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第5話 変わる立場

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 ギルドの花ともいえるリジーの悩みを解決できた事で話が広がり、俺の元にぽつぽつと依頼が来るようになった。

 と言っても恋の話のような可愛いものばかりではなく、商売ギルド内という事もあり、商売についてや仕事の事、金に関する話が多い。

「どうしたらこの商売は上手くいく?」

「こことの取引を続けていて、本当にいいのだろうか?」

「事業に失敗して、藁にもすがる思いでここに来たんだ。お願いだ、助けてくれ」

 ……なかなか重い内容だ。

 あくまでも占いは占いで、根本は本人達の努力だと話した上で、見えたものについてを伝えていく。

(いち商会の未来を担うようで怖いんだけれど……)

 一日二日で結果が出るものもあれば、結果が出るまで数年かかるものもある。

 なるべく来てくれる人二兎って益が多い縁を教えるのだが、短期と長期では結果が変わり、難しいところもある。

「お前のせいで損をした!」

 そんな怒鳴り込みもあったが、あくまで占いというもので、絶対ではないと再度話して、お引き取り頂く。

 時には副長も来てくれて事なきを得る事もあって、本当に申し訳ない。

「あなたの腕は紛れもなく本物なのですけどね。最後まで信じて貰えると良いのですが」

 こればかりはどうしょうもないと、副長も困ったように眉を寄せるばかりだ。

 そう。俺が示した道で損をしたのなら全額返金、アフターフォローに走るのだが、途中で道を外れたものまでは責任を負えない。

 最近はその旨を了承してもらってから占うように、専用の契約書まで用意した。

 用意してくれたのは副長だが。

「契約書があれば抑止力になりますよ。理不尽な言い分もこれがあれば裁判でも有利ですから」

 にこりと笑って助言をしてくれる。

 こういう事に不慣れな俺に対してこういう事をしてくれる副長は何ていい人なのだろう。

 母親って、こういう人の事なのだろうか。

 普段は見守ってくれていて、困った時に手を差し伸べてくれる存在。

 そうなるとギルドマスターは父親のようなものだろうか?

 どっしりと構え、何かあれば一切の責任を持つと豪語してくれている。

 初めて会った時は頭を掴まれ揺らされた。

「お前が凄腕の占い師か! 困った時はよろしく頼んだぞ!」

 暫く地面が揺れる感覚が抜けないくらいに揺すられた。

 おかげでその後吐いたんだけど。

「マスターは悪い人ではないんですけど、少し強引なんですよね」

 心配してくれたリジーが果実水を持って様子を見に来てくれた。

 豪胆というかガサツというか。

 ギルドマスターにはあまり近づかない様にしようと誓う。

 そうして温かくギルドの人達に見守られ、商売は軌道に乗っていく。

 しかし肝心の情報はなかなか集めに行けない。

「……お嬢様は大丈夫だろうか」

 このような場所だから、来るのは平民ばかりだ。

 時折冒険者とされる人も来るが、貴族なんてほぼほぼ来ない。

 来ても夜に身分を隠してちらほら訪れるくらいで、お嬢様やあいつに関係する者は来た事はない。

 まだ婚姻までは日にちはあるが、あのエロ野郎がお嬢様を逃がさないように早めてしまう可能性もある。
 
(そんな事流石にない、よな)

 悪い方に考えてしまうのは俺の悪い癖だ。

 そう思い頭を振って忘れようとするのだが、なかなか振り払えない。

 そうして悶々とする日々を過ごしていると、俺の前に再び会いたいと思っていた人が現れる。

 お嬢様だ。


◇◇◇


「こんばんは、占い師さん」

「こ、こんばんは」

 正体がバレないようにと祈りつつ声を変えて応対する。

「以前あなたに占ってもらったものなのですけれど、覚えていらっしゃるでしょうか?」 

 綺麗な声と言葉に俺は懐かしさを覚え、涙がこみ上げるが、何とか堪える。

「……その節は有益な事も言えず、申し訳ございません」

 仕切り越しに頭を下げる。

 結局あれからもお嬢様の運命の相手はわかっていないし、調べることも出来ていない。

 そんな状態で再び会うことになるなんて、不甲斐ないしか言えないな。

「それについてはもういいのです、今度は別な事をお願いしたくて」

「何でしょう?」

俺がモタモタしている間に、お嬢様は新たな悩みを抱えてしまったようだ。

「人を探して欲しいのです」

 そこまで聞いて俺は契約書をお嬢様に渡す。

「以前はこういうものがなかったと思うのですが?」

「無茶難題をいうものが増えまして。もし良かったら昼間にも相談は承っております、治安的にも夜は危ない。お帰りも気をつけてくださいね」

「気遣いをありがとうございます」

 そう言って少ししてからお嬢様がサインをした契約書を渡してくる。

 偽名を書くものが多い中、しっかりと本名で書いて下さっている。

 占う時点で本名は俺にはわかるのだが、こういう所が誠実というか危なっかしいというか。

 色々な意味で心配になってしまった。

「では、占う内容を教えて下さい」

 そっと手を出すと二回目だからか抵抗なく重ねてくれる。

「探して欲しいのは私の幼馴染……」

 心臓がドクンと跳ねる。

「レン、という青年を見つけてください」

 体が震え出しそうなのを何とか押しとどめる事が出来たのは、本当に凄いと思う、

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