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第6話 鷹と鳩の国 手紙

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 婚約が結ばれた後ファルケとパロマでは今後の交流がより良いものになるようにと手紙のやり取りを提案された。

 魔獣による被害が増えているためにパロマとしても今まで以上にファルケ国との交流は密にしたいのだ。

「あんな男と文のやり取りなどしたくなどないわ」
 ファルケから帰ってきた後から、ヘルガは拒否の姿勢を見せ始めた。

 あんなにも王妃になれると楽しみにしていたのに、怯えるような素振りを見せて、エリックの話をしたがらない。

 それでも、友好関係を築いていくため、婚約はなくならないと言われる。寧ろ関係をより良好にするようにと命じられてしまった。

(私を殺したいという男と何を話せというの?!)
 あの恐ろしい眼差しは忘れられない。

 迂闊に周囲にその事も漏らせなかった。信じてもらえなかった場合、ファルケを侮辱したと取られ、ヘルガの立場も悪くなってしまうからだ。

 そうなったらパロマ国の援助についても影響を与えてしまうだろう。

「そうだわ、レナンにさせればいい」
 面倒ごとを一手に引き受けてくれる妹に言えば、何でもこなしてくれるだろう。

 そもそもレナンのせいでエリックの不興を買ったのだ、その償いをさせなければ。





 代理としてエリック宛の手紙を書いているが、それはとても楽しく、レナンは毎月楽しみにしていた。
 ヘルガの振りをしなければならないので、内容はとりとめのない事なのだが、心を込めて丁寧にしたためていく。

『貴方様のことをお慕いしております』
 文の最後は必ずその言葉で締める。

 レナンの本心だ。

 助けてもらったあの時から、レナンはエリックへの感謝と、そして恋心を忘れられずにいる。本当は自分が彼のもとに行きたかった。

 しかし、政略結婚の相手として、長子のヘルガが選ばれた。

 助けられる以前に交わされたものだし、順当な事ではあるけれど、それでも姉が羨ましかった。

 だから、あのように嫌がる事が不思議でならない。

「私は嫌です、あのような男の元に嫁ぐのは」
 ファルケから帰るとヘルガは泣いて父に抗議をした。

 冷たい眼差しときつい口調、思いやりもないからと。

 それでもこうして月に一度は手紙を寄越し、プレゼントも添えてくれる。エリックはとても真面目でまめだ。

 嫌がるヘルガはレナンに手紙の代筆と、プレゼントを送る役目を押し付けてきた。いけないことではあるので、父王には内緒だが、レナンにとっては役得だ。

「いつか姉の代わりではなく、わたくしとしてお話をしてくれるでしょうか」
 叶わない想いではあるが、今はこの気持ちを大切にしたい。

 以来レナンは月に一度の楽しみとしてエリックを思いながら手紙とプレゼントを送った。

 男性にプレゼントなどしたことがなかったので、侍女のラフィアや御者のクルーと相談しながら無難なものを選ぶ。

(例え自分のことは知られていなくても、充分幸せだわ)
 この時だけレナンはエリックを想うことを許される。例えこの想いが届く事がなくとも、心は満たされていた。





 エリックはパロマから手紙が来るのを楽しみにしていた。

 書いているのが自分の婚約者ではないという事を知っていたからだ。明らかに字は違うし、熱量も違う。

「どうして俺の婚姻相手は彼女じゃないんだ」
 ぽつりと零した言葉は誰の耳にも入らない。

 レナンへの手紙の返事は文箱にどんどんと溜まっていった。

 それはパロマに送る事が出来ないものの為、世に出る事はない。

 手紙の枚数が増えるにつれ、想いも募る。

 実際に出すのは淡々とした内容のものだ。贈り物も無難なものばかり。

 どうせこれは彼女には届かない、全てヘルガに届くものだ。

 同じ分だけ用意した、レナンへのプレゼントも溜まる。こちらは値段も熱量も違う、本気の贈り物だ。

(いつか渡せたらなどと思ったが、そんな機会来るわけがない)
 女々しいと自分でも思うし、情けない。

 だがこうでもしないと心が落ち着かないのだ。

 婚姻相手を変えてほしいなどとは言えない。相手につけ入る隙を与えるわけにはいかないし、こちらの瑕疵でファルケに不利な事をしてはいけない。

 個人の思いなど政治に組み入れてはいけない、自分は王族だ。

 心から欲するのは別な女性なのにと、エリックは胸が痛くなる。

(姻戚関係になれば、彼女に会うことは出来るだろうか)
 それだけが支えだ。

 ヘルガを愛することは出来ないから、彼女との間に世継ぎを作ろうとも思えない。

 そこを理由にレナンを望むことは出来るだろうか。

(最短でも三年かかる……待っていてくれるだろうか?)
 レナンが許せば側室としてでも迎え入れたいが、王妃となるヘルガがそれを許すとは思えない。

 手に入れる為には何とかしなくては。



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