塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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 侯爵家の王都邸は貴族街の外れにある。王宮なみの敷地面積を有しているという。
 手入れのされた庭と豪奢な建物。それを見てアレクが首を傾げる。
「ダルトワ侯爵家って元々が王家の分家だったって聞いたけど、それにしたって凄い家だね」
「初代当主は第五王子であまりに欲がないためにさっさと臣下に下ったのだそうで。ただ、人望だけはあったので一門の者たちが盛り立ててきたのでしょう」
 バルバラがそう説明した。基本的に代々の当主は学問や魔法研究に熱心で、その研究成果で資金を得ていた。権力争いには関わらず、堅実に領地と領民を守ってきた。
 なので目立たないけれど資金力や軍事力は国内貴族の中でも一二を争う実力があった。
「外から見たらそうは見えないので侮られることも多いのですが」
「つまり甘く見て喧嘩売ってから痛い目を見るって感じ?」
 ドミニク三世ももしかしたらそうだったのかもしれない。侯爵家の中でも存在感の薄い光魔法が得意なだけの一門だと思って、甘く見ていたのだろう。
 エルネストに案内されたのはかつてカミーユの母シモーヌが使っていた部屋だという。ただ、調度品は落ち着いた色合いで女性の部屋にしては飾りが少なかった。カミーユのために改装したのだと得意げに説明してくれた。
「家具は入れ替えて二人で不自由なく使えるようにしておいたから。君が使うのならシモーヌ姉上も喜ぶだろうからね」
 エルネストは上機嫌で窓の外の景色を示した。
 確かに庭が一望できる。そしてそのさらに向こうには王都の街並みが見える。
 ……わたしの母はこんな景色を見て育ったのだろうか。
「……素敵な景色ですね」
 思わずそう呟くと、エルネストは満足げに頷いた。
 カミーユは今回の旅ではヴェールも何もつけていない。服装も男性のもので、髪はひとくくりにしているだけ。それなのにエルネストはカミーユの顔を見ても何の変化もなかった。
「叔父上はわたしの素顔をご存じだったのですか?」
「いや、マルク王陛下経由で聞いただけだよ。ただ、亜人が匂いで人を判別するように、魔法使いは魔力で人を判別するんだ。だから、顔を隠されてもカミーユが何者なのかはわかるんだよ。性別がどちらでもシモーヌ姉上の子だということには変わりないし」
 エルネストはあっさりとそう答えた。
「ただ、そう考える人ばかりじゃない。カミーユが王子だと知らされてから王宮は大騒ぎだよ。何しろマルク王を死に追いやった連中が王宮には揃っている。ダイモスの威を借りて父親の仇討ちに来るんじゃないかとか、王位を主張してくるのでは、と疑っている。だからちょっと火に油を注いでおいた。カミーユ王子は王家の瞳を持つ正統な王位継承者だと。そもそもドミニクが挙兵するときにやった手段だからね」
「……叔父上……」
 シーニュ王宮が突然現れた先代国王の遺児に混乱するのは予想していた。けれど、それをさらにエルネストは煽り立てていた。
 ……式典の前に謁見を申し込んでいるけど、何か大変なことになりそうだ。
「とりあえず、謁見の日程が決まるまではゆっくりしていくといい。頼まれたものは用意しておいたし、この家に手出しできるような魔法使いも軍人もいないからね。あ。そうだった。姉上の肖像画や遺品を集めたコレクション室があるんだけど、案内しようか」
 楽しそうなエルネストに断り切ることができず、カミーユたちはまるで博物館のように遺品を飾った部屋で延々と一品ずつ解説を受ける羽目になったのだった。

 式典が三日後に迫っていることから、王都には国内外から多くの人々がつめかけているという。すでにあちこちに露店ができていたり、旅芸人がやってきていたりと賑やかなのだそうだ。
 そんな中、カミーユとアレクは冒険者の服装に着替えてダルトワ侯爵邸を後にした。
 王都を出て王領となっているルフェーブルに向かうためだ。
 ダイモスから王都に向かって通った道を逆走することになるのだが、来る途中でルフェーブル領に一番近い森の中にアレクが転送魔法の術式を施していたので、ほぼ一瞬でルフェーブル近郊にたどり着いた。
 王宮での謁見が式典前日と決まったのでそれまでには戻る予定だ。
 ルフェーブル冒険者ギルドの近くに取った宿に腰を据えると二人は今後の予定について話し合った。
「リボーという地名は地図ではわからなかったけど、鉱山との距離を考えたらルフェーブル領の東部にあると考えていい。近くまで行ったら僕が鳥になって空から偵察してくる」
 アレクはそう言ってから地図の半分近くの空白を指差した。
 ルフェーブル領内で流通している地図を立ち寄ったギルドで手に入れたのだが、空白が多く、冒険者も鉱山地区には自由に出入りできないのだそうだ。領主だったドミニク三世が国王になってからは、腹心の代官が管理していて、周辺には監視の兵もいるらしい。
「多分魔法障壁もあるだろうけど、空には何もないはずだからね。カミーユはギルドで依頼を受けながら情報収集をしてほしいんだけど、揉め事には巻き込まれないでね」
「わかった」
 カミーユの髪色も瞳の色も目立たないように変えてある。軽い認識阻害がかかる魔法具の耳飾りもつけているので、ごく平凡な外見にしか思われないはずだ。
「……心配だなあ……。イキった冒険者が喧嘩売ってくるかもしれないけど、買っちゃだめだよ?」
「わかっている。わたしはまだ新米冒険者だからね、控えめにしているよ」
 カミーユがそう答えると、アレクは大げさに溜め息をついた。
 塔から出てから人と接することにも慣れてきたし、もう幼子ではないのだから言われたことくらいちゃんと守れるのに。
 カミーユはちょっと不満だった。
 窓から飛び立ったアレクを見送ってから、カミーユは「控えめに」とつぶやきながら依頼をこなすために出発した。
 けれどそのアレクの危惧は現実になってしまうのだった。

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