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第4話 初依頼
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許可を得られたから後早速仕事、と思うが、このままではまだ客は来ないだろう。
夜のお客さんたちは口コミで、かつ顔を見られない匿名の高さが売りだから、よく来てくれていた。
昼の客層はまた違う。
皆が見ている中で来るのだから、冷やかし、気休め、時間潰し……そうあう目的のものも来るだろうな。
(目的は何だっていいさ、来てくれればそれでいい。でももし来なかったら……)
そうなったらひと月でここを退去することが即決定してしまうだろう。
自慢ではないが腕はある。
ただ肝心の客が来ない事には稼げない。
もっと宣伝をしなきゃだがどうする?
ビラを配る? それとも客引きか?
いやいやビラを作るのも金も時間もかかる。
紙だって安くないし、完成を待っていたら平気で二週間は過ぎるし、払う余裕はない。
客引きで来るか? そもそも俺は口下手だし人見知りだ。
どうしたら昼も営業しているって広く知ってもらえて、客を呼び寄せられるか。
このままこうしていても仕方ないと俺は一旦外に出た。お腹もすいたし、仮眠用に毛布なども欲しい。
家がない限りは店で寝泊まりするようになるだろう。その許可は取っていないが、何、準備中の札でも掛けとけばバレないだろう。
街に来れば色々な商売をしている者が目に付く。
自分が同じ立場になったからか、凄く気になった。
(皆こうして店を持つようになるまで、苦労したんだろうな)
売れるようになるまで、顧客を得るまでどれくらいかかったんだろうか。
店を構えるまでいくらくらい貯めたのだろうかと。
売れなかったらどうするのだろうかとか、良くない方向に考えが行き、頭を振ってその考えを振りほどく。
(幸先が悪くなりそうだ、もっと良い方向に考えないと)
借りた場所には調理する場などないので、簡単に食べられる出来合いのものやパンを買って帰る。
他は保存の聞く物を。外出も時間の無駄になるからな。
そうして借りた部屋で今後の事を考えていると、ギルドの職員が見に来た。
「シアさん、今大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
齧っていたパンを水で流し込み、俺は声を掛けてくれた子に向き直る。
来たのはギルドの受付嬢をしているリジーだ。
明るく元気で可愛らしいと評判だ。
リジーは少し言いにくそうにしながら話があると伝えてくる。
「実は相談があって……もちろん依頼料は払います」
これは本業にしてからの初依頼にあたるだろうか。
買ってきたものを片付け、椅子に座る様に促し、ドアを閉める。
そして話しやすいように仕切りの向こうへ移動し、蝋燭の明かりだけを残し、部屋を若干暗くした。
話に集中してもらうためだ。
「一応料金表」
念の為に渡すがリジーはくすりと笑って返してくる。
「知ってますよ。最初借りに来た時にどういう内容の商売をするのかって企画書を提出してもらいましたし、その後の計画書もきちんと見てますから」
目を通してもらえているとは思っていなかった。
まぁ料金部分は基準が分からず相談もしに行ったし、おかしな商売の仕方では賃料の不払いの可能性もあるから見てくれたのであろう。
こういう形のない商売って料金の基準が難しいよなぁ。
「それで俺に何の相談を?」
知った仲なので砕けた口調で話しかける。
少し間が空いた後、リジーは話し始めた。
「恋の相談をしたいんです」
「恋」
今の俺にはお嬢様の事が思い出されて少し気持ちが重くなる言葉だが、仕事だから仕方ない。
「あたし今付き合っている人がいるんですけど、その人とこれから幸せになれるのかどうか知りたくて」
お嬢様と似たような相談だな。
「なるほど。じゃあちょっと手を貸してくれ」
おずおずと差し出された手を俺はそっと触った。
……手袋越しだからまだいいけど、これが嫌だって女性は出そうだな。もう少し分厚い手袋の方がいいかもしれない。
魔法を使えばリジーの指から赤い糸が伸びていく。
まぁまぁしっかりした太めのものだ。
それに触れると相手の男が見えてくる。
(幸せになれそうだが……)
だが男の横には別な女性が見える。
もう少し探る必要がありそうだ。
「マナって名前の女性を知ってる?」
「あたしの友達ですけど」
リジーの不安そうな声を聞いて、嫌な予感はするが相手の男性を通してもっと探ってみよう。
リジーの恋人の名はリュート。どうやら彼らは二人で買い物をしているようだが……。
「なるほど」
急に俺が大声を出したから、リジーは驚いて体をビクッとさせる。
「大丈夫、今の彼と結婚して幸せになれるよ。勿論二人の努力もある程度必要だけど」
この言葉を付け加えないと大変な事になる。
占いの言葉が全てとして努力を怠ると、未来はあっという間に変わってしまうからだ。
未来の事はあくまで予測。行動次第ですぐに変わってしまう。
「よかった……でも何でマナの名前が出たんですか?」
「気になるところだけど、そこはもう少ししてから教えようかな。大丈夫悪い意味ではないよ」
二人はリジーの為にプレゼントを買いに行ったようだ。リュートがプロポーズするための指輪を見るために女性の目線を参考にしたらしい。
(二人きりかと思ったけれどそうではないし)
よくよく見ればマナの恋人も側にいる。皆仲が良さそうだ。
とんだサプライズを企画しているようだが、これをリジーに言ったら彼らの計画が全て台無しになってしまう。
それだけは避けたい。
「彼を信じて待っているといい。絶対に幸せになるから」
「……はい!」
俺の言葉を信じてくれたようで、リジーは料金を置いて清々しい顔で出て行った。
後日リジーが盛大な求婚サプライズを受けて、俺もパーティに呼ばれる事となる。
「シアさんの言葉を信じて待つことが出来ました。問い詰めて喧嘩にならなくて良かった」
良い後押しとなったようだ。
初依頼が成功して良かった。
夜のお客さんたちは口コミで、かつ顔を見られない匿名の高さが売りだから、よく来てくれていた。
昼の客層はまた違う。
皆が見ている中で来るのだから、冷やかし、気休め、時間潰し……そうあう目的のものも来るだろうな。
(目的は何だっていいさ、来てくれればそれでいい。でももし来なかったら……)
そうなったらひと月でここを退去することが即決定してしまうだろう。
自慢ではないが腕はある。
ただ肝心の客が来ない事には稼げない。
もっと宣伝をしなきゃだがどうする?
ビラを配る? それとも客引きか?
いやいやビラを作るのも金も時間もかかる。
紙だって安くないし、完成を待っていたら平気で二週間は過ぎるし、払う余裕はない。
客引きで来るか? そもそも俺は口下手だし人見知りだ。
どうしたら昼も営業しているって広く知ってもらえて、客を呼び寄せられるか。
このままこうしていても仕方ないと俺は一旦外に出た。お腹もすいたし、仮眠用に毛布なども欲しい。
家がない限りは店で寝泊まりするようになるだろう。その許可は取っていないが、何、準備中の札でも掛けとけばバレないだろう。
街に来れば色々な商売をしている者が目に付く。
自分が同じ立場になったからか、凄く気になった。
(皆こうして店を持つようになるまで、苦労したんだろうな)
売れるようになるまで、顧客を得るまでどれくらいかかったんだろうか。
店を構えるまでいくらくらい貯めたのだろうかと。
売れなかったらどうするのだろうかとか、良くない方向に考えが行き、頭を振ってその考えを振りほどく。
(幸先が悪くなりそうだ、もっと良い方向に考えないと)
借りた場所には調理する場などないので、簡単に食べられる出来合いのものやパンを買って帰る。
他は保存の聞く物を。外出も時間の無駄になるからな。
そうして借りた部屋で今後の事を考えていると、ギルドの職員が見に来た。
「シアさん、今大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
齧っていたパンを水で流し込み、俺は声を掛けてくれた子に向き直る。
来たのはギルドの受付嬢をしているリジーだ。
明るく元気で可愛らしいと評判だ。
リジーは少し言いにくそうにしながら話があると伝えてくる。
「実は相談があって……もちろん依頼料は払います」
これは本業にしてからの初依頼にあたるだろうか。
買ってきたものを片付け、椅子に座る様に促し、ドアを閉める。
そして話しやすいように仕切りの向こうへ移動し、蝋燭の明かりだけを残し、部屋を若干暗くした。
話に集中してもらうためだ。
「一応料金表」
念の為に渡すがリジーはくすりと笑って返してくる。
「知ってますよ。最初借りに来た時にどういう内容の商売をするのかって企画書を提出してもらいましたし、その後の計画書もきちんと見てますから」
目を通してもらえているとは思っていなかった。
まぁ料金部分は基準が分からず相談もしに行ったし、おかしな商売の仕方では賃料の不払いの可能性もあるから見てくれたのであろう。
こういう形のない商売って料金の基準が難しいよなぁ。
「それで俺に何の相談を?」
知った仲なので砕けた口調で話しかける。
少し間が空いた後、リジーは話し始めた。
「恋の相談をしたいんです」
「恋」
今の俺にはお嬢様の事が思い出されて少し気持ちが重くなる言葉だが、仕事だから仕方ない。
「あたし今付き合っている人がいるんですけど、その人とこれから幸せになれるのかどうか知りたくて」
お嬢様と似たような相談だな。
「なるほど。じゃあちょっと手を貸してくれ」
おずおずと差し出された手を俺はそっと触った。
……手袋越しだからまだいいけど、これが嫌だって女性は出そうだな。もう少し分厚い手袋の方がいいかもしれない。
魔法を使えばリジーの指から赤い糸が伸びていく。
まぁまぁしっかりした太めのものだ。
それに触れると相手の男が見えてくる。
(幸せになれそうだが……)
だが男の横には別な女性が見える。
もう少し探る必要がありそうだ。
「マナって名前の女性を知ってる?」
「あたしの友達ですけど」
リジーの不安そうな声を聞いて、嫌な予感はするが相手の男性を通してもっと探ってみよう。
リジーの恋人の名はリュート。どうやら彼らは二人で買い物をしているようだが……。
「なるほど」
急に俺が大声を出したから、リジーは驚いて体をビクッとさせる。
「大丈夫、今の彼と結婚して幸せになれるよ。勿論二人の努力もある程度必要だけど」
この言葉を付け加えないと大変な事になる。
占いの言葉が全てとして努力を怠ると、未来はあっという間に変わってしまうからだ。
未来の事はあくまで予測。行動次第ですぐに変わってしまう。
「よかった……でも何でマナの名前が出たんですか?」
「気になるところだけど、そこはもう少ししてから教えようかな。大丈夫悪い意味ではないよ」
二人はリジーの為にプレゼントを買いに行ったようだ。リュートがプロポーズするための指輪を見るために女性の目線を参考にしたらしい。
(二人きりかと思ったけれどそうではないし)
よくよく見ればマナの恋人も側にいる。皆仲が良さそうだ。
とんだサプライズを企画しているようだが、これをリジーに言ったら彼らの計画が全て台無しになってしまう。
それだけは避けたい。
「彼を信じて待っているといい。絶対に幸せになるから」
「……はい!」
俺の言葉を信じてくれたようで、リジーは料金を置いて清々しい顔で出て行った。
後日リジーが盛大な求婚サプライズを受けて、俺もパーティに呼ばれる事となる。
「シアさんの言葉を信じて待つことが出来ました。問い詰めて喧嘩にならなくて良かった」
良い後押しとなったようだ。
初依頼が成功して良かった。
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