ダンジョン管理者~氷の魔族と少女と使い魔にゃんこ〜

しろねこ。

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第1話 ダンジョン視察

「ぎゃあ!!」
 血の匂いと悲鳴がベルフィリオの耳に響く。

「全く、鬱陶しいな」
 剣についた血を振り払いながら、ベルフィリオは前を見据えた。

 ダンジョンにはまだ入ったばかりなので、まだまだ道のりは長く、待ち受けている魔物や罠を掻い潜ってダンジョンの奥に行く事を考えると、進むが憂鬱だ。

「頑張りますにゃ、主《あるじ》様。魔王様からの直々の命令にゃんですから」
 ベルフィリオの肩の上でキトンは明るい声で励ましてくる。

 そのモフモフの体を撫でながらベルフィリオは再度ため息を吐いた。

「やっと下っ端の仕事から解放されたのに、こんな面倒な仕事をしなければならないなんて……これなら前の仕事の方がマシだったな」
 そうぼやきつつもベルフィリオは足を進めた。

 キトンが出してくれた明かりを頼りに、ベルフィリオは最深部を目指す。

 ベルフィリオの目的はダンジョンの視察だ。

 あちこちに目を配り、要所要所をチェックしながら進んでいく。

 気温や湿度、出てくる魔物が強すぎないか弱すぎないか……様々なメモと感想を紙に書き殴った。

(適度に入り組んでいて進みづらいところもあるな。おおむね理想的な作りだ)
 進みづらくても進みやすくても困る。それではダンジョンに人が集まりづらくなるからだ。

 適度に人間に来てもらうようなダンジョンを作らなくてはならない。

 ここは人間を捕食するためのものなのだから。

 その為に随所に宝や財宝を配置し、適度に人に恩恵を与え、飽きさせないようにしている。

 ハイリスク、ハイリターンの仕組みに踊らされ、来る人間は後を絶たない。

 ベルフィリオはダンジョンがきちんと機能しているかの確認と、献上品を受け取る為にここに来ていた。

「慣れないダンジョンマスターだと作るだけで終わってしまうが、ここはなかなか良いな」
 効率的なダンジョンの作り方を教えるという仕事もしなくてはならないが、ここの作りはおよそ問題はない気がした。

 程よい湿気や薄暗さも、このダンジョンのコンセプトに沿っている。

「さっさと終わらせよう、この姿からも早く解放されたい」

「そうですかにゃ? 結構似合ってますにゃ」
 ベルフィリオは仕事でダンジョンを訪れる際は、人間の姿へと変化するのだが、いまだ慣れず落ち着かない。

 人間に変化する理由として、魔族の姿で他の人間と会って、余計な争いをしない為というのがある。
 他にも、人と同じように進んで魔物や罠の質が本当に問題ないかを調べる仕事もしているのだが、その為に魔物と戦ったり罠にかかったりすることは、正直めんどくさい。

「今回は随分家から遠くになってしまったしな。とっとと帰りたいものだ」 
 折角昇進に合わせて家も購入したのに、なかなか家に帰る事が出来ない。

(こんな遠くに来るなんて、一体いつ帰れるのやら)
 埃まみれになっていたらホームクリーニング代を請求してやると、つい愚痴が零れてしまう。

 文句を言いつつ進んでいくと、人間の声がしてきた。

(何やらもめているようだな)
 聞こえてくるのは怒声と謝罪の言葉。

「ったく、毎回毎回罠に嵌って……いい加減にしろ!」
 怒鳴られているのは若い女のようだ。

「すみません! でも、危ないから解除した方がいいかなぁって思って……」
 少女はぺこぺこと頭を下げ、小さな声で弁解している。

「いちいちやってたらキリがない、それにその罠の音で更にモンスターも来るんだぞ。そうなった方がもっと危ないじゃないか!」
 不機嫌そうにいう男に追従して、他の仲間らしき者達も口々に文句を言う。

「こんなんじゃ全然進めないわ。私たちは今回ここのダンジョンのボスを倒しに来たのよ、こんなペースでは他のパーティーに横取りされちゃうじゃない」

「はい……」
 叱られて少女はしゅんとうなだれる。

「とにかく、次何かしたら置いていくからな!」

「そ、それは困ります」
 先を進む男性たちに置いていかれないよう、少女は懸命にその後を追いかけ走る。

 その光景を見届け、ベルフィリオは苦い顔になる。

「とんだ修羅場でしたにゃあ」

「本当だな。まぁ人間のことなどどうでもいいが」
 二人は気持ちを改めて、ゆっくりと周囲を観察しながら進んでいく。しばらく進むと道が二つに分かれていた。

「この先はどうなっているだろうか」
 ベルフィリオは肩に乗るキトンを撫でながら、次の行く先についてを尋ねる。クンクンとキトンは鼻を鳴らすと、すっと前足を上げた

「次はこっちですにゃ。さっきの人間たちはあっちに行ったようですが、魔物の匂いが少ないから恐らく罠が多いと思いますにゃ」
 キトンは男達が進んでいったのとは別の方を促した。

「ふむ……」
 ベルフィリオは、男たちが進んだ方を選ぶ。

「主様、なぜこっちに?」

「こちらなら人間たちが罠を解いているだろうからな。その方が早いだろうと思ったのだ」
 先行したものがいれば少しは罠も少なくなっているだろうと、ベルフィリオはあえて進んでいく。

「にゃるほど、まぁそういうのもありですにゃね」
 キトンはベルフィリオの頬に、体を擦り付ける。

「それに、先程の行く末も気になる」

(罠にあったら、本当に置いていくのか? まさかな)
 ベルフィリオは足を進める。

 先に進むと、壁に矢が突き刺さっていたり、壁が焦げていたりと、ところどころ罠が発動した後が残っていた。

 ベルフィリオがそれらを一瞥しながら歩いていると、二人を狙い、どこからか矢が飛んできた。

 キトンの首についた石が赤く光ると、二人の周囲で風が渦巻いて、矢をはじき返す。

「ありがとう、キトン」

「いえいえ、これもぼくの役目ですから。ただ罠はなかなか読めないから、困るにゃよ」
 キトンの鼻をもってしても、罠の配置を知るのは難しいらしい。

「当たったところで死ぬわけではないが、いちいち躱すのは面倒ではあるな。安全に作動できるような対策を考えなければ……ん?」
 ベルフィリオは、先の道にぽっかりと穴が開いているのに気がついた。

「さっきの奴らが落ちたのか?」
 覗いてみると、そこにいたのはさっき仲間ともめていた少女だ。

「おい、大丈夫か?」

「た、助けてください……」
 穴に中にある壁に捕まってこらえている少女の下には、鋭いものが見える。

 なんとか串刺しを避けている少女を見て、ベルフィリオはため息を吐いた。

「本当に置いていくとは……人間とは全く、どうしようもない生き物だ」
 ベルフィリオは穴の中に身を乗り出して、腕を伸ばす。何とか少女の腕を掴んで引き上げた。

「大丈夫か?」

「はい、おかげさまで、助かりました」
 そう言うと、肩で息をしながらぽろぽろと涙を流し始める。

「本当に、死んじゃうかと思った」
 そうしてわんわんと泣くものだから放っておくわけにもいかず、ベルフィリオは少女が落ち着くまで、その場を離れる事が出来なかった。


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