手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました

しろねこ。

文字の大きさ
26 / 31

幸せとは

しおりを挟む
いよいよ明日はティタンとミューズの結婚式だ。

ティタンは興奮と緊張で眠れず、窓を開けて夜空を見上げていた。

少し冷たいくらいの外気が心地よい。

長年住んだこの城を離れ、明日から新たな屋敷と領地に移る。

王太子であるエリックも結婚し、後継ぎが産まれた。

第三王子である弟のリオンも外遊から戻ってきて、王太子であるエリックの補佐として働いている。

ミューズと、そして幾人かの側近を従えてここを離れ、領主となり皆の生活を守っていかねばならない。

主として妻や部下、それに領民の為に腕力だけではなく、経営についても学び直し、領地となる地を何度も視察した。

ディエスやエリックにも助言を貰い、上に立つ者としての心構えを教えて貰う。

「ミューズを支え、幸せにする……」
根底の思いはそこだ。

することは多々あったし、順調とはいかない事もあったが、他の者に今の場所を譲るつもりもなかった。

だが、プレッシャーを感じることも少なくない。

信頼してくれている皆には言えないが、弱音を吐きたい時ももちろんある。

自分は皆が信頼してくれるほど立派な人間ではないから、尚更だ。

「俺は本当にやっていけるだろうか?」
ぽつりと今の漠然とした気持ちを言葉にして呟いてみた。

口にしてみただけだが、不安がより具体的に押し寄せる。

その時、ノックの音が聞こえた。

「何だ?」

「ミューズ様がいらっしゃいました」
ルドの声に、ティタンは自らドアへ向かい、開けた。

「キャッ!」
勢い良くドアが開き、ミューズは驚いてしまう。

「すまない……!」
ミューズの名を聞いて気が急いてしまい、焦ってドアを開けてしまった。

驚かせてしまったことを謝罪する。

ルドと、そしてマオもいて、二人が咎めるような目を向ける。

この二人も明日、新居についてくる予定だ。

「何故ミューズがこんな時間に俺の部屋へ? マオも公認なのか?」
あれほど節度を守れと言っていたマオが、こんな夜更けにティタンの部屋へとミューズを送ってくるとは、考えられなかった。

「ミューズ様がティタン様を心配していたからです。そうでなければ送りに来たりしないです」
マオとルドはミューズをティタンの部屋に押し込む。

「誰かに見られては面倒です、あとはゆっくり二人で話すですよ」
本当は二人にしたくないですが、とマオはぶつぶつ言っている。

「ティタン様、ミューズ様にしっかりとお心をお伝え下さいね」
ルドの言葉を聞いて、少しだけ動揺した。

「何のことだ?」

「夫婦とは苦楽を共にするものです。一緒にお話しましょう」
ティタンの腕に自身の腕を絡ませ、部屋の奥へと誘う。

「変なことはしないでくださいね」
ルドはそれだけいうとパタンとドアを閉じる。

「……マオ、帰らないのですか?」
廊下で座り込むマオにルドは声を掛けた。

「やはり心配です。ティタン様とて男ですから……」
ルドはポンポンとマオの頭を叩いた。

「明日が結婚式なのですから、ミューズ様を困らせるような事はしないでしょう。ティタン様にとってミューズ様が一番なんですから」









「ティタン様、こちらへ」
ソファに呼ばれ、ミューズの隣に座る。

「何の話をするんだ?」
こんな夜更けにわざわざ来て、何を話すのか。

あまり起きていては明日に支障が出る。

「今思っている心配や不安をお聞かせください」
ミューズはティタンの手に自身の手を重ねる。

「最近のティタン様は元気がありませんでした。何かに悩まれているのではないかと思いまして、もしや結婚することに後悔はしていませんか?」

「それはない! 早く君と結婚したいという思いは変わっていない」
思わず身を乗り出してしまう。

「では他に不安な事が?」
ティタンの様子が少しだけ違うことは気づいていた。

式が近づくに連れ、憂いを帯びた表情をすることが増えていたからだ

「……今後、皆を守っていけるかが不安を感じた。それだけだ」
剣の腕なら負けない。

しかし領地経営は別だ。

「明日から新しい土地だ。楽しみもあるが、不安もある。うまく出来ねばどうしようか、皆を守れなかったらなど、考え込んでしまった」
ミューズはティタンから手を離し、真剣な表情で聞いている。

「皆に心配かけないようにと黙っていたが、ミューズが気づいてるなら皆も気づいてるよな。明日からは気持ちを切り替え、弱音など吐かずとも頑張るようにするから」
こんな事を言うつもりはなかったが、促されるままに話してしまった。

自分が思う以上に悩んでいたのかもしれない。

「弱音を吐いていいのですよ」
ミューズは立ち上がり、ティタンの膝に腰をおろして抱きついた。

横抱きの姿勢でティタンにくっついたのだ。

「ミューズ?」
こんなに密着することなどなかったから、ティタンはどうしたらいいかわからず、行き場のない手があたふたと動いている。

ミューズも恥ずかしさから真っ赤になる。

それを見られないように、ティタンの胸に顔を埋めた。

「つらい時は私が聞きますから、一人で抱え込まないでください。夫婦になるのですから……」
ティタンの鼓動が聞こえる。

とても早いが、自分の方がもっと早いだろうなとミューズは感じている。

顔どころか全身が熱いのだから。

「こんな些細な事で、君まで煩わせるわけには……」
ミューズの重みと熱を感じ、心地良かった。

薄い夜着から感じられる体温と、ミューズの匂いに別な意味で落ち着かなくもなってくる。

「些細な事でもいいのです。ティタン様が悩まれているならば、私もお力になりたいのです」
ミューズは顔を上げてティタンを見た。

「ティタン様だけ頑張らなくていいのです、新しい土地にいっても皆で力を合わせれば、きっと上手く行きます。私も力を尽くしますから」
ミューズの母であるリリュシーヌが亡くなり、ディエスは再婚することなく過ごしていた。

そんな父の助けになるようにと、女主人としての仕事や領地経営についても教わり、父の手助けを少なからずしていた。

ティタンの力になる自信はある。

「ありがとう」
ティタンがミューズを優しく抱き締めた。

「ミューズはいつでも俺を救ってくれるな」
欲しい言葉をくれ、けして突き放したりしない。

どんな時でも味方となってくれて、甘やかしてくれる。

「いえ、私の方が救われたのですから、ティタン様の為に尽くすのは当たり前です」
ティタンが引き止めてくれたお陰で、アドガルムにいる決心がついた。

居るだけで噂に振り回されて疲れてしまうリンドールとは違い、アドガルムではゆったりと過ごせた。

ミューズの噂を知らない者や信じない者が多かったため、心にゆとりを持って過ごすことが出来た。


「こんなに小さいのに、何とも頼もしいな」
ミューズを抱え込み、ベッドに横たえる。

「あ、あのティタン様……」
顔を赤くし、後ずさる。

「何もしない。隣で寝てて欲しいだけだから、頼む」

そう言うとティタンはミューズを後ろから抱き締め、目を閉じる。

「暖かいな…」

「はい」
緊張感よりも安心感が優った。

人の温もりに二人はゆっくりと眠りに落ちていった。

次の日に猛烈にマオに怒られるティタンがいた。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...