次期女王になる美姫はダメンズと言われる公爵令息を寵愛中

しろねこ。

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第35話 死と復讐

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「エレオノーラ様!!」
 レナードの声と大きな爆発音が響く。

「ちっ!」
 ミゲイルは悔しそうに表情を歪める。

 大きな爆発音はミゲイルが撃った銃から発せられたものだ。弾はレナードに届くことはなく、エレオノーラの腹部で弾けた。

「貴様ー-!!」
 いち早くミゲイルの存在に気付いたニコルが剣を手に疾走する。けれどミゲイルの姿はすぐに虚空に掻き消えてしまった。

「転移魔法か、くそっ!」
 周囲を見渡してもミゲイルの姿はどこにもない。

(迂闊だった、とっくにいなくなったと思っていたのに。まだ潜んでいたなんて)
 ミゲイルの側には金髪の女が見えた。恐らくその者による魔法だろう。

 転移魔法の使い手は少ない、それゆえに対策を怠ってしまった。

「エレオノーラ様!」
 レナードは血を流し倒れるエレオノーラに駆け寄る。

 腹部からは夥しい血が流れており、キュリアンが治癒魔法をかけるが、出血が止まらない。

「急いで他の治癒師を呼べ! 今すぐに!」
 ニコルの声が騒然とした場に響き渡った。

「レナード、怪我は、ない?」
 苦しい息のもと、エレオノーラはそっとレナードに触れる。

「僕は大丈夫です、それよりもエレオノーラ様の方が」
 エレオノーラを抱き起こすと血の匂いと感触が伝わってくる。

「あなたが無事で、良かったわ」
 ホッとしたエレオノーラは笑顔を見せる。

「今キュリアンが回復を」

「もう無理よ……血が流れすぎている」
 氷魔法で止血したのだが、少し遅かったようだ。

 自分の事よりレナードを助けることを優先した為だ、悔いはない。

「わたくしの事は忘れていいわ。だから、幸せになって」

(本当は死ぬのも怖いし、レナードを誰かに盗られるも嫌……けれど、この人の足枷になりたくない)

 最後は笑顔で別れたいと、エレオノーラは無理に口角をあげる。

「嫌です、僕はエレオノーラ様がいい」
 ボロボロと泣くレナードの涙を拭おうとしたが、体がもう動かない。

(限界ね)
 キュリアンが懸命に魔法をかけてくれるのを感じるが、エレオノーラにはその魔力を受け取る力が残っていなかった。

(キュリアン、ニコル、オズも皆ありがとう)
 愛しい人を守って死ぬのだから仕方ないけど。

(もっと一緒にいたかったなぁ)
 それだけが心残りだ。

 人並みに恋をし、心の底から愛おしいと思える存在に出会えた。

 戦う術は何も持たない人だけど、こうしてエレオノーラの心を癒す、凄い人だと心から尊敬していた。

(この人に出会えて良かった)
 エレオノーラは静かに目を閉じる。

 レナードの慟哭が響いた。




 ◇◇◇





「……嫌だ、嫌だ、失いたく無い」
 力が抜けたエレオノーラの体を抱きしめて、レナードはぶつぶつと呟く。

(ミカエルがこの場にいたら治せたかもしれないのに、僕だってスフォリア家の一員なのに何で何も出来ないんだ?!)
 魔力の高い一族に生まれたのに、レナードはろくな魔法も使えない。

(どうして、何で僕はこんなに役立たないんだ。愛する人に庇われて、僕だけが残るなんて、生きていられない)
 自分が代わりに死ねば良かったのに。

 何かが壊れる音が頭の中で響き、レナードの体が熱くなった。

「エレオノーラ、お願いだから目を開けて。もう一度笑ってくれよ」
 氷の王女なんかじゃない、一人の普通の女性だ。

 レナードに対して向ける笑顔はとても愛らしく、少しいじわるだけどいつもレナードを想ってくれていた。

「愛してる」
 レナードはそっとエレオノーラに口づけをする。

 その唇は柔らかく、けれど冷たい。

「エレオノーラ、ねぇ目を開けて」
 ポタポタとエレオノーラの顔に涙が落ちる。

 レナードは泣いていた。

 こんな死なんて受け入れられない。

 レナードの悲しい声と涙に誰も口を開けない。

 ニコルも唇を噛みしめ、俯き、キュリアンは救えなかったことを悔やみ、拳を握る。

 レナードの嗚咽だけが占めていた。その場に広がっていた。

「君が死んだら僕は生きていけない、ねぇエレオノーラ。いっそ僕も……」
 後を追おうか……そう思った時、エレオノーラの目がゆっくりと開かれる。

「……わたくしもレナードがいないと生きていけないわ」
 エレオノーラの手がレナードの頬に触れる。

「わたくしも愛してる」
 目を細め、微笑む彼女はとても美しかった。

「エ、エレオノーラ……?」
 夢ではないのだろうか?

 レナードはそこで意識を失った。

「レナード様!!」
 エレオノーラの上に覆いかぶさったレナードの体を急ぎキュリアンが起こす。

 しかし意識を完全に失ったようで、レナードはピクリともしない。

「エレオノーラ様、大丈夫ですか? 一体何が?」
 ニコルがエレオノーラのもとに駆け寄り、抱き起す。

「わたくしは大丈夫……」
 ゴホゴホとエレオノーラが咳き込むと、気管に入った血が吐き出された。

 ニコルがそっとハンカチを差し出す。

 エレオノーラは口元を拭うと、キュリアンの腕に抱えらえたレナードを心配そうに見つめる。

「気を失っているだけですよ、怪我はしていないようです」
 キュリアンの言葉にエレオノーラは安堵した。

(何故わたくしが生き返ったのかは、後回しね。今はとにかくレナードを休ませないと)
 自分の事よりもエレオノーラはレナードを優先して考える。

(頭も体も痛いし、息も苦しいけれど、考えることはいっぱいね)
 ミゲイルには逃げられたが、必ず追求してやる。

 レナードと自分にしたことは何が何でも償ってもらわねばならない。

「絶対に逃がさない」
 ニコルの手を借りてエレオノーラは再び立ち上がった。

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