淑女と黒の日記帳

コトイアオイ

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悩める淑女のための黒魔術

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 あの婚約破棄からしばらく経った頃、エルドの醜聞を隠すかのように、ドルマン一家はこの町を去っていった。エルドの両親は私の家に直々に謝りに来てくれたが、それでも私の受けた傷は大きかった。ほとぼりが冷めるまでは、彼らの顔を見たくないのが本音である。
 

そもそも、謝るべきは親ではなくエルド自身のはずだ。きっと今頃は王都近郊の自領の邸宅で、美味しいものを食べたり娯楽にふけったりしているのだろう。そう考えると、私の怒りはまた蘇る。



ズズズズズとルーチェの足元から黒い影が伸びてくる。この影は最近知り合った怨霊のロジーさんである。彼女は結婚を誓った相手に金を騙し取られた上に、殺害されたという。どうやら、私の境遇に共感して力を貸してくれるらしいのだ。


「全く、いい神経してるわよね。ああゆう男が意外としぶといのって腑に落ちないわ」


ぼんやりした黒い影から、人型になったロジーも同意するかのように頷く。


二人でしみじみとこの世の不条理さについて議論していると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。


「はい、どうぞ」


「ルーチェ、入るよ…。おや、ロジーも一緒かい。君達は仲良しだね」


ーーそう、我が家は見える人の集まりだったと分かったのも最近のこと。そして、それを当然のように受け入れる家族。怨霊に対しても態度を変えない、ある意味強者なお父様にロジーも好感を覚えたらしく、いつも礼儀正しくお辞儀をしている。


「そうそう、ルーチェ宛に手紙だ。また、依頼みたいだよ」


お父様が差し出したのは、複数の手紙だった。どの手紙からも悲しみと恨みの気配を感じる。これは、恋愛事や結婚相手に何らかの悩みや不満を抱えている女性からの手紙だ。


彼女達の悩みを私の黒魔術で解決するのが、私の今の仕事である。あの婚約破棄以降、広まっていった私の噂に、藁にでもすがる想いで相談してきた女性の問題を解決してから、その噂は確かなものとなった。


 実のところ、この国は建国の英雄が剣で勝ち取った国ということで、呪術の分野では随分と他に遅れを取っている。そうした国で呪術使いは大変貴重な人材なのだ。術士によっては医者にもなれるし、貴族などに雇われれば護衛術士として高額の報酬を得ることが出来る。


エルドと婚約せず、早々にこの道に進んでいれば良かったと思うくらいだ。

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