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第48話 森の中 再会

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「どうしたのです? 僕はまだ生きていますよ?」
 追手の剣を受けながら、反撃を繰り出し、確実に蛇の国の者を薙いでいく。

 むせ返るほどの血の匂いだが、自分のものかそれとも転がる死体のものかわからないほど、血塗れであった。

「何だ、お前は……」

「何故、そこまで切られても死なない?」

「僕はそういう種族なのですよ? 知らないんですか?」
 話している間にくっついた傷口をちらりと見て、口元に笑みを浮かべる。

(焦りを見せてはいけない、付け込まれてしまう)
 僅かばかり回復速度は落ちているのだが、それは二コラ以外わからないだろう。

 蛇族は目が良いわけでも、夜目が効くわけでもはない。

 嗅覚に優れているのだ。

 それ故に二コラの血の匂いを感じてこうして追いかけてきたのだ。

 ニコラが先陣を切ったのも盾になったのもその為。元より囮になり、部下を逃がすと考えていたから。

(僕は簡単には死なないし、エリック様が寄こしてくれたもの達を死なせるわけには行かないしね)
 今回レーヴェとの交渉の為に選ばれたものはエリック自らが選んだ者達だ。ならばそれは信頼に値する者だろう、今後のファルケの為にも必要な人材である可能性は高い。

 だから二コラは頑張った。
 痛みがないわけでも、恐怖を感じないわけではない。

 エリックへの忠誠心がそれを上回るだけだ。

「さぁ、次の相手は誰でしょう? 僕を殺せるものは居ますか?」
 この状況で笑みを浮かべれば相手は勝手に怯む。

 恐怖心に飲まれた蛇族の者達は動けない。

 場は完全に二コラが支配していた。

 そんな時に突如火柱が上がる。

「「「なっ?!」」」
 その場にいた皆が驚く。

 その炎はひと一人のみ込むほど大きいが、不思議と周囲に草木には移らない。

「火だるまになりたくなかったら、その人から離れるんだ!」
 怒声が響く。この炎はライカによるものだ。

「まぁ凄いわね。それに明るいと助かるわ、アタシでも見えるもの」

「オスカー?!」
 仲間の声に二コラは反応した。

 驚く二コラを置き去りに、煌々とした灯りの中で次々と男達が倒れていく。

 ようやく静かになったところで、オスカーが二コラに駆け寄っていった。

「何故あなたがここに? エリック様の護衛は?」

「キュアも近衛騎士もいるし大丈夫よ。それより凄い血だわ、大丈夫?」

「大丈夫です、少々疲れましたが」
 持っていた剣を落とし、ため息を吐いた。

「途中でファルケの子たちにも会ったわ。彼らが夜通し走ればエリック様まですぐ伝わるわよ。よく頑張ったわね」
 それを聞いて安心し、ますます力が抜けた。

「吉報が聞けて何よりです、頑張った甲斐がありました」

「ねぇ。疲れてるだろうしこんな状況なんだけど、あなたに可愛いお客さんが来てるの。会ってちょうだい」

「客?」
 この場面でどういう事かと促された方を見て、二コラは目を見開いた。

「ま、お……?」
 ニコラにとっては完全に予想だにしていなかった人物がそこにいた。

「兄さん……」
 マオは二コラの顔を見て、声を聞いて、ようやく会えたのだと涙を流し、血に汚れるのも構わずに抱き着いた。

「会いたかったです!」

「こんなところで会うとは思っていなかった……久しぶりだね、マオ」
 おいおい泣くマオを慰める二コラに、リオンは安堵と嫉妬の目線を送ってしまった。

 念願の場面なのに、どうにもやはり心が狭い。








「マオ、積もる話は後にしよう。リオン様、僕が監禁されていた建物へと案内します。何か手がかりがあるかもしれませんから」
 血が移ってしまったマオに濡らした布を渡し、リオンは二コラを見る。

(怪我をしているって聞いたけど、見た感じ全部返り血……だよね?)
 ニコラにも同じく血を拭くものを渡して観察するが、やはり傷は見られない。

「じゃあ街道に置いてきている馬車で行こう。その場所までここからでは遠いんだよね?」

「えぇ。結構距離はあります。もしかしたら残党がいるかもしれないのでお気をつけて」
 リオンの隣に二コラが並び、歩きながらお互いの情報を交換する。

 ニコラの方が背が高い為に若干上向き姿勢になるのが悔しい。二コラに対して妙な嫉妬心がまた生まれた。

 だが、二コラは気づいていないのか、それとも知ってて触れないのか、顔色一つ変えずに話を聞いている。

「……僕達が国を出てから、思った以上に深刻な状況になったのですね。リオン様、ありがとうございます。両国が戦をするような事にならずに済んだのはあなたの存在が大きい」

「たまたま異分子であった僕が混じった為にそう見えるだけだよ。エリック様もティタン様もそんな短慮ではないし、戦は起きなかったと思うけれど」

「お二方はそんな事はしませんが、城内のもの全てが同じ思いとは限りません。民衆を味方につけ、戦を仕掛けようと先導する者が出た可能性もありますから」

「民衆を味方に、か……そうだね。そうなっていたらさすがにどうなったかわからないな」
 もしかしたら既に動いているのだろうか。

 心配になってくる。

「だが企みがある程度バレたのならばそれももう無理でしょう。狼族を使者に立て、しかもレーヴェから返している。レーヴェは使者を返したことでファルケに非はないとし、ファルケもレーヴェが使者を返したことで和解が成立したと見るはずです。後は先の使者が帰ってこない事については、両国上手く誤魔化してくれているはずです」

「そんなに話したつもりはないけれど、そこまで見て取れた?」

「こう見えてエリック様の一番の従者ですから」

「凄い頭の回りようだ。よくそれで裏切ろうとしないね」
 下剋上までは考えないのだろうか。

「ありえません。僕はエリック様のものですから、絶対に逆らう事はしませんよ」
 淡々と言ったところで丁度馬車まで戻って来た。

「僕は血がついていますし道もわかるので、御者をします。車内に入ったらこの匂いが充満するでしょうから」
 体についた血はともかく衣類のものは取れない。寂しそうにするマオを見て、二コラが微笑む。

「落ち着いたら昔の話をしよう」
 ぽんと頭を軽く撫で、御者席へと回る。

「忠臣だなぁ。うちのカミュといい勝負だ」

「……恐縮です」
 本音なのか揶揄いなのかわからないが、カミュは頭を下げる。

 やがて静かに馬車が動き出すと、マオはうとうととし始めた。

「二コラに会えたから気が緩んだのね、少し休んでるといいわ」
 積み込んでいた毛布を掛けるとマオはすぐに寝息を立てる。

「普通の少女がここまで頑張ったのですから凄いですよ……」
 あのような惨状を見ても、泣きも喚きもしなかったマオにセシルは賛辞を贈る。

「そうだね。どうやら過酷な環境で生活していたようだし、ちょっとやそっとの荒事は平気みたいなんだ」
 マオの体を自身に寄りかからせながらリオンは優しい目を向ける。

「かと言ってこんなかわいい女の子をあまり酷い環境に連れて行きたくはないわね。後はアタシ達が終わらせないとね。そろそろ本領発揮出来そうだし」
 オスカーはウインクする。

 空は白くなり、夜が明け始めていた。



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