25 / 31
呪術師の幸福
しおりを挟む
呪いという力を利用した令嬢達は皆、処刑されたらしい。
公爵令嬢である王族の婚約者を殺害しようとした事、並びに違法で危険性の高いものを購入し使用した事、世間を騒がせた事などを加味し、重い処罰となった。
その父親であった侯爵達は貴族籍を剥奪され、アドガルムへの賠償金を払うためと、娘達の罪を贖うため、強制労働となった。
領地はそのままで降爵になったが親類の誰かが爵位を次ぐことになった。
ミューズの婚約者候補と噂されたユミルも、実際はミューズの付き纏いをしていたとされ、しかも他の女性を何人も誑かしていたとし、評判は一気に地に落ちた。
こちらは勘当され、リンドールにもいられず、どこかの国へと放逐されたそうだが、詳細はわかっていない。
また、ティタンがミューズを連れて行ったのは呪いにかかった彼女を助けるためだったと、訂正され、ティタンとミューズの信用が回復していった。
そしてずっと想い合っていたという話も回り、美談として噂が広まっていく。
後にアドガルムで開いた婚約パーティではまだ婚姻前にも関わらず、仲睦まじく寄り添う二人が見受けられた。
ディエスも祝福をし、娘の幸せそうな姿に人目を憚らず涙を流していた。
ティタンの嫉妬が激しく、男性はほぼ挨拶のためですら近づけなかったという。
「お手合わせ、願う!」
アドガルムの辺境伯領にて、大声が響く。
「少しは強くなったかな、ティタン殿」
剣を構えるはミューズの祖父、シグルドだ。
ミューズの従兄弟のキールもいる。
「ティタン様の次は俺との手合わせもお願いします、お祖父様」
「若いもんが年寄りをいじめるな。連戦など疲れるわ」
そう言いながらも拒むことはしない。
ミューズは祖母のサンドラと父のディエスと共にお茶を飲み、その様子を見ていた。
「飽きないものね、三人とも」
「あらお祖母様、三人ではなく五人ですわ」
剣術の指南ということで、護衛騎士のルドとライカも志願した。
「皆凄い体力だな……到底真似できない」
「お父様はそういうタイプではないですものね」
根っからの文官であり、運動を得意とはしていない。
「でもディエス様は根性あるわよ。何度断られてもリリュシーヌとの婚姻を認めてもらうために、毎日シグルド様の所に通って頭を下げていたわ。剣の腕はなくとも、誠意だけは負けられないって」
慌ててディエスは止めに入る。
「お止めください、サンドラ様。ミューズにそのような話を聞かせるなんて」
初めて聞く話にミューズは目をキラキラとさせた。
「お父様とお母様の馴れ初めなんて、聞いたことなかったですわ。是非教えてくださいませ」
父と亡き母の恋バナに、ミューズは胸を踊らせる。
焦るディエスを尻目に、サンドラは楽しそうに当時の話を始めた。
マオは静かに控えているが、ミューズの楽しそうな様子に笑顔を浮かべている。
リンドールに帰ることなくこちらにいてくれた事も、マオにとっては喜ばしかった。
ミューズが目覚めて数日経った頃に、ミューズの親類も揃ってアドガルムへと来た。
辺境伯であったミューズの祖父、シグルドに至っては領地ごとアドガルムへと鞍替えしたのだ。
「孫娘の一大事に動かない国など、守る価値もない!」
と憤慨しており、リンドールが止める間もなくアドガルムと契約し、傘下に入った。
「アドガルムは身内を大事にする。シグルド殿に手を出せば、わかっておりますな?」
アルフレッドはリンドールの訴えを退け、シグルドを守ると決めていた。
力づくで止めようにも辺境伯領で実践にて鍛えられた兵と、王都にいて争いもなくぬくぬくと訓練していただけの兵では技量が違った。
戦争になってはいけないと抗議文を送るに留まってしまった。
その件も影響し、アドガルムとリンドールの国交は縮小されたが、アドガルムはあまり不自由はしていなかった。
軍事は強化され、民間の貿易は滞りなく行えているため、民への影響も少ない。
ディエスの手腕で無駄も省かれ、支出も抑えられたり、資産も増えた。
隣国のアドガルムについてしっかりと学んでいたディエスは、即戦力として重宝された。
リンドール王家は貴重な人材の流出と、交易が落ち込み、そしてアドガルムへの賠償金により著しい資金難になってしまった。
領民の一部もリンドールの落ち込んだ財政による税の上昇から、安定しているアドガルムへの移住を希望する者が出たため、より一層税金による収入も低下してしまった。
他にもアドガルムに思わぬ収穫があった。
呪いを扱える呪術師が増えたので、サミュエルの負担が減ったのだ。
「面白い力だな」
キールの父親でミューズの叔父でもあるロキが、サミュエルに話を聞き、試しにその力を行使したところ、才能が開花したのだ。
その娘であるシフも試すと呪いを視ることが出来、今までサミュエルが行なっていた呪物の鑑定も分担出来て、休日も取れるようになってきた。
問題としては、サミュエルが突然出来た同僚に戸惑っていることだ。
「今まで同じ仕事をする人がいなくてずっと一人でしたが、急に賑やかになってしまって……」
ロキとシフは話し好きでよくサミュエルに話しかける。
二人は平民出であるサミュエルを偏見の目で見る事もなく、優しかった。
ミューズの叔父と従姉妹であるから、当然と言えば当然だが、サミュエルは嬉しかった。
「よし、今日も飲みに行くぞ!」
「ダメです、今日は私とご飯を食べにいくのですから。ねっ、サミュエル様」
誘われて外に出ることも多くなり、サミュエルは徐々に体力も付き、自然とフードを外すことが増えた。
少し距離のあった城内の者たちからも、話しかけられる事が増えた。
新たな人生が開け、相変わらず忙しそうだが、サミュエルは幸せそうだった。
公爵令嬢である王族の婚約者を殺害しようとした事、並びに違法で危険性の高いものを購入し使用した事、世間を騒がせた事などを加味し、重い処罰となった。
その父親であった侯爵達は貴族籍を剥奪され、アドガルムへの賠償金を払うためと、娘達の罪を贖うため、強制労働となった。
領地はそのままで降爵になったが親類の誰かが爵位を次ぐことになった。
ミューズの婚約者候補と噂されたユミルも、実際はミューズの付き纏いをしていたとされ、しかも他の女性を何人も誑かしていたとし、評判は一気に地に落ちた。
こちらは勘当され、リンドールにもいられず、どこかの国へと放逐されたそうだが、詳細はわかっていない。
また、ティタンがミューズを連れて行ったのは呪いにかかった彼女を助けるためだったと、訂正され、ティタンとミューズの信用が回復していった。
そしてずっと想い合っていたという話も回り、美談として噂が広まっていく。
後にアドガルムで開いた婚約パーティではまだ婚姻前にも関わらず、仲睦まじく寄り添う二人が見受けられた。
ディエスも祝福をし、娘の幸せそうな姿に人目を憚らず涙を流していた。
ティタンの嫉妬が激しく、男性はほぼ挨拶のためですら近づけなかったという。
「お手合わせ、願う!」
アドガルムの辺境伯領にて、大声が響く。
「少しは強くなったかな、ティタン殿」
剣を構えるはミューズの祖父、シグルドだ。
ミューズの従兄弟のキールもいる。
「ティタン様の次は俺との手合わせもお願いします、お祖父様」
「若いもんが年寄りをいじめるな。連戦など疲れるわ」
そう言いながらも拒むことはしない。
ミューズは祖母のサンドラと父のディエスと共にお茶を飲み、その様子を見ていた。
「飽きないものね、三人とも」
「あらお祖母様、三人ではなく五人ですわ」
剣術の指南ということで、護衛騎士のルドとライカも志願した。
「皆凄い体力だな……到底真似できない」
「お父様はそういうタイプではないですものね」
根っからの文官であり、運動を得意とはしていない。
「でもディエス様は根性あるわよ。何度断られてもリリュシーヌとの婚姻を認めてもらうために、毎日シグルド様の所に通って頭を下げていたわ。剣の腕はなくとも、誠意だけは負けられないって」
慌ててディエスは止めに入る。
「お止めください、サンドラ様。ミューズにそのような話を聞かせるなんて」
初めて聞く話にミューズは目をキラキラとさせた。
「お父様とお母様の馴れ初めなんて、聞いたことなかったですわ。是非教えてくださいませ」
父と亡き母の恋バナに、ミューズは胸を踊らせる。
焦るディエスを尻目に、サンドラは楽しそうに当時の話を始めた。
マオは静かに控えているが、ミューズの楽しそうな様子に笑顔を浮かべている。
リンドールに帰ることなくこちらにいてくれた事も、マオにとっては喜ばしかった。
ミューズが目覚めて数日経った頃に、ミューズの親類も揃ってアドガルムへと来た。
辺境伯であったミューズの祖父、シグルドに至っては領地ごとアドガルムへと鞍替えしたのだ。
「孫娘の一大事に動かない国など、守る価値もない!」
と憤慨しており、リンドールが止める間もなくアドガルムと契約し、傘下に入った。
「アドガルムは身内を大事にする。シグルド殿に手を出せば、わかっておりますな?」
アルフレッドはリンドールの訴えを退け、シグルドを守ると決めていた。
力づくで止めようにも辺境伯領で実践にて鍛えられた兵と、王都にいて争いもなくぬくぬくと訓練していただけの兵では技量が違った。
戦争になってはいけないと抗議文を送るに留まってしまった。
その件も影響し、アドガルムとリンドールの国交は縮小されたが、アドガルムはあまり不自由はしていなかった。
軍事は強化され、民間の貿易は滞りなく行えているため、民への影響も少ない。
ディエスの手腕で無駄も省かれ、支出も抑えられたり、資産も増えた。
隣国のアドガルムについてしっかりと学んでいたディエスは、即戦力として重宝された。
リンドール王家は貴重な人材の流出と、交易が落ち込み、そしてアドガルムへの賠償金により著しい資金難になってしまった。
領民の一部もリンドールの落ち込んだ財政による税の上昇から、安定しているアドガルムへの移住を希望する者が出たため、より一層税金による収入も低下してしまった。
他にもアドガルムに思わぬ収穫があった。
呪いを扱える呪術師が増えたので、サミュエルの負担が減ったのだ。
「面白い力だな」
キールの父親でミューズの叔父でもあるロキが、サミュエルに話を聞き、試しにその力を行使したところ、才能が開花したのだ。
その娘であるシフも試すと呪いを視ることが出来、今までサミュエルが行なっていた呪物の鑑定も分担出来て、休日も取れるようになってきた。
問題としては、サミュエルが突然出来た同僚に戸惑っていることだ。
「今まで同じ仕事をする人がいなくてずっと一人でしたが、急に賑やかになってしまって……」
ロキとシフは話し好きでよくサミュエルに話しかける。
二人は平民出であるサミュエルを偏見の目で見る事もなく、優しかった。
ミューズの叔父と従姉妹であるから、当然と言えば当然だが、サミュエルは嬉しかった。
「よし、今日も飲みに行くぞ!」
「ダメです、今日は私とご飯を食べにいくのですから。ねっ、サミュエル様」
誘われて外に出ることも多くなり、サミュエルは徐々に体力も付き、自然とフードを外すことが増えた。
少し距離のあった城内の者たちからも、話しかけられる事が増えた。
新たな人生が開け、相変わらず忙しそうだが、サミュエルは幸せそうだった。
1
あなたにおすすめの小説
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる