塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

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第四部

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大破した王宮はすぐに復旧ができるはずもなく、応急措置だけを施すことになった。
 記念式典関連の晩餐会や舞踏会に使われる会場は謁見の間から遠いこともあって支障はないらしい。
「一応魔法で修復できるところはやっておいたし、破損したところには視覚阻害かけてきたから」
 アレクはそう言ってエルネストと忙しくあちこちに出かけている。カミーユたちはダルトワ侯爵邸に戻ってきたが、記念式典の冒頭で戴冠式をするからと文官たちが説明にやってきたりと慌ただしくなった。
 いきなり即位するという羽目になったけれど、ドミニクに指摘されたように自分にはそれにふさわしい教養がないのだろうかとカミーユはふと疑問に思った。
 バルバラにそれを訊ねると平然とした顔で断言された。
「一応必要な教養は淑女教育に混ぜておきましたから、問題ないでしょう」
「……いや、その基本が淑女教育って……」
「どこで誰が監視しているかわからないので、淑女教育ということにしておいただけです」
 実際は王族に必要な分野も覚えこまされていたらしい。
「カミーユ様に足りないものは人生経験でしょう。知識や教養などどうにでもなりますが、さまざまな人の考え方を知ることが一番重要でしょう。そのために、婆はカミーユ様を人の言葉をちゃんと聞くことができるようにお育てしたつもりです」
 確かに人と接する機会が少なかったから、自分に足りないのはそれだろう。というか素直に人の言葉を聞くもなにも、バルバラの力に圧倒されて言いくるめられてきたの間違いのような気もするけれど……。
 バルバラはいつカミーユの立場が復権されるかもしれないと言っていた。だからこそカミーユにいろいろなことを叩き込んだのだろう。それを生かしきれるかはわたしのこれからの選択にかかってくる。
 そう思いながら頷くカミーユにバルバラはふっと満足げな笑みを浮かべた。
「……幸運の神様は準備ができている人を選ぶのです」

 カミーユが侯爵邸に戻ったと知ってかロランからの面会申し込みが来た。
 彼の身分は王子ではなくルフェーブル公の長男に戻された。ドミニクは現在貴人用の牢に収監されて監視下にあるという。彼もまた行動に制限がつけられているが、エルネストが何とかとりなしてくれているらしい。
「シーニュの光たる陛下にご挨拶申し上げる」
 そう言って臣下の礼を取ろうとするロランにカミーユは首を横に振った。
「どうか、今まで通りに。この場は私的なものですから、気兼ねは必要ありません」
「ありがとうございます。父のこともお礼申し上げます。あのまま放置していればこの国はどうなっていたことか」
「……放置? 瘴気のことですか?」
「瘴気の影響というのがどこまでなのかはわかりませんが、王宮内でおかしな言動をする者が増えていたのは事実のようです。父も王宮で暮らすようになってから頑迷になり、人の言葉を聞かなくなったと言っている臣もいました。政務は滞り予算すらまともに立てられていない有様だったと、ダルトワ侯爵から聞いています」
 十三年前、王宮はドミニク即位を支持してきた貴族たちが台頭して、大きく人が入れ替わった。内政でも外交でも躓くことが増えたのはそのせいだろうとカミーユは思っていた。
 ……いきなり権力を得たことと、瘴気の影響とでおかしくなっていたのだろうか。
 そうしていずれは集めた瘴気が逆流して王都に広がっただろう。
 亜人の少ないこの国でそれは致命的な被害をもたらしたはずだ。
「許されるのなら、今後はルフェーブルで起きた瘴気による疫病の調査結果を公表し、対策を考えていこうと思っています。瘴気は他人事だと思っている民も多いでしょうが、実際いつ瘴気溜まりができるかはわからないのです。ですが瘴気を浄化できる王が立つことで、救いになるでしょう」
「ご立派だと思います。もう亡命だなんて言い出さないですよね?」
「そうですね。弟も躾け直さなくてはいけないですし、ルフェーブルで保護した亜人たちの生活も建て直さなくてはなりません。……ただ、ちょっと困ったことが一つ」
 ロランは穏やかに微笑んだ。
「この国では同性婚が認められていないので、そこを何とかできませんか? 国王陛下」
「……ではそれを最初の仕事にします。わたしも結婚を認めてもらわなくてはこまりますし」
 カミーユは大きく頷いた。
「亜人のことも、ダイモスで力がないことで生きづらかったため移民になったと聞いています。だから彼らと人族が共存できるようにしたいと思っています。ルフェーブルの冒険者ギルドではお世話になりましたし。それにわたしの夫もダイモスの力こそ全てという考えを変えていきたいと望んでいます。そうすれば二つの国で足並みを揃えることができるでしょう。人も亜人も生きやすいように」
 カミーユの父は亜人と人族の融和政策を執ろうとしていた。そのためにディマンシュの領主と協力して亜人街を作り、関係改善を狙っていた。
 ……だからわたしもそれは受け継ぎたい。これはアレクの伴侶としてもしなくてはならないことだから。
「……難しいでしょうけれど」
 わたしの代だけでは完成しないかもしれない。それでも父が望んだことを受け継ぎたい。
 亜人と人族が差別や力による抑圧で分断されないように。お互いを認めて平穏に過ごせるように。

 ロランが帰ったのと入れ違いでアレクが戻ってきた。
 カミーユはトニとお茶を飲んでいたがすごい勢いで走ってくる足音にびくりと顔を上げた。
「……もう無理。カミーユが足りない」
 そう言ってカミーユに抱きついてくる。トニが呆れたような目を向けている。
 五歳児に呆れられているんだけど、アレクはこれが通常なんだよね……。
 遅れて入ってきたノアが黙ってトニを連れて行ってくれた。
「ごめんね。アレクはお客様でこの国に来てるのに、あれこれ使ってしまって」
「それはいいんだ。カミーユが戴冠するならもう全部僕が演出したいくらいだからね。戴冠式なんて一生に一度だからね? ただ、全然イチャイチャできないのが辛いだけ」
 良かったトニを連れていってくれて。ノアには感謝しておこう。
 カミーユはそう思いながら重なってくる唇を受け入れた。
「わたしもアレクとたくさん『会話』したいよ」
 そう言いながら彼の背中に手を回した。
 ……わたしもアレクが足りないのかもしれない。色々ありすぎて頭の整理がおいつかない。彼に甘やかされたい。
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