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第47話 羊の国 片隅にて
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ふわふわ、もこもこ。ペコラの国は羊毛産業が盛んだ。
冬は寒いけれど、それ以外は穏やかな気候を保つこの国の外れでは、血なまぐさい事が起きていた。
「二コラ様、大丈夫ですか?」
「あぁ……まだ行ける」
殺した兵から奪った剣を用いて二コラは皆の盾になりながら建物からの脱出を図っていた。
慎重に進み、一人ずつ確実に仕留めて進み、外までようやく出ることが叶う。
(地下室のある建物か……一体僕達はどこまで連れて来られた?)
獅子の国を出て馬車で数時間、歩いて帰るには相当遠いだろうが早くファルケに戻りたい。
夜目は利くが、血の匂いを纏った二コラが一緒では再び見つかる可能性が高い。
だから二コラは部下たちに命令を出す。
「僕が囮になる。だからお前らは一刻も早くエリック様に話をしてきてくれ。いいか、内通者の存在も忘れるな。くれぐれも気をつけるんだ」
「しかし二コラ様を置いては……」
「これだけの血の匂いをさせているんだ、見逃されるはずはない。奴らはこちらに引き寄せられるだろうから、その間に早く伝えていってくれ。僕を助けたいのなら、その方が早いし、確実だ。轍が微かに残る方角に行けば恐らく戻れる、さっさと行け」
二コラは皆と別方向に向かって歩く。
(傷は塞がったが、中はまだだな)
痛みはずきずきと響いている。
死ぬことはないが、それでも動きに支障は出そうだ。
「そろそろ逃げ出したことに気づくはずだからな、出来るだけあちらから引き離さなければ」
離れすぎてあちらを追われても困るので、程々の速度で走る。
「エリック様、僕に力を貸してください」
胸元に手を置き、敬愛する主を思い浮かべる。
必ずファルケに帰るのだという強い思いで森の中を駆けた。
「大丈夫か?!」
暗い夜道を駆ける中で、御者をしていたライカが馬車を止める。
辛い体に鞭を打ち、懸命に走る同族を見つけたのだ。
「あなた達はまさか……無事でよかったわ」
近くに来てようやくオスカーはそれが誰なのか分かった。
「あぁ、オスカー様……」
見知った者を見て、逃げ出してきた兵たちはつい涙を流す。
「怪我はないですか? あぁなさそうだ、良かったです」
セシルは水を用意し、兵達に渡しつつ様子を見て、ホッとしていた。
「君たちがファルケの使者か。早速で悪いけれど、状況を教えてくれる? 僕はエリック様とティタン様に頼まれてきた、リーと言うものだ。僕は彼らの代理でここに居る、全部話してくれ」
二人からの書状を見せてそう言った。
余計な事で時間を取られたくないためにリオンは大事な手札を見せていく。
(この中に内通者がいる可能性もあるから慎重にと思っていたが、今はそれどころではないからね)
だって、大事な人がここに居ない。
マオもそれに気づいていて、心配そうにそわそわしている。
兵士たちは脱走したのではなく、場所を移すと言われ馬車に乗せられたこと、そして体の自由を奪う薬を嗅がせられたこと、どこかに連れて行かれた事を話す。
「それで、俺達は一刻も早くエリック様に伝えて欲しいと、二コラ様に頼まれてここまで来たのです。二コラ様は奴らの囮になると言い、傷ついた体で別な方に行ってしまって……」
「わかった、ありがとう。すぐに追いかけるよ。マオ行こう」
リオンはマオを馬車に乗せ、助けに行こうと慰める。
セシルは疲労回復の薬湯を兵士たちに渡し、伝言を追加した。
「このメモをミューズ様に渡るようにしてください、大事な事なので」
そう言って兵士たちを送り、すぐさま馬車は走り出した。
「何を渡したのです?」
カミュの問いかけにセシルは少し考え込むような顔をした。
「とりあえずそのニコラさん達の体の自由を奪う薬の対策として解毒薬の調合をお願いしました。他にも気になる事をいくつか書いたのですが……」
セシルはどうにも腑に落ちないのだ。
「あまりにもピンポイントな薬を使うのだなと思って驚いたのです。それぞれの特性に効く薬を作るのは結構知識が必要ですし、実験も必要。そうなるとこの人たちは、他の国のものだけに効く薬を、もっと作ってるのではないかと思うのです」
「ファルケで使う為の薬もありそうだね」
蛇の国が主導ならばそうなるだろう。
特に恨みの強い国だから。
「ミューズ様経由でコニーリオからも援軍が欲しいと頼んでみました。戦になるかもしれないので、腰の重い国王陛下も娘に言われてはさすがに動いてくれるでしょう」
ミューズはただの娘ではなく、今はレーヴェの王子妃だ。
動くことを期待する。
「備えはいくらあってもいいからね。せいぜいこれ以上の大事にならなければいいんだけどさ」
それももう無理という話だが。
せめてリオン達を巻き込まないところで行なって欲しい。
「僕はまだ、好きな人と結ばれてないんだからね」
行き場のない怒りとやるせなさは、誰かにぶつけなくては気が済まない。
とりあえず今からいくところの悪者にぶつける気だ。
リオンは牙を剥き出しにし、暗い道の先を睨みつけていた。
冬は寒いけれど、それ以外は穏やかな気候を保つこの国の外れでは、血なまぐさい事が起きていた。
「二コラ様、大丈夫ですか?」
「あぁ……まだ行ける」
殺した兵から奪った剣を用いて二コラは皆の盾になりながら建物からの脱出を図っていた。
慎重に進み、一人ずつ確実に仕留めて進み、外までようやく出ることが叶う。
(地下室のある建物か……一体僕達はどこまで連れて来られた?)
獅子の国を出て馬車で数時間、歩いて帰るには相当遠いだろうが早くファルケに戻りたい。
夜目は利くが、血の匂いを纏った二コラが一緒では再び見つかる可能性が高い。
だから二コラは部下たちに命令を出す。
「僕が囮になる。だからお前らは一刻も早くエリック様に話をしてきてくれ。いいか、内通者の存在も忘れるな。くれぐれも気をつけるんだ」
「しかし二コラ様を置いては……」
「これだけの血の匂いをさせているんだ、見逃されるはずはない。奴らはこちらに引き寄せられるだろうから、その間に早く伝えていってくれ。僕を助けたいのなら、その方が早いし、確実だ。轍が微かに残る方角に行けば恐らく戻れる、さっさと行け」
二コラは皆と別方向に向かって歩く。
(傷は塞がったが、中はまだだな)
痛みはずきずきと響いている。
死ぬことはないが、それでも動きに支障は出そうだ。
「そろそろ逃げ出したことに気づくはずだからな、出来るだけあちらから引き離さなければ」
離れすぎてあちらを追われても困るので、程々の速度で走る。
「エリック様、僕に力を貸してください」
胸元に手を置き、敬愛する主を思い浮かべる。
必ずファルケに帰るのだという強い思いで森の中を駆けた。
「大丈夫か?!」
暗い夜道を駆ける中で、御者をしていたライカが馬車を止める。
辛い体に鞭を打ち、懸命に走る同族を見つけたのだ。
「あなた達はまさか……無事でよかったわ」
近くに来てようやくオスカーはそれが誰なのか分かった。
「あぁ、オスカー様……」
見知った者を見て、逃げ出してきた兵たちはつい涙を流す。
「怪我はないですか? あぁなさそうだ、良かったです」
セシルは水を用意し、兵達に渡しつつ様子を見て、ホッとしていた。
「君たちがファルケの使者か。早速で悪いけれど、状況を教えてくれる? 僕はエリック様とティタン様に頼まれてきた、リーと言うものだ。僕は彼らの代理でここに居る、全部話してくれ」
二人からの書状を見せてそう言った。
余計な事で時間を取られたくないためにリオンは大事な手札を見せていく。
(この中に内通者がいる可能性もあるから慎重にと思っていたが、今はそれどころではないからね)
だって、大事な人がここに居ない。
マオもそれに気づいていて、心配そうにそわそわしている。
兵士たちは脱走したのではなく、場所を移すと言われ馬車に乗せられたこと、そして体の自由を奪う薬を嗅がせられたこと、どこかに連れて行かれた事を話す。
「それで、俺達は一刻も早くエリック様に伝えて欲しいと、二コラ様に頼まれてここまで来たのです。二コラ様は奴らの囮になると言い、傷ついた体で別な方に行ってしまって……」
「わかった、ありがとう。すぐに追いかけるよ。マオ行こう」
リオンはマオを馬車に乗せ、助けに行こうと慰める。
セシルは疲労回復の薬湯を兵士たちに渡し、伝言を追加した。
「このメモをミューズ様に渡るようにしてください、大事な事なので」
そう言って兵士たちを送り、すぐさま馬車は走り出した。
「何を渡したのです?」
カミュの問いかけにセシルは少し考え込むような顔をした。
「とりあえずそのニコラさん達の体の自由を奪う薬の対策として解毒薬の調合をお願いしました。他にも気になる事をいくつか書いたのですが……」
セシルはどうにも腑に落ちないのだ。
「あまりにもピンポイントな薬を使うのだなと思って驚いたのです。それぞれの特性に効く薬を作るのは結構知識が必要ですし、実験も必要。そうなるとこの人たちは、他の国のものだけに効く薬を、もっと作ってるのではないかと思うのです」
「ファルケで使う為の薬もありそうだね」
蛇の国が主導ならばそうなるだろう。
特に恨みの強い国だから。
「ミューズ様経由でコニーリオからも援軍が欲しいと頼んでみました。戦になるかもしれないので、腰の重い国王陛下も娘に言われてはさすがに動いてくれるでしょう」
ミューズはただの娘ではなく、今はレーヴェの王子妃だ。
動くことを期待する。
「備えはいくらあってもいいからね。せいぜいこれ以上の大事にならなければいいんだけどさ」
それももう無理という話だが。
せめてリオン達を巻き込まないところで行なって欲しい。
「僕はまだ、好きな人と結ばれてないんだからね」
行き場のない怒りとやるせなさは、誰かにぶつけなくては気が済まない。
とりあえず今からいくところの悪者にぶつける気だ。
リオンは牙を剥き出しにし、暗い道の先を睨みつけていた。
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