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第4話 鷹の国 顔合わせ
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「遅くなりました」
エリックは堂々と皆が待つ部屋へと入る。
すでに自国ファルケの重臣達と、パロマの王族が集まっていた。
緊張した空気が張りつめられている。
「遅いぞエリック」
ジロリと父アルフレッドに睨まれるが、エリックは表情も動かさない。
「申し訳ございません。城外に魔獣退治に出ていたのです」
エリックはそう言うとパロマの者達を見る。
動揺は見られない。
「自ら魔獣を倒しむかうだなんて、エリック様はとても勇敢な方なのですね」
そう言って優雅に微笑み話しかけてきたのは、今回婚約をする予定のヘルガだ。
(内心では野蛮だとでも思っているのだろうな)
絵に描いたような張り付けた笑みを見て、エリックは表情を凍てつかせる。
「そうですね。大切な人を守れるよう日々鍛錬をしておりますので。今回その力が遺憾なく発揮出来た事は誇りに思います」
魔獣を倒し、レナンを助けたのは偶然ではあったが、あの辺りを飛んでいたのは偶然ではない。
自分の婚約者になる者を迎えに行こうと思ったのだ。
幸運だった。
レナンを失わずに済んだのだから。
「皆様方は道中何も変わりはありませんでしたか? 近年魔獣の動きは活発なので」
全てを知っていながらもエリックはそう問いかける。
「護衛もいましたし、順調な旅路でした。ですがエリック様のような方が共に居てくださるというならもっと頼もしいですな」
パロマでは戦える者が少ない。体格や、そして生まれもっての力が違う。
その為この婚約にて二か国間の連携を強め、ファルケからは軍事力を、パロマからは工芸品や特産品などを提供するという事となった。
特にパロマの紡績品は素晴らしく、国民性もあるのだろうが、とても繊細で美しい。
「そうですね。大事な女性のいる国であれば助力は惜しまないつもりです」
それが誰かは今のところ明言しないが、二コラが変な咳をしているのが聞こえる。
さすが専属従者。言わずとも意図が伝わっているようだ。
「ありがとうございます、お優しいのですね」
ヘルガはもちろん自分の事だと思っている。
エリックの婚約者になるために来たのだから、そう思うのが普通だろう。
エリックは笑顔も返さずに言い放つ。
「俺は優しくなどありませんよ。あなたの妹君に比べたら些細なものです」
「妹? 何の話でしょうか?」
「あなた方の為にと一人囮になった、レナン王女のことです」
ざわめきが波紋のように広がる。
「彼女は侍女やあなた方を助けるために、わざと森の奥へと魔獣を誘って飛んでいた。その間にあなた方は護衛を連れてあの場を逃げ出した。違いますか?」
エリックの言葉にアルフレッドが口を開こうとしたのを見て、即座に否定したのはヘルガだ。
「そのような事はしておりません、何かの誤解です!」
「あの子は馬車酔いをして、少し休んだら追いかけてくると話していたのです。囮だなんて、そんな恐ろしい事はしていませんわ」
心外だとはらはらと涙を零しても、そんな事くらいでエリックは動じない。
「そのような話を信じろとでも?」
「信じてもらえないかもしれないですが、大切な妹にそのような事はさせません。ですが、その話しぶりだとエリック様が妹を助けてくれたのでしょうか?」
「客室にて現在手当を受けております、怪我をなされていますので」
「まぁ! 何から何までありがとうございます。エリック様の優しさに、私達も感謝でいっぱいですわ」
「ありがとうございます。エリック殿。後でレナンの様子も見に行こうと思います。本当に助かりました」
ヘルガもパロマ国王も大仰な仕草でエリックへの感謝を表す。
(しらばっくれるつもりなのだな)
思った以上にしたたかだ。
エリックが拒絶の空気を出していても、ヘルガは引く気配もない。
証拠のない中でこれ以上追求しては、こちらの非になりそうだ。
「そのような素晴らしい方が私の夫になるなんて、鼻が高いです」
エリックは鳥肌が立つのを感じざるを得なかった。
(この女と婚姻とは、虫唾が走るな)
妹を切り捨てようとしたことなど微塵も感じられない。
レナンはあの場で姉を庇う発言をしていた。恐らくここに連れてきても同じだろう。
婚姻を覆すことは容易ではなさそうだと感じた。
エリックは堂々と皆が待つ部屋へと入る。
すでに自国ファルケの重臣達と、パロマの王族が集まっていた。
緊張した空気が張りつめられている。
「遅いぞエリック」
ジロリと父アルフレッドに睨まれるが、エリックは表情も動かさない。
「申し訳ございません。城外に魔獣退治に出ていたのです」
エリックはそう言うとパロマの者達を見る。
動揺は見られない。
「自ら魔獣を倒しむかうだなんて、エリック様はとても勇敢な方なのですね」
そう言って優雅に微笑み話しかけてきたのは、今回婚約をする予定のヘルガだ。
(内心では野蛮だとでも思っているのだろうな)
絵に描いたような張り付けた笑みを見て、エリックは表情を凍てつかせる。
「そうですね。大切な人を守れるよう日々鍛錬をしておりますので。今回その力が遺憾なく発揮出来た事は誇りに思います」
魔獣を倒し、レナンを助けたのは偶然ではあったが、あの辺りを飛んでいたのは偶然ではない。
自分の婚約者になる者を迎えに行こうと思ったのだ。
幸運だった。
レナンを失わずに済んだのだから。
「皆様方は道中何も変わりはありませんでしたか? 近年魔獣の動きは活発なので」
全てを知っていながらもエリックはそう問いかける。
「護衛もいましたし、順調な旅路でした。ですがエリック様のような方が共に居てくださるというならもっと頼もしいですな」
パロマでは戦える者が少ない。体格や、そして生まれもっての力が違う。
その為この婚約にて二か国間の連携を強め、ファルケからは軍事力を、パロマからは工芸品や特産品などを提供するという事となった。
特にパロマの紡績品は素晴らしく、国民性もあるのだろうが、とても繊細で美しい。
「そうですね。大事な女性のいる国であれば助力は惜しまないつもりです」
それが誰かは今のところ明言しないが、二コラが変な咳をしているのが聞こえる。
さすが専属従者。言わずとも意図が伝わっているようだ。
「ありがとうございます、お優しいのですね」
ヘルガはもちろん自分の事だと思っている。
エリックの婚約者になるために来たのだから、そう思うのが普通だろう。
エリックは笑顔も返さずに言い放つ。
「俺は優しくなどありませんよ。あなたの妹君に比べたら些細なものです」
「妹? 何の話でしょうか?」
「あなた方の為にと一人囮になった、レナン王女のことです」
ざわめきが波紋のように広がる。
「彼女は侍女やあなた方を助けるために、わざと森の奥へと魔獣を誘って飛んでいた。その間にあなた方は護衛を連れてあの場を逃げ出した。違いますか?」
エリックの言葉にアルフレッドが口を開こうとしたのを見て、即座に否定したのはヘルガだ。
「そのような事はしておりません、何かの誤解です!」
「あの子は馬車酔いをして、少し休んだら追いかけてくると話していたのです。囮だなんて、そんな恐ろしい事はしていませんわ」
心外だとはらはらと涙を零しても、そんな事くらいでエリックは動じない。
「そのような話を信じろとでも?」
「信じてもらえないかもしれないですが、大切な妹にそのような事はさせません。ですが、その話しぶりだとエリック様が妹を助けてくれたのでしょうか?」
「客室にて現在手当を受けております、怪我をなされていますので」
「まぁ! 何から何までありがとうございます。エリック様の優しさに、私達も感謝でいっぱいですわ」
「ありがとうございます。エリック殿。後でレナンの様子も見に行こうと思います。本当に助かりました」
ヘルガもパロマ国王も大仰な仕草でエリックへの感謝を表す。
(しらばっくれるつもりなのだな)
思った以上にしたたかだ。
エリックが拒絶の空気を出していても、ヘルガは引く気配もない。
証拠のない中でこれ以上追求しては、こちらの非になりそうだ。
「そのような素晴らしい方が私の夫になるなんて、鼻が高いです」
エリックは鳥肌が立つのを感じざるを得なかった。
(この女と婚姻とは、虫唾が走るな)
妹を切り捨てようとしたことなど微塵も感じられない。
レナンはあの場で姉を庇う発言をしていた。恐らくここに連れてきても同じだろう。
婚姻を覆すことは容易ではなさそうだと感じた。
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