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楽しいパーティ?なのです
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マオは久しぶりに着飾ってのパーティへと参加となった。
社交界デビュー以来、令嬢として参加したことがなかったからだ。
従者としてならいっぱいあるが、着飾るどころか動きやすいよう男装しかしていない。
本当は令嬢だったなんて、知る者などいないはずだ。
「エスコートは兄さんと聞いてましたが、遅いですね」
今日のマオは髪をおろしている。
いつもは結い上げているため、印象が大幅に変わっていた。
首元から胸元まで黒のレースで覆われ、腕にも二の腕まで覆うレースの手袋をしている。
さすがに肌を出し過ぎるのは落ち着かない為、ここまでにしてもらった。
ドレスの色は勧められたピンクは絶対に嫌だと拒否し、落ち着いた青色にしてもらった。
やけにあっさりと引き下がったのは気になったが。
スカート部分には見えないところでスリットがあり動きやすい仕様となっている。
いざとなったら走れる嬉しいデザインだ。
なんだかんだで、マオの希望は殆ど叶えられている。
付き添いのティタン達は先に入場したので、マオは今一人だ。
見覚えのない令嬢がいると周囲の視線が突き刺さる。
「しょっちゅういるのですが、衣装が変わればわからないのですね」
扇で口元を隠し、嘆息をついた。
それもこれも兄のせいだ、後で殴ろうと腹に決めた。
「お待たせマオ、遅くなってしまった」
「遅いですよ」
きっと睨みつけるマオの前に現れた人物に、マオの目が零れ落ちそうな程大きく見開いた。
「リオン様…?」
すぐにバッと頭を下げる。
「申し訳ありません、愚兄と間違えました。ここで待ち合わせをしていたものですから」
「いや、遅れたのは事実だから怒られて当然だよ。君があまりに綺麗になっていたからすぐに声が掛けられなかった。他の男に先を越されなくて良かった」
リオンはアドガルムの第三王子だ。
上二人が目立つ存在であるが、エリックとティタンの弟である。
青い髪と緑色の目を持つ美しい青年で、長い髪はさらりと真っ直ぐに伸びており、後ろで束ねている。
顔の造形はエリックによく似ていた。
「外遊は終わってたのですか?」
「あぁ。もうすぐ十七だし、そろそろ自国を学ばねばと思ってね」
会わなくなって二年くらい経つのか。
面影はあるもののだいぶ容姿は変わっている、しばらく会わない間に背もだいぶ伸びていた。
別れた時は同じくらいだったのに、今ではマオが軽く見上げるほどだ。
「兄様達とは挨拶をしたんだけど、マオは今忙しいと聞いて挨拶が遅れてしまったんだ、ただいまマオ」
「お帰りなさい、リオン様」
リオンが恭しくマオの手を取り、甲に唇を落とす。
「こういうのはきちんとした令嬢にするものですよ」
内心の動揺を押さえつつ、マオは無表情だ。
リオンもマオの生まれを知っている。
それでも変わらず接してくれる者の一人だ。
「きちんとした令嬢でしょ? 僕の前には可憐な女性しかいないよ」
ティタンに似た無邪気な笑顔を向けられた。
この兄弟は本当にマオを甘やかす。
「それよりそろそろ中に入ろう。身体が冷えてしまうよ」
スッと腕を出され、マオはキョトンとする。
「何故リオン様が? 誰かと来たのではないですか」
「ニコラに君をエスコートする名誉な役を譲って貰ったんだ。僕では役不足かな?」
「滅相もありません」
大人しくマオは腕を絡ませる。
(これ、婚活には不利です。まさかリオン様にエスコートされるとは)
しかし断ってリオンに恥をかかせてはならない。
全部兄のせいだと本人の知らぬ間にニコラの有責がたまっていく。
二人はとても注目を浴びることとなった。
外遊から帰ってきた第三王子と、見覚えのない令嬢。
リオンは黒のシックな衣服を身に着け、鈍く光るはブラック・オパール。
明らかにマオを意識している。
マオも自分で選んだとはいえ、青いドレスだ。
(これが理由でしたか)
ミューズに誘導された感があったのはこの為だろう。
「私の状況を聞いておりますか?」
マオは周囲を鑑みて口調を改めた。
そして真相を聞きたいと、リオンにせがむ。
「全て知っているよ。兄様方にお願いをして、僕の帰国に合わせて画策してもらった。ミューズ義姉様と決めたそのドレス、とても素敵だね」
しっかりと手を握られ、マオは何とも言えない表情だ。
「どれくらいエリック様とお決めになられたのでしょうか。彼の御方と遣り口がとても似ています、えぇ、私に逃げ場はないのでしょう」
今だって、逃さないという意志表示で握られているのだ。
「半分くらいは。どうもティタン兄様のようには出来なくて」
「あの方は断られたら潔く身を引こうと心に決めておりましたからね。強い男性です」
「そうだね。僕やエリック兄様はその点はとても臆病で弱いと思う」
「ええ、そうだと思います」
はっきりとマオは言った。
周囲は話しかけに来たいのだろう、視線を感じる。
特に第三王子であるリオンの変わり様に、令嬢方の熱い視線が鬱陶しい。
マオはやや苛立ちを感じていた。
「宜しければお話の続きはダンスを一曲踊りながらに致しませんか?」
「マオの誘いならば喜んで」
「懐かしいです、昔はリオン様のダンスの練習相手も務めさせて頂きましたね」
「少しは上達してるかな?」
背が伸び、手足も長くなっている。
あの頃とは全く違う。
「上達しておりますよ。そういえば隣国の王女様が婚姻相手を探してるそうで」
「そうか。今の僕みたいにいい人が現れる事を祈っているよ」
引くことはなさそう。
「第三王子が元平民とだなんて……もっと良い令嬢がいらっしゃるでしょうに」
「君となら僕は平民になっても構わないよ?」
「ティタン様は自分より強い者と婚姻を承諾すると言いましたが?」
「さすがに腕力は無理だけど、外交は僕の方が強いよ。それにティタン兄様が僕と力比べしようなんて言わないと思うな」
まぁ確かに腕力とは言ってなかったし、兄弟で剣を合わせるなんてしない人だ。
「安定した経済力と権力……」
「いくつか商会を持っている。経営は携わってるけど、管理としては兄の名を借りている。成人と共に譲り受けるよ。権力については、元第三王子じゃ駄目かい?臣籍降下したら無効かな?」
リオンに何かあれば王家が全力でバックアップするだろう。
ここの王家は家族仲が良すぎるのだ。
「やはりニコラ兄様が継ぐとか」
「駄目」
一曲目のダンスが終わろうとしていた。
二曲目も続けて踊るというのは、本来だと婚約者や恋人がするものだ。
リオンは手を離そうとしない。
「嫌なら振り払ってくれ。僕は王家の者として誓う。君に二度と近づかない」
アドガルム国の男どもは心底面倒くさい。
もう少し自分の価値を正しく知ればいいのに。
「リオン様、自信をお持ちください。あなたは素晴らしい人です。生まれも恵まれていますし、才能もあるのに更に努力を重ねる方。私には勿体ないわ」
振り払うことはしない。
二曲目が始まった。
「あなたの決意に敬意を表して一緒に踊りましょう。婚姻を交わすかはまた別です」
楽しそうにマオは笑った。
「婚姻を賭けて、私とゲームをしましょう。勝てばあなたの妻に、負ければ私がこの国を出ます」
リオンは貴重な人材だ。
この国から出してはいけない。
「なぜ君がこの国を出なくてはならない? 出るなら僕だ」
「このゲームから降りるならば私はすぐにでもこの国を出ますよ。ゲームに参加いたしますか?」
チャンスがあるのは今だけだとマオは笑っていた。
「受けるさ。何もしないで君を失いたくはない」
社交界デビュー以来、令嬢として参加したことがなかったからだ。
従者としてならいっぱいあるが、着飾るどころか動きやすいよう男装しかしていない。
本当は令嬢だったなんて、知る者などいないはずだ。
「エスコートは兄さんと聞いてましたが、遅いですね」
今日のマオは髪をおろしている。
いつもは結い上げているため、印象が大幅に変わっていた。
首元から胸元まで黒のレースで覆われ、腕にも二の腕まで覆うレースの手袋をしている。
さすがに肌を出し過ぎるのは落ち着かない為、ここまでにしてもらった。
ドレスの色は勧められたピンクは絶対に嫌だと拒否し、落ち着いた青色にしてもらった。
やけにあっさりと引き下がったのは気になったが。
スカート部分には見えないところでスリットがあり動きやすい仕様となっている。
いざとなったら走れる嬉しいデザインだ。
なんだかんだで、マオの希望は殆ど叶えられている。
付き添いのティタン達は先に入場したので、マオは今一人だ。
見覚えのない令嬢がいると周囲の視線が突き刺さる。
「しょっちゅういるのですが、衣装が変わればわからないのですね」
扇で口元を隠し、嘆息をついた。
それもこれも兄のせいだ、後で殴ろうと腹に決めた。
「お待たせマオ、遅くなってしまった」
「遅いですよ」
きっと睨みつけるマオの前に現れた人物に、マオの目が零れ落ちそうな程大きく見開いた。
「リオン様…?」
すぐにバッと頭を下げる。
「申し訳ありません、愚兄と間違えました。ここで待ち合わせをしていたものですから」
「いや、遅れたのは事実だから怒られて当然だよ。君があまりに綺麗になっていたからすぐに声が掛けられなかった。他の男に先を越されなくて良かった」
リオンはアドガルムの第三王子だ。
上二人が目立つ存在であるが、エリックとティタンの弟である。
青い髪と緑色の目を持つ美しい青年で、長い髪はさらりと真っ直ぐに伸びており、後ろで束ねている。
顔の造形はエリックによく似ていた。
「外遊は終わってたのですか?」
「あぁ。もうすぐ十七だし、そろそろ自国を学ばねばと思ってね」
会わなくなって二年くらい経つのか。
面影はあるもののだいぶ容姿は変わっている、しばらく会わない間に背もだいぶ伸びていた。
別れた時は同じくらいだったのに、今ではマオが軽く見上げるほどだ。
「兄様達とは挨拶をしたんだけど、マオは今忙しいと聞いて挨拶が遅れてしまったんだ、ただいまマオ」
「お帰りなさい、リオン様」
リオンが恭しくマオの手を取り、甲に唇を落とす。
「こういうのはきちんとした令嬢にするものですよ」
内心の動揺を押さえつつ、マオは無表情だ。
リオンもマオの生まれを知っている。
それでも変わらず接してくれる者の一人だ。
「きちんとした令嬢でしょ? 僕の前には可憐な女性しかいないよ」
ティタンに似た無邪気な笑顔を向けられた。
この兄弟は本当にマオを甘やかす。
「それよりそろそろ中に入ろう。身体が冷えてしまうよ」
スッと腕を出され、マオはキョトンとする。
「何故リオン様が? 誰かと来たのではないですか」
「ニコラに君をエスコートする名誉な役を譲って貰ったんだ。僕では役不足かな?」
「滅相もありません」
大人しくマオは腕を絡ませる。
(これ、婚活には不利です。まさかリオン様にエスコートされるとは)
しかし断ってリオンに恥をかかせてはならない。
全部兄のせいだと本人の知らぬ間にニコラの有責がたまっていく。
二人はとても注目を浴びることとなった。
外遊から帰ってきた第三王子と、見覚えのない令嬢。
リオンは黒のシックな衣服を身に着け、鈍く光るはブラック・オパール。
明らかにマオを意識している。
マオも自分で選んだとはいえ、青いドレスだ。
(これが理由でしたか)
ミューズに誘導された感があったのはこの為だろう。
「私の状況を聞いておりますか?」
マオは周囲を鑑みて口調を改めた。
そして真相を聞きたいと、リオンにせがむ。
「全て知っているよ。兄様方にお願いをして、僕の帰国に合わせて画策してもらった。ミューズ義姉様と決めたそのドレス、とても素敵だね」
しっかりと手を握られ、マオは何とも言えない表情だ。
「どれくらいエリック様とお決めになられたのでしょうか。彼の御方と遣り口がとても似ています、えぇ、私に逃げ場はないのでしょう」
今だって、逃さないという意志表示で握られているのだ。
「半分くらいは。どうもティタン兄様のようには出来なくて」
「あの方は断られたら潔く身を引こうと心に決めておりましたからね。強い男性です」
「そうだね。僕やエリック兄様はその点はとても臆病で弱いと思う」
「ええ、そうだと思います」
はっきりとマオは言った。
周囲は話しかけに来たいのだろう、視線を感じる。
特に第三王子であるリオンの変わり様に、令嬢方の熱い視線が鬱陶しい。
マオはやや苛立ちを感じていた。
「宜しければお話の続きはダンスを一曲踊りながらに致しませんか?」
「マオの誘いならば喜んで」
「懐かしいです、昔はリオン様のダンスの練習相手も務めさせて頂きましたね」
「少しは上達してるかな?」
背が伸び、手足も長くなっている。
あの頃とは全く違う。
「上達しておりますよ。そういえば隣国の王女様が婚姻相手を探してるそうで」
「そうか。今の僕みたいにいい人が現れる事を祈っているよ」
引くことはなさそう。
「第三王子が元平民とだなんて……もっと良い令嬢がいらっしゃるでしょうに」
「君となら僕は平民になっても構わないよ?」
「ティタン様は自分より強い者と婚姻を承諾すると言いましたが?」
「さすがに腕力は無理だけど、外交は僕の方が強いよ。それにティタン兄様が僕と力比べしようなんて言わないと思うな」
まぁ確かに腕力とは言ってなかったし、兄弟で剣を合わせるなんてしない人だ。
「安定した経済力と権力……」
「いくつか商会を持っている。経営は携わってるけど、管理としては兄の名を借りている。成人と共に譲り受けるよ。権力については、元第三王子じゃ駄目かい?臣籍降下したら無効かな?」
リオンに何かあれば王家が全力でバックアップするだろう。
ここの王家は家族仲が良すぎるのだ。
「やはりニコラ兄様が継ぐとか」
「駄目」
一曲目のダンスが終わろうとしていた。
二曲目も続けて踊るというのは、本来だと婚約者や恋人がするものだ。
リオンは手を離そうとしない。
「嫌なら振り払ってくれ。僕は王家の者として誓う。君に二度と近づかない」
アドガルム国の男どもは心底面倒くさい。
もう少し自分の価値を正しく知ればいいのに。
「リオン様、自信をお持ちください。あなたは素晴らしい人です。生まれも恵まれていますし、才能もあるのに更に努力を重ねる方。私には勿体ないわ」
振り払うことはしない。
二曲目が始まった。
「あなたの決意に敬意を表して一緒に踊りましょう。婚姻を交わすかはまた別です」
楽しそうにマオは笑った。
「婚姻を賭けて、私とゲームをしましょう。勝てばあなたの妻に、負ければ私がこの国を出ます」
リオンは貴重な人材だ。
この国から出してはいけない。
「なぜ君がこの国を出なくてはならない? 出るなら僕だ」
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