手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました

しろねこ。

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小さな令嬢

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その日、リンドールの建国パーティーにて一人の令嬢がいなくなった。

令嬢の名はミューズ=スフォリア。

そんな彼女が現在いるのは、隣国の第二王子の部屋だ。

「不自由な事はなかったか?」

「大丈夫です、ありがとうございます」
ティタンが聞けば、ミューズはペコリとテーブルの上でお辞儀をする。


とても可愛い手の平サイズ。

ミューズは小さな小さな女の子になってしまった。







少し時間を遡り、今日はリンドールの建国記念パーティだ。

隣国アドガルムより招待を受けてきたティタンは、暇を持て余していた。

「つまらん、非常につまらん」
パーティに興味はない。

剣でも振って、己を鍛えている方が楽しい。

父からは恋人の一人や二人、見つけてこいと言われた。

しかし令嬢方はティタンになど目もくれない。

一緒に来た兄の方に夢中なのだ。

金髪翠眼のスラッとした美形、婚約者がいるというのに、たくさんの令嬢に話しかけられている。

兄とティタンは全く似ていない。

薄紫色の髪は短く切り、日々鍛錬をしている体は筋肉隆々だ。

顔は、お世辞にもかっこいいとは言えない。

建国パーティはお見合いの場でもある。

皆、婚約者を見つけるために躍起となっているだろう。

ティタンは自分を客観的に見て無理だと判断し、早々に見切りをつけている。

「ダンスでもしてきたらどうです?」
ティタンに付き添う従者のマオがそう云う。

「誰も俺となんて踊らんさ」
護衛として付き添うルドが心配そうだ。

「そんな事はありません、ティタン様は素敵な方ですよ」
生真面目なルドは主が絶対モテると信じている。

「ありがとなルド、でも今夜はもういい」
身長も高く、そもそも初めて会う令嬢とダンスを踊るのが難しい。

どうしても体格差が邪魔をして、ステップが合わないのだ。

そんな三人が向かうのは、ホールから離れた人気のない中庭。






「あれは、何だ?」
中庭に行くと、茂みの中に薄っすらと光る物が見えた。

といってもあまり目立ってはいないため、瞬時に見つけたティタンはだいぶ目がいい。

「光ってるですね……」

「淡い光ですが……これは花、でしょうか」
三人は近づいていく。

「中に何かあるのか?」

「不用意に触らないでください、こういうのはルドの役目です」

「俺が?!」
マオは自分じゃなく、ルドに役目を振る。

「万が一危険な物ならティタン様に触らせるわけにはいかないのです。ルドはその為の護衛ですから」

「いやそれはいいのですが。ティタン様からならともかく、マオから言われるのは釈然としません」
そういいながら、恐る恐るルドは花を開こうとして……

「待ってください!」
花の中から女性声がした。

「あの、助けてほしいのは助けてほしいのですけど……先に女性の方にお願いしたいことがありまして。まだ花に触れないでほしいのです……」
二人はマオを見る。

「わかりました、僕はアドガルムの第二王子、ティタン様の従者で、マオと申します。あなたはどなたさまですか?」
マオがそっと近づいた。

「名乗りも遅れてしまい、すみません。不躾で本当に申し訳ないです。私は……ミューズ=スフォリアと申します」

「ミューズ嬢?!何故、君がここに?」
ティタンは驚いていた。

ミューズ=スフォリア公爵令嬢はこの国の宰相の一人娘だ。

「私を知っていて下さったのですね、嬉しい……!」
花が感情を示すようにゆらゆらと揺れた。

「当たり前だ。君は、俺の尊敬するシグルド殿の孫娘だからな」
ミューズの祖父はリンドールの剣聖と呼ばれる剣の達人だ。

リンドールとアドガルムでは年に一度交流試合などをするのだが、その際にティタンは何度もシグルドの側にいるミューズの姿を目撃している。

「何故、花の姿に?」

「いえ、この姿は、違うんです。理由があって……それでマオ様にお願いがありまして。もう少し花に近づいてもらえますか?」

「何でしょう?」
自分を指名する理由が何なのか気になった。

「何か肌を隠す物が欲しいのです……小さい布などで良いので」
小声で呟くミューズの声に、マオは一瞬目を見開き、瞬時に判断する。

「けしてこの花に近づいてはいけません、わかったですね!」
マオの剣幕に二人は押される。

「しばしお待ちをミューズ様」
マオは上着を脱ぎ、ハンカチを用意する。

「二人は後ろを向いて、目を手で押さえて見ないようにしてほしいのです」
言われた通り、二人は見ないようにした。

「いいですよ」
マオは上着を広げ壁になるようティタン達とミューズの間に膝をつく。

ゆっくりと花が開いた。

マオは開ききる前にハンカチをミューズの体に羽織らせる。

予想通り、ミューズは何も身に着けていなかった。

「本当にありがとうございます、困っていたので」
ミューズは泣きそうな表情でお礼を伝えた。

ハンカチを体に纏い、ゆっくりと地面に降り立つ。
「こちらにお乗りください。僕が守りますので」
先程脱いだ上着に乗るよう促す。

裸足のミューズはマオの言葉に甘え上着に乗ると、マオはその体を包み、抱き上げた。

肌が見えないように念入りに確認すら。

ミューズの体や足先は傷ついていた。

小さなお人形サイズのミューズはとても軽い。

「もういいですよ。二人とも」
ティタンとルドが振り向くと、マオの腕の中のミューズが少し体を固くする。

「すみません、このような格好で」

「いや、それより本当にミューズ嬢なのか? 何故このように小さくなって」
長い金髪と白い肌。

金と青という珍しい瞳は今は困惑に揺れている。

「それが、どう話したらいいか…」
ミューズは伝えたい事をを整理しながら、話し始めた。

「私を中庭に呼び出したのは、リンドールの令嬢方です」
ダンスが始まる前に、三人ほどの令嬢に呼び出された。

「あなたユミル様と馴れ馴れしいのよ。婚約者でもないくせに」
令嬢方が思いを寄せる令息が、ミューズに恋慕してるとの話だが、ミューズは全く見に覚えがない。

「気のせいではないでしょうか?私は全くそんな気はないのですが……」
寧ろ気になる者は他にいる。

ユミルとは話をしたことはあるが、そんなつもりはなかった。

婚約の打診も断っているし、寧ろ離れたい。

「そうやって、しらばっくれて…これで後悔しなさい!」

「?!」
バシャリと液体をかけられる。

「何を……?」

「これは他国から取り寄せた呪いの薬よ。体が小さくなるっていうね」

「うぅっ……!」
ミューズは胸が苦しくなるのを感じる。

体が軋み、痛い。

やがてパサリとドレスが地面に落ちた。

もぞもぞとミューズはドレスの中から這い出した。

「こんな事って…」
手のひらサイズまで小さくなってしまったミューズは呆然とした。

呆ける間もなく、ミューズはドレスから振り落とされる。

「きゃっ!」

「これは処分しといてあげる。誰かに見つかると大変だもの」

「いや、返して!」
纏うものがないミューズは、自分の体を抱き地面に座り込んでしまった。

「早く隠れた方がいいわよ、誰か来る前に。それともどこかに売りつけようかしら?、ミューズ様なら高く売れそうね」

「!!」
ミューズは急いで草むらまで走る。

「いい気味ね。ユミル様に手を出したことをせいぜい後悔するのね」


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