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第62話 看過できない事態

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異国からの客人として、飛び入りでのパーティ参加をさせてもらう。

人のいい笑顔のリオンはすぐに打ち解け、その横でマオはニコニコと話を聞いていた。

言葉がわからないといった素振りをして会話には混ざらない。

アドガルムへの印象を良くしようとリオンが話をしている横で、マオは絶えず笑顔を保ち、皆を見ている。

マオがいるからか、リオン狙いの令嬢方は一歩引いて話をしてくれていた。

露骨に邪魔だという顔はされているが。

些かこの空気にうんざりしていたマオはここからの脱術を図る。

「少々お花摘みに行ってまいります」
リオンは談笑している為、カミュにこそっと話をして、マオはその場からいなくなる。

リオンが追いかけようとしたが、令嬢方に囲まれて身動きが取れなくなっていた。






「息が詰まるのです」
一人になった空間でマオは息を吐いた。

頬が作り笑顔のせいで突っ張っている。

「何が他の王女より仕事が少ないですか! 滅茶苦茶大変な仕事なのです!」
アドガルムの味方を増やすための大事な外交だ。

マオも不機嫌な顔など出来ないため終始笑顔で付き添っていたが、そろそろ顔が痛い。

鏡の前でマッサージをしていると、妙な違和感を感じる。

「誰ですか?」
人の気配に声を掛ける。

『一人になるとは不用心だ』
こちらの国の言葉だ。

そこにいたのは緑の髪をした大柄な男、ティタンやグウィエンで見慣れているとはいえ、この場所にそんな者がいることにマオは警戒心を強くする。

(なぜこんなところに)
マオは身構えた。

『知略に長けた王子と聞いていたが、斯様に平気で妻を一人にするとは……噂は当てにならぬな』
男は呆れたようなため息をついていた。

失望したような顔だ。

「生憎とぼくが一人になりたくて抜け出してきたです」
刺客が来ることは想定していたが、男なんて。

「何も分からなかったのではないのか……」
ギルナスはマオの言葉に驚いた。

「話さないだけです。返す必要もないかと思ったのですが、ペラペラと自分で刺客だとわかるような事を言うとはびっくりです」
マオは警戒を怠らず、すぐに逃げられるように足に力を入れる。

「普通女子トイレまで入ってこないです、デリカシーのない男ですね」
マオの言葉にギルナスはメイスをどこからか取り出した。

「殺す気?!」
レナンとミューズの話からでは生け捕りかと思ったのだが、あんな大振りな武器で殴られたら、マオなど一撃だ。

「いや、逃さないだけだ」
退路を立つ為にギルナスは立ちふさがった。

その後ろから小柄な少女が現れる。

「一緒に来てもらうわ。人質よ」

「行くわけ無いです、お断りです!」
シャアっと威嚇するように歯をむき出しにして怒った。

「痛い目を見てからの方がいいかしら」
イシスはギルナスに目を向ける。

「そうだな」
ギルナスは軽くメイスを振った。

すかさずマオは防御壁を張り、後ろに飛ぶ。

マオはギルナスに殴られたその勢いで壁に叩きつけられるが、無傷であった。

「防御したか」
手応えはあったが、怪我のないマオを見て眉を潜めた。

「当たり前です、そんなのいちいちまともに受けていられないのです」
ギルナスの攻撃は速いし重い、まともに受けたら骨が折れそうだ。

防御壁を張り、尚且つ後ろに飛んでダメージの軽減を図った。

今のマオでは、この狭いところでギルナスをかい潜って逃げられる気がしない。

「今度は防御壁ごと壊すだけだ」
ギルナスが再び構え、近づいてくる。

「非常にまずいです」
もはやマオにはどうしようもない。

タイムオーバーだ。







「僕の妻に何をしている」
リオンが堂々とドアを開けてきてしまった。

出来れば来てほしくなかった。

「ここには呼びたくなかったですね」
助けに来てくれてありがたいが、場所が女子トイレなんて。

本当に申し訳ない。

「非力な第三王子か」
ギルナスの言葉にもリオンは動じない。

「人の妻を殴っておいて、更に失礼な事を言うのだね」
リオンは指を鳴らし、無数の蜘蛛を呼んだ。

「なんだ、これは?」
ギルナスは蜘蛛を振り払い、潰して行く。

「潰しちゃダメ!」
イシスの忠告は遅かった。

蜘蛛の体液が、ギルナスの皮膚を溶かす。

強力な酸が筋肉までも溶かし、ギルナスはあっという間に血塗れとなる。

イシスが直ぐ様回復魔法をかけるが、蜘蛛はどんどん沸いて出る。

治すそばから体にまとわりつく蜘蛛に傷をつけられていった。

本物の蜘蛛ではなくリオンの魔力を変化させたものだが、視覚的にはこれはキツイ。

わさわさと動くそれは苦手な者にはつらい光景だ。

「何だこれは?」
防御壁も破り、体に纏わりついてくる。

「ぐっ!」
マオを盾にしようと振り向くも、既にそこにはいない。

「馬鹿な!」
進路はギルナスが塞いでいた。

蜘蛛の攻撃を受けていても、かい潜れるわけはない。

「下がガラ空きですよ」
カミュがマオを影渡りの魔法で助け出す。

リオンを女子トイレに入れるわけにはいかないから、カミュはその機会をずっと伺っていた。

「あいつを仕留めて!」
イシスの声にギルナスは血塗れの腕で、メイスをリオンに向かって振り下ろす。

蜘蛛を振り払えないのならば、術者を仕留めればいい。

防御壁も効かず、潰すことも出来ないならば、得体のしれないこの攻撃を止める為にリオンを殺した方が早い。

「リオン様!」
ギルナスは体格に似合わず、速い動きだ。

カミュの叫び声が響いたが、リオンは身体強化をかけて避ける。

だが、ギルナスの攻撃は止まらない。

「ティタン兄様よりは、遅いな」
リオンの蹴りがギルナスの側頭部を打つが手応えは少ない。

(硬い。だけど)
単純に威力と速度をあげれば済む。

足先だけに魔力を集中させ、蹴りつける。

「つっ!」
防御した腕がビリビリと痛むが、ギルナスはそれでもメイスをリオンに向けて叩きつけた。

「リオン様!」
当たったかのように見えたが、防御壁で弾く。

(亀裂が入るなんて……弱い魔力じゃうち破られそうだ)

魔力を繰り出し、更に蜘蛛をギルナスに纏わせる。

しかしいくら傷付いてもギルナスは怯まずリオンに襲い掛かる。

(激痛で狂ってもおかしくないのに、狂戦士か?)
リオンはギルナスのメイスをかいくぐって、蹴りを繰り出す。

メイスを持つ手を狙うが、ギルナスがなんと自らメイスを離した。


「?!」
武器を手放したギルナスはリオンの足を掴み、持ち上げた。

(これはもしかして、ピンチ?)
逆さまになった頭で、リオンはどこか他人事のように思っていた。

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