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第23話 獅子の国 求婚
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「もう大丈夫ですよ」
そう言ってフィオが止めようとするがミューズは拒否をする。
「まだ、足りないわ」
何度洗ってもミューズは満足出来なかった。
どうしても払拭出来ない。
「これ以上はお肌に悪いです、終わりにしましょう」
擦り過ぎて肌は赤くなり血が滲んできていた、これは良くない。
「後少しだけ」
そう言って手を動かすミューズを見て、苦々しく表情が歪む。
(なんて罪深い者達でしょう)
フィオは静かに怒っていた。
タニアと男達がしたことは心の傷となって残ってしまっている、何とかしないと体まで傷だらけになってしまうだろう。
間もなくティタンも来る、それまでに何とか止めないと。
「そろそろティタン様も来ます、身支度を整えましょう」
「ティタン様が?」
ミューズはこする手を止めて湯船に沈み、ぽつりと言う。
「部屋に来ても入れないで」
「それは出来かねます」
さすがにそれは駄目だ。何よりこれ以上自傷行為をさせるわけにはいかないので好機でもあるし。
何よりティタンの訪問は断れない。
「湯浴み中といえば入れないでしょ? それで断ってほしいの」
「ダメです」
お願いと手を合わせるミューズに、きっぱりとフィオは言った。
「ティタン様が会いに来るのを断ることは出来ません。ですから今すぐ上がりますよ」
渋々ミューズは湯船より上がる。フィオはけしてこすらないように気を付け、優しくポンポンと水気を拭いていく。
「ではティタン様が帰ったら国に帰る準備をしましょう、その件はどうなってるかしら?」
もともとそういう話ををしていたのだから何らかの準備が進んでいるかも、と期待の籠って声で言われる。
「何をおっしゃるのですか。ミューズ様はティタン様と結婚するんですよ? 国には帰りません」
「え?」
寝耳に水のその言葉にミューズは固まった。
「いつそのような話が?」
全くそのような事を了承した記憶はないと思うのだが……熱に浮かされた時にそのような話がもしかして出たのかと心配になる。
「昨日床を共にしたと聞いております。ですから早急にコニーリオに使者を出し、今後についての話し合いが行われていますわ」
「ええー?!」
ミューズは大声を出してしまう。
(床を共に? 確かに眠る直前まで隣にいたけれど)
朝には既にいなかった。
「何かの間違いでは? 気づいたときにはティタン様はいなかったもの」
「いいえ、忠臣であるルドが証言しています。彼は嘘は言いません」
生真面目なティタンの従者を思い出す。
確かに嘘は言わなそうだけれど、それを認めてしまったら国に戻れない。
「でも私は平民で、そしてこんな醜いのに」
「私はこのような綺麗な方は見たことがありません。それにミューズ様は平民ではないでしょ? 仕草も言葉遣いも綺麗で、人を使うのに慣れていますし」
人に命令するというのは意外と気を遣って、慣れていないものはなかなか言えないものだ。
なのにミューズはフィオの事もすぐに受け入れ、命じている。つまり身分の高いものだ。
「何かの間違いよ、婚姻なんてそんな」
まさか自分が彼の相手になるなどとは信じられないし、許されるものではないと、何とか断ろうとするが。
「俺ではダメか?」
その声にミューズは驚いてしまう。
「ティタン様」
「あれだけ好きだと言われたのだ。俺はその気持ちに応えたい」
いつの間に入ってきていたのか。気づかなかった。
「それは、その、気の迷いです」
申し訳ないがそういう事にして欲しい。
「本当に?」
ティタンがミューズに近づく。
彼の匂いを強く感じ、くらくらした。自分が惹かれているという事を再確認するかのように顔も体も熱くなる。
(間違いなく私はティタン様が好きだわ……)
高鳴りを抑えるように胸の前で手を組む。
「本当です、好きだなんて……」
本当は今すぐにその胸に飛び込みたい、理性と感情がせめぎ合う。
「俺はミューズが好きなんだがな」
短いながらも目を見つめられ、感情の籠った声でそう言われると、もう我慢できなくなってくる。
「……私もです。ティタン様が好き」
本能に逆らえず、見えないがドレスの下で丸く小さな尻尾がピコピコ動いていた。
そう言ってフィオが止めようとするがミューズは拒否をする。
「まだ、足りないわ」
何度洗ってもミューズは満足出来なかった。
どうしても払拭出来ない。
「これ以上はお肌に悪いです、終わりにしましょう」
擦り過ぎて肌は赤くなり血が滲んできていた、これは良くない。
「後少しだけ」
そう言って手を動かすミューズを見て、苦々しく表情が歪む。
(なんて罪深い者達でしょう)
フィオは静かに怒っていた。
タニアと男達がしたことは心の傷となって残ってしまっている、何とかしないと体まで傷だらけになってしまうだろう。
間もなくティタンも来る、それまでに何とか止めないと。
「そろそろティタン様も来ます、身支度を整えましょう」
「ティタン様が?」
ミューズはこする手を止めて湯船に沈み、ぽつりと言う。
「部屋に来ても入れないで」
「それは出来かねます」
さすがにそれは駄目だ。何よりこれ以上自傷行為をさせるわけにはいかないので好機でもあるし。
何よりティタンの訪問は断れない。
「湯浴み中といえば入れないでしょ? それで断ってほしいの」
「ダメです」
お願いと手を合わせるミューズに、きっぱりとフィオは言った。
「ティタン様が会いに来るのを断ることは出来ません。ですから今すぐ上がりますよ」
渋々ミューズは湯船より上がる。フィオはけしてこすらないように気を付け、優しくポンポンと水気を拭いていく。
「ではティタン様が帰ったら国に帰る準備をしましょう、その件はどうなってるかしら?」
もともとそういう話ををしていたのだから何らかの準備が進んでいるかも、と期待の籠って声で言われる。
「何をおっしゃるのですか。ミューズ様はティタン様と結婚するんですよ? 国には帰りません」
「え?」
寝耳に水のその言葉にミューズは固まった。
「いつそのような話が?」
全くそのような事を了承した記憶はないと思うのだが……熱に浮かされた時にそのような話がもしかして出たのかと心配になる。
「昨日床を共にしたと聞いております。ですから早急にコニーリオに使者を出し、今後についての話し合いが行われていますわ」
「ええー?!」
ミューズは大声を出してしまう。
(床を共に? 確かに眠る直前まで隣にいたけれど)
朝には既にいなかった。
「何かの間違いでは? 気づいたときにはティタン様はいなかったもの」
「いいえ、忠臣であるルドが証言しています。彼は嘘は言いません」
生真面目なティタンの従者を思い出す。
確かに嘘は言わなそうだけれど、それを認めてしまったら国に戻れない。
「でも私は平民で、そしてこんな醜いのに」
「私はこのような綺麗な方は見たことがありません。それにミューズ様は平民ではないでしょ? 仕草も言葉遣いも綺麗で、人を使うのに慣れていますし」
人に命令するというのは意外と気を遣って、慣れていないものはなかなか言えないものだ。
なのにミューズはフィオの事もすぐに受け入れ、命じている。つまり身分の高いものだ。
「何かの間違いよ、婚姻なんてそんな」
まさか自分が彼の相手になるなどとは信じられないし、許されるものではないと、何とか断ろうとするが。
「俺ではダメか?」
その声にミューズは驚いてしまう。
「ティタン様」
「あれだけ好きだと言われたのだ。俺はその気持ちに応えたい」
いつの間に入ってきていたのか。気づかなかった。
「それは、その、気の迷いです」
申し訳ないがそういう事にして欲しい。
「本当に?」
ティタンがミューズに近づく。
彼の匂いを強く感じ、くらくらした。自分が惹かれているという事を再確認するかのように顔も体も熱くなる。
(間違いなく私はティタン様が好きだわ……)
高鳴りを抑えるように胸の前で手を組む。
「本当です、好きだなんて……」
本当は今すぐにその胸に飛び込みたい、理性と感情がせめぎ合う。
「俺はミューズが好きなんだがな」
短いながらも目を見つめられ、感情の籠った声でそう言われると、もう我慢できなくなってくる。
「……私もです。ティタン様が好き」
本能に逆らえず、見えないがドレスの下で丸く小さな尻尾がピコピコ動いていた。
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