも。実際やってみればいい……というのは本心だったのだろう。
ドミニク三世はわたしの瞳の色を知って、兄が紛れもなく正統な王だったことを思い知った。だからこそ兄よりも結果を残さなくてはならないと気負っているはずだ。
我が子に王家の瞳の持ち主が出ないことも焦りになっているだろう。
……でも、だからと言って彼が隙を見せていると考えるのは早計だろう。
ドミニク三世はカミーユがアレクの妃になったことで、【祝福】については諦めているだろう。けれど、王家の瞳を持つ子が欲しいと思っているからには、まだ油断はできない。
そして領地で息子がやろうとしていたことに気づいている。
ダルトワ侯爵家の動きだってある程度予想はしているはずだ。
「……一体何をする気?」
「ロラン王子はわたしに協力を求めていたんじゃない。わたしが叛乱の旗印になることを求めていたんだ。父に濡れ衣を着せられた哀れな王女が仇を討つというのは、充分な名目になる」
もしかしたら王子だと薄々気づいているかもしれない。ヴェール越しでもカミーユがアレクと並ぶほどの長身だとわかるだろうし、私的な面談であっても頑なに姿を隠しているのも怪しまれる。
カミーユの存在はまだ、ドミニク三世の中では大きいのではないだろうか。それならそれで自分にもできることがある。
「それならわたしが叔父上の気をひいて、彼らが動きやすくすることはできるだろう。ひとまずはエドガー陛下にご裁可をいただかなくてはならないけど」
「……まさか」
「うん。わたしの立場を公表した上で、ダイモスを後ろ盾に王位を要求するとちらつかせる。卑怯な手だけど、これが一番あの人には効果的だ」
王子だと宣言すれば、そして、父の仇を討つためにダイモスを味方につけたとなれば、彼の眼はこちらに向かうだろう。
シーニュとこの国では明らかに軍事的な差がある。戦争ではシーニュには勝ち目がない。
その間に亜人を強制的に労役に就かせていたことが公表されれば、カミーユの結婚で一度は成立したダイモスとの和議が破綻する。
「国内で閉塞した問題の解決には外圧が効果的なこともある。わたしがこの国にいることでダイモスの主張も正当化できる」
「……それはそうだけど。でもまあ、叛乱や暴動で被害が出るよりはいいのか……」
アレクは心配そうに眉を下げていた。カミーユは肩に載せられたアレクの手を掴んだ。
「わたしはもう、あの光景を見たくないんだ」
国民が王を殺せと叫ぶ。そして国を守るはずの兵士が国民と戦って傷ついていく。自分の兄を嘘で追い込んで死に追いやる。罪のない幼い王子や王女も命を落とす。
……それをもう一度なんて、わたしには無理だ。だからわたしの手札を全て使ってでも止めなくては。
「……カミーユ。僕も協力するよ」
アレクはそう言ってカミーユを引き寄せた。
それはつまり、叛乱が起きるということだろうか。
「カミーユ。気分が悪いなら夜会は休んでもいいよ。僕一人でも大丈夫だから」
アレクがそう告げてくるくらいには、カミーユが落ち込んでいるのが傍目にわかったのだろう。
それでもカミーユは首を横に振った。
「そういうわけにはいかない」
ロラン王子が警戒するほどに、ドミニク三世は何らかの形で密偵を送り込んでいる可能性は高い。いくら我が子でも知られたくないことに首を突っ込んできていたのだから、監視はするだろう。今回の面談にしても危険を含んだものだった。
それを気取らせないためにもわたしは普段通りに人前に出なくては。
「あの……クリフ兄ちゃんと会うために、無理をしたんですか? だったらごめんなさい」
ノアが心配そうに問いかけてきた。彼はロランが何者なのかクリフから聞いたのかもしれない。カミーユの父を処刑した現国王の子だと。
「わたしは無理はしていないよ。ただ、ロラン殿下が少し心配なだけだ」
エルネストの話ではロランはクリフと駆け落ちをすると主張していたという。けれどカミーユたちの前だからかどうか、彼らの関係はそんな甘やかなものではないように見えた。
「そうだねえ……。彼は正義心からか亜人を救うって気負っているけれど、それが彼の幸福に結びつくとは思えないんだよ」
アレクはそう言ってカミーユの肩に手を置いた。
「あのクリフは狐の亜人だ。穏やかそうな見かけ以上に頭が回る。それにダルトワ侯爵も。父親への反発心を利用されてあの二人に巻き込まれている感がするんだよね。そして、本人もそれでも構わないと思ってるみたいで」
国王に刃向かうなら相応の旗印になる人間が必要だ。ドミニク三世が兄に対して挙兵したように。
……けれど、たとえ亜人を味方につけたとして、どれほどの人々がロラン王子に賛同するのか。彼は王弟時代にあちこちで人脈を積み上げてきた父と違い、社交の経験はなさそうに思える。
それが空振りに終われば多くの人々が巻き込まれるし、亜人への扱いはさらに悪化するのではないだろうか。
「だからって十三年前の再現はダメだと思う。国民同士が衝突する事態は……」
カミーユはそう口に出してから気づいた。
「……そうか、挙兵する前に終わらせれば良いのか」
「え?」
カミーユはドミニク三世が清廉潔白で亜人に対しても慈愛を向ける正義の人ではないと知っている。
……もしそうならば、あの時、あの処刑場であんなことを問いかけはしないだろう。
目の前で多くの人が吊られている場所で、あの中にお前の父や兄がいるのだと教えたりはしない。そうやってわたしを絶望させようと思ったのだろう。
カミーユは幼くて言葉の意味がわからなかった。だから父や兄がどこかにいるのかと問い返した。あとでそれに気づいてしまったのだけれど。
マルク王がこっそりと詩作の時に使っていた筆名を利用してわたしの母に近づいて【祝福】を得ようとしたり、母が手に入らなかったからとマルク王に奪われたという噂を流したりしていた。彼は優秀な噂雀を配下に持っている。
そうやって自分の手駒を増やしてきた。
即位してからは貴族たちの諍いが続いて思うように王宮の改革が進まなかったり、マルク王が手がけていた災害対策工事を中断させたせいで王都周辺が大水害に見舞われて、今でも復旧が捗っていない。
マルク王の部下を全て罷免した結果、そうした交渉に手慣れていた優秀な文官が王宮からいなくなったのも原因の一つだ。
その費用がかさんで増税を繰り返した結果、民衆からは不満も上がっているという。
わたしの父は彼の野心を知っていた。王位を狙っていることも。実際やってみればいい……というのは本心だったのだろう。
ドミニク三世はわたしの瞳の色を知って、兄が紛れもなく正統な王だったことを思い知った。だからこそ兄よりも結果を残さなくてはならないと気負っているはずだ。
我が子に王家の瞳の持ち主が出ないことも焦りになっているだろう。
……でも、だからと言って彼が隙を見せていると考えるのは早計だろう。
ドミニク三世はカミーユがアレクの妃になったことで、【祝福】については諦めているだろう。けれど、王家の瞳を持つ子が欲しいと思っているからには、まだ油断はできない。
そして領地で息子がやろうとしていたことに気づいている。
ダルトワ侯爵家の動きだってある程度予想はしているはずだ。
「……一体何をする気?」
「ロラン王子はわたしに協力を求めていたんじゃない。わたしが叛乱の旗印になることを求めていたんだ。父に濡れ衣を着せられた哀れな王女が仇を討つというのは、充分な名目になる」
もしかしたら王子だと薄々気づいているかもしれない。ヴェール越しでもカミーユがアレクと並ぶほどの長身だとわかるだろうし、私的な面談であっても頑なに姿を隠しているのも怪しまれる。
カミーユの存在はまだ、ドミニク三世の中では大きいのではないだろうか。それならそれで自分にもできることがある。
「それならわたしが叔父上の気をひいて、彼らが動きやすくすることはできるだろう。ひとまずはエドガー陛下にご裁可をいただかなくてはならないけど」
「……まさか」
「うん。わたしの立場を公表した上で、ダイモスを後ろ盾に王位を要求するとちらつかせる。卑怯な手だけど、これが一番あの人には効果的だ」
王子だと宣言すれば、そして、父の仇を討つためにダイモスを味方につけたとなれば、彼の眼はこちらに向かうだろう。
シーニュとこの国では明らかに軍事的な差がある。戦争ではシーニュには勝ち目がない。
その間に亜人を強制的に労役に就かせていたことが公表されれば、カミーユの結婚で一度は成立したダイモスとの和議が破綻する。
「国内で閉塞した問題の解決には外圧が効果的なこともある。わたしがこの国にいることでダイモスの主張も正当化できる」
「……それはそうだけど。でもまあ、叛乱や暴動で被害が出るよりはいいのか……」
アレクは心配そうに眉を下げていた。カミーユは肩に載せられたアレクの手を掴んだ。
「わたしはもう、あの光景を見たくないんだ」
国民が王を殺せと叫ぶ。そして国を守るはずの兵士が国民と戦って傷ついていく。自分の兄を嘘で追い込んで死に追いやる。罪のない幼い王子や王女も命を落とす。
……それをもう一度なんて、わたしには無理だ。だからわたしの手札を全て使ってでも止めなくては。
「……カミーユ。僕も協力するよ」
アレクはそう言ってカミーユを引き寄せた。
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