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第4話 初顔合わせ
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(気が進まないわ……)
殿下達に会うために応接室へと向かっているのだけれど、足取りは重く、歩幅がいつも以上に狭くなってしまう。
緊張で逃げ出したいけれど、そんな事は出来ない。そんな不敬をしたら、私はおろかシルバーニュ領がどうなるかわからないもの。
住み慣れた家なのに、いつもと違う状況のせいで全然心が休まらない。
そうしてとうとう部屋の前に辿り着いてしまった。
(いよいよだわ)
深く息を吸ってからノックをする。
「失礼いたします」
背筋を伸ばし、作法の先生に習ったことを何とか思い出しながら入室すると、両親と殿下達の視線が一斉に注がれるのが感じられた。
「エストレア、こちらへ」
お父様の言葉に従い、移動をする。その間ずっと両殿下の視線が向けられてむずむずしてしまったわ。
「ディフェクト殿下、イティルラ殿下。こちらが我が娘、エストレアでございます」
改めての紹介に私はドレスの裾を持ち上げ、頭を下げる。
着慣れていない為肩が凝るけれど、今だけは頑張らないと。
「お初にお目にかかります。シルバーニュ伯爵家、エストレアでございます」
声が掛かるまでは頭を上げられない、でもその方がずっと良いわ。
(こんな太っている私がきらびやかなドレスを着るなんて、分不相応と思われているかも)
どんな表情をしているのか、確かめるのが怖い。
「畏まらなくていいよ、顔をあげて」
(この声音は、ディフェクト様のものだわ)
恐る恐る顔をあげるとばっちりと目があった。
(あぁ。やはりとても綺麗……)
まるでビスクドールのように美しい殿下に、眩しさを感じる。
きらきらと輝く御髪に、優し気な眼差し。
自分とは住む世界が違う二人に、こうして一目会えただけでも幸福な事だ。
……たとえこの後どんな罵倒をされたとしても、それは自分が悪いだけよ。
「初めましてエストレア嬢。僕はディフェクト、よろしくね」
「わたくしはイティルラです。こうして会えて光栄ですわ、エストレア様」
想像とは違い、二人共とても親しみのある言葉をかけてくれる。
「本日は公式なものではなくお忍びで来たからね、あまり緊張しなくていいよ」
「は、はい」
そう言われても、気が張って仕方がない。
そんな私の心情などお構いなしに、ディフェクト殿下が私の手を握ってくる。
「??!!」
突然の事に振り払う事も出来ず、固まってしまった。
「エストレア嬢にようやく会えた」
「あ、あの……」
何かを言いたいのに、何を言えばいいのかわからない。
「本当ね、やっとですわ」
イティルラ殿下にも手を握られ、逃げることが出来ない。
手袋越しとはいえ、これは良くない事なのではないだろうか?
助けを求めるようにお父様を見るけれど、お父様もどうしたらいいのかと困惑した表情だ。
「あの、とりあえず離してもらっても……」
そう訴えたのだけれど、両殿下の耳に入っていないのか、離れる気配はない。
「ずっとお礼が言いたかった。君が作ったウールドールに出会えて、僕達がどれほど励まされたか……本当にありがとう」
そう言ってまっすぐに見つめてくるディフェクト様からは、お世辞やおべっかなどの空々しさは感じられなかった。
「チェリを、可愛がっていた子を亡くしたわたくし達にとって、この子の存在はかけがえのないものですわ。本当に感謝しています」
イティルラ殿下の手には私が作ったウールドールが握られている。
二人の温かい言葉に、胸がいっぱいになった。
手紙で目にするのと実際に言われるのとでは、重みが全く違う。
「こちらこそありがとうございます、こんな私にそんな言葉を言って頂けるなんて、光栄です……」
「「こんな私?」」
絞り出すように話すと二人の殿下が詰め寄ってくる。
「誰に何を言われたのか知らないけれど、もっと自信を持った方がいい。エストレア嬢はとてもかわいいよ」
「えっ?!」
「そうよ、エストレア様はとても素敵だわ。それこそウールドールのようにふわふわで愛らしくて……思わず触れたくなるほどに」
「にゃ?!」
突然イティルラ殿下の手が頬に伸びてきたものだから、思わず変な声がもれてしまった。
「あ、ずるいイティルラ」
「あら、あなたは駄目よ。男なんだから」
悔しそうなディフェクト殿下を尻目に、イティルラ殿下は勝ち誇った笑みを浮かべている。
「このウールドールに出会って、わたくし達思ったの、絶対にこの子を作ったのは可愛い子だって。案の定そうだったわ、ねぇエストレア様。わたくしとぜひお友達になってちょうだい」
突然のイティルラ殿下の言葉に戸惑いしかない。
「イティルラ、それは抜け駆けだ。ねぇエストレア嬢、僕の方が先にエストレア嬢の事が気になっていたんだよ。僕と友達になって。王都にはね、お菓子の美味しいお店がいっぱいなんだ。案内するよ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
二人の急な距離の詰め方に、若干の恐怖を感じてしまう。
後ろに下がろうとも、手を握られっぱなしだからそれも出来ない。
「ディフェクト、あまり無理を言うとエストレア様の迷惑になるわ。控えなさい」
「嫌だね。そう言って僕が下がるとイティルラが抜け駆けするんだから。ねぇエストレア嬢、僕と友達になってくれるでしょ?」
「いいえ、わたくしとですよね?」
「あの、えっ? ちょ、ちょっと待って……」
畳みかけるように二人に言われ、頭が回らない。
今、一体何が起きてるの?
「まぁまぁ、ディフェクト殿下、イティルラ殿下。そのように強く言われたら娘も困ってしまいます。少し落ち着いてください」
「そう、だね。ごめんよ、エストレア嬢」
「すみません。わたくしったらつい……取り乱してしまいましたわ」
お父様のとりなしで、両殿下がようやっと手を離してくれた。
物理的に距離が開いて、少しほっとする。
「ディフェクト殿下、イティルラ殿下。友達になりたいと言って頂けて、とても光栄です。けれど私は本当に大した事のない人間ですから、お二人の期待に応える事は出来ないかも……」
語尾が小さくなってしまう。
「困らせてしまってすまない、エストレア嬢。でも僕たちはただあなたと友達になりたいだけなんだ、それは信じて欲しい」
ディフェクト殿下の悲しそうな顔に、申し訳なく思ってしまう。
「わたくしとディフェクトはエストレア様と仲良くなりたいという、ただそれだけなの。手紙のやりとりだけでもしてくれたら嬉しいわ、お願い」
イティルラ殿下が目を潤ませて、私を見つめてくる。
「お二人を疑うなんていたしません。私で良ければいつでも手紙を送りますので」
そう言うと二人の表情が明るくなる。
「良かった。エストレア嬢に嫌われたままでは王都に帰れないからね」
「えぇ、エストレア様に許してもらえるまでは公務に出ないつもりでしたし」
「それはやめてください」
二人のあまりの言い分に、私の肝が冷える。
(殿下達って、ちょっと…いや、だいぶ変わってる?)
初めて話をしたのだけれど、こんなにも気さくま方々とは思わなかった。
「一段落ついたところで、お茶でもいかがでしょうか? 美味しいお菓子も準備していますよ」
お母様が様子を伺いながら声を掛けてくださる。
「それはよいですね、エストレア嬢。ぜひ僕の隣に」
「いえ、エストレア様。ディフェクトではなく私の隣に」
二人の殿下に腕を引かれ、どうにもこうにも動けなくなる。
これはこれで困ってしまうわ。
「あの、どちらも遠慮したいのですが……」
「「そう言わずに」」
にこやかに押し切られ、結局私は二人の間に座らされてしまった。
(どうして私がこんな目に合うのだろう)
その後二人とはあれこれとお話をする。
「エストレア様、猫はお好きですか? ぜひチェリの写し絵をご覧になってください」
「エストレア嬢、甘いおやつは何が好きですか?チョコ系ならばおすすめがありますので、今度お送りしますね」
そんな感じで両脇から話しかけられ、何をするにも離してもらえなかった。
一時的な気の迷いであろうと思ったのだけれと、二人が王都に帰る間際、改めて話をされる。
「お手紙たくさん送りますので、お返事楽しみにしていますね」
「王都に来る時はぜひご連絡を。一緒にカフェに行きましょう」
「ありがとうございます。ディフェクト殿下、イティルラ殿下」
「殿下はやめてください。友達なのですから、ディフェクトと」
「わたくしの事もイティルラとお呼びください。なんならティラと呼んでいただいても構いません」
にっこりと微笑むイティルラ殿下だけれど、さすがにこんな早くから愛称呼びは荷が重い。
「それはずるい。なら僕の事は――「ディフェクト様とイティルラ様で呼ばせていただきますね!」
話がこじれる前に無理矢理言葉をねじこんだ。
二人を愛称呼びするなんて、私には百年は早いわ。
「私もぜひたくさんお手紙を送らせていただきます。王都に行く際も楽しみにしてますわ」
「その時を楽しみにしてるよ」
私の肯定的な言葉に二人は安堵し、無事に王都への帰路についた。
大変だったけれど、人見知りの私には良い経験になったわ。
(ただ少し、気になる事があったわね)
イティルラ様がずっと抱っこしていた、チェリちゃんドール……私達を見て微笑んでなかったかしら?
殿下達に会うために応接室へと向かっているのだけれど、足取りは重く、歩幅がいつも以上に狭くなってしまう。
緊張で逃げ出したいけれど、そんな事は出来ない。そんな不敬をしたら、私はおろかシルバーニュ領がどうなるかわからないもの。
住み慣れた家なのに、いつもと違う状況のせいで全然心が休まらない。
そうしてとうとう部屋の前に辿り着いてしまった。
(いよいよだわ)
深く息を吸ってからノックをする。
「失礼いたします」
背筋を伸ばし、作法の先生に習ったことを何とか思い出しながら入室すると、両親と殿下達の視線が一斉に注がれるのが感じられた。
「エストレア、こちらへ」
お父様の言葉に従い、移動をする。その間ずっと両殿下の視線が向けられてむずむずしてしまったわ。
「ディフェクト殿下、イティルラ殿下。こちらが我が娘、エストレアでございます」
改めての紹介に私はドレスの裾を持ち上げ、頭を下げる。
着慣れていない為肩が凝るけれど、今だけは頑張らないと。
「お初にお目にかかります。シルバーニュ伯爵家、エストレアでございます」
声が掛かるまでは頭を上げられない、でもその方がずっと良いわ。
(こんな太っている私がきらびやかなドレスを着るなんて、分不相応と思われているかも)
どんな表情をしているのか、確かめるのが怖い。
「畏まらなくていいよ、顔をあげて」
(この声音は、ディフェクト様のものだわ)
恐る恐る顔をあげるとばっちりと目があった。
(あぁ。やはりとても綺麗……)
まるでビスクドールのように美しい殿下に、眩しさを感じる。
きらきらと輝く御髪に、優し気な眼差し。
自分とは住む世界が違う二人に、こうして一目会えただけでも幸福な事だ。
……たとえこの後どんな罵倒をされたとしても、それは自分が悪いだけよ。
「初めましてエストレア嬢。僕はディフェクト、よろしくね」
「わたくしはイティルラです。こうして会えて光栄ですわ、エストレア様」
想像とは違い、二人共とても親しみのある言葉をかけてくれる。
「本日は公式なものではなくお忍びで来たからね、あまり緊張しなくていいよ」
「は、はい」
そう言われても、気が張って仕方がない。
そんな私の心情などお構いなしに、ディフェクト殿下が私の手を握ってくる。
「??!!」
突然の事に振り払う事も出来ず、固まってしまった。
「エストレア嬢にようやく会えた」
「あ、あの……」
何かを言いたいのに、何を言えばいいのかわからない。
「本当ね、やっとですわ」
イティルラ殿下にも手を握られ、逃げることが出来ない。
手袋越しとはいえ、これは良くない事なのではないだろうか?
助けを求めるようにお父様を見るけれど、お父様もどうしたらいいのかと困惑した表情だ。
「あの、とりあえず離してもらっても……」
そう訴えたのだけれど、両殿下の耳に入っていないのか、離れる気配はない。
「ずっとお礼が言いたかった。君が作ったウールドールに出会えて、僕達がどれほど励まされたか……本当にありがとう」
そう言ってまっすぐに見つめてくるディフェクト様からは、お世辞やおべっかなどの空々しさは感じられなかった。
「チェリを、可愛がっていた子を亡くしたわたくし達にとって、この子の存在はかけがえのないものですわ。本当に感謝しています」
イティルラ殿下の手には私が作ったウールドールが握られている。
二人の温かい言葉に、胸がいっぱいになった。
手紙で目にするのと実際に言われるのとでは、重みが全く違う。
「こちらこそありがとうございます、こんな私にそんな言葉を言って頂けるなんて、光栄です……」
「「こんな私?」」
絞り出すように話すと二人の殿下が詰め寄ってくる。
「誰に何を言われたのか知らないけれど、もっと自信を持った方がいい。エストレア嬢はとてもかわいいよ」
「えっ?!」
「そうよ、エストレア様はとても素敵だわ。それこそウールドールのようにふわふわで愛らしくて……思わず触れたくなるほどに」
「にゃ?!」
突然イティルラ殿下の手が頬に伸びてきたものだから、思わず変な声がもれてしまった。
「あ、ずるいイティルラ」
「あら、あなたは駄目よ。男なんだから」
悔しそうなディフェクト殿下を尻目に、イティルラ殿下は勝ち誇った笑みを浮かべている。
「このウールドールに出会って、わたくし達思ったの、絶対にこの子を作ったのは可愛い子だって。案の定そうだったわ、ねぇエストレア様。わたくしとぜひお友達になってちょうだい」
突然のイティルラ殿下の言葉に戸惑いしかない。
「イティルラ、それは抜け駆けだ。ねぇエストレア嬢、僕の方が先にエストレア嬢の事が気になっていたんだよ。僕と友達になって。王都にはね、お菓子の美味しいお店がいっぱいなんだ。案内するよ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
二人の急な距離の詰め方に、若干の恐怖を感じてしまう。
後ろに下がろうとも、手を握られっぱなしだからそれも出来ない。
「ディフェクト、あまり無理を言うとエストレア様の迷惑になるわ。控えなさい」
「嫌だね。そう言って僕が下がるとイティルラが抜け駆けするんだから。ねぇエストレア嬢、僕と友達になってくれるでしょ?」
「いいえ、わたくしとですよね?」
「あの、えっ? ちょ、ちょっと待って……」
畳みかけるように二人に言われ、頭が回らない。
今、一体何が起きてるの?
「まぁまぁ、ディフェクト殿下、イティルラ殿下。そのように強く言われたら娘も困ってしまいます。少し落ち着いてください」
「そう、だね。ごめんよ、エストレア嬢」
「すみません。わたくしったらつい……取り乱してしまいましたわ」
お父様のとりなしで、両殿下がようやっと手を離してくれた。
物理的に距離が開いて、少しほっとする。
「ディフェクト殿下、イティルラ殿下。友達になりたいと言って頂けて、とても光栄です。けれど私は本当に大した事のない人間ですから、お二人の期待に応える事は出来ないかも……」
語尾が小さくなってしまう。
「困らせてしまってすまない、エストレア嬢。でも僕たちはただあなたと友達になりたいだけなんだ、それは信じて欲しい」
ディフェクト殿下の悲しそうな顔に、申し訳なく思ってしまう。
「わたくしとディフェクトはエストレア様と仲良くなりたいという、ただそれだけなの。手紙のやりとりだけでもしてくれたら嬉しいわ、お願い」
イティルラ殿下が目を潤ませて、私を見つめてくる。
「お二人を疑うなんていたしません。私で良ければいつでも手紙を送りますので」
そう言うと二人の表情が明るくなる。
「良かった。エストレア嬢に嫌われたままでは王都に帰れないからね」
「えぇ、エストレア様に許してもらえるまでは公務に出ないつもりでしたし」
「それはやめてください」
二人のあまりの言い分に、私の肝が冷える。
(殿下達って、ちょっと…いや、だいぶ変わってる?)
初めて話をしたのだけれど、こんなにも気さくま方々とは思わなかった。
「一段落ついたところで、お茶でもいかがでしょうか? 美味しいお菓子も準備していますよ」
お母様が様子を伺いながら声を掛けてくださる。
「それはよいですね、エストレア嬢。ぜひ僕の隣に」
「いえ、エストレア様。ディフェクトではなく私の隣に」
二人の殿下に腕を引かれ、どうにもこうにも動けなくなる。
これはこれで困ってしまうわ。
「あの、どちらも遠慮したいのですが……」
「「そう言わずに」」
にこやかに押し切られ、結局私は二人の間に座らされてしまった。
(どうして私がこんな目に合うのだろう)
その後二人とはあれこれとお話をする。
「エストレア様、猫はお好きですか? ぜひチェリの写し絵をご覧になってください」
「エストレア嬢、甘いおやつは何が好きですか?チョコ系ならばおすすめがありますので、今度お送りしますね」
そんな感じで両脇から話しかけられ、何をするにも離してもらえなかった。
一時的な気の迷いであろうと思ったのだけれと、二人が王都に帰る間際、改めて話をされる。
「お手紙たくさん送りますので、お返事楽しみにしていますね」
「王都に来る時はぜひご連絡を。一緒にカフェに行きましょう」
「ありがとうございます。ディフェクト殿下、イティルラ殿下」
「殿下はやめてください。友達なのですから、ディフェクトと」
「わたくしの事もイティルラとお呼びください。なんならティラと呼んでいただいても構いません」
にっこりと微笑むイティルラ殿下だけれど、さすがにこんな早くから愛称呼びは荷が重い。
「それはずるい。なら僕の事は――「ディフェクト様とイティルラ様で呼ばせていただきますね!」
話がこじれる前に無理矢理言葉をねじこんだ。
二人を愛称呼びするなんて、私には百年は早いわ。
「私もぜひたくさんお手紙を送らせていただきます。王都に行く際も楽しみにしてますわ」
「その時を楽しみにしてるよ」
私の肯定的な言葉に二人は安堵し、無事に王都への帰路についた。
大変だったけれど、人見知りの私には良い経験になったわ。
(ただ少し、気になる事があったわね)
イティルラ様がずっと抱っこしていた、チェリちゃんドール……私達を見て微笑んでなかったかしら?
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