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第14話 獅子の国 拾われる

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「あ~ん」
 そう言って差し出された食事をミューズは恥ずかしながらも口にする。

「あの、自分で食べられますので」

「まだ熱があるんだ。無理するな」
 そう言って甲斐甲斐しく世話をしてくれるのは獅子の国の第二王子だ。

 怪我をしたミューズを助けてくれ、王城に住まわしてくれている。

 怪我をした箇所の炎症が収まらず、熱がなかなか引かない。その為度々来てくれてこうして介助をしてくれるのだが、恥ずかしくて仕方がない。

「その、もう大丈夫ですから国に返してください。このお礼は必ずしますので」

「熱も引かない、怪我も塞がっていないのに何を言うんだ。それに身元もわからないのでは尚更心配だ。家を教えてくれればせめて家人に連絡する、だから俺を信用して言ってはくれないか?」

「……」
 ミューズは黙り込んだ。

(わかっていて言ってるわね)
 恐らくもう身元はわかっているはずだ。しかし敢えて気づかない振りをしているのだろう。
 ミューズの口から言わせるために。

(王族が襲われ、怪我をしたとなればスキャンダルだものね)
 隣国の王女であるミューズだが、王女とは言え市井で働いているのである。

 薬に詳しく、お忍びで薬師して働いているのだが、腕がたつという事で評判が上がり、高額な報酬と引き換えに今回レーヴェへと来たのである。

 貴重な薬が目当てだったのか、帰る途中で暴漢に襲われた。それらは伏せた状態で、無論世間にも言っていない。

 恐らくミューズを襲ったのは狼の国の者達だと思われるが確証もない。
 今ティタン達が調べてくれているはずだが、捕まえられるかもわからないし、罪に問えるかもわからない。

 今狼の国は王を失い、混乱の最中だ。

(薬を失ったのは痛いけれど、命があって良かったわ)
 薬は確かに効果はあるが、あくまで見かけだけである。
 ミューズは治癒の魔法が使える稀有なものだった。

 この世界では魔法を使えるものは少なく、その中でも回復魔法を使えるものは更に少ない。もしそれが知られたら二度とここから出してもらえない可能性すらある。

 迂闊に使う事も出来ず、それ故に甲斐甲斐しい世話を受けているのだが……。

(子どもに戻った気分だわ)
 歩くことすら許されず、何かあればティタンが支えてくれたり移動させてくれる。

 ニコニコと笑顔で接してくれるティタンのその顔には裏などなさそうだった。

(悪い人ではなさそうだけど、不思議な人ね)
 薄紫の髪に大きな体格。尻尾は細く長いのに、その先にふさふさな毛束がある。

 丸い耳は笑顔に合わせて良く動き、感情を顕著に表していた。

「……レーヴェの国の人はもっと恐ろしいかと思っていましたわ」
 ぽつりと呟くその言葉にティタンは複雑な顔をする。

「人による、としか言えないな。穏やかなものもいれば、気性の荒いものもいる。とはいえ、コニーリオの者にとっては、まずこの見た目で威圧感を感じるだろう」
 ミューズの母国、コニーリオのものはどちらかと言うと小柄なものが多い。

 長い耳は遠くの音がよく聞こえ、嗅覚にも優れている。足も速いので、普段は殆ど戦う事をせず、逃げることに徹している。

 その為大柄なものが多いレーヴェに恐怖を感じるものは少なくない。

「そうですね、こうしてお話をし、実際に接してだいぶ考えが改まりました。その中でもティタン様はとても優しく、こうして手助けをして頂いて本当に助かっております、ありがとうございます」
 ミューズは頭を下げる。

「いいんだ、子どもは素直に大人に甘えればいいんだから」

「えっ?」
 ティタンの言い方にミューズは驚く。

「うん?」
 何か気に障ったのだろうか。

「そうか、すまない。子ども扱いは失礼だな。君は立派なレディで、えっと、子どもではないよな」
 たとえ子どもでも、そういう扱いをされるのを嫌がるものもいると聞いたことを思い出し、そのような事かと謝罪した。

「私は子どもではありません、成人しています」
 確かに背は低いがまさか子どもと思われていたとは。

「そう、だよな。大人だよな」
 苦笑いでティタンも言葉を受け取る。

(どう見ても子どもなんだが)
 可愛らしい顔立ちで目もぱっちりとしているが、その顔には幼さが際立ち、大人の色香のようなものはない。

 少々丸みを帯びた体はくびれもなく、大人の仲間入りをしているとは言い難かった。

(本人がそう言うのであれば付き合おう)
 あくまでもミューズのプライドを傷つけないようにと、ティタンは見た目の違和感を口にすることなく、受け入れる事にした。

「小柄故に子どもに見えるかと思いますが、大人なんです」
 口を尖らせむくれる様子はますます子供にしか見えない。

「あぁ、ミューズは確かに立派な大人の女性だ。子ども扱いして悪かった」
 ティタンは優しい眼差しを向ける。

 子の我が儘を受け入れる親のような気分だった、本当の事を知るまでは。





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