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第33話 裏切りの代償

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「シェリーはサーペント国の王女だった。それは覚えているな?」

「えぇ」

「サーペント国?」
 マオだけが首を傾げている。

「少し南下したところにあるのだけれど、ちょっと人に対しての愛が凄い国というか、とても一途な気質の人が多いところだよ」
 シェリーがクレインを裏切ったのなら、その認識は間違っていたようだと訂正しなければならない。

 二人は仲良しだと思っていた分ショックが大きい。

「そう。シェリーにサーペント国の蛇族のような特徴は外見上ではなかったけれど、彼女もまたとても執着心が強い者だった。その為愛する者の為ならば何でも出来たのだ、此度の密通もな」
 その愛情の相手が自分ではなかった事にクレインは悲しそうな表情であった。

「密通? まさかアッシュは」

「そう俺の子ではない」
 リオンは愕然とする。

「それって、かなりまずい事ですよね?」
 マオですらその危険さに青くなっている。

 じき国王になる跡継ぎが不義の子なんて、いやそれよりもずっと我が子だと思って大切に育てていた子が托卵とは……クレインの心情は計り知れない。

「相手は、誰ですか?」

「叔父上、レンブラントだ」
 リオンは苦々しい顔をする。

 傍目から見てもレンブラントはアッシュを可愛がっていたが、実の親子ならば頷けるものだ。

「だから俺がいなくなり好都合であったのだろうな。何度も遺体を探し、死んだ証を見つけたかったようだが、見つかるわけがない。俺はこうして生きているのだから」
 レンブラントはクレインの捜索をする傍らで、アッシュの後見人になれるように画策していた。
「ギアンにも後見人を譲って欲しいと持ち掛けたが、頑として譲らなかった。当然だな、ギアンとて自分が王になりたかったのだから。本当であればアッシュすらも殺したかったはずだ」
 野心家のギアンならそうだろう。中継ぎの王では数年で退位しなければいけない。

 本当の王になるためならばアッシュは邪魔者でしかない。

「そうなると困るのはレンブラントだ。アッシュがいなくなればギアンが王位に近くなる。リオンがギアンの味方になれば尚更レンブラントが上につく事なんて出来なくなるだろう。現役の王子達に敵うわけがないのだから」
 そもそもレンブラントは以前の王位争奪戦で負けている。クレインたちの父親が奥羽となってので、王弟であっても継承権はリオンの次だ。

「だからレンブラントはギアンも殺し、お前に罪をなすりつけようとしたんだ。二人を排除しようとしてな」


「……」
 リオンはぎゅっと拳を握る。

 自分をいじめる碌でもない男だったが、それでも死んだと聞けばショックだ。
 あんな兄だったが身内の死は辛い。

「今そのレンブラントはどうしてるです?」
 マオが手を上げて聞いてきた。

 ここまでの事をした男をただ殺すのは、他人のマオが聞いていても勿体ない。

 様々な罪を償わせてから命を奪いたいものだと、怒りを露わにしている。

「死なないように拘束している。まぁ無事とは言えないがな」
 やはり何らかの形での処罰を検討しているのだろう。

 国家転覆をはかったのだ。生半可な罰では済まないはずだ。

「それにしてもアッシュまで殺したのは何故です? まだほんの子どもだったのに」
 リオンは記憶の中のアッシュを思い出す。

 青い髪に青い目、利発そうな可愛い子ではあった。

 リオンの事を「兄様」と呼び慕ってくれるなど、思い出が蘇る。

「無垢な子どもであったなら良かったのに」
 自ら切り捨てた我が子だったアッシュを思い、剣を握る。

「もはやアッシュは俺の事など父とは呼ばなかったよ。本当の父、レンブラントに従うと言われてしまった」

「そうでしたか……申し訳ございません」
 自分の軽率な言葉に恥ずかしくなる。

 血の繋がりは育ての繋がりよりも強かったのか、残念で仕方がないが、禍根を残さないようにと子どもにまで手を掛けたクレインを思うと何とも言えない。

 結局のところリオンは綺麗ごとしか口にしていないし、何もしていない。

 安全圏からただ口を出す無責任なものだ。

 やはり自分に王族は向いていないと自嘲してしまう。

「俺の事はいい。それよりもリオンはこの後どうするのだ?」

「え?」

「カミュに聞いた。お前は既にこの国に見切りをつけ、ラタへと行くとな。移住の目処もつき、移動するところだと聞いたが」

「そうです。でも」
 それはクレインがもう死んだと思っていたからだ。
 リオンが兄とは言え主と認めたクレインのいないこの国にいつまでも執着する気はなかったが、こうして再び会えたことで葛藤する。

 自分はどうしたらいいのかと迷いが生じていた。





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