女従者の婚約やら恋やら愛やらその辺り

しろねこ。

文字の大きさ
4 / 12

楽しいパーティ?なのです

しおりを挟む
マオは久しぶりに着飾ってのパーティへと参加となった。 

社交界デビュー以来、令嬢として参加したことがなかったからだ。

従者としてならいっぱいあるが、着飾るどころか動きやすいよう男装しかしていない。

本当は令嬢だったなんて、知る者などいないはずだ。

「エスコートは兄さんと聞いてましたが、遅いですね」
今日のマオは髪をおろしている。

いつもは結い上げているため、印象が大幅に変わっていた。

首元から胸元まで黒のレースで覆われ、腕にも二の腕まで覆うレースの手袋をしている。

さすがに肌を出し過ぎるのは落ち着かない為、ここまでにしてもらった。

ドレスの色は勧められたピンクは絶対に嫌だと拒否し、落ち着いた青色にしてもらった。

やけにあっさりと引き下がったのは気になったが。

スカート部分には見えないところでスリットがあり動きやすい仕様となっている。

いざとなったら走れる嬉しいデザインだ。

なんだかんだで、マオの希望は殆ど叶えられている。

付き添いのティタン達は先に入場したので、マオは今一人だ。

見覚えのない令嬢がいると周囲の視線が突き刺さる。

「しょっちゅういるのですが、衣装が変わればわからないのですね」
扇で口元を隠し、嘆息をついた。

それもこれも兄のせいだ、後で殴ろうと腹に決めた。

「お待たせマオ、遅くなってしまった」

「遅いですよ」
きっと睨みつけるマオの前に現れた人物に、マオの目が零れ落ちそうな程大きく見開いた。

「リオン様…?」
すぐにバッと頭を下げる。

「申し訳ありません、愚兄と間違えました。ここで待ち合わせをしていたものですから」

「いや、遅れたのは事実だから怒られて当然だよ。君があまりに綺麗になっていたからすぐに声が掛けられなかった。他の男に先を越されなくて良かった」







リオンはアドガルムの第三王子だ。

上二人が目立つ存在であるが、エリックとティタンの弟である。

青い髪と緑色の目を持つ美しい青年で、長い髪はさらりと真っ直ぐに伸びており、後ろで束ねている。

顔の造形はエリックによく似ていた。

「外遊は終わってたのですか?」

「あぁ。もうすぐ十七だし、そろそろ自国を学ばねばと思ってね」
会わなくなって二年くらい経つのか。

面影はあるもののだいぶ容姿は変わっている、しばらく会わない間に背もだいぶ伸びていた。

別れた時は同じくらいだったのに、今ではマオが軽く見上げるほどだ。

「兄様達とは挨拶をしたんだけど、マオは今忙しいと聞いて挨拶が遅れてしまったんだ、ただいまマオ」

「お帰りなさい、リオン様」
リオンが恭しくマオの手を取り、甲に唇を落とす。

「こういうのはきちんとした令嬢にするものですよ」
内心の動揺を押さえつつ、マオは無表情だ。

リオンもマオの生まれを知っている。

それでも変わらず接してくれる者の一人だ。

「きちんとした令嬢でしょ? 僕の前には可憐な女性しかいないよ」
ティタンに似た無邪気な笑顔を向けられた。

この兄弟は本当にマオを甘やかす。

「それよりそろそろ中に入ろう。身体が冷えてしまうよ」
スッと腕を出され、マオはキョトンとする。

「何故リオン様が? 誰かと来たのではないですか」

「ニコラに君をエスコートする名誉な役を譲って貰ったんだ。僕では役不足かな?」

「滅相もありません」
大人しくマオは腕を絡ませる。

(これ、婚活には不利です。まさかリオン様にエスコートされるとは)
しかし断ってリオンに恥をかかせてはならない。

全部兄のせいだと本人の知らぬ間にニコラの有責がたまっていく。










二人はとても注目を浴びることとなった。

外遊から帰ってきた第三王子と、見覚えのない令嬢。

リオンは黒のシックな衣服を身に着け、鈍く光るはブラック・オパール。

明らかにマオを意識している。

マオも自分で選んだとはいえ、青いドレスだ。

(これが理由でしたか)
ミューズに誘導された感があったのはこの為だろう。

「私の状況を聞いておりますか?」
マオは周囲を鑑みて口調を改めた。

そして真相を聞きたいと、リオンにせがむ。

「全て知っているよ。兄様方にお願いをして、僕の帰国に合わせて画策してもらった。ミューズ義姉様と決めたそのドレス、とても素敵だね」
しっかりと手を握られ、マオは何とも言えない表情だ。

「どれくらいエリック様とお決めになられたのでしょうか。彼の御方と遣り口がとても似ています、えぇ、私に逃げ場はないのでしょう」
今だって、逃さないという意志表示で握られているのだ。

「半分くらいは。どうもティタン兄様のようには出来なくて」

「あの方は断られたら潔く身を引こうと心に決めておりましたからね。強い男性です」

「そうだね。僕やエリック兄様はその点はとても臆病で弱いと思う」

「ええ、そうだと思います」
はっきりとマオは言った。

周囲は話しかけに来たいのだろう、視線を感じる。

特に第三王子であるリオンの変わり様に、令嬢方の熱い視線が鬱陶しい。

マオはやや苛立ちを感じていた。

「宜しければお話の続きはダンスを一曲踊りながらに致しませんか?」

「マオの誘いならば喜んで」









「懐かしいです、昔はリオン様のダンスの練習相手も務めさせて頂きましたね」

「少しは上達してるかな?」
背が伸び、手足も長くなっている。

あの頃とは全く違う。

「上達しておりますよ。そういえば隣国の王女様が婚姻相手を探してるそうで」

「そうか。今の僕みたいにいい人が現れる事を祈っているよ」
引くことはなさそう。

「第三王子が元平民とだなんて……もっと良い令嬢がいらっしゃるでしょうに」

「君となら僕は平民になっても構わないよ?」

「ティタン様は自分より強い者と婚姻を承諾すると言いましたが?」

「さすがに腕力は無理だけど、外交は僕の方が強いよ。それにティタン兄様が僕と力比べしようなんて言わないと思うな」
まぁ確かに腕力とは言ってなかったし、兄弟で剣を合わせるなんてしない人だ。

「安定した経済力と権力……」

「いくつか商会を持っている。経営は携わってるけど、管理としては兄の名を借りている。成人と共に譲り受けるよ。権力については、元第三王子じゃ駄目かい?臣籍降下したら無効かな?」
リオンに何かあれば王家が全力でバックアップするだろう。

ここの王家は家族仲が良すぎるのだ。

「やはりニコラ兄様が継ぐとか」

「駄目」
一曲目のダンスが終わろうとしていた。

二曲目も続けて踊るというのは、本来だと婚約者や恋人がするものだ。

リオンは手を離そうとしない。

「嫌なら振り払ってくれ。僕は王家の者として誓う。君に二度と近づかない」
アドガルム国の男どもは心底面倒くさい。

もう少し自分の価値を正しく知ればいいのに。

「リオン様、自信をお持ちください。あなたは素晴らしい人です。生まれも恵まれていますし、才能もあるのに更に努力を重ねる方。私には勿体ないわ」
振り払うことはしない。

二曲目が始まった。

「あなたの決意に敬意を表して一緒に踊りましょう。婚姻を交わすかはまた別です」
楽しそうにマオは笑った。

「婚姻を賭けて、私とゲームをしましょう。勝てばあなたの妻に、負ければ私がこの国を出ます」
リオンは貴重な人材だ。

この国から出してはいけない。

「なぜ君がこの国を出なくてはならない? 出るなら僕だ」

「このゲームから降りるならば私はすぐにでもこの国を出ますよ。ゲームに参加いたしますか?」
チャンスがあるのは今だけだとマオは笑っていた。

「受けるさ。何もしないで君を失いたくはない」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...