遭難していた熊さんを助けたのですが、後の旦那さんになりました

しろねこ。

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第9話 助力

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 妖精を殴り飛ばした熊は、言うまでもなくティであった。

 小柄な体の妖精が熊であるティの膂力に敵うはずもなく、吹き飛ばされる。

「二人に手を出すのは許さない」

 ティは地面に伏せる二人の元に駆け寄った。

「何故こんなところにいるんだ。ここは危険なんだぞ」

 心配と咎めが入り混じるティの言葉に、二人はシュンとなる。

 こうして助けられたのにティの為に来たなんて、言えるわけがない。

「ともかくすぐに屋敷に戻ってくれ、あとは俺があの妖精を始末するから」

 ミューズの手を握って立たせるが、その顔に傷があるのに気づく。

「このような怪我までするなんて……どうしてこんな無茶を」

 怒るではなく、悲しむ声に更に罪悪感が募る。

「……ごめんなさい」

 それを見たレナンがミューズを庇い、口を挟む。

「ミューズは悪くないわ。わたくしが一緒に森に行こうとお願いしたの。妖精は女性に変身したいようだったから、わたくし達なら誘い出せるんじゃないかと思って」

 その言葉にティの目が鋭くなる。

「自らを囮にしようとしたのか? 普通の令嬢がそんな危ない真似するものではない」

 ティが怒った様子を見て、今度はミューズがレナンを庇う。

「お姉様が悪いのではないわ。私が魔法を使えるから大丈夫だろうと、己の力を過信をしたからこんな事になったの……叱るなら私だけにして」

「叱るとかではなく、俺は二人が心配で――」

 諭すように言うティの体が誰かに蹴り飛ばされる。

 ティの体は大きく普通の者では倒すことも難しいのだが、そんな事も感じさせない強さであった。

「さっきのお返しだ」

 ティを倒したのは大柄な男性だ。

 薄紫色の短髪に、体は相当鍛えているのだろう、筋肉が凄い。

 倒れたティを嘲笑っている。

「くそ、人の体を勝手に使いやがって……!」

 蹴られた箇所を抑えながら、ティは立ち上がった。

(あれがティの本来の姿なの?)

 およそエリックやリオンとは系統の違う顔立ちと体型に、少しばかり驚く。

 二人はシュッとしたイケメンであったが、ティの顔はどちらかというと粗野である。

 男性の中でも高身長と言える程上背もあり、横幅も筋肉のおかげか幅広い。

 拳闘士を思わせるような体格だ。

「さてお嬢さん達。余計な邪魔が入ったけれど、今度こそ人質として使わせてもらうよ」

 にやりと笑うその顔に恐怖を覚え、二人は固まってしまう。

「二人に手を出すなと言っただろうが!」

 止めようと駆け寄るものの、ティの姿を模した妖精は軽々とティを投げ飛ばす。

「驚いた。体格が良いと思ったけれどこんなにも力が強いなんて。身分が高すぎて使い勝手が悪いと思ったけれど、重宝するものだね」

 ティが直ぐに動けないと見るや、妖精は今度こそ二人を捕まえようと動く。

「どちらの体を盗ってやろうか」

 今度こそ捕まえられると、レナンは目を閉じ、ミューズは諦めずに詠唱を始める。

 でも間に合わない。

(誰か!)

 ここでまたしても救いの手が差し伸べられる。

 二人と妖精の間に突如氷の壁が出現したのだ。そのせいで妖精はレナン達に触れる事が出来ない。

「これは?」

「ティの恩人を狙うとは許せん」

 そこにいたのはエリックとリオンである。

 氷の壁を作ったのはどうやらエリックのようだ。

 手を翳し、更に詠唱を続けると氷の蔓が妖精の体に巻き付き、自由を奪っていく。

 その隙にミューズはレナンの手を引いて走り、妖精から距離を取った。

「二人共大丈夫ですか?」

 リオンも二人に駆け寄り、気遣いの声を掛ける。

 見知った人に会えた事で、二人は安堵した。

「私達は大丈夫です、でもティが」

「あいつは大丈夫だ。頑丈だからな」

 エリックはそう云うと氷の蔓で妖精を締め上げる。

「くそ、離せ!」

「もう逃げられては困るからな。さぁ体を返してもらおう」

 首から下を凍らせられ、妖精は動けない。

 いくらもがいても逃げる事は出来そうになかった。

「ここからは僕達に任せ、レナン様とミューズ様は屋敷にお戻り下さい。貴女方に何かあったらシグルド様が悲しみますから」

 そう促され、二人は頷いた。

 助けてもらったのだから素直にいう事を聞くものであろう。

「二人のおかげで妖精をあぶり出せた、ありがとう」

 別れ際のティの言葉に救われつつ、二人はアドガルムの兵に付き添われ、帰路に着いた。

 二人の姿が見えなくなったのを確認すると場の空気が一気に変化する。

「シグルド様の元にを飛ばしてあります。蝶の案内がありますから、じき合流するでしょう」

 リオンの片に虹色の蝶がとまった。

 先程妖精を弾き飛ばしたこの蝶は、リオンの魔力で生み出されたもので、色々な使い道がある。

 妖精を探索するためにリオンが森のあちこちに放っていたのだが、その内の一匹が二人の姿を見つけた為、リオンはそれをエリックや合流していたティに知らせ、急いで駆けつけてきたのだ。

 ティがいち早く二人の元についたのは、熊の体を持っていた為である。

 体力も筋力も人間とは桁違いな為にティだけ先に付き、妖精の魔の手から二人を守っていた。

 危ないところであったが、しかし二人のおかげで妖精を捕まえる事が出来たので、レナン達には皆感謝をしている。

 それが表情に出ない人物もいるが。

「二人は俺の為に動いてくれたのです。兄上、あまり冷たくなさらないでください」

 ティはエリックに対して少し口を尖らせる。

 表情が変わらないエリックが、怒っているように見えたのだろう。

「冷たくなんてしていない。寧ろ優しくしているではないか」

 愛想もなくそう言うエリックに、ティは訝しげである。

「まぁ確かに二人の前で妖精を八つ裂きにしなかったのは優しさですね」

 三人は妖精に対して近づいた。

 その周りをアドガルム兵が取り囲んでいるために、たとえ妖精が蛇や小動物になろうが、逃げ切る事は出来ない。

 それにじわじわとエリックの魔法が妖精を締め付けている。

 冷たさと圧迫感に妖精の顔は蒼白となっていた。

「お願いだ、この氷を外してくれ……」

「その顔で懇願するな、不快だ」

 妖精の発言にエリックの氷がますます鋭さを増し、今度は妖精の体を貫いていく。

 刺す痛みと冷たさに、たまらず妖精は変身を解いた。

 憐れを誘う姿だが、同情するものは皆無だ。

「さぁ。原型を留めているうちに兄様にかけた呪いを解いてください。もうレナン様もミューズ様もいませんから、僕らが躊躇う事はありませんよ」

 ニコリと微笑みながらリオンは妖精に剣を突きつける。

「俺の姿を返せ。さもないと生きたまま引き裂くぞ」

 鋭い爪を見せびらかしながら、ティは妖精の眼前で牙を剥く。

 逃げ場を失った妖精は顔色を青から白に変えていた。



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