塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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 さすがに晩餐前でまだ外も明るくて、誰が訪ねてくるかわからない時間だったので、忙しなく口づけを交わして抱き合うだけしかできなかった。それでもアレクが求めてくれることでカミーユの心も落ち着いてきた。
 ……アレクの伴侶が足りない病がうつってしまっただろうか。
「……まだ足りないけど続きは夜だね。可哀想だけどトニは別室で寝てもらおうかな」
 ルフェーブルで保護したトニはカミーユにすっかり懐いてカミーユたちの寝室で眠ることが多かった。それでアレクのイチャイチャが足りない発言になってしまったのだけど。
「ノアに頼んでみるよ。……ごめんね」
「いや、謝らなくていいよ。カミーユが小さい子といるのを見ると和むから」
 それを聞いてカミーユはアレクも子供が好きなんだろうか、我が子が欲しいと思っているのだろうか、と疑問を抱いた。
 アレクが弟のグラントリーの即位を望んでいたのは、自分が鳥の民の血が強く出たことで支持を得られないと思っていたからだろう。王太子選びの儀式で自分が勝ち残れないと思っていたのだろうし。
 カミーユが問いかけようとする前に、アレクは微笑んでカミーユの頬にキスを落とした。
「カミーユの目はとてもお喋りだね。僕はね、自分の子供は欲しいと思えなかったんだ。鳥の民であることは嫌じゃないけど、王族として苦労することは身を以て知っているから。もし自分の子供が……って思ったら。だからグラントリーを養子にすることはカミーユと出会うずっと前に決めていたんだ。その気持ちは今も変わってない」
「……そんなに顔に出ていた?」
「うん。だけど、カミーユがこの国の国王になるのなら、問題が出てくるかもしれないのもわかってる。でも、だからって僕を捨てないでよね? だってこの国は人族が作った国だし、次代が亜人との混血はどうなのかって思うんじゃないの?」
「え?」
 悲壮な顔でアレクがまくしたててくるのをカミーユは混乱しながらただ見つめるしかなかった。
 ……あれ? 思っていた反応と違う。
 カミーユはその違和感の正体がすぐに理解できなかった。
「そうしたらやっぱり僕を捨てて人間の伴侶が欲しくならない? それだけはやめてよね。泣くからね?」
 カミーユはアレクが微妙な曲解をしていることに戸惑った。
「わたしがアレクに愛想尽かされることがあっても、その逆はないよ」
 塔の中で生涯を終えると思っていた自分が、今祖国の国王になろうとしている。
 ここに連れてきてくれたのは目の前にいるアレクだ。
 彼があの日、塔に迷い込んでこなければ、わたしは自分で命を絶っていたかもしれない。
 それともバルバラと逃げ出して追っ手に怯えながら生きていただろうか。
 きっと今のように人前に出ることはなかっただろう。
「アレクはわたしを外に羽ばたかせてくれた翼だと思う。アレクがいなければわたしは頑張れないよ」
「……僕は非力な小鳥にしかなれないよ。君を飛ばせてあげられるかな」
「もちろん。わたしにはアレクが必要だよ」
 カミーユがしっかりした口調で念を押すとアレクがぎゅっとカミーユを抱きしめてきた。
「それに、わたしはシーニュの王が人族でないとダメとは思わない。ドミニク叔父上のことで思ったんだ。正しい王というのは何なのかと。王は神から任じられた統治者だ。極端なことを言えば王家の血を引いているということすら、必須だとは言われていない。わたしのこの瞳の色だって必須じゃない。叔父上はわたしの父を不義の子だと決めつけ、王家の瞳の持ち主こそが正しいという妄執から、王位を簒奪しようと考えた。けれど、本当はそんなことで『正しい王』が決まるわけじゃないのではないかな。だからわたしの次代のことはこれから考えればいいんだ」
「カミーユ……」
 先代国王マルクは父親にまったく似ていなかった。それでずっと王妃が不義を働いたのだという噂に苦しめられた。それもドミニクを即位させようとする派閥がやったことなのだろう。そして、それに支えられたドミニクもそれが正しいと思っていた。
 だから、わたしの瞳の色を見て、自分の間違いに気づいた。わたしの父上が不義の子ならわたしがその瞳の色を持つはずがないのだから。けれど王女は殺さないという自分の出した処罰を変えることもできなかった。
 ……自分は正しくないのではないか、という疑念が彼をずっと苛んでいたかもしれない。
「わたしはね、正しい王になりたいわけじゃない。父が目指していたことをほんの少しでも引き継いで完成させて、次代に渡せればいいんだ。そうしたらさっさと譲位してアレクと冒険者をやりたいな」
 アレクもグラントリーが成人するまでは王太子を務めて、その間にエドガー王に何かがあれば即位することになるかもしれないが、その後はグラントリーに譲るつもりらしい。
「それはいいなあ。その頃にはグラントリーも大人になってるだろうし、後のことは任せて……」
 アレクが力の抜けた笑みを浮かべる。
 そうして二人どちらからともなく顔を寄せ合ったところで、パタパタと軽い足音が近づいてくる気配がした。
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